目次
Ⅰ健康食品業界の動向
健康食品の市場規模はメーカー出荷金額ベースで、2020年度が8,659億9,000万円(前年度比0.4%増)と推計し、2021年度は8,880億3,000万円(同2.5%増)が見込まれています。
新型コロナウィルス感染拡大の影響により、消費者の健康・免疫に対する関心が高まったことに加え、巣ごもり需要から通信販売を中心に市場が伸長したこと、コロナ禍における新生活(ニューノーマルな)様式の中で在宅時間の増加や、運動不足による肥満の増加、膝や筋肉の衰えへの不安、睡眠・ストレスの増加など、健康面での不安に対する対策として機能性表示食品を中心とした需要が見られ、市場拡大に繋がる見込みです。
流通別に内訳をみると、2020年度の海外(一般貿易、越境EC)向けの市場規模が122億2,000万円(前年度比26.2%増)と100億円の大台を突破した。2020年度は国内でのインバウンド(訪日外国人客)需要が消失した中で、日本製の健康食品の人気の高さから、アジア圏を中心に売上を伸ばす企業が散見されます。
機能性表示食品の市場規模はメーカー出荷金額ベースで、2020年度が3,044億円(前年度比19.7%増)と推計とされ、2021年度は3,278億3,000万円(同7.7%増)が見込まれています。
食品種類別では、サプリメントに関しては急拡大してきた市場規模が競合激化の影響などから、2021年度は成長率が鈍化する見込みです。サプリメントではいち早く大型商材の機能性表示食品化や、積極的な広告展開によるヒット商品の誕生などが見られ、2020年度までは高い成長率にて進捗していたが、これらの動きが一巡化しつつあります。
一方、一般食品においては、清涼飲料などで大型商材の機能性表示食品化やヒット商品の誕生が見られ、2021年度も引き続き2桁成長が続くと見込まれます。特に飲料については、身近な販売チャネルで購入でき、手軽に飲用が可能であることから、トライアルの喚起が図りやすく、積極的な広告宣伝により売上を伸ばす商品が散見されます。
コロナ禍における不安は払拭されておらず、高齢者層を中心に健康・免疫に対する関心が高い状態が続き、健康食品の需要は堅調です。さらに、若年層から中年層で、コロナ禍以前から健康食品を利用している消費者は、引き続き利用する傾向が強く、今後の健康食品市場は緩やかな成長が続く見通しです。
Ⅱ健康食品メーカーの売上高ランキング
健康食品メーカーの売上高ランキング(2021-2022年)は、以下の通りです。
出所:各種資料より作成
(注)2022年11月、子会社の株式会社シーラボ・カスタマー・マーケティングと共にジョンソン・エンド・ジョンソンの社内カンパニーの一つであるコンシューマー カンパニーと統合され、JNTLコンシューマーヘルス株式会社が発足しました。
Ⅲ健康食品業界のM&A
最近の健康食品業界のM&A(一部)
出所:各種開示資料より作成
2018年 (買い手企業) ユーグレナ(2931)
(売り手企業) 株式会社フック
ユーグレナは、微細藻ミドリムシを活用した食品、化粧品販売を行っています。
株式会社フック(東京都:売上高11億9400万円)は、健康食品のEC事業を展開しています。
ユーグレナは、株式譲渡と株式交換nよってフックを完全子会社化しました。
本M&Aの目的は、ユーグレナの経営資源とフックの経営資源を組み合わせることで、ヘルスケア事業のさらなる成長を図る狙いがあります。
2018年 (買い手企業) 第一工業製薬(4461)
(売り手企業)株式会社バイオコクーン研究所
池田薬草株式会社
第一工業製薬は、凝集剤、合成糊料などの工業用薬剤で首位の会社です。
株式会社バイオコクーン研究所(岩手県:売上高2800万円)は、カイコや桑の持つ機能性の解明研究を進めている大学発のベンチャー企業です。
池田薬草株式会社(徳島県:売上高6億2400万円)は、天然物からの抽出物を濃縮し、粉末化する技術を有する会社です。
第一工業製薬は、バイオコクーン研究所と池田薬草を完全子会社化しました。
本M&Aの目的は、バイオコクーン研究所の研究・製造・販売機能と池田薬草の量産化・効率化機能を合わせることによって、健康食品や機能性表示食品の開発・販売を強化する狙いがあります。
