目次
介護サービス業界の市場動向
高齢化の進展とともに要介護認定者数・介護サービス利用者数は急速に増加している。
また、高齢者人口は今後も増加すると予想され、介護サービスの需要が拡大することは確実である。
一方で、社会保障給付費は増加しており、社会保障を支える生産年齢人口(生産活動の担い手)は年々減少している。
2025年以降、生産年齢人口の減少が加速すると予想されており(下図)、政府は2040年頃の状況を見据えた社会保障制度の見直しに着手している。
「2040年までの人口構造の変化」
出所:「今後の社会保障改革について-2040年を見据えて-(厚生労働省)」
なお、近年の介護報酬改定は適正化(切り詰め)を基本方針としており、その流れは継続される予定である。厚生労働省によると、2019年度の介護保険総費用は、前年度比3.5%増の10兆5,095億円であり、2年連続で10兆円を上回った。
厚生労働省の調べによると、2021年度の介護保険総費用は、前年度比2.3%増の11兆0,291億円でした。前年度から2,508億円が増加したことで4年連続の上昇、ついに大台の11兆円を記録しました。サービス別では、介護サービスが同2.3%増の10兆7,494億円、介護予防サービスは3.4%増の2,797億円となり、介護サービスのみで10兆円を突破しています。
出所:厚生労働省、業界動向サーチ
高齢者人口の増加を背景に介護業界は拡大を続けています。2022年9月現在、要介護(要支援)認定者数は697万人にも及んでおり、2000年には218万人であった要介護者は、この20年間で3倍以上にも増加しています。
一方で、中軽度の要介護者及び認知症の方が利用する介護予防サービスの一部は市町村へ移行したこともあり、利用者数、介護保険料共に減少しています。
2025年には「団塊の世代」すべてが75歳以上となり、後期高齢者人口は2,180万人に達すると推計されています。高齢者人口の増加に伴い介護業界の拡大も見込まれており、今後もさらなるニーズの増加と拡大が想定されています。
2021年の介護業界の動向を見ますと、新型コロナウィルスの感染拡大の影響により、減少していた入居率には改善が見られました。また、2020年以降は利用を控える動きが見られたデイサービスなどの通所介護なども、徐々に利用者は増え需要は回復に向かいました。一方、一部の企業では、新規入居契約の低下が見られました。
介護サービス業界のM&A事例
人口構造の変化や介護行政の動向、介護現場における人材不足などに対応するため、介護サービス業界ではM&Aが活発化、多様化している。
最近の介護サービス業界のM&A(一部)
年度 | 買い手 |
対象企業・事業 |
2020 | 市進ホールディングス(4645) | ゆい(居宅介護支援事業)を完全子会社化 |
2020 | ソラスト(6197) | 日本エルダリーケアサービス(首都圏:訪問介護・居宅介護支援・通所介護)を完全子会社化 |
2020 | ケアサービス(2425) | 広域社会福祉会から訪問介護事業を譲り受け |
2020 | チャーム・ケア・コーポレーション(6062) | グッドパートナーズ(首都圏:介護関係の人材派遣・紹介、訪問看護事業)を完全子会社化 |
2020 | 揚工舎(6576) | ケアクリエイト(東京都:有料老人ホームの運営)を子会社化 |
2020 | SOMPOケア | 東京建物シニアライフサポート(首都圏:サービス付き高齢者向け住宅・介護付有料老人ホームの運営)を完全子会社化 |
2021 | 揚工舎(6576) | ケア・フレンド(福祉用具の貸与・販売事業)を完全子会社化 |
2021 | フレアス(7062) | スカイハート(千葉県:居宅介護支援・訪問介護事業)を子会社化 |
2021 | ニチイ学館(未上場) | LeTechの介護事業を吸収分割により西日本ヘルスケアに承継し、西日本ヘルスケアの全株式をニチイ学館が取得 |
2023 | ニチイ学館(未上場) | 有限会社松本の介護付き有料老人ホーム事業を譲り受け |
2023 | ケア21(2373) | ソフトケア宮城(宮城県)の訪問介護事業を譲り受け |
出所:各種開示資料より作成 |
2020年
(買い手企業)市進ホールディングス(4645)×(売り手企業)株式会社ゆい(居宅介護支援事業)
