目次
【会社終活】準則型私的整理とは(後編)
(4) 2次対応簡易型(出所:東京都中小企業再生支援協議会)
平成24年4月に内閣府・金融庁・中小企業庁から発表された「政策パッケージ」に基づき、2次対応の「(外部専門家による)財務面および事業面の調査分析(デューデリジェンス)は、必要不可欠な場合に限り実施」することとなりました。
これにより、「迅速かつ簡易な方法」(2次対応・簡易型)により、時間とコストを最小限に抑えながら、再生計画の策定支援を進めていくことも可能になりました。
簡易型の特徴は、中小企業と主要金融機関が主体となって事業計画を作成し、協議会が金融機関調整をおこないます。
※なお、これは飽くまで一例であり、各企業の事業・財務状況や金融機関との取引状況等によっては、簡易型の支援スキームが困難な場合もあります。
新たな再生計画策定支援スキーム(2次対応・簡易型)
2~3か月
(5) 再生計画の策定手順
ⅰ.財務DD(公認会計士・税理士等)・事業DD(中小企業診断士等)の実施
ⅱ.事業計画の策定支援(策定主体は企業)
ⅲ.再生計画案についての協議・検討、主要債権者の合意形成
ⅳ.一時停止の通知の判断(債権放棄等の金融支援)
一時停止の通知を発するのが相当であると判断したときは、第一回債権者会議の招集通知を兼ねて書面により発します。
一時停止の通知を発しないときは、返済猶予の要請等が行われます。
ⅴ.第一回債権者会議(再生計画案の説明・質疑応答)
ⅵ.再生計画検討委員会の設置と委員による確認
ⅶ.第二回債権者会議(再生計画検討委員会による調査結果の報告・質疑応答)
ⅷ.再生計画の成立
同意期限までに対象債権者全員の同意が得られないときは、本手続による私的整理は終了し、債務者は法的手続など適切な措置を講じます。
ⅸ.再生計画策定支援が完了した案件のモニタリング(概ね3年間)
※中小企業再生支援協議会の再生計画検討委員会
第1回債権者会議における再生計画検討委員会の設置の要請に基づき、協議会の会長は、全国本部に対し再生計画検討委員会の設置を要請し、全国本部は、その下部組織として再生計画検討委員会を設置する。
再生計画検討委員会は、全国本部が委嘱する3名以上の委員をもって構成する。ただし、相談企業の借入金その他債務で利子の支払の基因となるものの額が10億円に満たない場合には、2名以上の委員をもって構成する。
(6) 債権カット等を受ける際の数値基準
私的整理に関するガイドラインでは、再建計画の内容として、再建計画成立後最初に到来する事業年度開始の日から3年以内を目処に実質的な債務超過を解消する内容を求められています。
しかし協議会スキームでは、再生計画の内容として、再生計画成立後最初に到来する事業年度開始の日から5年以内を目処に実質的な債務超過を解消する内容が求められています(本基本要領6.(5)②)。
また、協議会スキームでは、再生計画の内容として、再生計画の終了年度(原則として実質的な債務超過を解消する年度)における有利子負債の対キャッシュフロー比率が概ね10倍以下となる内容が求められていますが(本基本要領6.(5)④)、この基準は私的整理に関するガイドラインには規定されていません。
なお、協議会スキームでは、債権放棄等を要請する内容を含まない再生計画の場合には、上記の実質的債務超過解消年数や有利子負債の対キャッシュフロー比率の基準を満たさない再生計画の策定が許容されています(本基本要領6.(5)⑨)。
3. 地域経済活性化支援機構(REVIC)
地域経済活性化支援機構は、Regional Economy Vitalization Corporation of Japanの頭文字をとりREVICと言います。
株式会社企業再生支援機構法に基づき、中堅事業者、中小企業者その他の事業者の再生を支援することを目的に平成21年10月に設立されました。平成25年3月に企業再生支援機構から地域経済活性化支援機構に改組しています。