2019年 (買い手企業) 小林製薬(4967)
(売り手企業) 株式会社梅丹本舗
小林製薬は、家庭用品製造が主軸であり、芳香消臭剤では首位です。mた、健康食品のニッチ商品の開発で定評があります。
株式会社梅丹本舗(和歌山県:売上高5億1800万円)は、梅成分を凝縮した錠剤の「梅丹UG」や、ペースト状にした「古式梅肉エキス」などの梅を使った健康食品を販売しています。
小林製薬は、株式会社梅丹本舗の全株式を取得して完子会社化しました。
本M&Aの目的は、健康食品の品揃えを充実させて、健康食品業界でのシェアを拡大する狙いがあります。
2020年 (買い手企業) 粧美堂(7819)
(売り手企業) ビューティードア・ホールディングス株式会社
粧美堂は、化粧雑貨、化粧品、服飾雑貨、キャラクター雑貨などを自社ブランドとOEMを取り扱っています。
ビューティードア・ホールディングス株式会社(大阪府)は、は持ち株会社であり、傘下の事業子会社のビューティードア(大阪府富田林市:売上高5億3900万円)で、化粧品・医薬部外品の受託製造を行っています。
粧美堂は、ビューティードア・ホールディングス株式会社を子会社化しました。
本M&Aの目的は、ビューティードアをグループに迎えることにより、新たに製造設備と製造ノウハウを取り込むことで、化粧品事業を加速する狙いがあります。
Ⅳ健康食品事業をM&Aするメリットとデメリット
【1】主な2つのM&Aの手法
M&Aを検討している経営者の皆様が覚えておくべき主な手法は、株式譲渡と事業譲渡の2つです。
売り手企業の株主が買い手企業に株式を譲渡する手法が株式譲渡です。売り手企業が買い手企業に事業を譲渡する手法が事業譲渡です。
どちらを選択するかは、売り手企業の意向、買い手企業の考えによって、両者の交渉によって決まります。
会社の借入金、従業員、資産、権利義務関係などの全てを買い手企業へ譲る場合、株式譲渡の手法を選択します。
一方、売り手企業の事業が、製造部門と販売部門のように複数事業に分かれており、製造部門のみを譲渡するような場合、事業譲渡を選択します。
以下の設例により、株式譲渡と事業譲渡の2つの方法を比較することにします。
<設例>
X社は、自社ビルの不動産賃貸業とレストラン事業(25店舗:全店舗は賃借)の運営を行っています。株主はオーナー社長のみです。 コロナ禍の影響を受けて、レストラン事業の業績が悪化したため、X社はレストラン事業を第三者へ譲渡することにしました。
レストラン事業を事業譲渡する場合、買い手企業のメリットは、レストラン事業のみを引継ぐ点になります。ただし、従業員の再雇用、権利義務関係の引継ぎなどの手続が煩雑になるデメリットがあります。一方、売り手企業の簿外債務を引き継ぐリスクはありません。売り手企業のメリットは、レストラン事業のみ譲渡できる点、譲渡代金は売り手企業(X社)が受領する点になります。
【2】M&Aの手順・流れ
①プロセス開始当初にご依頼する資料やお伺いする情報がスムーズにご提供戴けると、その後のプロセスが円滑に進行します。
②予備的企業価値評価は、当社専門家(会計士/税理士)監修のもと実施。この段階で、譲渡価格や条件等の内容を概ね決定します。
③買手候補企業との間で大枠の条件が固まったら基本合意書(法的拘束力無し)を締結します。この段階より1対1の交渉(独占交渉)が始まります。
④基本合意と買収監査結果で差異があった項目を中心に調整し、詳細事項を決定。M&A実施後の体制等も、この段階ですり合わせます。
【3】M&Aにより会社を売却するメリット
オーナーのメリット(株式譲渡の場合)
①オーナー・その他株主のキャピタルゲイン(資本利得)の実現
オーナー一族はリタイアに際して現金収入が発生し、ハッピーリタイアすることができますその他株主も、同様に未上場株式を現金に換金できます
②相続税対策
流動性のない未上場株式を現金化することにより、遺産分割が容易になります
③オーナー一族の個人保証からの解放