市進ホールディングスは学習塾の運営を中心に、各種学校運営、映像・ホームページ制作、旅行企画・手配、介護、障害者福祉などの事業を多角的に展開している企業です。 株式会社ゆいは居宅介護支援事業を展開している企業です。
市進ホールディングスは地域に根ざした教育・福祉事業による持続的な成長を図るため、事業ビジョンに親和性のある株式会社ゆいの全株式を取得し同社を完全子会社化しました。
(買い手企業)ソラスト(6197)(売り手企業)×株式会社日本エルダリーケアサービス(訪問介護、居宅介護支援、通所介護事業)
ソラストは医療事務などの医療関連受託事業、介護事業所運営事業、保育園運営事業、医療事務専門教育事業などを多角的に展開している企業です。
ソラストは2030年までに介護サービス対象エリアを現在の約3倍の300エリアに拡大し、各エリアにおいて訪問、通所、居宅介護支援、各種施設系サービスをすべてカバーするという目標を掲げており、それをスピーディーに実現する手段としてM&Aを積極的に活用しています。
ソラストは株式会社日本エルダリーケアサービスの全株式を取得し同社を完全子会社化しました。
(買い手企業)ケアサービス(2425)×(売り手企業)株式会社広域社会福祉会(居宅介護支援・訪問介護事業)
ケアサービスは、東京23区を中心に訪問介護事業や福祉用具貸与・販売、エンゼルケア(湯灌・メイク)サービスなどを行っています。
株式会社広域社会福祉会は、東京都大田区で居宅介護支援・訪問介護事業を行っています。
ケアサービスは、該当地域における市場シェア拡大を目的として、株式会社広域社会が同エリアにおいて蒲田事業所と西蒲田事業所の2箇所の事業を譲り受けました。
(買い手企業)チャーム・ケア・コーポレーション(6062)×(売り手企業)株式会社グッドパートナーズ(介護スタッフの人材派遣・人材紹介、訪問看護事業)
チャーム・ケア・コーポレーションは、2005年春に介護付有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)を開設して以来、近畿圏・首都圏で59ホームを運営している企業です。
株式会社グッドパートナーズは、首都圏で介護施設などへ介護スタッフの人材派遣・人材紹介、訪問看護事業、特定技能の外国人人材紹介、外国人留学生の支援などを行っている企業です。
チャーム・ケア・コーポレーションは、株式会社グッドパートナーズの株式を取得して子会社化しました。
(買い手企業)揚工舎(6576)×(売り手企業) 有限会社ケアクリエイト(有料老人ホーム運営)
揚工舎は有料老人ホーム・デイサービスの運営や居宅介護支援・訪問介護、介護人材の紹介・派遣などの事業を展開している企業です。
有限会社ケアクリエイトの運営する有料老人ホーム(東京都青梅市)が良質な施設であることから、揚工舎は東京近郊に事業拠点を拡大するという戦略に基づいて同社を子会社化しました。
(買い手企業) SOMPOケア×(売り手企業) 東京建物シニアライフサポート株式会社(老人ホーム、サ高住、在宅サービス)
東京建物シニアライフサポート株式会社は、東京都・神奈川県・埼玉県で、老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、在宅サービスを提供しており、19施設を運営しています。
SOMPOケアは、東京建物シニアライフサポートの株式を100%取得して子会社化しました。 SOMPOケアのM&Aの目的は、サービスラインアップの拡充による介護オペレーターとして、さらなる成長、地域における介護、看護、医療の連携強化による持続可能なサービス提供体制の確保を図るためでした。
2021年
(買い手企業)揚工舎(6576)×(売り手企業)有限会社ケア・フレンド(福祉用具貸与・販売事業)
揚工舎は、有料老人ホーム・デイサービス・居宅介護支援・訪問介護・福祉用具貸与・販売といった介護サービス事業や介護資格取得のための教育事業、ならびに介護人材の紹介を行っている企業です。
さらなる派遣事業の充実と拡大を進めるために、福祉用具貸与・販売事業を手掛ける有限会社ケア・フレンドの全ての出資持分を引き受けました。
(買い手企業)フレアス(7062)×(売り手企業)スカイハート株式会社(居宅介護支援事業および訪問介護事業)
在宅マッサージサービスや訪問看護、介護事業を展開しているフレアスは、千葉県千葉市を中心に、居宅介護支援事業および訪問介護事業を行うスカイハート株式会社の株式を取得して100%子会社化しました。