主な機能(出所:内閣府)
(2) 中小企業再生支援協議会との使い分け
案件が高度化した場合、地域経済活性化支援機構(REVIC)が相応しい場合があります。
高度化とは、
事業の毀損度合いが激しい場合
海外子会社等の調査が必要な場合
運転資金が枯渇している場合
取引金融機関が多くの県にまたがる場合などです。
また、債権者間の利害調整の円滑化のみならず、出資によるリスクマネーの投入やプロフェッショナル人材を派遣することにより、中小企業再生支援協議会に比べて幅広い再生手法がとれます。
(3) 再生支援決定基準
ⅰ.有用な経営資源を有していること。
ⅱ.過大な債務を負っていること。
ⅲ.例えば、主要債権者との連名による申込みであること等、申込みに当たり事業再生の見込みがあると認められること。
ⅳ.再生支援決定から5年以内に「生産性向上基準」(注1)及び「財務健全化基準」(注2)を満たすこと。
ⅴ.機構が債権買取り、資金の貸付け、債務の保証又は出資を行う場合、支援決定から5年以内に申込事業者に係る債権又は株式等の処分が可能となる蓋然性が高いと見込まれること。
ⅵ.機構が出資を行う場合、必要不可欠性、出資比率に応じたガバナンスの発揮、スポンサー等の協調投資等の見込み、回収の見込み等を満たすこと。
ⅶ.労働組合等と話し合いを行うこと。
(注1)「生産性向上基準」: 以下のいずれかを満たすことが必要。
・ 自己資本当期純利益率が2%ポイント以上向上
・ 有形固定資産回転率が5%以上向上
・ 従業員1人当たり付加価値額が6%以上向上
・ 上記に相当する生産性の向上を示す他の指標の改善
(注2)「財務健全化基準」: 以下のいずれも満たすことが必要。
・ 有利子負債(資本性借入金がある場合は当該借入金を控除)のキャッシュフローに対する比率が10倍以内
(キャッシュフロー=留保利益+減価償却費+引当金増減)
・ 経常収入が経常支出を上回ること
(4) 地域経済活性化支援機構のメリット
□ 公的・中立的な第三者で、当事者だけでは難航しがちな債権者間の利害調整等に対応します。
□ 金融機関等が有する貸出債権の買取りや事業者に対する出資・融資による資金提供を行うことができます。
□ 全国から金融や事業再生、法務、会計等のプロフェッショナルが集結しており、案件に応じて、事業者に最適な人材を派遣して、事業再生に関する助言・指導等の支援を行うことができます。
□ 再生支援決定を受けて債務免除が行われた事業者は、評価損の損金算入及び期限切れ欠損金の優先控除が認められるので、債務免除益への課税を回避することができます。
また、金融機関等は、債権放棄した金額を貸倒損失として損金の額に算入することができます。
□ 金融庁の監督指針において、REVICが策定支援する事業再生計画が、「実現可能性の高い抜本的な経営再建計画」と認められる場合は、当該事業再生計画に基づく貸出金は「貸出条件緩和債権」に該当しないものと判断して差し支えないとされているため、債務者区分の改善が期待できます。
(5) 地域経済活性化支援機構のデメリット
□ 東京・仙台・大阪・広島・福岡・熊本にしか拠点がなく、アクセスがよくありません。
□ 再生支援決定・特定支援決定の期限は、令和3(2021)年3月末です。
□ 存続期限は、令和8(2026)年3月です。
(6) 手続きの流れ
ⅰ.事前相談、プレデューデリジェンス
ⅱ.資産等の査定、事業再生計画の策定、事業者・メイン行との協議
ⅲ.正式な支援の申込み
ⅳ.再生支援決定基準に基づき再生支援の可否の決定
ⅴ.買取申込み等の求め、回収等停止要請、債権者説明会等
再生支援の決定を行ったときは、直ちに関係金融機関等に対して、債権を機構に売却するか等の回答を求める旨の通知をします。
同時に、機構は関係金融機関等の対象事業者に対する債権回収等により、その再生が困難になると判断した場合には、関係金融機関等に対して回収等停止要請を行います。
