IT企業の売却事例、価格、高値売却のポイント【2024年最新】

IT業界では、経営の安定化を図る目的で、大手企業に会社や事業を売却するケースが活発です。売却価格は、エンジニアの人数やスキルなどが影響されます。2024年におけるIT企業の最新売却事例や、M&Aのメリットもくわしく解説します。

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目次

IT業界の概要と売却・M&A動向

IT業界とは、情報の伝達や処理・提供、インターネットに付随したサービスの提供(情報の加工)などを行う事業所で構成される業界です。具体的な には以下が該当します。

  • SIer/SES:IT技術を使った開発や研究、サービスの提供
  • ハードウェア:ITに関連する機器の設計や開発、製造、販売
  • ソフトウェア:ソフトウェアの開発、販売
  • 通信サービス:電気通信サービスの提供
  • インターネット:Webサービスの提供

本章では、IT業界のM&A件数や業界内でM&Aが活発的に行われている背景を解説します。

IT業界におけるM&A件数

経済産業省が民間企業に委託した調査によると、2015年度から2019年度において、IT(情報技術)業界のM&A件数は以下のとおり推移しており、増加傾向が見られました[1]。

※備考:

※ 「各年度の国内M&A件数×各年度のIT(Information Technology)M&Aの割合」の推定値

 M&A Onlineによると、2023年のIT・ソフトウェア件数は過去10年で最多であったとのことです[2]。経済産業省の委託調査およびM&A Onlineのデータより、2010年代後半から現在に至るまで、IT業界ではM&Aが年々活発化してきたと言えます。

会社売却・買収が活発に行われている背景

IT業界でM&Aが活発に行われている要因は様々ありますが、近年では「大手IT企業に売上が集中している現状」が挙げられます。

 

経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、2023年におけるSI(SIer)の売上高は約6兆6,844億円です。ソフトウェア業全体の約54.6%、情報サービス業全体(狭義のIT業界)の約39.3%を占めていることから、SIerに代表される大手IT企業に売上高が集中していると言えます。 [3]

  • 情報サービス業:ソフトウェア業+情報処理・提供サービス業
  • ソフトウェア業:受注ソフトウェア+ソフトウェアプロダクツ
  • 情報処理・提供サービス業:計算事務等情報処理やデータベースサービスなど

 

大手企業に売上(案件)が集中しているため、SESなどの二次請けでは、利益率の低さや採用難などに限界を感じている企業も少なくありません。そこで、大手IT企業(大手SIerなど)への傘下入りにより、売上の安定化や成長性の向上を図るために、会社や事業の売却を図る事例が増えています。

また、従来と比較すると落ち着いたものの、依然としてIT人材の不足を感じているIT企業も少なくないため、人材確保を目的としたM&Aのニーズもあります。 

[1] コーポレートガバナンス改革を踏まえた価値創造に資する合併と買収に関する実態調査(KPMG FAS)

[2] 【2023年のIT・ソフトウェア業界】過去10年でM&A案件最多に、クロスボーダー低調で取引金額は低迷(M&A Online)

[3] 特定サービス産業動態統計調査(経済産業省)

 

システム開発・SESの売却事例4例

システム開発・SESの最新売却・M&A事例を4例解説します。

ゼネテックに対するフラッシュシステムズの売却

売り手企業の概要

フラッシュシステムズ:製造業向けの生産管理システムや制御システムなどのソフトウェア開発

買い手企業の概要

ゼネテック:ハードウェアとソフトウェアの技術要素を融合・開発するシステムソリューション事業など

M&Aの実行目的

買い手企業:PLM 事業を当社の成長ドライバーとすること

M&Aの成約に関する詳細

実行時期 2024年4月[4]
M&A手法 株式譲渡
結果 フラッシュシステムズ株主がゼネテックに対して全株式を売却
売却金額 3億5,500万円

ウエルシアホールディングスに対するエクスチェンジの売却

売り手企業の概要

エクスチェンジ:ソフトウェアの受託開発および情報システムの設計・開発・運用

買い手企業の概要

ウエルシアホールディングス:ドラッグストア事業

M&Aの実行目的

買い手企業:ITインフラやアプリケーションなどの整備、デジタル技術を活用した新しい顧客価値の創出

M&Aの成約に関する詳細

実行時期 2024年3月[5]
M&A手法 株式譲渡
結果 エクスチェンジ株主がウエルシアホールディングスに対して全株式を売却
売却金額 非公表

アクモスに対するプライムシステムデザインの売却

売り手企業の概要

プライムシステムデザイン:SES事業

買い手企業の概要

アクモス: SIやソフトウェア開発などのITソリューション事業を展開

M&Aの実行目的

買い手企業:首都圏におけるSE事業の事業拡大[6]