このM&Aによって、フレアスは、スカイハートの既存取引先に対する在宅マッサージとの複合サービスを開始しました。
(買い手企業)株式会社ニチイ学館(未上場)×(売り手企業)株式会社西日本ヘルスケア(介護事業) ニチイ学館は、医療関連事業・介護事業・保育事業を中心に、サービスの展開を通して、社会課題の解決をしている企業です。
株式会社西日本ヘルスケアは、LeTech(3497)の完全子会社であり、介護事業を運送営しています。
ニチイ学館は、西日本ヘルスケアの株式を100%取得して子会社化しました。
2023年
(買い手企業) 株式会社ニチイ学館(未上場)×(売り手企業) 有限会社松本(特定施設入居者生活介護事業所の運営)
医療・介護・保育サービスなどを手掛けるニチイ学館は、有限会社松本(広島県)が保有する「介護付有料老人ホーム ラウンドコスモス大宮」の事業を譲り受けました。
有限会社松本は地域密着型の事業展開を行っており、譲渡対象となる施設は特定施設入居者生活介護事業所です。
ニチイ学館はトータル介護サービスを全国で展開しており、本事業譲受により地域ニーズに対応できるサービス提供体制強化を図ることを目的としています。
(買い手企業)ケア21(2373)×(売り手企業)ソフトケア宮城株式会社(訪問介護事業の運営)
グループホーム・介護付有料老人ホーム・訪問介護支援事業を手掛けるケア21は、ソフトケア宮城株式会社(宮城県)が運営する訪問介護事業を譲り受けました。
ケア21は、首都圏・近畿圏・など複数エリアで事業展開しています。今回の譲り受け事業のエリアは、同社の既存事業所とは飛び地エリアですが、近隣事業所と緊密な連携ができると判断したため、M&Aを行いました。
介護サービス業界M&Aで売却するメリット
売り手(譲渡側)のメリット
安定している大手企業にM&Aでデイサービスを承継することで、職員の雇用を維持し、事業のさらなる成長を実現することができます。また、高齢の利用者は、地域密着型の施設を継続して利用することもできることに加え、提携する医療機関との関係を継続することができます。
また、小規模事業者が単独では難しかったIT投資によるデジタル化の推進よって、デイサービスの経営効率化を実現することができます。結果として生産性が向上すれば、従業員の給与水準をアップさせることができるでしょう。
さらに、買い手企業が大企業であれば、事業規模の拡大による生産性向上、人材採用コスト、広告宣伝費、本社経費を削減し、M&Aによるシナジー効果を得ることができます。
以上のようなシナジー効果が期待され、買い手候補にとって魅力的な事業であれば、売り手側の経営者は、高い売却価格を実現することができ、引退した後のライフプランを充実したものとすることができます。
買い手(譲受側)のメリット
買い手(譲受側)のメリットとしては、以下の点を挙げることができます。
大手のグループホーム運営会社は、高い入居率と安定した収益を維持することができるため、施設数を積極的に増やす傾向にあります。M&Aによって、さらなる売上規模の拡大を期待することができます。
また、新規開設を容易にすることができないため、M&Aによって施設数を増やすことができます。
介護サービス業界の今後について
日本の総人口に占める高齢者の割合は、上昇し続けている。総人口のうち、65歳以上の人が占める割合を示す高齢化率は、2000年の約17%から、2025年には30%超になると予測されている(内閣府 平成27年版高齢社会白書(概要版))。そのため、介護サービスの需要は、今後、益々高まると予想される。
一方、介護業界の人手不足は深刻であり、2025年には34万人の介護人材が不足するという試算がある。 その対策としては、新しい在留資格「特定技能」による外国人の人材活用、AI(人口知能)やロボットなどの現場での活用など、人手不足の解消に繋げる動きが見られる。
また、生活習慣や食生活などを分析して認知症予防につなげられないかを模索する、認知症関連事業が注目されている。既に業界大手の一部は、認知症関連事業の開発に取り組んでいる。
種別ごとのM&A動向と事例
1.グループホーム
グループホームとは
知的障害者や精神障害者、認知症高齢者などが専門スタッフの支援のもと集団で暮らす家のこと(厚生労働省の定義)です。具体的には、5〜9人の少人数をユニットとした共同住宅の形態でケアサービスを提供する介護施設になります。
グループホームの市場動向
