目次
介護業界の売却案件
はじめに、弊社ホームページで公開されている介護事業の売却案件を紹介します。
※紹介している案件は、2024年5月12日時点で公開されているものとなります。
東北地方|特別養護老人ホームの承継案件
1件目は、東北地方で特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人の売却案件です。営業利益は赤字となっているものの、売上高は1億円以上にのぼる法人となっています。譲渡希望額は応相談です。
こちらの案件について、詳細を知りたい方はこちらからお問い合わせください。
北海道|2ユニットグループホームの介護事業案件
2件目は、グループホームを含む複数の介護事業に関する売却案件です。営業利益は2,000〜3,000万円、売上高は1〜5億円の範囲となっています。譲渡希望額は応相談です。
こちらの案件について、詳細を知りたい方はこちらからお問い合わせください。
介護業界の概要
介護事業の売却を行う際、まずは業界の基本的な知識を得ることが大切です。「なぜ買い手または売り手は、介護事業のM&Aを行うのか(どのようなニーズがあるのか)」を理解しやすくなります。知識があることで、交渉が有利に進むこともありますので、介護サービスにどのようなビジネスがあるのか、介護業界の市場や業界の課題を解説します。
介護サービスの分類
介護保険制度では、介護サービス(介護給付を行うサービス)を以下の3種類に分類しています。[1]
- 居宅介護サービス
- 地域密着型介護サービス
- 施設サービス
各分類に該当する具体的なサービスは以下のとおりです。
分類 | 主なサービス |
居宅介護サービス | l 訪問サービス(訪問介護、訪問看護など)
l 通所サービス(デイサービス、通所リハビリテーション) l 短期入所サービス(ショートステイ、短期入所療養介護) l その他(福祉用品貸与、特定福祉用品販売など) |
地域密着型介護サービス | l 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
l 夜間対応型訪問看護 l 小規模多機能型居宅介護 l グループホーム l 認知症対応型通り所介護 |
施設サービス | l 介護老人福祉施設
l 介護老人保健施設 l 介護療養型医療施設 l 介護医療院 |
介護業界の市場規模
介護費用額の総額(介護保険給付費および公費負担、自己負担の合計)は、2017年度〜2022年度にかけて以下のとおり推移しています。[2]
介護費用額が右肩上がりに増えていることから、介護業界の市場は拡大傾向であると言えます。
2025年問題に起因する介護業界の課題
介護業界では、2025年問題に起因する課題が危惧されています。
2025年問題とは、団塊世代(1947〜1949年生まれ)やその周辺世代が一斉に後期高齢者(75歳以上)となることで生じる様々な社会問題の総称です。社会全体で以下の事態が進むと考えられます。
- 医療費の増大
- 労働力人口の減少
上記より、介護業界では深刻な人手不足が課題になってくると言われています。実際、厚生労働省の推計では、2025年の時点で253万人の介護人材が必要となる一方で、供給人材は215万人となり、37.7万人不足するとされています。[3]
人材不足の解消に向けて、国や地方自治体、民間企業は以下の施策に取り組んでいます。
- キャリアパスシステム整備の推進
- 介護職の待遇改善(賃金の増額や出産育児の両立支援など)
- 研修受講の支援
- 介護職の魅力発信によるイメージアップ
また、元気な高齢者に介護職として働いてもらうことで、労働力を増やす取り組みも行われています。
[1] 介護保険制度の概要(厚生労働省)
[2] 令和4年度 介護給付費等実態統計の概況(厚生労働省)
[3] 2025 年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について(厚生労働省)
介護事業の売却を相談
介護業界のM&A・売却動向
介護業界のM&A件数や売却・買収の動向を解説します。
介護業界のM&A件数
マールマッチングがレコフM&Aデータベースのデータを調査した結果によると、介護関連のM&A件数は、2013年から2022年にかけて右肩上がりで増加しています。具体的な件数の推移は以下のとおりです。
特に、2020年から2022年にかけては2倍近くまで件数が増加しており、直近ではM&Aがより一層活発に行われていると言えます。
経営課題の解決を目的とした大手・中堅グループ入りが活発
売り手側の視点で見ると、大手・中堅の介護事業者に会社や事業を売却し、グループ入りを果たす事例が増加しています。
弊社調査によると、介護事業を売却する理由のTOP3は以下のとおりです。
