M&A BUZZ

「日本酒業界について考える」

監修

経営承継支援編集部

この記事は、株式会社経営承継支援の編集部が監修しました。M&Aに関してわかりやすく役に立つ記事を目指しています。

目次 [ ]

日本酒業界の現状および今後の日本酒市場

新型コロナウィルスの感染拡大による影響は、日本酒業界にも及びました。2020年4月に発令された緊急事態宣言により、飲食店は営業自粛を余儀なくされました。その結果、業務用酒類の出荷が大きく落ち込み、2020年に多くの酒類の卸売業者が廃業に追い込まれました。
また、日本酒の出荷量は1973年度の177万klをピークに2020年度には4分の1以下の41万klまで減少しました。そのため、中小零細規模の日本酒蔵の中には、業績悪化のため、休業、廃業するところが増加しました。

平成20年度(H20.4.1~H21.3.31)の酒の課税数量(注1)は8,726,331KLであり、前年度の8,921,813KLから2.2%減少しました。そのうち、清酒(注2)の課税数量は652,980KL(前年比3.4%減)になります(国税庁HP)。

(注1) 製造場から課税されて移出された酒の数量

(注2)清酒(Sake)は、海外産も含め、米、米こうじ及び水を主な原料として発酵させてこしたものを広く言います。清酒のうち、日本酒(Japanese Sake)とは、原料の米に日本産米を用い、日本国内で醸造したもののみを言い、日本酒という呼称は地理的表示(GI)として保護されています(国税庁HP)。

一方、血中アルコール代謝の促進、血圧の抑制、コレステロールや血中中性脂肪の減少など、日本酒の健康効果に対する認知度の向上などの要因により、日本の地酒は米国を始めとして海外の国々の関心を集めています。例えば、2022年3月、国税庁の報告では、2021年の日本酒の輸出額は約3億200万米ドルに達し、前年比66.4%増加となりました。

日本酒業界の歴史(戦後)

日本酒業界の歴史(戦後)を、日本国内、海外ごとにまとめたものが、下記の表のとおりです。


出所:各種資料より

等級制度の廃止

等級制度とは、1943年の酒税法改正によって規定された日本酒の級別制度(特級、一級、二級の3区分)です。酒税の額は、等級が上になるほど高く、下になるほど低くなっていました。
しかし、高品質の酒であっても監査を受けずに税額の低い二級酒扱いとする無鑑査酒が多く販売されるようになりました。そのため、等級制度は税務上の分類でしかなく、必ずしも日本酒の品質基準を示さなくなり、1992年に等級制度は廃止されました。

地理的表示(GI:Geographical Indication)制度

同制度は、お酒の産地や品質を保証するものであり、日本では2015年から導入されています。
消費者側のメリットとしては、以下の点を挙げることができます。
・地理的表示があることで、特産品であると認識しやすい。
・原材料などを偽装しにくくなり、商品を信頼することができる。
・国が「地理的表示」の明確な基準を示しているため、その基準に則った、安心な商品を買うことができる。

日本酒の地理的表示

地理的表示(GI)は、国際的な知的財産権のひとつです。お酒に関しては国税庁が審査
・指定・保護しています。GIの対象製品は、国際的な知的財産の協定で各国相互によって
保護されます。

出所:国税庁HP

日本酒の地理的表示(GI)保護制度の指定が近年急増しています。
2023年時点で日本酒の地理的表示は15ありますが、そのうち2021年(5つ)、2022年(2つ)、2023年(3つ)と直近3年間で10の日本酒の地理的表示が制定されています。

同制度は産地名を冠する基準を設けてブランド力を高める取り組みの一環です。日本酒の国内消費が伸び悩む状況において、海外販路の拡大を目指す酒造業界と制度を所管する国税庁の意図が結実したものです。
しかし、その認知度は十分ではなく基準策定に難航する場合もあり、同制度が産地と結び付いた情報発信につながるかどうかは未知数です。

インターナショナルワインチャレンジ2023

世界最大規模のワイン品評会IWC(International Wine Challenge)は毎年ロンドンで開催され、世界でもっとも大きな影響力をもつワインのコンテストと言われています。
2007年にIWCのSAKE部門が誕生しました。それ以来、SAKE部門の受賞酒は国内外で注目され、IWCは日本酒の海外進出における重要なイベントとして存在感を高めています。

