M&Aにおけるエグゼキューションとは?

こんにちは。経営承継支援のブログ担当チームです。

M&Aのエグゼキューションとは、スキーム検討から最終契約・クロージングまでの中盤〜後半プロセスを指す専門用語です。
株式譲渡・事業譲渡などのスキーム選定、企業価値評価、DD、交渉を経て最終契約へと進む一連の流れが、エグゼキューションの主要ステップとして挙げられます。
クロージングはM&A実務の最終段階であり、必要書類の授受・代金決済・名義変更を経て経営権移転が正式に完了します。

目次 [ ]

 

 

エグゼキューションとは

エグゼキューションとは、M&Aのプロセスのうち、中盤から後半部分を意味する専門用語です。
一般に、エグゼキューションには、買手と売手の交渉前の準備として行われるスキームの検討、企業価値評価の段階から、最終契約締結とクロージングまでが含まれます。
エグゼキューションでは、企業価値評価や契約書の作成、デューデリジェンスなど、M&A成約に必要となる各業務を行います。
エグゼキューションの手続き・流れは、以下のとおりです。

・M&Aのスキームの検討

・企業価値評価

・交渉

・基本合意書の締結

・デューデリジェンス(DD)の実施

・最終交渉、最終契約書の締結

・クロージング
 

 

M&Aのスキームの検討

M&Aの交渉をする買手または売手候補が決定した場合、どのスキームでM&Aを行うべきかを検討します。
M&Aのスキームの種類は多く、以下の6種類が主なスキームになります。また、その他には、資本業務提携、第三者割当増資、合弁会社の設立などのスキームがあります。

  • 株式譲渡
  • 事業譲渡
  • 合併
  • 会社分割
  • 株式交換
  • 株式移転

株式譲渡

株式譲渡は、譲渡対象会社(売手)の株主が所有する株式を譲受側(買手)に譲渡する手法です。
売手の株主は株式を譲渡する対価として現預金を受け取り、買手は売手の経営権を取得します。株式の譲渡によってM&Aを完了させる手続きであり、譲渡対価を売手の株主(譲渡オーナー)が受け取ります。中小企業のM&Aにおいては、後継者問題の解決、未上場株式の現金化による相続税対策を目的として株式譲渡スキームが多く用いられます。

株式譲渡では、売手が株券発行会社の場合は株券の現物を譲渡しますが、不発行会社の場合は株主名簿の名義書替えのみを行います。
なお、中小企業のM&Aにおいては、原則、買手は売手の一部株式ではなく100%全ての株式を取得するケースが多いです。特に後継者が不在の事業承継型のM&Aではその傾向が多く見られます。

株主の権利(持ち株比率別)

事業譲渡

事業譲渡とは、会社の事業全体または一部を譲り渡すことを意味します。
「事業」には、その事業を運営するために必要な資産、営業債権、営業債務、取引先、そして従業員との雇用契約などが含まれます。
事業譲渡を選択する例としては、以下の場合があります。

・譲渡側に経営権を残したい場合
事業譲渡では、会社全体を売却するわけではありません。
取引主体は会社となりますが、会社が一部の事業を譲渡することになります。そのためオーナー社長は、事業譲渡後も引き続き会社を所有することになります。
譲渡対象は特定の事業になるため、会社の経営権は会社に残ります。

・オーナーではなく会社が譲渡対価を受け取りたい場合
取引主体が会社であるため、事業譲渡の対価は会社が受け取ります。その際に譲渡資産の含み益があると課税が生じます。仮にオーナー社長が事業譲渡による対価を受け取るためには、会社から配当や退職金によって、個人で受け取ることになります。