売り手企業:上場会社のグループ入りによる、事業シナジーの創出、業容拡大[7]

M&Aの成約に関する詳細

実行時期 2024年1月[6]
M&A手法 株式譲渡
結果 プライムシステムデザイン株主がアクモスに対して株式の80%を売却
売却金額 非公表

SHIFTグロース・キャピタルに対するクレイトソリューションズの売却

売り手企業の概要

クレイトソリューションズ:ミナトホールディングスの連結子会社として、業務システムの受託開発やSES事業などを展開

買い手企業の概要

SHIFT グロース・キャピタル:SHIFTグループにおけるM&A・PMI業務の遂行

M&Aの実行目的

売り手側の親会社:子会社売却による資金獲得、獲得した資金による設備投資やM&A、グローバル展開への投下

売り手企業:開発力や技術力の強化

M&Aの成約に関する詳細

実行時期 2023年6月[8]
M&A手法 株式譲渡
結果 売り手企業の親会社がSHIFT グロース・キャピタルに対して、保有するクレイトソリューションズの全株式(90.1%)を売却
売却金額 約17億5,656万円

 [4] フラッシュシステムズの株式取得(ゼネテック)

[5] エクスチェンジの株式取得(ウエルシアホールディングス)

[6] プライムシステムデザインの株式取得(アクモス)

[7] アクモス株式会社との経営統合(プライムシステムデザイン)

[8] 連結子会社の異動(株式譲渡)(ミナトホールディングス) 

アプリ・ゲーム開発の売却事例3例

アプリ・ゲーム開発の最新売却・M&A事例を3例解説します。 

プロパティデータバンクに対するリーボの売却

売り手企業の概要

リーボ:Webアプリケーションやモバイルアプリの受託開発など

買い手企業の概要

プロパティデータバンク:不動産の運用管理に関するクラウドサービス事業など

M&Aの実行目的

買い手企業:リーボが有する高い技術力や知見を活用した、不動産DXプラットフォームの早期実現

M&Aの成約に関する詳細

実行時期 2024年3月[9]
M&A手法 株式交換
結果 リーボを完全子会社、プロパティデータバンクを完全親会社とする株式交換により、リーボが買い手企業のグループ入り
売却金額 2億6,000万円(現金対価と株式対価の合計)

THE FIRSTに対するG2 Studiosの売却

売り手企業の概要

G2 Studios:ギークスの連結子会社として、スマートフォン向けゲームアプリの企画や開発、運営

買い手企業の概要

THE FIRST:システム開発、DXコンサルティングなどの事業

M&Aの実行目的

売り手企業の親会社:事業ポートフォリオの最適化

売り手企業:スマホ向けゲーム事業の実績を有する買い手企業への傘下入りによる、事業機会の拡大や経営基盤の強化

M&Aの成約に関する詳細

実行時期 2024年3月[10]
M&A手法 株式譲渡
結果 売り手企業の親会社がTHE FIRSTに対して、G2 Studiosの全株式を売却
売却金額 8億4,400万円

 セガの海外子会社に対するRovio Entertainment Oyjの売却

売り手企業の概要

Rovio Entertainment Oyj:フィンランドに本社を置き、モバイルゲーム事業を展開

買い手企業の概要

SEGA Europe Limited:イギリスに所在するゲーム会社セガの完全子会社

M&Aの実行目的

買い手企業:売り手企業 のモバイルゲームに関する運営・開発能力やグローバルIPの獲得、国債市場での成長加速[11]

M&Aの成約に関する詳細

実行時期 2023年8月[12]
M&A手法 公開買付け(TOB)
結果 SEGA Europe LimitedがRovio Entertainment Oyj株式(議決権)の約97.7%を取得し、同社を買収
売却金額  

※100%取得した場合の金額をベースに算出

 [9] リーボ株式会社の完全子会社化(プロパティデータバンク)

[10] 連結子会社の異動(ギークス)

[11] Rovio Entertainment Oyjの買収(セガ)

[12] Rovio Entertainment Oyj の買収に関する追加的な公開買付け(セガサミーホールディングス)

 

Webサービス・その他IT事業の売却事例3例

Webサービス・その他IT事業の最新売却・M&A事例を3例解説します。なお1例目は、弊社が支援したM&Aの事例となります。

シャノンに対する後藤ブランドの売却

売り手企業の概要

後藤ブランド:Webマーケティングに関するコンサルティング、広告運用代行サービス

買い手企業の概要

シャノン:統合型マーケティング支援システムの提供

M&Aの実行目的

買い手企業:集客面での幅広いサービス提供の実現

売り手企業:人材不足の解決(大手企業への傘下入りによる知名度採用のスピードアップ)

