2021年、どうなる？不動産仲介業界のM&A

2021年、どうなる？不動産仲介業界のM&A

2020年、不動産仲介業界のM&Aが増えています。ここでは、不動産仲介業界の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価（株価算定）で使う数値（マルチプルなど）について説明します。これらから、不動産仲介業界においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみましょう。

I    M&Aの多い不動産仲介業界

不動産仲介業界の全体像を理解するために、市場動向や経営環境、ビジネスモデル、M&A可能性のある競合他社を説明します。

【１】 不動産仲介業界の市場動向・経営環境

不動産仲介業は、宅地建物取引業法の免許を取得して、宅地・建物の売買・賃貸借の代理・媒介（仲介）を行う事業者のことをいいます。2020年現在、わが国の地価は上昇傾向にあったことから、宅地売買の仲介件数はここ数年増加を続けてきました。また、オフィス空室率が低下し、賃料が上昇してきましたので、賃貸借の仲介件数もここ数年増加を続けてきました。

しかしながら、土地価格がピークを過ぎ、今後は下落することが予想されること、コロナ禍における働き方改革によってオフィス需要は減少する可能性が高いことから、今後の仲介件数は減少傾向にあると考えられます。

 

【２】 不動産仲介業界のビジネスモデル

不動産仲介業のビジネスモデルは、売買仲介の場合、宅地建物を売却したい顧客を獲得し、その買主を見つけて媒介を成立させ、仲介（媒介）手数料を得るというものです。賃貸仲介の場合、貸家に入居者を得たい賃貸不動産オーナーの顧客を獲得し、その入居者を見つけて媒介を成立させ、仲介（媒介）手数料を得るというものです。

近年は、フランチャイズチェーン（FC）に加盟する仲介業者が増えてきました。買主や入居者の獲得については、REINSへの登録だけでなく、不動産情報サイトによる物件情報の提供を通じた顧客獲得が一般的となっています。

売買仲介や賃貸借仲介はいずれも単発の取引の反復です。そこで、不動産仲介業者は、安定的な収益を得るために、賃貸管理を受託するケースが多く見られます。

これは、家賃収入の3～5％の管理費を継続的に徴収する代わりに、旧居者の募集、トラブル対応、退去手続きなどの入居者対応、家賃の受取りなどの不動産オーナー対応、建物の点検、清掃、修繕計画の作成などの建物管理業務を提供するものです。競争が厳しい業界のなか労働集約的な業務ではあるが、安定的な利益を確保することができます。M&Aにおける重要な事業価値を構成しています。

 

【３】 不動産仲介業界M&Aで買い手候補となる企業

不動産仲介業の事業承継を目的としたM&Aであっても、買い手候補は上場企業や大企業が中心になると考えられます。この業界では、以下のような上場企業が中心となって業界再編を進めていくことが想定されます。

ハウスドゥ、日住サービス、東武住販、センチュリー21ジャパン、APAMAN、RISE、ジェイホールディングス、ハウスフリーダム、オークラヤ住宅、エイブル＆パートナーズです。賃貸管理業務が主たる業務とする企業であれば、スターツグループ、ハウスメイトパートナーズ、学生情報センターなども買主として想定することができます。

 

Ⅱ    不動産仲介業界M&Aで売却する売り手のメリット

安定している大手企業にM&Aで不動産仲介業を承継することで、従業員の雇用を維持し、事業のさらなる成長を実現することができます。取引先である不動産オーナーは、賃貸管理および仲介業務を継続することができます。

また、小規模事業者が単独では難しかったIT投資によるデジタル化の推進、特にデータベースの教養によってシステム開発費用を抑制することによって、不動産仲介業の経営効率化を実現することができます。結果として生産性が向上すれば、従業員の給与水準をアップさせることができるでしょう。

さらに、買い手企業が大企業であれば、店舗規模の拡大による生産性向上、大量仕入れによる原材料費の引下げや、人材採用コスト、広告宣伝費、本社経費を削減し、M&Aによるシナジー効果を得ることができます。

以上のようなシナジー効果が期待され、買い手候補にとって魅力的な事業であれば、売り手側の経営者は、高い売却価格を実現することができ、引退した後のライフプランを充実したものとすることができます。

 

 

Ⅲ    不動産仲介業界M&Aで買収する買い手の注意点

不動産仲介業界で買収を行う際、デュー・ディリジェンスにて調査すべき経営資源や注意点を説明します。

 

【１】 不動産仲介業の買収デュー・ディリジェンスにおける注意点

不動産仲介業は、取引トラブルが多いという特徴がある。コンプライアンスに問題のある店舗は、慎重に調査すべきでしょう。

不動産仲介業の事業性を評価する場合の注意点として、宅建業法等の法規制を遵守して宅建業を営む体制が確立されているか、コンプライアンスの現状を確認する必要があります。

 

【２】 不動産仲介業の買収で承継すべき経営資源

宅建業それ自体が差別化要因とならないことから、店舗の立地条件、営業力が基本となる経営資源です。従来は、営業マンの営業力が重要な人的資源であったが、近年は、Webマーケティングによる顧客獲得能力が重要な無形資産となります。設置が義務付けられている宅地建物取引士も不可欠な人的資源となるでしょう。

無形資産は、事業承継によって喪失されることが多いため、不動産仲介業のM&Aを行う場合は、その承継を丁寧に行うことが重要でしょう。

Ⅳ     不動産仲介業を買収するときの企業価値評価（株価算定）

不動産仲介業のM&Aにおける企業価値評価（株価算定）を行う際に活用することができる数値は、以下の通りとなっています。

 

【１】 不動産仲介業の評価に使う財務指標とマルチプル

まず、TKC経営指標（2018年度）によれば、不動産仲介業の収益性について、売上高成長率は約▲3.4％です。また、粗利率は仲介事業で47.0％、賃貸管理事業で69.2％、営業利益率は仲介事業で5.3％、賃貸管理事業で7.6％となっています。生産性について、1人当たり売上高は仲介事業で2,386万円、賃貸管理事業で1,430万円、1人当たり人件費は仲介事業で452万円、賃貸管理事業で318万円となっています。

次に、2020年8月現在の開示情報および市場株価によれば、不動産仲介業のマルチプル（倍率）について、PBR倍率は1.2～2.5倍、PER倍率は10～50倍、EBITDA／企業価値倍率は5～15倍となっています。

さらに、筆者が推計する株主資本コストは、安定した老舗企業であれば5％、急成長の新興企業であれば12％が妥当であると考えます。これは、この類似上場企業のROICが3～10％であることを考慮しつつ、類似上場企業のベータ値が0.5～1.3であること、ヒストリカル・マーケット・リスク・プレミアム（1950年代～2020年）が7％～9％であることを前提にして、小規模リスク・プレミアムを加算して推計しています。

 

【２】 不動産仲介業の類似上場企業比較法で選択する企業

なお、類似上場企業比較法で採用すべき上場企業として、ハウスドゥ（3457）、東武住販（3297）、センチュリー21ジャパン（8898）、APAMAN（8889）、RISE（8836）、ジェイホールディングス（2721）、スターツコーポレーション（8850）が挙げられます。ハイリスク・ハイリターンの仲介事業とローリスク・ローリターンの管理事業では、価値評価が大きく異なると考えられることから、それぞれ別の業界のマルチプル（倍率）を適用して評価を行うほうがよいでしょう。