ⅵ.買取決定等
債権買取り等の申込期限が満了するまでに買取申込み等が得られず、再生支援に必要な同意が不十分と判断した場合には、すみやかに再生支援決定を撤回します。
また、機構は買取決定を行った後に事業再生計画に基づく出資を行うことができます。
ⅶ.モニタリング
ⅷ.債権等の処分
再生支援対象事業者に係る債権または株式等を支援決定後5年以内に譲渡等により処分を行うように努めます。
4. 整理回収機構(RCC)
平成11年4月、株式会社住宅金融債権管理機構と株式会社整理回収銀行が合併して発足しました。
TheResolution and Collection Corporationの頭文字をとって、略称としてRCCと言います。
整理回収機構自身が金融機関から買い取った債権や民間サービサーとして委託を受けた債権についての管理回収を行うほか、平成13年11月からは整理回収機構が主たる債権者である場合(RCC企業再生スキームⅠ)または金融機関から金融債権間の調整を委託された場合(RCC企業再生スキームⅡ)で、一定の基準を満たした案件に対する企業再生業務を行っています。
(1) RCC企業再生スキームⅠ
RCC企業再生スキームⅠとは、RCCが預金保険機構の委託等により買い取った債権について、自らが主要債権者として債務処理を行うものです。
① 対象となる私的再生
RCCが主要債権者であり、かつ債務者が再生可能であるもの。
債権者にとって経済合理性が認められるもの。
債務者自身の再生への意欲、自助努力が前提であり、経営者責任及び株主責任が明確化されるもの。
② 対象債務者となり得る企業
過剰債務を主因として事業の継続が困難な状況に陥っており、自力による再生が困難であると認められること。
弁済について誠実であり、財産状況を債権者に適正に開示していること。
債務者の再生の対象となる事業自体に市場での継続価値があること。
債務者の事業再生を行うことが、債権者としての経済合理性に合致していること。
(2) RCC企業再生スキームⅡ
RCC企業再生スキームⅡとは、主要債権者である金融機関等から再生計画の検証、金融債権者等間の合意形成のための調整等を委託されて調整業務等を行うものです。
この場合の債務処理は、RCCが自ら取り進める債務処理と同一の基準を一部技術的に必要な読替え等をしたうえで適用しています。
5. 私的整理ガイドライン
私的整理ガイドラインとは、法的整理によらず私的整理により債権放棄などの金融支援を行う場合の手続規定です。
また、法的拘束力・強制力のない紳士協定ですが、私的整理の共通基準を示すものであり、その後設立された公的再生支援機関の手続規定のベースになっています。
金融機関にとっては、債権放棄の伴う再生計画においては、どれだけ回収できるか合理的な説明が必要であり、「経済合理性」という言葉が頻繁に登場します。
金融機関の目線になって覚えておくべきことは、「私的整理>法的整理>破産」の順に回収額が減っていきます。
(1) 再建計画の内容
私的整理成立後の次の会計年度を含む3会計年度以内に、実質債務超過を解消して黒字化すること。
支配株主の株主権を消滅させ、減増資などにより既存株式を希薄化すること。
経営者は退任すること。
債権者の負担割合は衡平を重んじること。
法的手続きによる事業整理よりも負担が少なく、回収が確実であるなどの有権者にとって利益があること。
(2) 私的整理ガイドラインのメリット
□ 手続の透明性・公平性を確保でき、債権者は再建計画の「経済合理性」が担保されます。
□ 金融支援の「経済合理性」を説明しやすくなります。
□ 債権者は債権放棄損を損金算入できます。
□ 債務者は期限切れ欠損金を損金算入することができ債務免除益との相殺が可能です。
(3) 私的整理ガイドラインのデメリット