- 後継者不在(オーナー経営者の高齢化、業界の先行き不安など)
- 人材不足(介護職の採用や定着が進まない)
- 業績不振・不採算(コロナ禍の影響や競争激化による集客難が要因)
自社よりも経営基盤や資金力が強いグループへの傘下入りは、上記に挙げた経営課題を一挙に解決する手段として多くの売り手企業から有力視されています。
投資ファンドによる介護業界への参入
投資ファンドによる新規参入を目的とした買収ニーズが増えています。たとえば近年では、ポラリス・キャピタルやMBKパートナーズといった投資ファンドが、M&Aによる介護業界への参入を進めています。
投資ファンドとは、買収した会社の企業価値を高めた後に株式を売却し、キャピタルゲインを獲得することを主な事業としています。経営資源の投入によって企業価値の向上が見込めない場合、投資ファンドの参入は期待できません(利益を見込めないため)。裏を返すと、投資ファンドの参入が相次いでいることから、介護業界全体として企業価値の向上余地は大きいと判断できます。
投資ファンドは豊富な資金力や経営ノウハウを有しています。こうした経営資源を活用することで、売り手企業が自力で成長を目指す場合と比較して、人材定着や採用強化、従業員の待遇改善、ICT化の推進を実現し、企業価値を高めやすくなります。
従業員や利用顧客にとってのメリットも大きいことから、売り手側としては投資ファンドへの売却も積極的に視野に入れるべきであると言えます。
施設系・訪問系と社会福祉法人のM&Aが活発
介護事業者を「施設系・訪問系」、「通所系」、「社会福祉法人」の3種類に分類した場合、施設系・訪問系と社会福祉法人に対する買収のニーズが大きくなっています。
施設系・訪問系に関しては、コロナ禍による業績悪化の影響が比較的小さかったことが買い手から高く評価されています。売上が5,000万円〜1億円程度の小規模な施設系・訪問系事業者でも売却できる可能性があります。
社会福祉法人に関しては、あらゆる買い手から人気を集めています。売り手側の視点で見ると、理事交代や事業譲渡、合併といった3種類の手法から、柔軟に事業承継のスキームを選択できる点が魅力と言えます。
介護事業の売却を相談
介護業界の売却事例|2024年最新事例も紹介
介護業界の売却事例を5例紹介します。1例目は弊社が支援した売却事例、2〜3例目は2024年に行われた最新事例、4〜5例目は2023年の成立事例です。事例をチェックすることで、買い手側のニーズ(買収理由)や用いられるスキームに関する理解を深められるため、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。
ハッピーライフによる北桜管財への売却
売り手企業の概要
ハッピーライフ:北海道札幌市でグループホーム1施設を経営
買い手企業の概要
北桜管財:北海道札幌市で複数のグループホーム施設を経営
M&Aの実行目的
買い手企業:ドミナント強化
売り手企業:後継者不在、人材不足の解消
M&Aの成約に関する詳細
M&A手法 | 株式譲渡 |
結果 | l ハッピーライフ株主が北桜管財に会社売却を実施
l 人材会社を所有する買い手グループの傘下入りにより、売り手側は人材不足の課題解決を実現 l 施設運営の安定化にも成功 |
ウェルファによるフォルテへの売却
売り手企業の概要
ウェルファ:高齢者介護施設の運営
買い手企業の概要
フォルテ:テノ.ホールディングスの連結子会社として、介護事業や高齢者向け住宅の運営事業を展開
M&Aの実行目的
買い手企業:介護事業のさらなる事業拡大
M&Aの成約に関する詳細
実行時期 | 2024年4月[4] |
M&A手法 | 株式譲渡 |
結果 | ウェルファ株主がフォルテに全株式を売却 |
売却金額 | 8,100万円[5] |
ゆいゆいによるツクイへの売却
売り手企業の概要
ゆいゆい:沖縄県浦添市を中心に訪問看護、訪問介護、福祉用品貸与、医療施設型ホスピスを展開
買い手企業の概要
ツクイ:デイサービスや在宅介護サービス、居住系介護サービス、在宅看護サービスの展開
M&Aの実行目的
買い手企業:医療サービスおよびホスピス事業の拡大、地域包括ケアの強化
売り手企業:事業基盤のさらなる拡大および成長[6]
M&Aの成約に関する詳細
実行時期 | 2024年1月[7] |
M&A手法 | 株式譲渡 |
結果 | ゆいゆい株主がツクイに全株式を売却 |
売却金額 | 非公表 |
エネルギア介護サービスによるSOMPOケアへの売却
売り手企業の概要
エネルギア介護サービス:老人ホーム、デイサービス事業、訪問看護・訪問介護事業などの運営
買い手企業の概要
SOMPOケア:有料寮人ホームやグループホーム、居宅サービス事業を展開
M&Aの実行目的