M&Aの成約に関する詳細

実行時期 2022年6月[13]
M&A手法 株式譲渡
結果 後藤ブランドの株主がシャノンに対して全株式を売却
売却金額 9,000万円+アーンアウト報酬(最大6,000万円)

ジェイドグループに対するマガシークの売却

売り手企業の概要

マガシーク: インターネットにおける婦人・紳士服の販売

買い手企業の概要

ジェイドグループ:靴とファッションのECサイト(ロコンド)などを運営

M&Aの実行目的

買い手企業:品揃えの拡充やユーザー基盤の拡大といったシナジー効果の創出、ファッションEC市場における「圧倒的な2位」という中期ビジョンの実現

M&Aの成約に関する詳細

実行時期 2024年3月[14]
M&A手法 株式譲渡
結果 マガシーク株主がジェイドグループに対して株式の78%を売却
売却金額 33億2,600万円

 

TWOSTONE&Sonsに対するMapleSystemsの売却

売り手企業の概要

MapleSystems:エンジニアのマッチングサービス

買い手企業の概要

TWOSTONE&Sons:ITエンジニアの人材不足を解決するソリューション提供

M&Aの実行目的

買い手企業・売り手企業:ITエンジニアデータベースや顧客基盤を相互活用することで、クロスセルを実現すること、エンジニア人材業界におけるシェア拡大

M&Aの成約に関する詳細

実行時期 2024年2月[15]
M&A手法 株式譲渡
結果 MapleSystems株主がTWOSTONE&Sonsに対して全株式を売却
売却金額 3億5,000万円

[14] マガシーク株式会社の株式取得(ジェイドグループ)

[15] MapleSystemsの株式の取得(TWOSTONE&Sons)

 

IT会社・事業の売却価格

IT会社・事業の売却価格に関して、相場や影響する要素、株価評価の方法を解説します。

 

売却価格の相場

IT企業における売却価格の相場は、2種類の方法で考えることができます。

 

年倍法

1つ目は、一般的な中小企業M&Aと同様に年倍法を用いる方法です。年倍法では、「時価純資産+営業利益×2〜5年分」という計算式で相場を算出します。時価純資産が4,000万円、営業利益が3,000万円の場合、IT企業の売却価格相場は以下のとおり計算されます。

 

  • 売却価格の相場 = 4,000万円 + 3,000万円 × 2〜5 = 1億円〜1億9,000万円

 

エンジニアの人数×単価

2つ目の方法は、エンジニアの人数と単価をベースにする方法です。この方法では、「エンジニアの人数 × エンジニアの単価」の計算結果を相場と見なします。エンジニアの人数が20人、単価が800万円の場合、IT企業の売却価格相場は以下のとおり計算されます。

 

  • 売却価格の相場 = 20人 × 800万円 = 1億6,000万円

 

上記2つの方法ともに、簡単に相場を見積もれる点に強みがあります。ただし、ファイナンス理論に基づいていない点や、売り手企業の強みなどを考慮しきれない点など、デメリットもあります。そのため、あくまで参考データとして考える必要があります。

 

売却価格に影響する要素

実際のM&Aでは、買い手企業との交渉により、最終的なIT会社・事業の売却価格が決定されます。交渉に際しては、ファイナンス理論に基づいて算出した企業価値(≒株式価値)や、その他様々な要素が考慮されます。

 

IT会社・事業の売却では、企業価値の他に、主に以下の要素も売却価格の決定に影響をおよぼします。

 

  • エンジニアの人数・スキル
  • 取引先の数・希少性
  • 技術力の高さや競争優位性
  • 事業内容、ポジショニング
  • 事業や市場の成長性
  • 買い手企業との間で想定されるシナジー効果

売却価格の基準となる の方法

企業価値評価(バリュエーション)の方法は、インカムアプローチ、コストアプローチ、マーケットアプローチの3種類に大別され、各アプローチの中で複数の手法があります。また、アプローチによって算出基準やメリット、デメリットに違いがあります。

インカムアプローチ

売り手企業の将来的な収益性を基準に、企業価値を算定するアプローチです。DCF法や配当還元法が主な手法であり、将来的な収益力や評価対象企業に特有の強み(エンジニアのスキルなど)を加味できる点がメリットです。ただし、評価者や事業計画書にある主観や恣意に影響されやすい点がデメリットとなります。

 

コストアプローチ

売り手企業における過去の蓄積(純資産)を基準にするアプローチです。時価純資産法や簿価純資産法が主な手法であり、客観性の高いバリュエーションを行える点がメリットです。ただし、特有の強みや市況、将来的な収益力を加味できない点に注意が必要です。

