調剤薬局業界の動向およびM&Aについて【2024年版】

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調剤薬局業界の市場動向

厚生労働省(2022年9月16日公表)によると、2021年度の調剤医療費(電算処理分)は、前年度比2.7%増の7兆7,515億円となりました。処方箋枚数は8億0,205万枚と、前年度から3,708万枚の増加です。

出所:厚生労働省、業界動向サーチ

内訳を見ると、技術料が同7.1%増の2兆0,183億円、特定保険医療材料料が3.9%増の156億円。薬剤料は1.3%増の5兆6,800億円で、うち後発医薬品は0.5%増の1兆1,391億円でした。
近年の調剤薬局業界の動向を見ますと、2021は新型コロナによる感染拡大の影響から患者の来院数が減り、処方箋枚数が減少しました。
一方、2022年の大手調剤チェーンでは、前年の処方箋枚数の減少から一転し回復がみられました。また、報酬改定によるマイナスの影響は受けつつも、前年から新規出店していた店舗の売上げが寄与しています。
今や調剤薬局はコンビニエンスストアを上回る店舗数となり、61,791施設(2021年度末時点)が展開されています。病院やクリニックの向かいに展開する門前薬局やドラッグストア併設型、パパママ薬局と呼ばれる家族経営を中心とした小規模薬局が存在します。
大手チェーンが店舗数を拡大する一方で、調剤薬局業界は現在きびしい環境に置かれています。高齢化による医療費拡大を抑制するため、診療報酬や薬価の改定が行われています。2022年4月には、処方率の高い門前薬局(300店舗以上を展開する大手チェーン薬局)に対し、調剤基本料が見直されました。調剤基本料と薬価の引き下げは、大手調剤の業績に影響しており多くの企業が苦戦する状況にあります。
最新の調剤医療費(2023年5月公表)を見ますと、2023年1月時点の調剤医療費と処方箋数を占める割合が高い年齢層は70歳以上85歳未満となり、全体の約3割を占めています。こうしたことからも高齢化による医療費の拡大が問題になっていることが分かります。
このような市況の下、調剤薬局では在宅医療への支援などの業務も任されています。「かかりつけ薬剤師・薬局」としての業務を強化し、地域に密着したサービスで健康サポートに備えるほか、医療費削減にも取り組み各社でジェネリック医薬品の使用促進を図っています。

2020年度は診療報酬改定と改正薬機法が同時に行われ、その目玉のひとつである「オンライン服薬指導」が注目された。
また2019年度3月以降の新型コロナウイルス感染拡大により、オンライン服薬指導のニーズは当初の予測を超えて急速に拡大した。受診控えの長期化による処方箋受付枚数の減少で経営が悪化する企業が多く、その中でオンライン服薬指導体制の整備を行った。
オンライン服薬指導は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、2020年4月より電話や情報通信機器を用いた服薬指導が認められた。

患者が来局せずに薬を入手できるオンライン服薬指導は、外出自粛が長期化する中で処方箋受付枚数の増加が期待できるため、各社は急速に体制整備を進めた。
厚生労働省の最新データでは、調剤医療費は約7兆7,025億円、薬局数は6万171件である。
これに対して、調剤薬局売上高ランキング上位10社の合計売上高は1兆720億円、合計店舗数は4,748店舗であった。
上位10社の市場占有率(売上高)

上位10社の市場に占める割合は売上高13.9%、店舗数7.9%である。これは、ドラッグストア業界がいずれも6割程度を占めているのと比較すると、低い水準である
上位10社の市場占有率(店舗数)

調剤薬局業界の売上高ランキング

売上高ランキング(2021-2022年)は、以下の通りである。

出所:各種資料より

(注)アインHDはファーマシー事業、日本調剤は調剤薬局事業、クオールHDは保険薬局事業の売上高です。総合メディカルは2020年の売上高です。

調剤薬局業界のM&A

最近の調剤薬局業界のM&A(一部)

年度 買い手 対象企業・事業
2020 寛一商店グループ(未上場) ライフプランニング(新潟県、調剤薬局6店舗運営)を子会社化
2020 ココカラファイン(3098) 有限会社薬宝商事(神奈川県:調剤薬局22店舗運営)を完全子会社化
2020 ココカラファイン(3098) 有限会社寿(大阪府:調剤薬局1店舗運営)を完全子会社化
2020 日本調剤(3341) 連結子会社のメディカルリソースを通して、WORKERS DOCTORS(産業医業務提供事業)を完全子会社化
2020 クオールホールディングス(3034) 茨城県・大阪府の調剤薬局の買収
2021 クオールホールディングス

(3034)

勝原薬局(兵庫県、調剤薬局11店運営)を子会社化
2021 クオールホールディングス

(3034)

ケーアイ調剤薬局(鹿児島、調剤薬局8店舗運営)を子会社化
2022 ウエルシアホールディングス(3141) 株式会社ふく薬品(沖縄県:調剤薬局、ドラッグストア24店舗運営)を子会社化
2022 アインホールディングス(9627) 株式会社ファーマシイHD(広島県、約100店舗の調剤薬局運営)を完全子会社化
2022 クオールホールディングス(3034) 北摂調剤株式会社(兵庫県、8店舗の調剤薬局運営)を子会社化
出所:各種開示資料より作成