・必要な事業だけを引き継ぎたい場合
買手にとっては、事業譲渡は必要なものだけを引き継ぐことになります。
株式譲渡のように包括承継する場合と比べると、簿外債務や偶発債務を引き継ぐリスクを排除することができます。一方、改めて個別に契約を締結するなど、譲渡対象事業の内容によっては手続きが面倒になることがあります。
税務上の取り扱いとしては、引き継ぐ対象事業の資産・負債の時価と、支払う対価に差額がある場合は、税務上の「のれん」を計上します。のれんは5年間で均等償却するため、税務上のメリット・デメリットが発生することになります。

事業譲渡のメリットとデメリット

メリット デメリット
  • 承継する資産・負債を取捨選択できる
  • 簿外債務を引き継ぐリスクを回避できる
  • 譲渡対象となる資産・負債および契約について個別の移転手続きが必要(組織再編行為では、対象会社(又は事業)の権利義務が包括承継される)
  • 従業員の雇用契約も個別承継が必要
  • 引継対象資産・負債は時価で受け入れ、譲渡損益、消費税が課税される
  • 簡易事業譲渡・譲受けに該当する場合を除き、株主総会の特別決議が必要

・合併
合併は、対象会社が買手(譲受側)と一緒になり1つの会社となるスキームです。
合併の形式には、吸収合併と新設合併の2つがあります。

・会社分割
会社分割は、対象会社における事業の一部もしくは全部を切り離し、それを買手(譲受側)に継承させるスキームです。

・株式交換

株式交換は、対象会社の株式の全てを買手(譲受側)の完全親会社となる会社に拠出するかわりに、その対価として対象既存株主に買手(譲受側)の株式等が割り当てられるスキームです。

・株式移転
株式移転は、完全親会社となる会社を新設するために対象会社の株式を全て拠出し、その対価として新設会社の株式等が割り当てされるスキームです。
 

 

企業価値評価

企業価値の算定方法として一般的に用いられる手法は、修正純資産法、類似会社比較法(マルチプル法)、DCF法です。

修正純資産法

評価対象会社(売手)の貸借対照表に計上されている全ての資産・負債を時価評価した後の純資産額に営業権を加算(注)して企業価値を算定する方法です。この方法は、企業の静的な価値を判定するのに適しています。未上場会社のM&Aで利用されることが多い方法です。

資産の実在性を確認するため、受領した決算書、顧客(売手)からのヒアリングを基に貸借対照表(簿価)の資産項目を時価修正します。

主な資産項目 修正内容
外貨建預金 期末為替レートで評価替え
売掛金 回収可能性の確認
役員貸付金 原則、回収
棚卸資産 滞留又は不良在庫の確認
建物・付属設備 償却不足額の確認
償却性資産 償却不足額の確認
土地 時価に評価替え
電話加入権 時価に評価替え
敷金・礼金 返還の有無を確認
役員保険積立金 解約返戻金の金額を確認
中退金積立金 簿外資産
時価のある有価証券 時価に評価替え

負債の網羅性を確認するため、受領した決算書、顧客(売手)からのヒアリングを基に貸借対照表(簿価)の負債項目を時価修正します。

主な負債項目 修正内容
預り金(所得税) 未納付の 有無を確認
預り金(住民税) 未納付の 有無を確認
預り金(社会保険料) 未納付の 有無を確認
退職給付債務(従業員) 退職金規程に基づく
要支給額を計算
賞与引当金 支給対象期間の発生額を計算
役員借入金 原則、返済
役員退職金 退職金規程による要支給額

売手の収益力を把握するため、受領した決算書、顧客(売手)からのヒアリングを基に、営業利益(損益計算書)を修正します。

主な費用項目 修正内容
役員報酬(社長) M&A 後の処遇を反映
役員報酬(新経営陣) 新役員の 報酬額
役員報酬(キーマン) M&A 後の処遇を確認
役員報酬(親族) M&A 後の処遇を反映
法定福利費 社会保険料の 未納付を確認
地代家賃 個人資産の 賃借がある場合
旅費交通費 私的支出の 有無を確認
接待交際費 私的支出の 有無を確認
減価償却費 償却不足額の 確認
生命保険料 役員保険の 加入の有無を確認
雑費 私的支出の 有無を確認