買い手企業:リソースの相互活用による介護サービスの品質向上、幅広い介護ニーズへの対応
M&Aの成約に関する詳細
実行時期 | 2023年7月[8] |
M&A手法 | 株式譲渡 |
結果 | エネルギア介護サービス株主がSOMPOケアに全株式を売却 |
売却金額 | 非公表 |
スマートケアタウンによるエフビー介護サービスへの売却
売り手企業の概要
スマートケアタウン:小規模多機能型居住介護、通所介護の事業所を2拠点展開
買い手企業の概要
エフビー介護サービス:関東および信越エリアで在宅介護サービスを中心とした事業所等を118拠点展開
M&Aの実行目的
買い手企業:事業展開エリアの拡大、人員配置の効率化などのシナジー創出
売り手企業:買い手企業が有するノウハウ活用による業務効率化、介護サービスの充実
M&Aの成約に関する詳細
実行時期 | 2023年7月[9] |
M&A手法 | 株式譲渡 |
結果 | スマートケアタウン株主がエフビー介護サービスに全株式を売却 |
売却金額 | 非公表 |
[4] 当社連結子会社におけるウェルファ株式会社の株式の取得(テノ.ホールディングス)
[5] 当社連結子会社によるウェルファ株式会社の株式の取得完了及び取得価額変更(テノ.ホールディングス)
[6] ゆいゆいのツクイグループへの参画および代表交代(ゆいゆい)
[7] ゆいゆいの株式取得(子会社化)
[8] エネルギア介護サービスの株式取得(SOMPOケア)
[9] スマートケアタウン株式会社の株式取得(エフビー介護サービス)
介護事業の売却を相談
介護事業の売却価格・相場
この章では、介護事業の売却価格に関する相場や、価格決定の算出根拠となるバリュエーションの手法を解説します。
年倍法に基づく相場
中小規模の介護事業に関しては、年倍法の算出結果を相場として考えられます。
年倍法では、時価換算した純資産に年間利益の2〜5年分(のれん代)を足した金額を企業価値(≒売却価格の相場)とします。計算式で表すと以下のとおりです。
- 売却価格の相場 = 時価純資産 + 営業利益 × 2〜5
時価純資産が1,000万円、営業利益が500万円の介護事業所を例にすると、売却価格の相場は以下のとおり計算されます。
- 売却価格の相場 = 1,000万円 + 500万円 × 2〜5 = 2,000万円〜3,500万円
ただし年倍法の算出結果は、あくまで売却価格の目安に過ぎず、実際の金額は売り手企業が有する経営資源の希少性や競争優位性、買い手企業との想定シナジーなどの要素によって変動します。
売却価格の算出根拠となる「バリュエーション」の手法
実際のM&Aにおいて、介護の会社や事業の売買価格は買い手との交渉によって決定されます。交渉に際しては、株主価値や企業価値(株主価値+負債価値)を売買額の算出根拠とするケースが多いです。株主価値や企業価値を算出するプロセスを「バリュエーション」と呼びます。
バリュエーションの方法は、大きくインカムアプローチ、マーケットアプローチ、コストアプローチの3種類に分けられます。それぞれメリットやデメリットが異なるため、売り手企業の状況や買い手企業の意向などを踏まえて、最適なアプローチを選択したり、場合によっては手法を併用したりすることが求められます。
インカムアプローチ
売り手企業の将来的な収益力に着目し、企業価値を算出する方法です。
メリット | l 売り手企業に固有の強み(特定地域における介護事業の認知度など)を反映できる
l 将来性を加味できる |
デメリット | l 事業計画書や評価者の恣意や主観に左右されやすい
l 清算前提の企業には適さない |
主な手法 | l DCF法
l 配当還元法 |
マーケットアプローチ
過去の類似するM&A事例や事業内容が似ている企業などを参考に、企業価値を算出する方法です。
メリット | l 評価結果の客観性が高い
l 市場を反映しやすい |
デメリット | l 個別の強みを反映しにくい
l 市場の短期的な変化に左右される可能性がある |
主な手法 | l マルチプル法(類似会社比較法)
l 市場株価法 l 類似取引比較法 |
コストアプローチ
貸借対照表に記載されている純資産に着目し、企業価値を算出する方法です。
メリット | l 客観性が高い
l 比較的容易に評価できる |
デメリット | l 将来的な収益力を加味できない
l 市況を反映できない |
主な手法 | l 時価純資産法
l 簿価純資産法 |
介護事業を売却する6つのメリット
介護事業の売却で期待される6つのメリットを解説します。
経営の安定化・事業の成長加速