 

マーケットアプローチ

市場や類似する項目(取引や業種、企業など)を基準とするアプローチです。類似会社比較法や類似取引比較法などの手法があり、客観的に納得できるバリュエーション結果となる点がメリットです。ただし、特有の強みを反映できないことや、活用に適さないケースがある(類似会社が見つからないなど)点がデメリットとなります。

 

売り手・買い手企業双方の希望や意向、状況に基づいて、適しているアプローチ・手法を選択することが重要です。また、状況次第では複数の手法を併用することも求められます。

 

IT会社・事業を高値で売却するポイント

IT会社・事業を高値で売却するには、以下5つのポイントを押さえることが重要です。

 

優秀なエンジニアの確保・育成を図る

買い手企業にとって、優秀なエンジニアの存在は収益の源となる重要な経営資源です。高いスキルを有するエンジニアを確保・育成することで、中長期的な企業価値の向上を実現しやすくなります。そのため、買い手から魅力的な投資対象とみなされやすくなります。

 

希少性や優位性の高い強みを確立する

事業の成長にかかる時間の短縮を目的として、IT会社を買収するケースも少なくありません。希少性や競争優位性の高い強み(最新の技術領域に関するノウハウ・知見など)は、獲得までに時間を要することが一般的です。こうした強みを確立し、買い手企業に価値を認めてもらえれば、高値での売却可能性は高まります。

 

財務や法律上のマイナス要素を解消しておく

簿外・偶発債務などの財務上のリスクや、訴訟や違法残業といった法律上の問題点などがあると、買収金額を減額されてしまうリスクが高まります。高値で売却するには、こうした財務や法律上のマイナス要素を事前に解消した上で、IT会社・事業のM&Aを行うことが重要です。

 

高値で売却できるタイミングを選択する

買い手企業にとっては、現状の良し悪しよりも「買収後、計画通りかそれ以上の売上・利益を得られるか」の方が重要です。そのため、市場や売り手企業の業績が成長しているタイミングを選ぶことで、M&A後の将来性が高いと判断され、高値で売却できる可能性が高まります。

 

IT事業の売却に強い専門家を起用する

シナジー効果が期待できる買い手探しや、売り手企業が有する強みやエンジニアの価値を理解した上で価値評価することが、高値で売却する上で重要です。そのためには、IT事業の売却に関する実績や知見が豊富な専門家の起用がおすすめです。

 

IT会社・事業を売却する6つのメリット

最後に、IT会社・事業を売却する6つのメリットを解説します。

大手IT企業の傘下入りを果たせる

大手企業の傘下に入ると、その企業が保有する経営資源(知名度やブランド力、ネットワーク、資金力など)を活用しながら事業を運営できるようになります。これにより、自力で事業展開する場合と比べて、収益(受注)の安定化や採用力の強化、成長性の向上といった効果が見込めます。

 

売却利益を得られる

会社や事業の売却益を獲得できます。獲得した資金を投下することで、主力事業や新規事業の成長を加速させやすくなります。また、経営からリタイアし、経済的に余裕がある生活を送ることも可能です。

一部の事業のみを売却することで、人材や時間といったリソースに余裕ができます。それにより、本来やりたかったことに集中することが可能です。たとえば、システム受託のビジネスを売却することで、利益率や自由度の高い自社プロダクトの開発に注力できるようになります。

 

不採算事業を切り離し、業績改善を図れる

不採算のIT事業を売却することで、不採算事業で出ていた赤字の解消により、会社全体の業績改善につながります。また、不採算事業に費やしていたリソースを利益率や成長性の高い事業に投下することで、継続的な業績アップも期待できます。

 

従業員の雇用維持、待遇の向上を図れる

IT企業の売却により、後継者不在や経営不振を理由に廃業する事態を回避できます。それにより、買い手企業の下で従業員の雇用が維持されます。また、売却先が安定した経営基盤を持つ企業であれば、従業員の待遇向上やキャリアアップにもつながります。

 

事業承継を実現できる

第三者への会社売却・事業売却を図ると、買い手企業に経営権を移動できます。そのため、親族や社内に後継者の候補がいない企業でも、実質的に事業承継を実現し、会社を存続させることが可能です。

 

IT会社・事業の売却に関するまとめ

IT会社を売却すると、大手グループへの傘下入りにより、売上の安定化や事業の成長性向上といったメリットを得られます。また、売却利益の獲得といったメリットもあります。IT企業の売却を成功させたい経営者様は、ぜひ弊社にご相談ください。

 

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