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2021年、どうなる?人材派遣業界のM&A

執筆

村上 章

村上 章

事業承継コンサルティング株式会社 中小企業診断士 村上 章 【Web】https://jigyohikitsugi.com/ 事業承継コンサルティング株式会社は、中小企業診断士・公認会計士が事業承継・M&Aを支援する経営コンサルティング会社である。日本を代表する大企業からのご依頼を受け、サプライチェーンにある取引先(販売店・代理店)の事業承継・M&Aを支援しております。 M&Aで事業を売却されたお客様の資産運用(金融商品仲介)や相続税対策(宅地建物取引)まで直接サポートいたするので、引退後に必要となるサービスをワンストップで提供させていただきます。 また、毎月1回、事業承継支援者向けに「事業承継支援コンサルティング研究会」(https://jigyohikitsugi.com/kenkyu/)を開催しています。M&Aアドバイザーの方々に役立つ講義と事例研究を提供しておりますので、ぜひご参加ください。 ...続きを読む

監修

経営承継支援編集部

この記事は、株式会社経営承継支援の編集部が監修しました。M&Aに関してわかりやすく役に立つ記事を目指しています。

目次 [ ]

2021年、どうなる?人材派遣業界のM&A

近年、人材派遣業界のM&Aが増えています。ここでは、人材派遣業界の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価(株価算定)で使う数値(マルチプルなど)について説明します。これらから、人材派遣業界においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみましょう。

 

I     M&Aの多い人材派遣業界の現状

人材派遣業界の全体像を理解するために、市場動向や経営環境、ビジネスモデル、M&Aの買い手候補となる同業他社について説明します。

 

【1】 人材派遣業界の市場動向・経営環境

人材派遣業は、派遣するために雇用した労働者を派遣先の事業所からその業務の遂行に関する指揮命令を受けて、その事業所のための労働に従事させる事業をいいます。

この事業は、労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)に基づく許可制となっています。

厚生労働省の「労働者派遣事業の事業報告の集計結果」によると、人材派遣業の事業者数は、2013年の7万4千社をピークに、近年は減少が続いています

少子高齢化に伴う労働人口の減少によって企業の人材不足が深刻化しており、専門家人材を確保する手段となる人材派遣業へのニーズは増加しています。

しかし、人材派遣業者にとって登録する労働者を増やすことが難しく、派遣先ニーズに対応できない状況となっています。

市場規模について、全国の一般労働者派遣事業の売上高合計は5兆円前後、特定労働者派遣事業の売上高合計は1兆億円前後で伸び悩んでいます。実際に派遣された労働者数も減少しています。

今後は、人材派遣から正規雇用や社外アウトソースへ移行する企業が増えることが予想されることから、人材派遣業者の売上高は減少する可能性があります。

 

【2】 人材派遣業界のビジネスモデル

人材派遣業のビジネスモデルは、労働者に登録してもらい、事業所へ派遣するというものです。

労働者派遣における人材派遣業者、派遣先及び労働者の3者間の関係は、人材派遣業者と労働者との間に雇用関係があり、人材派遣業者と派遣先との間に労働者派遣契約が締結されます。

この契約に基づいて、派遣先は労働者を使用します。すなわち、派遣者にとって雇用関係にない企業から使用されることになります。この点において人材派遣業は、請負業者が労働者を使用することになる業務請負業と相違しています。

事業所から受け取る収益と、労働者へ支払う人件費の差額が粗利となりますが、平均的な粗利率は40%です。

そこから、社会保険料、諸経費を控除すると、一般労働者派遣業の平均的な営業利益率は2%~4%となっており、薄利多売のビジネスです。この業界で利益率を上げるには、事業規模の拡大が求められます。

今後は、同一労働同一賃金制度の導入によって、人材派遣サービスに対するニーズが減少する可能性があります。

 

【3】 人材派遣業界M&Aで買い手候補となる企業

人材派遣業の事業承継を目的としたM&Aであっても、買い手候補は上場企業や大企業が中心になると考えられます。この業界では、以下のような上場企業が中心となって業界再編を進めていくことが想定されます。

事務系を主体とする総合人材サービスであれば、リクルートホールディングス、パソナグループ、パーソルホールディングス、クリエアナブキ、ライク、CRGホールディングス、キャリアリンク、ヒューマンホールディングス、キャリアバンク、クイックです。

一方、製造業系であれば、アルプス技研、アウトソーシング、ワールドホールディングス、UTグループ、日総工産、夢真ビーネックスグループ、フルキャストホールディングス、フォーラムエンジニアリング、アルトナー、ウィルテック、nmsホールディングス、エスユーエス、ジェイテック、メディアファイブです。

さらに、販売系であれば、エスプール、ウィルグループ、ヒト・コミュニケーション・ホールディングスです。

 

II 人材派遣業界M&Aで売却する売り手のメリット

安定している大手企業にM&Aで人材派遣業を承継することで、従業員の雇用を維持し、事業のさらなる成長を実現することができます。

また、得意先である派遣先は、多様な派遣労働者を継続して契約することもできることに加え、労働者に対して幅広い派遣先の選択肢を提供することができます。

また、小規模事業者が単独では難しかったIT投資によるデジタル化の推進よって、人材派遣業の経営効率化を実現することができます。結果として生産性が向上すれば、従業員の給与水準をアップさせることができるでしょう。