買い手企業が保証(債務保証、不動産等の担保提供)を肩代わりするため、オーナー一族の経済的負担が解消されます※親族内承継または従業員承継の場合、オーナー一族の個人保証を継続せざるを得ない場合があります
会社のメリット
①事業の継続を確保、会社成長の可能性があります
②買い手企業の傘下に入ることにより、事業継続と安定性を確保できます
③買い手企業とのシナジー、将来の会社成長の可能性に期待できます
④従業員雇用の継続、安定を図ることができます
【4】会社を売却するデメリット
・買い手企業が見つからないリスク
会社を売却すると決断してもすぐに買手企業が見つかるとは限りません。
M&Aにはそれなりのコストがかかるので、買い手企業にとっては、それなりのメリットがなければM&Aを実行しません。コロナ禍においては、M&Aを検討する企業数が減っており、かつ投資目線も厳しくなっています。つまり、「コストをかけてもM&Aを行う」と買い手企業が思うような魅力がある会社(売り手企業)でない限り、なかなか買手企業が現れないと考えるのが良いでしょう。M&A市場においては、一般に「将来的に売り手企業がどの程度の収益を上げる力があるか」で売り手企業は評価されます。したがって、収益面では黒字にすること、過度な借入金(例えば、売上高を超える、あるいは同じ金額の借入金)は避けるべきです。
・M&A後における従業員の待遇面の不安
M&A後における従業員の労働条件や解雇の規則については、買い手企業によって変更をされないように最終契約書に記載しておく必要があります。最終契約書での取り決めがない場合、M&A前より悪い労働条件で働かされたり、簡単に解雇されたりする可能性があるためです。M&Aを実行する場合、確認する事項は個別案件ごとに異なり、また多岐にわたります。この確認をおろそかにせず、売り手企業と買い手企業のお互いがM&Aのメリットを享受できるように交渉を進めることが重要です。
Ⅴ会社を売却する際の株価の考え方
株価(株式価値)の算定方法として一般的に用いられる手法は、修正純資産法、類似会社比較法(マルチプル法)、DCF法です。
【1】修正純資産法
評価対象会社(売手)の貸借対照表に計上されている全ての資産・負債を時価評価した後の純資産額に営業権を加算して企業価値を算定する方法です。この方法は、企業の静的な価値を判定するのに適しています。未上場会社のM&Aで利用されることが多い方法です。
(注)黒字の場合、営業権として修正後営業利益の3年分程度の金額を加算します。一方、赤字(営業損失)の場合、営業権はつきません。社歴〇〇年の老舗企業、あるいは△△△ブランドで有名などの要素は、営業権として評価されません。
【2】類似会社比較法(マルチプル法)
業種、企業規模等の類似する上場会社の一定の財務数値に対する企業価値の倍率を測定し、評価対象会社(売手)の財務数値に当該倍率を乗じることで企業価値を算定する方法です。
上場会社、未上場会社のM&Aにおいて利用されている方法です。
なお、未上場の中小企業・小規模企業のM&Aの株価算定においては、会社規模(売上)が小さい、ニッチ業種であるなどの理由により、上場会社の中から類似会社を選定することが難しい場合があります。
【3】DCF法
事業活動から得られると予測される将来キャッシュ・フローの総額を現在価値に割り引いた金額を企業価値として評価する方法です。将来キャッシュ・フローの予測に企業価値が大きく左右される方法です。上場会社のM&Aにおいては、一般的に利用されることが多いです。
なお、DCF法を用いる場合、将来キャッシュ・フロー算出の基礎となる評価対象会社(売手)の事業計画が必要となります。また、当該事業計画の客観性、妥当性、実現性等が重要になります。
【4】考慮すべき事項
評価対象会社(売手)が、企業のライフサイクル(イメージ図)において、創業期、成長期、成熟期、衰退期のいずれの段階に該当するかを判断します。
併せて、評価対象会社の継続性の疑義の有無、知的財産等に基づく超過収益力に依存する収益構造であるか、類似上場会社のない新規ビジネス、或いはニッチ業種に該当するかなどを判断する必要があります。
企業のライフサイクル(イメージ図)
