今回の新型コロナウイルス感染症の影響で、多くの会社や店舗の経営がひっ迫し、倒産の危機に瀕しています。
倒産件数も、裁判所などへの破産手続きの申立だけでなく、破産手続きによらない自主廃業も含めると、2万5千件にも及ぶとみられています(帝国データバンク調べ)。
記憶に新しいところでは、150年の歴史に幕を閉じた歌舞伎座前の弁当店「木挽町辨松」があります。
辨松では、後継者難から M&Aによる事業承継を進めていたそうですが、コロナによりそれが白紙になってしまい、結局自主廃業を決めたそうです。
多くの経営者にとって、今回のコロナによる急激な景気の悪化は、今まで経験したことのないものです。
そのため、何をしたら良いかもわからないまま、短期間のうちに破産や自主廃業といった、苦渋の決断をせざるを得ない状況に陥っているのです。
こうした破産や自主廃業によって、会社や店舗は消滅し、従業員の雇用も失われ、取引先の連鎖倒産なども起こりますから、その経済的・社会的な損失は大変なものです。
なんとしても回避しなければなりません。
当面行うべきことは、公的融資、国や自治体などの補助金・助成金、給付金など、利用できるものは可能な限り使い、手元の現金を少しでも多く確保しておくことです。
それとともに、コロナ終息後の会社や事業の立て直しのための準備をしておくことです。
早期に事業再生計画を立て、具体的なスキーム(手法)などについて検討しておく必要があります。
ここでは、近年、事業承継や経営戦略上の有効手段として注目されている M&Aを活用した、コロナ終息後の会社や事業の再生について見ていきたいと思います。

アフターコロナにおける再生型M&Aとその有効活用
現在、多くの経営者が会社の解散、店舗の閉店か、あるいは再生手続きによりその維持・存続を図っていくか、ギリギリの選択を迫られています。
M&Aを活用した再生手続き
事業や企業の再生方法には、取引先金融機関からの追加融資やリスケジュール (リスケ)をはじめいろいろなものがあります。
その一つにM&Aを活用した再生手続きがあります。
このM&Aを活用した再生手続きとは、M&Aのスキームを使って、企業や事業の再生を図っていく手続きで、「再生型M&A」などと呼ばれます。
M&Aには「合併」、「会社分割」、「株式交換・株式移転」、「株式譲渡」、「事業譲渡」、「新株引受」など、多くのスキームがあり、各企業が自社の目的に合わせて使い分けています。
これらのスキームの中で、再生型M&Aでよく利用されるものが「事業譲渡」や「会社分割」です。その理由としては、「簿外債務」を引き継いでしまうリスクがない、あるいはほとんどないからです。
これに対して、「合併」や「株式譲渡」などでは、全ての債権・債務を引き継いでしまうため、簿外債務のリスクが高くなってしまいます。
この簿外債務は、貸借対照表などには表れない債務で、「未払い残業代」、「追徴課税」、「損害倍賞金」などがあります。
再生型M&Aにおける簿外債務の有無は非常に重要なことです。特にスポンサーでもある買手企業にとって簿外債務というのは、M&A後の事業統合(PMI)を進めていく上で大きな足かせとなってしまうからです。
また、再生型M&Aでは、再生対象企業が粉飾決算などを行っていることも少なくないので、その分、スポンサー企業が簿外債務を引き継いでしまうリスクは高い傾向にあります。
そのため、法務、財務・税務、人事など様々な面からのデューデリジェンス (DD)を行い簿外債務の有無をチェックする必要があります。
以下の表では、代表的な再生手法ごとの概要・メリット・デメリット・公開性を整理していますので、自社の状況に合った選択肢を検討する際の参考にしてください。
| 再生手法 |
概要 |
メリット |
デメリット |
公開性 |
| 私的整理 |
裁判所を介さず債権者と交渉 |
非公開・迅速・コスト低 |
簿外債務リスクあり・全債権者同意が難しい |
非公開 |
| 法的整理(民事再生・破産等) |
裁判所の手続きで債務整理 |
簿外債務排除・強制力あり |
公開されるためイメージ低下・スポンサー確保困難 |
公開 |
| プレパッケージ型M&A |
私的整理でスポンサーを確保後、法的申請で簿外債務排除 |
簿外債務回避・イメージ低下を最小化・事業価値保全 |
準備に時間・専門家費用が必要 |
限定的公開 |
| 通常の再生型M&A(事業譲渡・会社分割) |
M&Aスキームで優良事業を切り出しスポンサーへ譲渡 |
雇用・取引先の継続が可能・迅速な再出発 |
譲渡対価が低くなる場合あり |
非公開 |
各手法にはそれぞれ一長一短があるため、自社の財務状況や事業の緊急性、対外的なイメージへの影響などを総合的に勘案したうえで、最適な再生スキームを選択することが重要です。

プレパッケージ型による再生でリスクを軽減
事業再生・企業再生には、裁判所が関与しない「私的整理」と、裁判所の手続きによる「法的整理」があります。
厳格な債権の届出、調査、確定手続きを経ていない「私的整理」の場合もリスクは高まります。
一方で裁判所が関与する「法的整理」では、確かに簿外債務のリスクはないのですが、裁判所による手続きということで公になってしまい、倒産とか破産などネガティブなイメージが先行することになります。
そのため企業イメージや事業価値の低下からスポンサー企業が見つからないリスクがあります。
そこで近年、双方の折衷策として「プレパッケージ型」の事業再生・企業再生という手法が採用されるようになってきました。
プレパッケージ型による再生とは、まず、私的整理によりスポンサー企業を募集し、ある程度決まったところで、法的申請により簿外債務を排除します。
その上で、事業譲渡、会社分割などのM&Aスキームを利用し、事業の選択と集中を行いながら、その再生を図っていくというものです。
このように簿外債務、企業イメージや事業価値の低下リスクをクリアする、プレパッケージ型の再生は、今後も普及していくことが見込まれます。
コロナによる影響にかかわらず、倒産リスクを抱えていた会社や店舗は別として、今まで健全な経営をしていた会社・店舗の経営者の方は、なんとしてもその存続を考えるべきです。
公的融資、補助金・助成金、銀行などからの融資、できなければリスケによる返済猶予、ファンドの活用などにより、可能な限り手元キャッシュフローを確保すること、そして、経営コンサルタントなど外部からの専門家による支援を受けながら、再生計画を立てて実行することです。
仮に単独で再生できなくても、ここで解説した再生型M&Aという手法により、外部の第三者にスポンサーになってもらい、その支援のもとで、再生を図っていくという手法もあります。
コロナは下火になっても、この経済的な混乱はしばらく続くことは容易に予想されます。
それに向かっていくためには、安易に廃業せず危機をチャンスと捉え、このような再生型M&Aをはじめ、様々な選択肢があるということを頭に入れ、十分な準備をしておく必要があるのではないでしょうか。