黒字の場合は、営業権として、例えば修正後営業利益の1年分から3年分程度の金額を時価純資産額に加算します。
一方、赤字(営業損失)の場合は、営業権はつきません。社歴〇〇年の老舗企業、あるいは自称△△△ブランドの商品などの要素は、経済的価値としての営業権としてはみなされません。その理由は、赤字の場合、それらの要素が利益を生み出していないからです。

類似会社比較法(マルチプル法)

業種、企業規模等の類似する上場会社の一定の財務数値に対する企業価値の倍率を測定し、評価対象会社(売手企業)の財務数値に当該倍率を乗じることで企業価値を算定する方法です。上場会社、未上場会社のM&Aにおいて利用されている方法です。

メリット デメリット
仕組みがシンプルで計算が容易である。
客観性がある。
現在の市場環境が反映される。
将来価値が反映される。
類似会社の選定が難しい場合がある。
客観性が損なわれる場合がある。
反映されない個別要因が存在する場合
市場環境によっては選択が難しい。

 なお、未上場の中小企業・小規模企業のM&Aの株価算定においては、会社規模(売上高)
が小さい、ニッチ業種であるなどの理由により、上場会社の中から類似会社を選定することが難しい場合があります。

DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法

事業活動から得られると予測される将来キャッシュ・フローの総額を現在価値に割り引いた金額を企業価値として評価する方法です。将来キャッシュ・フローの予測に企業価値が大きく左右される方法です。上場会社のM&Aにおいては、一般的に利用されることが多いです。なお、DCF法を用いる場合、将来キャッシュ・フロー算出の基礎となる評価対象会社(売手企業)の事業計画が必要となります。また、当該事業計画の客観性、妥当性、実現性等が重要になります。
フリー・キャッシュ・フロー(FCF)は、事業資産の運用(事業活動)により生み出される税引後利払前利益から、事業活動の継続、成長に必要とされる事業資産や運転資本等への再投資額を控除したものと定義されます。
FCFは、事業資産の運用に対する果実、 あるいは事業資産の調達である資本(有利子負債、少数株主持分、優先株主、株主資本等)に対するリターンと解釈されます。


 

 

交渉

買手または売手候補のマッチングが終了した後、両社による交渉を行います。エグゼキューションは専門性の高い事務的業務ですが、中小企業のM&Aにおける交渉の場合、仲介会社の調整は重要な役割があります。

交渉では、スキームや譲渡価格などの具体的な条件を調整します。また、中小企業のM&Aの場合、相手方の経営者の人間性や経営理念なども交渉の重要なポイントになると思われます。


 

 

基本合意書の締結

基本合意書(注)は、主にデューデリジェンス(買収監査)の実施前に、売手と買手が合意したM&Aの基本的な条件について定めた契約書です。基本合意書を締結する目的は案件ごとに異なりますが、主に交渉内容やスケジュールなどの認識を明確にし、その後の交渉をスムーズに進める目的として締結します。

(注)英語の「Letter of Intent」や「Memorandum of Understanding」の略称として、実務上、「LOI」「MOU」を用いられます。

 

 

デューデリジェンス(DD)の実施

デューデリジェンス(DD)とは、買手が売手の財務や事業内容などを実地調査することです。
デューデリジェンス(DD)の調査範囲は財務・税務・法務・労務など多岐に渡るので、エグゼキューションのなかでも専門性の高い業務です。

財務デューデリジェンス(DD

財務デューデリジェンスは、売手の財務を調査することです。具体的には、売手の財務諸表を調べて、資産の実在性、負債の網羅性、簿外債務のリスクなどを調査します。

法務デューデリジェンス(DD

法務デューデリジェンスは、売手が法律的な問題を抱えていないかを調査します。取引先との契約に違法なものはないか、会社法や税法などに違反していないか、訴訟や紛争がないかを調査します。また、不動産や知的財産などの所有権、株主の特定なども調査対象になります。