全国の高齢者住宅・施設(全14種類、2022年4月時点)の総ホーム数は56,741ヶ所、総居室数は2,302,098戸です。タイプ別に見ると、ホーム数ではグループホームの14,129ヶ所が最も多く、次に住宅型有料老人ホーム(以下、住宅型)の11,232ヶ所、介護老人福祉施設(地域密着型含む)の10,246ヶ所と続いています。
グループホームのM&Aのポイント
売り手(譲渡)側のポイント
① 不動産を保有しているかどうか
自社保有の土地・建物であるか、あるいは借地契約の土地でグループホームを運営しているか。
② 入居率の水準
入居率が安定して高い水準である場合、企業価値評価は高くなります。
③ 地域の医療機関との関係
医療法人が運営するグループホームであれば問題ありませんが、一般企業が運営するグループホームの場合、地域の医療機関と連携が取れているかどうかを確認する必要があります。
④ 従業員の教育
従業員による介護サービスの質の良しあしは、重要なポイントです。従業員の教育がしっかりしているグループホームの場合、買い手側のリスクは低くなります。
⑤ 施設・設備
医療設備、入居部屋の設備、入浴場の設備などの確認が必要です。
買い手側(譲受)のポイント
① 不動産ごとの買収
買収費用を抑えるために土地を賃貸借契約にする場合、M&A後にトラブルになったり、運営が制限されたりする可能性があります。不動産は自己保有にした方が長期的に見るとメリットが大いと言えます。
② 投資金額と収支金額のバランス
グループホームの買収は、買収金額の回収に時間がかかります。グループホームを買収する場合、投資金額と収支金額のバランスを検討する必要があります。
③ 立地条件
グループホームなどの介護施設運営は地域性の高い事業であり、立地条件が重要な要素です。売り手側の周辺に、医療機関やスーパーマーケットがあるかどうかなどを確認することが重要です。
④ 買収前の内覧
グループホームの運営状況の把握するためには、買収前に施設内を十分確認することが重要です。
⑤ 施設の運営状況
過去に、地方自治体などからの指導が入り、一部営業停止や全部営業停止となったことがないかを確認します。
2.有料老人ホームのM&A
有料老人ホームとは
現在、有料老人ホームは、介護付き、住宅型、健康型の3つに分類することができます。
住宅型有料老人ホームと介護付き有料老人ホームの違いは、外部事業者か内部スタッフのどちらが介護サービスをおこなうかです。住宅型有料老人ホームは、外部事業者によって介護サービスを提供されます。一方、介護付き有料老人ホームは、内部スタッフが介護サービスを提供します。介護付き有料老人ホームは、内部スタッフが常駐しているため、住宅型有料老人ホームに比べ管理費が高くなります。有料老人ホームの利用者は、家賃相当額の前払金(一時金)を初期償却でき、月々の負担を減らすことができます。有料老人ホームは、施設数、利用者がいずれも急増しており、2016年度は1万件を超え、そのうち70%を住宅型が占めております。
今後、介護人材の確保による人件費上昇や介護ロボットの活用など、労働環境の改善に向け取り組んでいくことが必要です。
有料老人ホーム業界のポイント
有料老人ホームのM&Aのポイントは、「入居契約の方式」、「補助金の取り扱い」、「M&Aコンサルタントの医療に関する専門性」です。入居契約には、「利用権方式」「建物賃貸借方式」「終身建物賃貸借方式」の3類型が存在し、実務上、「利用権方式」が多く見受けられます。法務DDの際には、個々の契約書をみてリスクがないか確認する必要がございます。医療機関と有料老人ホーム運営会社との間における取引関係に問題がないか確認する必要となります。
3.訪問看護ステーションのM&A
全国の訪問看護ステーションのオーナー経営者様から事業承継(M&A)のご相談が増えております。
訪問看護ステーションは、看護師等が、主治医の指示書に基づき、主に病気や障害のある方々のご自宅に訪問し、専門的なサービスを行う事業です。
2000年に介護保険制度が施行され、介護保険の認定を受けた利用者は、介護保険が適用されるようになりました。
訪問看護ステーションの稼働数は、2019年4月時点で11,161社です。(出所:一般社団法人 全国訪問看護事業協会HPより)
規制緩和に伴い、医療法人ではなくても株式会社、NPO法人でも開業ができるようになり、営利法人の占める割合が50%弱と増加傾向にあります。
