M&Aの買い手の調査~7つの基本項目~

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はじめに

中小M&A業界の歴史はたかだか25年であり、M&A業務は新しいビジネスと言うことができます。中小企業の後継者問題は深刻化しており、M&A業務を行うために資格、許認可などは不要であるため、新規参入者は増加の一途をたどっています。                                               この状況下において、2024年春頃には問題のある買い手による事件が多発して大きな社会問題になりました。問題のある買い手とは、M&A成約後に資金の一元管理という名目のため子会社(売り手)から資金を吸い上げ、資金繰りを悪化させて倒産に追い込む買い手です。また、M&A後に買い手は、売手社長の借入気に係る個人保証を解除または移行しますが、個人保証を外さないままにしていました。

これらの事件を受けて、2024年8月に中小企業庁は中小M&Aガイドラインを改訂して、第3版をリリースしました。ガイドライン第3版では新たに買い手の調査の項目が追加されました。買い手の調査の例は、以下のようになります。

・財務状況に関する調査
・財務諸表(決算書)の確認
・コンプライアンスに関する調査
・買い手(法人)のみならず買い手の経営陣、主要株主、関連会社等
・Web検索、社内や業界共有情報の確認、その他外部DBや調査会社の活用
・事業実態の調査
・商業登記簿の確認、web地図閲覧、事務所の訪問
・最終契約の実行可能性の調査
・財務諸表、預金通帳、融資証明書等の確認
・その他M&Aに取り組む背景、過去のM&Aでのトラブルの有無

また、2021年10月に大手M&A仲介会社によって設立されたM&A支援登録機関協会は、問題のある買い手を特定事業者としてリスト化して、協会会員に情報共有しています。

(出所:M&A支援機関協会)

M&Aの買い手としての適格性を判定する際に、7つの基本項目(下表)について確認します。

①買い手の信用力の確認

TSR評点はTSR調査員が直接企業を100点満点の実数で評価したリアルな数値で、取引時に企業を客観的に判断する指標として広く活用されています。
企業の継続的な発展のために、特に重要な要素である経営者について資産担保余力や経営姿勢、事業経験などを評価した点数です。
M&A買い手となるのは、原則、ランク3以上の会社です。


(出所:TSR資料)

直接営業によって開拓した買い手候補については、財務内容などの定量情報、会社の定性情報を収集する必要があります。その差異には、TSRなどの信用調査機関の報告書を活用するのが一般的です。
なお、M&A仲介者が、提携先の金融機関から、M&Aの買い手の紹介を受ける場合は、買い手の信用力、買収資金の手当については担保されています。

 

②会社規模(売上)の比較

買い手候補の適格性を判定する場合、会社規模(売上)の比較、すなわち、買い手の売上と売り手の売上の比較を行います。                                         具体的に、次の設例を用いて説明することにします。

<設例>
売り手(売上2億円、借入金1億円)の買い手候補として、次の4社をリストアップしました。

A社 売上1億円(黒字、借入金5000万円)
B社 売上5億円(黒字、無借金)
C社 売上10億円(黒字、借入金1億円)
D社 売上50億円(若干黒字、借入金 40億円)

この4社について、買い手候補としての適格性について考えてみましょう。

A社は、売上が売り手よりも小さい(1億円<2億円)ため、買い手として不適格です。通常、小が大を飲み込むM&Aは難しいと言われます。

B社とC社は買い手として適格です。ただし、両社の売上規模から考えると、失敗できないM&A、社運を賭けたM&Aと言えると思います。

D社は借入過多のため、買い手として難しいと思われます。M&A後に、D社の業績が悪化して、倒産するリスクがあります。

③決算書(B/S、P/L)の分析

M&Aの買い手の主な条件は、次の2つです。

「黒字会社であること」
黒字会社の営業キャッシュ・フローはプラスです。 すなわち、事業によってキャッシュを獲得していることを意味します。

「借入過多ではないこと」
借入過多であると、M&A資金の借入ができません。
また、売り手の財務内容が悪い(赤字、借入過多、債務超過)場合、M&A後に共倒れになるリスクがあります。

(出所:TDB資料)