さらに、買い手企業が大企業であれば、事業規模の拡大による生産性向上、登録労働者の増加によるコスト削減、人材採用コスト、広告宣伝費、本社経費を削減し、M&Aによるシナジー効果を得ることができます。

以上のような効果を得られ、買い手候補にとって魅力的な事業であれば、売り手側の経営者は、高い売却価格を実現することができます。

それによって、引退した後のライフプランを充実したものとすることができます。

Ⅲ 人材派遣業界M&Aで買収する買い手の注意点

人材派遣業界で買収を行う際、デュー・ディリジェンスにて調査すべき経営資源や注意点を説明します。

【1】 人材派遣業界の買収デュー・ディリジェンスにおける注意点

人材派遣業は、労働者の派遣契約、雇用契約において法令違反が生じやすいという特徴があります。社会保険への加入は当然のこと、未払残業代が無いか調査する必要があります。

人材派遣業の事業性を評価する場合の注意点として、登録する労働者の能力向上を行っているか確かめておく必要があります。教育・訓練制度の充実、各種研修・セミナーの設置が求められます。未経験者の能力向上プランも必要でしょう。

また、労働者のデータベースの充実や管理システムの高度化が重要です。個人情報の管理状況なども含めて、ITデュー・ディリジェンスが必要となるでしょう。

 

【2】 人材派遣業の買収で承継すべき経営資源

人材派遣業では、登録されている労働者が基本となる経営資源です。労働者が働くことによって人材派遣業の収益が創出されているため、労働者に契約を継続してもらえることが重要です。

また、営業担当者の能力も重要な経営資源となります。安定的に派遣先を確保し、多様な人材を提案できること、労働者の登録を促すことができることが求められます。

これらはいずれも人的資源ですが、事業承継によって喪失されることが多いため、人材派遣業のM&Aを行う場合は、登録者、営業担当者の引継ぎに時間と労力をかけることが必要です。人的資産の承継を丁寧に行うことが重要でしょう。

 

Ⅳ  人材派遣業を買収するときの企業価値評価(株価算定)

人材派遣業のM&Aにおける企業価値評価(株価算定)を行う際に活用することができる財務数値は、以下の通りとなっています。

【1】  人材派遣業の評価で使う資本コストとマルチプル

まず、TKC経営指標(2018年度)によれば、人材派遣業の収益性について、売上高成長率は約1.1%です。また、粗利率は45.6%、営業利益率は2.0%となっています。生産性について、1人当たり売上高は389万円、1人当たり人件費は241万円となっています。

次に、2020年8月現在の開示情報および市場株価によれば、人材派遣業のマルチプル(倍率)について、PBR倍率は2.5~3.0倍、PER倍率は10~15倍、EBITDA/企業価値倍率は6~8倍となっています。

さらに、筆者が推計する人材派遣業の株主資本コストは、安定した老舗企業であれば8%、急成長の新興企業であれば12%が妥当であると考えます。これは、この類似上場企業のROICが10%~15%であることを考慮しつつ、類似上場企業のベータ値が0.8~1.2であること、ヒストリカル・マーケット・リスク・プレミアム(1950年代~2020年)が7%~9%であることを前提にして、小規模リスク・プレミアムを加算して推計しています。

【2】 人材派遣業の類似上場企業比較法で採用すべき企業の例

人材派遣業を評価する類似上場企業比較法で採用すべき上場企業として、事務系であれば、クリエアナブキ、ライク、CRGホールディングス、キャリアリンク、ヒューマンホールディングス、キャリアバンク、クイックです。

一方、製造業系であれば、アウトソーシング、ワールドホールディングス、UTグループ、テクノプロ・ホールディングス、日総工産、夢真ビーネックスグループ、フルキャストホールディングス、フォーラムエンジニアリング、アルトナー、ウィルテック、nmsホールディングス、エスユーエス、ジェイテック、メディアファイブです。

さらに、販売系であれば、エスプール、ウィルグループ、ヒト・コミュニケーション・ホールディングスです。

株式会社経営承継支援は、一社でも多くの企業を廃業危機から救うため、全ての企業様のご相談をお受け致しております。
M&A(株式譲渡、事業譲渡等)に関して着手金無料でご相談可能ですので、お気軽にお問合せくださいませ。

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事業承継コンサルティング株式会社 中小企業診断士 村上 章 【Web】https://jigyohikitsugi.com/ 事業承継コンサルティング株式会社は、中小企業診断士・公認会計士が事業承継・M&Aを支援する経営コンサルティング会社である。日本を代表する大企業からのご依頼を受け、サプライチェーンにある取引先(販売店・代理店)の事業承継・M&Aを支援しております。 M&Aで事業を売却されたお客様の資産運用(金融商品仲介)や相続税対策(宅地建物取引)まで直接サポートいたするので、引退後に必要となるサービスをワンストップで提供させていただきます。 また、毎月1回、事業承継支援者向けに「事業承継支援コンサルティング研究会」(https://jigyohikitsugi.com/kenkyu/)を開催しています。M&Aアドバイザーの方々に役立つ講義と事例研究を提供しておりますので、ぜひご参加ください。

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