開設における人員基準が2.5人以上のため小規模事業者が乱立しており、その中のうち、看護師を常に確保できる状態ではない法人から、会社の譲渡(M&A)のご相談をいただいております。
訪問介護業界概要
訪問介護事業所は、訪問介護員(通称:ホームヘルパー)が、利用者のご自宅に訪問し、「身体介護」や「生活援助」を行う事業です。
● 身体介護・・・利用者の食事、排せつ、更衣、洗面、体位変換、通院介助など
● 生活援助・・・掃除、洗濯、買い物、薬の受け取りなど生活の支援
2018年度の厚生労働省「介護給付費等実態統計の概況」によると、サービスの利用状況は、要介護3以上の利用者は「身体介護」の割合が60%を超え、要介護5になると90%を超えます。
ちなみに、認知バイアスによるものでしょうが、「訪問看護」と「訪問介護」の違いが区別できていないケースもあるようです。
「訪問」がつくとわかりづらくなりますが、「看護」と「介護」だけでみると理解しやすく、「看護」は、病院で受ける点滴や注射などの「医療行為」ができますが、「介護」はできません。
訪問看護ステーション業界の市場動向
訪問看護ステーションは、高齢者の増加により、要介護度4、5の重度の看護サービスを必要とする利用者が多く、かつ我が国における「地域包括ケアシステム」の中心的な事業として期待されており、今後も需要が見込める市場です。ただし、先ほども述べたとおり、経営管理体制の脆弱であり、かつ優秀な看護師の確保が難しく、結果的に利用者のニーズに対応できていない小規模の訪問看護ステーションが一定数、存在しております。
現状、このような小規模の訪問看護ステーションは、同業のみならず、経営基盤が充実している医療法人もしくは居宅介護支援事業所を買い手候補先として選ぶことにより、お互いシナジーが見込めるでしょう。
訪問看護ステーションのM&Aのポイント
訪問看護ステーション事業のM&Aのポイントは、「看護師数および人員体制」と「地域における知名度」です。
病院よりも訪問看護ステーションで働く看護師は、ワークライフバランスを重視している傾向にありますので、勤務体制を含めた職場環境等が重要なポイントになります。
マクロ的な視点からみると、地域の医療法人等が小規模の訪問看護ステーションをロールアップ(連続買収)し、経営組織の強い法人を増やしマーケットを整備していくことが求められます。
4.介護福祉用具貸与のM&A
介護福祉用具貸与とは
福祉用具貸与とは、利用者が可能な限り自宅で自立した日常生活を送ることができるように、指定事業者が、利用者の心身の状況、その生活環境等を踏まえて、適切な福祉用具選択の援助・取り付け・調整などを行って、福祉用具を貸与することであす。その目的は、利用者の日常生活上の便宜を図り、家族の介護の負担軽減することです。
介護福祉用具の市場動向
2021年度の国内介護福祉用具市場規模(メーカー出荷金額ベース)は1,271億円と推計され(矢野経済研究所)、市場規模はほぼ横ばいで推移しています。
一方、最近の為替円安、原材料費・輸送費の上昇の影響を受けて、介護福祉用具メーカーの経営を圧迫している例が見られます。
介護福祉用具貸与のM&Aのポイント
①会社売却・M&Aの準備および計画
M&A・売却には複雑な手続きが必要であるため、事前に十分な準備をする必要があります。準備不足である場合、買い手側と交渉をスムーズに進められない、または交渉が決裂することになります。
②会社売却の目的の明確化
M&Aの目的は、「後継者問題」「事業の切り離し」「資金調達」など、売り手側によって異なります。目的を明確にすることにより、適切なM&Aスキームを選択することができます。
③買い手側に伝える条件
M&Aは最終契約の締結、クロージングの手続きで終了する訳ではありません。
アフターM&Aにおけるスムーズな事業引継ぎを行うことが重要です。
そのためには、M&Aの交渉の中で従業員の処遇・給与水準などの条件を買い手側に伝える必要があります。
④売り手側のアピール材料
立地の良さ・顧客網の広さ・利用者の多さなどは、買い手側との交渉において有利なアピール材料になるので、事前に整理して資料を準備しておきます。
5.小規模多機能型居宅介護支援事業所のM&A
小規模多機能型居宅介護支援事業所とは
居宅介護支援の主な業務は、地域の高齢者の居宅サービス計画(通称:ケアプラン)の作成であり、その他にも施設への紹介などの調整等をおこなう労働集約型です。将来的に人手不足が予想される介護業界では、ケアプラン作成をAIを活用し自動化する取り組みも行われています。高齢化に伴い、事業所数も増加傾向にあり、4万件を超えており、居宅介護支援の受給者数も年間350万人を超えています。