医療・介護分野の大手企業は、豊富な資金力や知名度、集客・採用ノウハウなどの経営資源を有しています。こうした大手グループの傘下入りを果たし、買い手企業が有するリソースを活用することで、採用力や集客力の向上、拠点の拡大、サービス品質の向上といったことが実現できます。その結果、業績改善や収益増加、企業価値の向上につながるでしょう。
後継者不足の解消
親族や従業員の中に適任の人材がいない場合、黒字であっても会社をたたむ必要が出てしまいます。一方でM&Aによって会社を第三者に売却すると、会社の支配権を買い手企業に移すことで、法人格や介護事業を存続できます。つまり、後継者が不在でも事業承継を実現できます。
売却利益の獲得
会社(≒株式)や事業の売却により、売り手の創業者や法人は利益を得られます。前述の年倍法の計算式からもわかるとおり、ある程度まとまった金額の資金が手に入るため、収益性の高い別事業や新規事業への投資などに回せます。また、経営からリタイアする場合には、リタイア後の生活資金に充てることもできるでしょう。
従業員の雇用継続、待遇の向上
後継者不在や業績悪化などが原因で廃業すると、従業員の雇用を継続できなくなります。M&Aによって第三者に介護の会社・事業を売却することで、買い手側のもとで雇用契約を維持できます。また、自社よりも業績や事業規模が大きい買い手であれば、待遇の向上も期待できます。待遇の向上により、人材の定着率が高まり、長期的には人材不足の解消にもつながるでしょう。
事業の選択と集中の実現
複数の事業や拠点を持っている企業の場合、事業の選択と集中を実現できます。たとえば、業績が悪い介護事業を売却することで、空いたリソースを収益性の高い別事業に投入し、会社全体の業績改善や成長性の向上を実現できます。また、介護事業のみを運営している場合も、不採算の事業所のみを売却し、採算が取れている事業所や地域にのみ集中できます。
個人保証や業務からの解放
法人格を承継するスキーム(株式譲渡など)の場合、資産だけでなく負債も買い手側が引き継ぐため、売り手経営者が負っている個人保証も解消されることが大半です。個人保証から解放されることで、経営者は自らの財産によって負債を返済していくリスクを負わずに済みます。
また、経営者としての立場から退くことで、日々の業務や業績に対するプレッシャーからも解放されます。悠々自適なリタイア後の生活を送りたい方にとって、介護事業の売却はおすすめの手法と言えます。
介護事業を売却する流れ
一般的には、以下の流れで介護事業の売却が行われます。
なお、売却後は買い手企業とのシステムや人事などの統合(PMI)が実施されます。
介護事業の売却方法
介護事業の売却では、主に「法人格の承継」と「事業売却(事業譲渡)」という2種類のスキームが活用されます。この章では、各方法の概要や仕組みを解説します。
法人格の承継
法人格ごと承継する方法であり、経営陣(取締役や理事など)のみが交代し、法人の中身(資産や権利など)はそのまま買い手側に引き継がれる点が特徴です。株式会社の場合には「株式譲渡」、医療法人の場合は「出資持分の譲渡」や「評議員・理事の交代」といった手法が活用されます。
許認可の再取得や雇用契約の個別引き継ぎなどの手続きを行わずに済むことで、比較的スムーズかつ短期間でM&Aを完結できる点がメリットです。一方で、買い手側が簿外債務や不要な事業までも引き継ぐ点には注意が必要です。
事業売却(事業譲渡)
法人格はそのまま残し、法人内にある特定の事業のみを売却する方法であり、基本的には事業譲渡と呼ばれるM&Aスキームが活用されます。
売却する資産や事業を自由に選択できる(必要な資産や事業を手元に残せる)点や、法人の経営権を手元に残せる点がメリットです。ただし、許認可の引き継ぎができない上に、各種資産は個別に引き継ぎ手続きを行う必要が生じます。
介護事業の売却を成功させるポイント
一般的には、「満足のいく条件(従業員の待遇や売却額など)で売却できること」や「売却後に想定していた効果(売上増加など)を得られること」が、会社・事業売却の成功であると定義できます。
上記に挙げた成功を果たすには、一般的に以下4つのポイントを押さえることが重要です。
- 早い時期からM&Aの準備をスタートする
- 経営状態を把握し、企業価値を高めておく
- 自社の状況やM&Aの目的、買い手の意向を踏まえて最適なM&Aスキームを選択する
- 介護事業の売却支援実績が豊富な仲介会社を選ぶ
介護業界のM&Aに関するまとめ
人材不足の解消や投資ファンドによるニーズの高まりといった要因により、介護業界ではM&Aが活発化しています。介護事業・会社の売却により、売り手側は経営の安定化や後継者不足の解消といったメリットを期待できます。
現時点で介護事業の経営に課題を感じている経営者の方は、ぜひ経営承継支援までご相談ください。
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