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酒類小売業界におけるM&A成功のポイント大公開!
2020年現在、酒類小売業界(酒屋さん)のM&Aが増えています。ここでは、酒類小売業界の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価(株価算定)で使う数値(マルチプルなど)について説明します。
なお動画では、日本酒業界の事業承継問題をご紹介していますので、あわせてご覧ください。
これらから、酒類小売業界においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみましょう。
I 酒類小売業界の概要
【1】酒類小売業界の市場環境
酒類小売業とは、酒類小売業免許を持ち、一般消費者や飲食店にお酒を販売する事業者をいいます。
日本全体の酒類消費量は、国税庁の「酒のしおり」によれば、1996年度の9,657千キロリットルをピークに減少傾向にあります。1世帯当たりの酒類消費額についても、2001年の48,000円をピークに、近年は40,000円を下回る水準まで減少しています。
市場全体が縮小していく中で、販路はスーパーマーケット、コンビニエンスストア、百貨店などの大型量販店が中心となり、酒類小売店のシェアは低下する傾向にあります。酒類小売店のシェアは1995年の78%から、2016年の27%まで落ち込んできました。
そして、酒類小売業の事業者数は、総務省の経済センサスによれば、1982年の10万店をピークに2016年は3万店まで減少しました。また酒類小売業の年間売上高合計は、1991年の6兆円をピークに2016年は1兆5千億円まで減少しました。
酒類販売の現在の主体は、コンビニエンスストアになっているものと考えられます。酒類小売業の業界は、今後は人口減少による需要減少が予測され、単独で存続することは極めて厳しい状況です。コンビニエンスストアへの業態転換などの経営革新が必要になると考えられます。
【2】酒類小売業界のビジネスモデル
酒類小売業は、メーカーや卸売業者から酒類を仕入れて一般消費者に販売するだけのシンプルなものです。差別化のポイントは、他店で取り扱いのない酒類の品揃えを増やすことです。仕入れルートに独自性を求め、地方の蔵元から限定仕入れを実現しているケースも見られます。
【3】酒類小売業界のM&A買い手候補となる主たる上場企業
酒類小売業の事業承継を目的としたM&Aであっても、買い手候補は上場企業や大企業が中心になると考えられます。
しかし、この業界では、専業の上場企業がないため、同じ地域にある未上場の大企業が中心となって業界再編を進めることが想定されます。
Ⅱ 酒類小売業界M&Aで売却する売り手のメリット
安定している大手企業にM&Aで酒類小売業を承継してもらうことで、従業員の雇用を維持し、事業のさらなる成長を実現することができます。また、得意先である飲食店は、酒類を継続して仕入れることもできることに加え、メーカーや蔵元などの仕入先との関係を継続することができます。
また、小規模事業者が単独では難しかったIT投資によるデジタル化の推進よって、酒類小売業の経営効率化を実現することができます。
結果として生産性が向上すれば、従業員の給与水準をアップさせることができるでしょう。
さらに、買い手企業が大企業であれば、店舗規模の拡大による生産性向上、大量仕入れによる原材料費の引下げや、人材採用コスト、広告宣伝費、本社経費を削減し、M&Aによるシナジー効果を得ることができます。
以上のようなシナジー効果が期待され、買い手候補にとって魅力的な事業であれば、売り手側の経営者は、高い売却価格を実現することができ、引退した後のライフプランを充実したものとすることができます。
Ⅲ 酒類小売業界M&Aで買収する買い手の注意点
【1】 酒類小売業の買収デュー・ディリジェンスの注意点
酒類小売業は、得意先が一般消費者であり、現金販売であることから、資金繰りが難しい事業ではありません。財務体質が問題となることは少ないでしょう。
ただし、飲食店など業務用で販売する場合は、掛売りとなって回収サイトが長期化する傾向にありますので、注意が必要です。
酒類小売業の事業性を評価する場合の注意点として、第一に、許認可業であることから、酒類小売免許を承継できることが前提となります。この免許には、一般酒類小売業免許、通信販売酒類小売業免許、特殊酒類小売業免許があります。
第二に、競争が激しい業界であることから、競合との差別化が図られているかが問題となります。日常的に消費する商品であり、地域密着型営業が基本となるものの多様な消費者ニーズに適合するよう、品揃えを増やすことが必要となります。
【2】 酒類小売業のM&Aで承継すべき経営資源
従業員、店舗・自動車、運転資金が、基本となる経営資源です。加えて、店舗の立地、ブランド、一般の常連客に加えて、ルート販売を行う飲食店との関係性(顧客リスト)が無形資産として重要な経営資源となります。
無形資産は、事業承継によって喪失されることが多いため、M&Aを行う場合は、顧客関係の引継ぎに時間と労力をかけるなど、無形資産の承継を丁寧に行うことが重要でしょう。
【3】 酒類小売業のM&Aにおける企業価値評価
酒類小売業のM&Aにおいて企業価値評価(株価算定)を行う際に活用していただくことができる数値は、以下の通りとなっています。
まず、TKC経営指標(令和2年2月~4月決算)によれば、酒類小売業の収益性について、対前年売上高比率は約96.8%です。また、限界利益率は24.4%となっています。生産性について、1人当たり売上高は2,936万円、1人当たり人件費は336万円となっています。
次に、2020年8月現在の開示情報および市場株価によれば、酒類小売業のマルチプル(倍率)について、PBR倍率は1.0~2.0倍、PER倍率は15~25倍、EBITDA/企業価値倍率は5~15倍となっています。
さらに、筆者が推計する株主資本コストは、安定した老舗企業であれば10%、急成長の新興企業であれば16%が妥当であると考えます。
なお、類似上場企業比較法で採用すべき上場企業として、カクヤス(7686)、やまや(9994)、アシードホールディングス(9959)が挙げられます。
M&Aを検討する前に、何を準備し対応すべきかお悩みの方は一度、ご相談ください。
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