居宅介護支援事業所業界の動向
居宅介護支援事業所の収益は、3年毎に改定される介護報酬に大きく影響します。
また売上を伸ばすには、行政や近隣の医療機関、他の介護サービス事業所等との地域ネットワークを充実させると同時に、職員の教育体制の維持・向上が求められます。高齢者は増加している一方、過疎地域においては転居や死亡等による人口減少によって、将来的に市場が縮小していく地域もあるので、市場調査を十分にしておく必要性があります。
小規模多機能型居宅介護支援事業所のM&Aのポイント
売り手側にとっては、後継者問題の解決、創業者利得の確保、ハッピーリタイアの実現、借入金の個人保証の解消、買い手側の傘下で安定的な経営が、主なポイントになります。
買い手側にとっては、介護事業への新規参入(異業種の場合)、新しい地域への進出(同業の場合)、有資格者の確保、規模拡大によるスケールメリットなどが、主なポイントになります。
6.通所介護(デイサービス)のM&A
近年、通所介護(デイサービス)業界のM&Aが増えています。ここでは、デイサービス業界の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価(株価算定)で使う数値(マルチプルなど)について説明します。これらから、デイサービス業界においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみましょう。
M&Aの多い通所介護(デイサービス)業界の現状
デイサービス業界の全体像を理解するために、市場動向や経営環境、ビジネスモデル、M&Aの買い手候補となる同業他社について説明します。
通所介護(デイサービス)業界の市場動向
デイサービスとは、要介護者等の利用者を老人デイサービス施設に通わせ、そこの施設において入浴・排泄・食事等の介護、生活に関する支援、健康状態の確認など日常生活の世話や機能訓練を行う事業者のことをいいます。
わが国の介護福祉政策の重点が、居宅サービスにシフトしているため、デイサービスの利用者が増加しています。厚生労働省「公的介護保険制度の現状と今後の役割(平成30年)」によれば、介護サービス利用者は2000年に149万人でしたが、2017年には488万人と3倍になっています。
厚生労働省「介護保険事業報告」によれば、2016年のデイサービスの市場規模は約1兆3千億円と報告されています。
通所介護(デイサービス)業界のビジネスモデル
デイサービス業のビジネスモデルは、都道府県知事からの指定を受け、規定される施設と人員を抱え、高齢の利用者に対して介護サービスを提供するというものです。
介護保険制度において提供されるサービスは、居宅サービス、地域密着型サービス、施設サービスの3つに大別されますが、デイサービスは居宅サービスに分類されます。
デイサービスを営むための人員に関する基準では、生活相談員、看護師、介護職員等を一定数常勤させなければならないと指定されています。また、設備に関する基準では、食堂や職能訓練室を一定面積以上設置しなければならないと指定されています。
通所介護(デイサービス)業界M&Aで買い手候補となる企業
デイサービスの事業承継を目的としたM&Aであっても、買い手候補は上場企業や大企業が中心になると考えられます。
この業界では、以下のような企業が中心となって業界再編を進めていくことが想定されます。
ツクイ、チャーム・ケア・コーポレーション、セントケア・ホールディングス、SIホールディングス、シダー、ケアサービス、やまねメディカル、インターネットインフィニティー、ロングライフホールディングス、メディカル一光です。
通所介護(デイサービス)の買収デュー・ディリジェンスにおける注意点
デイサービスは、労働環境が厳しいという特徴があります。それゆえ、職員との面接を実施し、職場の人間関係や事業所への不満が無いかを質問することが必要です。
従業員の長時間労働が続く事業所であれば、未払残業代のような簿外債務が無いか確かめることが必要でしょう。
また、リハビリ等の機器、送迎用の自動車が陳腐化していないか、買換え投資が必要ないか、現物を調査することも必要となります。
通所介護(デイサービス)の買収で承継すべき経営資源