④M&Aの実績の有無

M&Aの実績の有無に関わらず、買い手候補には、M&Aニーズの把握、買収資金の手当、買収後に売り手(子会社)に送り込む人材など、いくつかの確認事項があります。
以下の設例は、積極的にM&Aをしている買い手、所謂、ストロングバイヤー(ストバイ)に、買いニーズをヒアリングした際のメモ(抜粋)です。

<設例>
Xグループは売上高約200億円、中核会社は設備工事業(コア事業)を展開しています。

<ヒアリング内容>
事業戦略およびM&Aニーズ:
・本業(設備工事)とシナジーがある会社(技術者の獲得と地域拡大)
具体的には、有資格者がいる設備工事会社
対象地域は、グループの空白地域(〇〇県)
・本業以外:周辺業種(黒字の会社、債務超過は不可)
・買収予算は、2億円~5億円。

Xグループ会社
コア事業 ㈱Xエンジニア    設立199X年  グループの中核会社
IT事業  ㈱ソリューションズ 2022年買収 情報処理
不動産業 ㈱Xパートナーズ   2020年買収  不動産仲介
その他  ㈱Xビルサービス   2021年買収  マンション管理

⑤法令遵守とコンプライアンス

法令違反、またはコンプライアンス違反を犯している買い手は、「M&A不適格」です。
したがって、M&A買い手として売り案件を提案することはできません。

なお、売り手が法令違反、またはコンプライアンス違反を犯している場合も、同様に「M&A不適格」となります。このような売り手とは、提携仲介契約を締結しません。

法令違反とコンプライアンス違反の定義・特徴の比較

<法令違反の事例>
某M&A仲介会社が、買い手のY社(中部地方:運送業) とB社(東北地方:食品メーカー)のM&Aを仲介しました。最終契約の後、Y社は、資金の一元管理という名目でB社の資金を吸い上げたため、B社は資金繰りが悪化して破産申し立てをしました。

また、買い手のY社は、M&A成約の数年前に本業で行政処分を受けていました。某M&A仲介会社が、マッチングの段階で、過去のY社の行政処分の事実を把握していれば、B社にY社を紹介することはなかったと思います。

なお、この事例の場合、Y社の規模(売上)がB社とほぼ同じであり(基本事項⓶)、シナジーが不明であるなど、他にも疑問の残る点があります。

⑥反社会的勢力・反市場勢力

一般的にM&A業務に限らず、反社会的勢力、反対市場政略とは、関係を持ってはならないとされています。
反社会的勢力は、多くの方がご存じであると思いますので、ここでは反市場勢力について説明します。
まずは、反市場勢力の定義から見ていきます。

<反市場勢力の定義>
証券市場のルール・モラルを破り、市場に参加している企業・ 株主が不当な不利益を被る事
を顧みず不正・不公正な取引・ファイナンスを計画実行する人物或いは団体

<関連用語>
・総会屋
・仕手関連:仕手集団、5%ルール、低位株、仮装売買、馴合売買、風説の流布
・不正および不公平なファイナンス:
ハコ(箱)企業、裏口上場、架空増資、水増し現物増資、インサイダー取引、偽計取引

反社会的勢力と反市場勢力とは、必ずしも同じではありません。

⑦訴訟の有無

買い手候補が訴訟を抱えているかどうかを確認することも重要です。
訴訟を抱える会社のリスクを、法務、経済、信用、経営の各側面から整理すると、以下のようになります。
<訴訟を抱える会社のリスク>
法的リスク 損害賠償の支払い、業務に制限がかかる可能性がある。
経済的リスク 訴訟費用が多額になることがある。
信用リスク 会社のレピュテーションを下げる。
経営リスク 会社の経営に大きな影響を及ぼすことがある。

訴訟の影響が軽微な場合を除き、訴訟を抱える会社は、M&Aの買い手としては不適格です。

まとめ:M&Aの買い手の調査~7つの基本項目~

マッチング(買い手の探索)の際に、7つの基本項目の判定を必ず行うことが必要です。 7つの基本項目の判定結果によって、M&A不適格となった買い手候補には、売り案件を提案してはいけません。
基本項目の①~③でM&A不適格と判定した買い手を排除することにより、案件のブレイクを回避することができます。                                               また、問題のある買い手を排除することにより、中小M&A市場の健全化に貢献することができます。

判定:〇(M&A適格)、×(M&A不適格)

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