以上の考慮すべき事項を確認した後、評価対象会社(売手)に適切な株価(株式価値)の算定方法を選択します。複数の算定方法を選択できる場合は、それぞれの算定方法の結果を比較検討するのがよいでしょう。
【5】株価(株式価値)の算定方法の選択
〇:採用が適していると考えられる △:場合によっては採用することが想定される
【6】会社を売却する場合に係る税金
中小M&Aの方法のうち、最も多く用いられる株式譲渡の場合において、会社売却に係る税金をどのように考えるかを一緒に見てみることにします。会社の株主が個人である場合、所得税・住民税あわせて20.315% の固定税率で分離課税が適用されます。以下の設例を用いて、会社を売却した場合、株主の税金をどのように計算するかを説明します。
<設例>
会社株主は、社長のみの一人株主とします。
株式の出資額10,000千円、株式譲渡代金100,000千円、売り手(個人株主)のM&A手数料5,500千円 (消費税込み)とします。
株式の売却益(注)は、株式譲渡代金から株式の出資額を差し引いた、90,000千円(=100,000千円−10,000千円)となります。
(注)キャピタル・ゲイン(資本利得)
個人株主の場合、株式の売却益は分離課税の対象となり、税率は20.315%(注)が適用されます。
また、M&A手数料(消費税込み)は、売却益から費用として差し引くことができます。
よって、個人株主が負担する税金は、以下のように計算することができます。
(90,000千円−5,500千円)×20.315%(注)=17,166千円
(注)所得税及び復興特別所得税(15.315%)+住民税(5%)
【7】会社を売却するタイミングを考える場合のポイント
会社を売却するためのポイントは3つあります。
ポイント① 引退の時期を決める。
「この事業が上手くいったあとで」といった条件付きの不明確な時期の決め方ではなく、できれば年月を確定することをおすすめします。時期を決めることで、実現するための強い決意が生まれます。
経営状態がよいタイミングで売却すると高い株価で売却でき有利ですが「企業価値が上がったら売却してリタイアしよう」という決め方だとなかなか踏ん切りがつかず、ハッピーリタイアの実現は難しくなるでしょう。
ポイント② 売却前に次の経営者がやりやすいように経営環境を整えておくことです。
後顧の憂いなくリタイアするためには、経営者の頭の中にある重要な項目を整理しておくことが重要です。
特に、従業員の対するケアがポイントであり、各従業員の性格等を、事業引継ぎの際に伝えておかなければ、その後の組織運営に支障が出ます。
ポイント③良いフィナンシャル・アドバイザーを見つける。
会社を売却する際には、専門的知識が必要となり、M&Aの専門家のサポートが必要となります。
中小M&Aの実績が十分にあり、業界での評判の良いM&A仲介会社を選ぶとよいでしょう。
どのM&A仲介会社も初期相談は、無料で対応しています。複数社と面談して、相性の良さそうな会社を選択するのも一つの方法です。
(注)フィナンシャル・アドバイザーの役割は、クライアント(売り手、買い手)が目指す戦略実現のために、最適なM&A手法を企画 立案し、その執行を全面的にサポートすることです。アドバイザリー会社のタイプとしては、金融機関系、会計会社系、ブティッ系の3つに大別することができます。
Ⅵ弊社M&Aコンサルティングサービスのご案内
弊社のM&Aコンサルティングのご案内です。特徴は3点あります。
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M&Aの専門性を持つ、経験豊かなコンサルタントが、皆様にきめ細かなサービスを提供させていただきます。実際に成約したお客様、皆様からご満足いただいております。
②完全成功報酬の手数料体系
当社は、1社でも多くの中小企業のM&A支援を行うために、リーズナブルな手数料体系を採用しています。着手金、月額費用などはいただかず、成功報酬のみの完全成功報酬制を採用しています。
③多くの成約実績
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