デイサービスでは、介護サービスを提供する職員が基本となる経営資源です。デイサービスの職員の離職率は高く慢性的な人手不足にあるため、処遇改善も検討するなど、職員を退職させずに継続雇用することが重要なポイントです。
職員は、事業承継によって退職するケースが多いため、デイサービスのM&Aを行う場合は、職員の引継ぎに時間と労力をかけるなど、人的資産の承継を丁寧に行うことが重要でしょう。
(参考)通所リハビリテーション(デイケア)
通所リハビリテーション(通称:デイケア)とは、在宅の介護高齢者に、病院などの施設に通い日常生活の自立を図るためにリハビリテーションサービスを提供する仕事です。
介護サービスを整理すると、3種類に分類されます。デイケア(Day care)は、通所介護サービスにあたります。また、病院や介護老人保健施設しか開設できないため参入障壁が高く、かつ介護報酬は公定価格であるため回収リスクが低いのが特徴です。ちなみに、デイケアの「Day」は「日帰り/日中」を意味します。
●(利用者が)通う(通所)
●(介護職員が)訪問する(訪問)
●(利用者が)泊まる(施設)
デイケアとデイサービスの違い
通所リハビリテーション(デイケア)と通所介護(デイサービス)の違いは、訪問看護と訪問介護の違いと同様、「医療行為」を行うことができる否かです。通所介護は医療行為が行えません。
「●●介護は、医療行為ができない」と覚えておくと良いでしょう。
7.介護老人福祉施設のM&A
介護老人福祉施設とは
介護老人福祉施設は、原則、社会福祉法人や地方公共団体が事業主体となっております。2015年度より、原則、新規入所者は要介護3以上に引き上げられ、要介護度が重くなった利用者が対象となります。
特養の種類は、利用者が個室で過ごす個室(ユニット型)と数人で過ごす多床室(従来型)の2種類あり、24時間スタッフがケアしてくれる仕組みです。
ユニット型は手厚いサービスのため、費用は従来型に比べて高くなり、費用の内訳は居住費、食費、その他(+介護費用)になります。
厚生労働省によると、特養待機者は2019年4月1日時点で29万2487人であり、東京都で2万5811人、神奈川県が1万5723人で続いております。3年前の調査から0.9%減少しております。
介護老人福祉施設の市場動向
日本経済新聞社のサービス業調査によると、有料老人ホーム(回答47社)の2021年度(2021年8月~2022年7月の間の決算期)の売上高は前年度に比べ2.6%増加しました。また、在宅(訪問)福祉サービス(回答51社)の売上高は5.9%の増加でした。
また、国内の有料老人ホームなどの特定施設とサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、グループホームの施設数の合計は2021年末時点で約3万6,000拠点あります(厚生労働省)。
介護老人福祉施設のM&Aのポイント
特養のM&Aのポイントは、「行政との調整」、「補助金の取り扱い」です。
特養の場合、社会福祉法人によるM&Aは、株式会社ではないため承継方法は、理事長、理事や評議員を交代することにより経営権の承継や事業譲渡、合併の形態をとります。
M&A会社に相談する際は、社会福祉法人M&Aに精通したコンサルタントに相談すると良いでしょう。
業界M&Aチームのご紹介
当社の介護業界特化チームの紹介をします。特徴は3点あります。
一つ目は、プロフェッショナルによるM&Aサポートです。
M&Aの専門性と介護業界に特化した専門性を兼ね備えた実績豊富なコンサルタントが、皆様に専門性の高いきめ細かなサービスを提供しています。成約したお客様、皆様からご満足いただけております。
二つ目は、完全成功報酬の手数料体系です。
当社は、1社でも1施設でも多くの中小企業、介護施設の活用を繋げられるよう、リーズナブルな手数料体系を採用しています。着手金、月額費用はいただかず、成功報酬のみの完全成功報酬制を採用しています。
三つ目に、豊富な成約実績です。
施設種別、規模、エリアを問わず、豊富な成約実績がございます。
地方都市の1施設のご相談から、複数施設を運営する法人様のご相談まで、規模、エリアを問わず高い専門性を持ったサービスを提供させていただいております。
株式会社経営承継支援は、一社でも多くの企業を廃業危機から救うため、全ての企業様のご相談をお受け致しております。
M&A(株式譲渡、事業譲渡等)に関して着手金無料でご相談可能ですので、お気軽にお問合せくださいませ。