労務デューデリジェンス(DD

労務デューデリジェンスでは、労務に関する内容を調査します。従業員の構成や雇用契約の内容、退職金規程、社会保険料の未払い・法令違反がないかなどを調査します。

ビジネスデューデリジェンス(DD

ビジネスデューデリジェンスの目的は、売手の事業内容を調査することによって、M&A後の事業計画や期待されるシナジーを検討することです。ビジネスデューデリジェンスによって、買手の立場からM&Aのメリットがあるかを判断することになります。
 

 

最終交渉、最終契約書の締結

デューデリジェンスの終了後、その結果を元に最終契約に向けた交渉を行います。仮にデューデリジェンスで売手に重大な問題が発見された場合、買収価格を下げたり、最悪の場合はM&Aを中止することもあります。
 

クロージング

最終契約書の手続きが済んだら、クロージング手続きに入ります。株式譲渡の場合は、最終契約書の締結日からクロージング日までに取締役会や株主総会で株式譲渡の承認を得て、議事録や株式譲渡承認書を準備します。
最終契約書の締結日の段階でクロージング準備が終わっている場合は、即日クロージングとする場合もあります。クロージングが終了すると、M&A実務は全て完了します。

クロージングとは、最終契約書の締結後に売手・買手双方が合意した条件を履行し、M&Aを法的・実務的に完了させる手続きのことです。株式譲渡を例に挙げると、クロージング当日には主に以下の手続きが行われます。①譲渡代金の支払い(買手から売手株主への入金確認)、②株式譲渡に関する書類の授受(株式譲渡契約書の原本、株主名簿書換請求書、印鑑証明書など)、③株主名簿の名義書換え、④取締役や監査役などの役員変更手続き(必要に応じて)、⑤登記変更手続き(代表取締役や商号変更を伴う場合)。

クロージングを実行するには、あらかじめ最終契約書に定められた「クロージング前提条件」がすべて充足されている必要があります。前提条件の例としては、デューデリジェンスで重大な問題が発見されていないこと、株主総会・取締役会による承認決議が完了していること、必要な行政許認可の承継手続きが完了していることなどが挙げられます。これらの条件が満たされない場合、クロージングは延期または中止となるリスクがあります。

事業譲渡の場合は、株式譲渡と異なり、各資産・契約・許認可を個別に移転する手続きが必要となるため、クロージングまでの準備が複雑になるケースもあります。取引先や従業員との個別契約の締結、行政機関への届出など、事前に確認すべき事項を漏れなくリストアップしておくことが重要です。

クロージングが完了した時点でM&Aの実務はすべて終了し、正式に経営権が移転します。その後のPMI(統合後マネジメント)に向けた準備も、クロージングを見据えた段階から進めておくことがスムーズな経営統合につながります。

以下の表では、株式譲渡の場合におけるクロージングに必要な主な書類と手続きを、担当者やタイミングとともに整理しています。

手続き・書類 担当 タイミング 備考
株主総会・取締役会の承認決議 売手 クロージング前 定款・株主構成による
株式譲渡契約書(原本) 売手・買手 クロージング当日 双方が署名・捺印
株主名簿書換請求書 売手・買手 クロージング当日 共同または単独申請
印鑑証明書 売手株主・買手 クロージング当日 発行から3ヶ月以内が目安
譲渡代金の支払い 買手 クロージング当日 銀行振込による入金確認
株主名簿の名義書換え 対象会社 クロージング当日〜後日 会社側で記録更新
役員変更登記 対象会社 クロージング後2週間以内 必要な場合のみ
各種行政許認可の承継手続き 対象会社・買手 クロージング前後 業種によって異なる

書類や手続きの不備はクロージングの遅延や法的リスクにつながるため、事前にチェックリストとして活用し、関係者間で漏れなく準備を進めることが重要です。

 

 

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