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初歩からわかるモバイルアプリ・コンテンツ業界M&A
近年、モバイルアプリ・コンテンツ業界のM&Aが増えています。ここでは、モバイルアプリ・コンテンツ業界の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価(株価算定)で使う数値(マルチプルなど)について説明します。これらから、モバイルアプリ・コンテンツ業界においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみましょう。
I M&Aの多いモバイルアプリ・コンテンツ業界
モバイルアプリ・コンテンツ業界の全体像を理解するために、市場動向や経営環境、ビジネスモデル、M&A可能性のある競合他社を説明します。
【1】 モバイルアプリ・コンテンツ業界の動向・市場環境
モバイルアプリ開発業は、ゲームやニュースなどスマートフォン(スマホ)にダウンロードおよびインストールするソフトウェアを開発する事業者のことをいいます。アプリとは「アプリケーション」の略称です。
一方、モバイルコンテンツ開発業は、スマホ向け情報発信として、コンテンツ、物販などのサービスを提供する事業者のことをいいます。
スマホの成長が著しく、モバイルアプリ・コンテンツの市場が著しく成長しています。その牽引役がEコマースです。パソコンだけでなくスマホで物品を購入する行為が定着してきました。
提供するサービスの種類としては、ゲーム、動画、電子書籍、音楽などがありますが、ゲームの需要が全体の6割を占めています。
一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム「モバイルコンテンツ関連市場規模(2017年)」によれば、モバイルアプリおよびコンテンツの市場規模は、2014年の1兆4,500億円から2017年の2兆1,100億円へ倍増しています。加えて、電通総研「情報メディア白書2018」によれば、Eコマース市場規模は、2011年の1兆1千億円から2016年の3兆4千億円へと拡大を続けています。
【2】 モバイルアプリ・コンテンツ業界のビジネスモデル
モバイルアプリのビジネスモデルは、モバイル向けアプリを開発し、iOSのApp Store、Android OSのGoogle Playといったダウンロード・サービスを通じて、スマホのユーザーに販売するというものです。
アプリ開発は比較的容易であるため、零細事業者から大手ゲームソフトメーカーまで多数の事業者が新規参入しています。
【3】 モバイルアプリ・コンテンツ業界M&Aで買い手候補となる企業
モバイルアプリ・コンテンツ業の事業承継を目的としたM&Aであっても、買い手候補は上場企業や大企業が中心になると考えられます。この業界では、以下のような上場企業が中心となって業界再編を進めていくことが想定されます。
ミクシィ、サイバーエージェント、ディー・エヌ・エー、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、グリー、LINE、コロプラ、エムティーアイ、アイフリークモバイル、Jストリーム、フェイス、モバイルファクトリー、Amazia、GMOインターネット、アクロディア、ビットワングループ、ドリコム、ユークス、アカツキです。
II モバイルアプリ・コンテンツ業界M&Aで売却する売り手のメリット
安定している大手企業にM&Aでモバイルアプリ・コンテンツ業を承継することで、従業員の雇用を維持し、事業のさらなる成長を実現することができます。また、そのアプリやコンテンツを利用するユーザーは、お気に入りのアプリやコンテンツを継続して利用することもできることに加え、下請け開発業者などの仕入先との関係を継続することができます。
また、小規模事業者が単独では難しかったIT投資によるデジタル化の推進よって、モバイルアプリ・コンテンツ業の経営効率化を実現することができます。結果として生産性が向上すれば、従業員の給与水準をアップさせることができるでしょう。
さらに、買い手企業が大企業であれば、人材採用コスト、教育コスト、広告宣伝費、本社経費を削減し、M&Aによるシナジー効果を得ることができます。
以上のようなシナジー効果が期待され、買い手候補にとって魅力的な事業であれば、売り手側の経営者は、高い売却価格を実現することができ、引退した後のライフプランを充実したものとすることができます。
III モバイルアプリ・コンテンツ業界M&Aで買収する買い手の注意点
モバイルアプリ・コンテンツ業界で買収を行う際、デュー・ディリジェンスにて調査すべき経営資源や注意点を説明します。
【1】 モバイルアプリ・コンテンツ業の買収デュー・ディリジェンスにおける注意点
モバイルアプリ・コンテンツ業の価値は、人材に依存するという特徴があります。開発スタッフの技術と能力が基本となる経営資源ですから、従業員との面接を行い、開発人材の保有するスキル・技術と能力を評価するとともに、組織としての開発プロセスやナレッジ・マネジメント、関連企業とのネットワークを確認しなければいけません。
また、大ヒットしたアプリやコンテンツであっても、ライフサイクルが短く、そのブームは数年で去ってしまいます。それゆえ、ユーザーを飽きさせないように、次のアプリやコンテンツを開発し続ける不断の投資が必要となります。新商品の開発に十分な投資を行っているか、確かめる必要があるでしょう。
【2】 モバイルアプリ・コンテンツ業の買収で承継すべき経営資源
モバイルアプリ・コンテンツ業で最も重要な経営資源は、人気あるアプリ
やコンテンツを開発できる技術と能力です。いかに差別化されて独創性のあるアプリやコンテンツを企画し開発できるか、人的資源が重要な経営資源となります。
従業員は、M&Aと同時に退職が発生することが多いため、モバイルアプリ・コンテンツ業のM&Aを行う場合は、従業員の引継ぎに時間と労力をかけるなど、人的資源の承継を丁寧に行うことが重要でしょう。
【3】 モバイルアプリ・コンテンツ業を買収するときの企業価値評価(株価算定)
モバイルアプリ・コンテンツ業のM&Aにおける企業価値評価(株価算定)を行う際に活用することができる数値は、以下の通りとなっています。
まず、TKC経営指標(2018年度)によれば、アプリケーション・サービス・プロバイダーの収益性について、売上高成長率は約▲38.7%です。また、粗利率は62.0%、営業利益率は0.1%となっています。生産性について、1人当たり売上高は1,484万円、1人当たり人件費は522万円となっています。
また、ゲームソフト開発業の収益性について、売上高成長率は約▲10.6%です。また、粗利率は53.3%、営業利益率は5.8%となっています。生産性について、1人当たり売上高は1,247万円、1人当たり人件費は439万円となっています。
次に、2020年8月現在の開示情報および市場株価によれば、モバイルアプリ・コンテンツ業のマルチプル(倍率)について、PBR倍率は2~4倍、PER倍率は20~50倍、EBITDA/企業価値倍率は15~30倍となっています。
さらに、筆者が推計する株主資本コストは、安定した老舗企業であれば6%、急成長の新興企業であれば14%が妥当であると考えます。これは、この類似上場企業のROICが15~20%であることを考慮しつつ、類似上場企業のベータ値が0.8~1.0であること、ヒストリカル・マーケット・リスク・プレミアム(1950年代~2020年)が7%~9%であることを前提にして、小規模リスク・プレミアムを加算して推計しています。
なお、類似上場企業比較法で採用すべき上場企業として、ミクシィ(2121)、ディー・エヌ・エー(2432)、ガンホー・オンライン・エンターテイメント(3765)、グリー(3632)、コロプラ(3668)、エムティーアイ(9438)、アイフリークモバイル(3845)、フェイス(4295)、モバイルファクトリー(3912)、Amazia(4424)、GMOインターネット(9449)、アクロディア(3823)、ビットワングループ(2338)、ドリコム(3793)、ユークス(4334)、アカツキ(3932)が挙げられます。
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