2023年4月24日・25日・26日・27日「インターナショナルワインチャレンジ2023」のSAKE部門の審査が行われ、メダル受賞酒が決定しました。日本酒部門は9つのカテゴリーごとに1601銘柄(含む海外18銘柄)を審査員によるブラインド・テイスティングを行い、その成績によりメダル表彰となりました(金メダル98銘柄、銀メダル344銘柄、銅メダル369銘柄、大会推奨酒)。また、トロフィー受賞酒、Great Value Sakeが発表され、その中からChampion Sake、Great Value Champion Sakeが決定されました。


出所:酒サムライ公式ウエブ

中小零細規模の日本酒蔵は、自前でマーケティング活動や宣伝広告するのは、人材、費用などの点から困難です。
しかし、IWC SAKE部門にエントリーしてメダルを獲得すれば、酒質の高評価を得るとともに、自身の蔵、銘柄名の宣伝効果があります。そのため、IWC SAKE部門にエントリーする日本酒蔵は、毎年、増加傾向にあります。

「和食」のユネスコ無形文化遺産登録(2013年)

日本人は、四季のはっきりした変化や地理的な多様性を背景として、豊かな食材をもたらす自然を敬い、また、共に生きていく中で、独自の食文化である「和食」を育んできました。
ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」は、「自然の尊重」という日本人の精神を体現した食に関する「社会的慣習」です。


出所:農林水産省HP

(参考)

ユネスコの無形文化遺産は、芸能や伝統工芸等、形がない文化であり、土地の歴史や生活風習などと密接に関わっているものをいいます。ユネスコは、国際連合教育科学文化機関(フランス・パリ)の略称です。

和食(日本食)の世界普及を目的として、ジェトロ(日本貿易振興機構)が実施した海外消費者アンケートの結果を見ると、世界13カ国のうち9カ国で日本食が一番人気でした(自国料理を除く各国料理の中で)。
日本食が一番人気の国の中でも、中国、香港、台湾の回答率95%以上であり、日本食の人気が非常に高いことが分かります。これに次いで、韓国、タイが90%台と高い人気となっています。

輸出用清酒製造免許制度

日本酒の輸出拡大に向けた取組等を後押しする観点から、2020年度税制改正により、輸出用清酒製造免許制度が新たに設けられました。
同制度は輸出用に限って日本酒の最低製造数量基準(60kg)を適用されないため、高付加価値商品を少量から製造できる製造場を新たに設置することが可能になりました。
また、海外向け商品の生産を国内生産に回帰させて、適切な品質管理が可能な環境を構築することにより、日本酒のブランド価値の確保・向上を図ることを目的としています(国税庁HP)。

日本酒蔵の売上高ランキング(2021‐2022年)

日本酒蔵の売上高ランキング(1位~10位)は、以下のとおりです。

出所:各種資料より作成

※売上高の上位10社の市場シェアは、約50%と推定されます。

日本酒蔵のM&A

近年、日本酒業界では、M&Aの動きが加速しています。一般に、日本酒蔵のM&Aには3種類のタイプがあると言われます。
1つ目のタイプは、ライフスタイル・バイヤーによる買収です。例えば、元金融マンの個人の日本酒愛好家が、日本酒蔵の事業を譲り受けて起業した事例があります。
二つ目のタイプは、戦略的バイヤーによる日本酒蔵の買収です。特にアルコール飲料大手中堅企業、食品関連企業が、戦略的バイヤーとして酒蔵を買収する事例が見受けられます。
三つ目のタイプは、プライベート・エクィティ(PE)ファンド(注3)、投資ファンドによる買収です。
(注3)プライベート・エクィティ・ファンド(Private Equity Fund)は、複数の機関投資家や個人投資家から集めた資金により事業会社の未公開株を取得し、企業の経営に参画して企業価値を高めた後に売却することで、高いIRR(内部収益率)を獲得することを目的とする投資ファンドです。

過去の日本酒蔵のM&A(一部)