□ 手続開始からその後の手続き進行をメインバンクが主体的に関与して進めるため、メイン行の負担が大きく、金融支援の内容がメイン寄せになりやすいです。
□ 中小企業の利用実績が少ないです。
□ 経営責任を明確にし、株主は最大限の責任を果たすことになります。
(4) 手続きの流れ
ⅰ.私的整理ガイドラインによる私的整理の申し出
ⅱ.再建計画案などの資料の提出
ⅲ.主要債権者による資料の精査、主要債権者全員の合意
ⅳ.主要債権者と債務者の連名で対象債権者全員に対して一時停止の通知
ⅴ.一時停止の通知を発した日から2週間以内に第1回債権者会議を連名で招集
ⅵ.第1回債権者会議の開催
ⅶ.主要債権者は、再建計画案の相当性と実行可能性などについて調査結果を報告
ⅷ.第2回債権者会議の開催
ⅸ.対象債権者全員が再建計画案に同意する旨の書面の提出で再建計画は成立
Ⅹ.期限までに、対象債権者全員の同意が得られないとき、私的整理は終了
6. 特定調停手続
特定調停手続は、日本弁護士連合会(日弁連)が定めた制度で、中小企業金融円滑化法の終了に伴う対応策のひとつとして、経営不振に陥っている中小企業の事業再生を目的に策定されました。
代理人は認定を受けた弁護士に限ります。
調停期日前に、金融機関との話し合いで合意を取り付けておくことが重要です。そして、債務者が借入金などの処理について裁判所に特定調停の申立を行って、調停委員会に当事者間の利害関係を調整してもらう特別な調停手続きです。
(1) 対象者となる債務者
特定調停手続の対象となる債務者の事業規模は、概ね年商20億円以下、負債総額10億円以下の企業で、比較的小規模の企業を想定しています。
大手企業の場合は、事業再生ADRなどの手続きとなります。
(2) 特定調停手続のメリット
□ 金融機関だけを調停の相手として手続きを進めるため、会社の信用を守れます。
□ 調停委員会が仲裁に入るので、債権者の合意を得やすいです。
□ 比較的手続き費用が安価です。
□ 手続き期間が約3~4ヵ月と短いです。
□ 債務者は期限切れ繰越欠損金も損金算入して債務免除益に充当できます。
□ 民事調停法17条決定を利用できます。
(3) 特定調停手続のデメリット
□ 当事者間の合意が得られなければ、特定調停で処理することは困難です。
□ 税金や社会保険料は特定調停の対象となりません。
□ 債務者の事業に収益性・将来性があるなど、事業価値がなければなりません。
□ 特定調停を申立てる前に、専門家と事業再生計画を作成しなければなりません。
(4) 特定調停スキームの流れ(出所:日本弁護士連合会HP)
特定調停スキームの流れ(出所:日本弁護士連合会HP)
ⅰ.事業再生に精通した弁護士に特定調停手続を依頼します。
ⅱ.弁護士・公認会計士・税理士・中小企業診断士等と協力して再生計画を立てます。
ⅲ.申立て前に金融機関と事前交渉を行います。
ⅳ.簡易裁判所に特定調停を申し立てます。
ⅴ.第一回調停(調停委員との面談)
ⅵ.第二回調停(金融機関との交渉)
ⅶ.調停成立
(5) 民事調停法17条
(調停に代わる決定)
第十七条裁判所は、調停委員会の調停が成立する見込みがない場合において相当であると認めるときは、当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のために必要な決定をすることができる。
この決定においては、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命ずることができる。
これは、裁判所により一定の調停条項を導き出し、判決と和解の中間のような位置づけであり、これに法的な拘束力を持たせます。
債務者が提示した条件に賛成はできないが、反対まではしないという債権者がいる場合に有効です。
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