出所:各種資料より

過去のM&A事例を見ると、2つ目のタイプである戦略的バイヤーは、①同業(日本酒蔵)、②食品関連会社、③異業種の3つに大別することができます。
これらの戦略的バイヤーと④PEファンドが、日本酒蔵のM&Aにおいて買い手となると思われます。

買い手の業種による分類

買い手の業種分類から見た過去の成約事例

日本酒業界の今後について

海外輸出の促進

「和食」のユネスコ無形文化遺産登録(2013年)により、海外でSAKEブームとなり、特に高級日本酒のニーズが高まっています。

2022年度(1月~12月)の日本酒輸出総額が 474.92億円に達し、13年連続で前年を上回る金額に、また数量も35,895キロリットルと過去最高を記録しました(日本酒造組合中央会)。
国別輸出金額の第1位は中国、第2位はアメリカで、第3位の香港を合わせると全体の67.8%を占めています。
また、輸出金額の伸び率が数量の伸び率を上回っており、1ℓあたりの平均輸出価格は10年前と比べると2倍以上に上昇しています。
この傾向から、高価格帯のプレミアム日本酒が海外輸出の中心になっていることが分かります。例えば、中国では日本酒は高級酒として富裕層などに人気があります。

出所:酒蔵プレス

2023年前半、日本酒の海外輸出の動向

日本酒 海外需要に異変!? 輸出ブレーキ 訪日客急増
コロナ禍の収束やウクライナ情勢の長期化を背景に、日本酒の海外需要に異変が起きている。財務省貿易統計によると、日本酒の輸出額は13年連続(10~22年)で過去最高を更新してきたが、23年1~5月累計は13.1%減(米国34%減、香港19%減など)にとどまった。要因は前年同期に物流事情で急増した反動に加え、主要国の景気低迷があるようだ。
一方、入国規制の緩和でインバウンド需要は急回復。メーカーや販売店によっては免税売上がすでにコロナ前を上回っている。
(食品新聞:2023年12月19日)

商品の差別化・高付加価値を付ける

日本酒蔵には老舗が多く、100年または200年以上の歴史がある蔵も多くあり、長い伝統があるために変化を拒否する傾向があります。
一方、若い世代の経営者は、低アルコール度数の日本酒、スパークリング日本酒、古酒・熟成酒、貴醸酒(注4)などの商品ラインナップの拡充、酒瓶のお洒落なラベルを取り入れています。これらの施策によって、今まで日本酒を飲まなかった顧客層、女性、若者などの取り込みを図っています。
また、スパークリング日本酒、古酒・熟成酒を製造する酒蔵により、各種協会が設立されています(下表)。

出所:各種資料より
(注4)仕込み水の代わりに清酒を使って発酵させて造った日本酒。味わいはかなり濃厚で甘みが強いものが多く、独特のとろみがある。

日本酒イベントの開催、日本酒の資格

コロナ禍の影響で大規模なイベント開催が自粛されていましたが、昨年後半から徐々に開催されるようになりました。日本酒のイベントも各地で開催され、日本酒の蔵元が出店し、来場客に日本酒を試飲してもらい、相性料理とのペアリングを提案する機会も増えています。

また、民間の日本酒の資格も複数存在し、日本酒業界の従事者(生産者、卸小売業者)、一般の愛好家のなかで資格取得者が増えています。今後、生産者、販売者、消費者が日本酒の知識を習得することにより、日本酒市場の裾野が広がると期待されます。

主な日本酒の資格

(注5)WSET(Wine & Spirit Education Trust)は、ロンドンに本部を置く世界最大のワイン教育機関。 英国のワイン商組合により1969年に創設され、現在、世界70カ国でWSETの教育組織が運営され、年間約110,000人が認定試験を受験している。

(参考) SWOT分析から考える日本酒業界

SWOT分析:~内部環境(強み、弱み

SWOT分析:~外部環境(機会、脅威

クロスSWOT分析:日本酒業界

強み、弱み、機会、脅威の各項目を、「(米の)栽培」、「醸造(生産)」、「販売(卸売、小売)」、「消費(顧客)」の要素に分けて、4つの戦略に落とし込みます。

この分析結果は、今後の経営戦略を立案する際のヒントとして活用することができます。

クロスSWOT分析:日本酒業界(イメージ)

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