M&Aするメリットとデメリット

【1】主な2つのM&Aの手法

M&Aを検討している経営者の皆様が覚えておくべき主な手法は、株式譲渡と事業譲渡の2つです。
売り手企業の株主が買い手企業に株式を譲渡する手法が株式譲渡です。売り手企業が買い手企業に事業を譲渡する手法が事業譲渡です。
どちらを選択するかは、売り手企業の意向、買い手企業の考えによって、両者の交渉によって決まります。
会社の借入金、従業員、資産、権利義務関係などの全てを買い手企業へ譲る場合、株式譲渡の手法を選択します。
一方、売り手企業の事業が、製造部門と販売部門のように複数事業に分かれており、製造部門のみを譲渡するような場合、事業譲渡を選択します。
以下の設例により、株式譲渡と事業譲渡の2つの方法を比較することにします。
<設例>

X社は、自社ビルの不動産賃貸業とレストラン事業(25店舗:全店舗は賃借)の運営を行っています。株主はオーナー社長のみです。 コロナ禍の影響を受けて、レストラン事業の業績が悪化したため、X社はレストラン事業を第三者へ譲渡することにしました。
レストラン事業を事業譲渡する場合、買い手企業のメリットは、レストラン事業のみを引継ぐ点になります。ただし、従業員の再雇用、権利義務関係の引継ぎなどの手続が煩雑になるデメリットがあります。一方、売り手企業の簿外債務を引き継ぐリスクはありません。売り手企業のメリットは、レストラン事業のみ譲渡できる点、譲渡代金は売り手企業(X社)が受領する点になります。

【2】M&Aの手順・流れ


①プロセス開始当初にご依頼する資料やお伺いする情報がスムーズにご提供戴けると、その後のプロセスが円滑に進行します。
②予備的企業価値評価は、当社専門家(会計士/税理士)監修のもと実施。この段階で、譲渡価格や条件等の内容を概ね決定します。
③買手候補企業との間で大枠の条件が固まったら基本合意書(法的拘束力無し)を締結します。この段階より1対1の交渉(独占交渉)が始まります。
④基本合意と買収監査結果で差異があった項目を中心に調整し、詳細事項を決定。M&A実施後の体制等も、この段階ですり合わせます。

【3】M&Aにより会社を売却するメリット

オーナーのメリット(株式譲渡の場合)
①オーナー・その他株主のキャピタルゲイン(資本利得)の実現
オーナー一族はリタイアに際して現金収入が発生し、ハッピーリタイアすることができますその他株主も、同様に未上場株式を現金に換金できます

②相続税対策
流動性のない未上場株式を現金化することにより、遺産分割が容易になります

③オーナー一族の個人保証からの解放
買い手企業が保証(債務保証、不動産等の担保提供)を肩代わりするため、オーナー一族の経済的負担が解消されます※親族内承継または従業員承継の場合、オーナー一族の個人保証を継続せざるを得ない場合があります

会社のメリット
①事業の継続を確保、会社成長の可能性があります
②買い手企業の傘下に入ることにより、事業継続と安定性を確保できます
③買い手企業とのシナジー、将来の会社成長の可能性に期待できます
④従業員雇用の継続、安定を図ることができます

【4】会社を売却するデメリット

・買い手企業が見つからないリスク

会社を売却すると決断してもすぐに買手企業が見つかるとは限りません。
M&Aにはそれなりのコストがかかるので、買い手企業にとっては、それなりのメリットがなければM&Aを実行しません。コロナ禍においては、M&Aを検討する企業数が減っており、かつ投資目線も厳しくなっています。つまり、「コストをかけてもM&Aを行う」と買い手企業が思うような魅力がある会社(売り手企業)でない限り、なかなか買手企業が現れないと考えるのが良いでしょう。M&A市場においては、一般に「将来的に売り手企業がどの程度の収益を上げる力があるか」で売り手企業は評価されます。したがって、収益面では黒字にすること、過度な借入金(例えば、売上高を超える、あるいは同じ金額の借入金)は避けるべきです。

・M&A後における従業員の待遇面の不安
M&A後における従業員の労働条件や解雇の規則については、買い手企業によって変更をされないように最終契約書に記載しておく必要があります。最終契約書での取り決めがない場合、M&A前より悪い労働条件で働かされたり、簡単に解雇されたりする可能性があるためです。M&Aを実行する場合、確認する事項は個別案件ごとに異なり、また多岐にわたります。この確認をおろそかにせず、売り手企業と買い手企業のお互いがM&Aのメリットを享受できるように交渉を進めることが重要です。

Ⅴ会社を売却する際の株価の考え方

株価(株式価値)の算定方法として一般的に用いられる手法は、修正純資産法、類似会社比較法(マルチプル法)、DCF法です。

【1】修正純資産法

評価対象会社(売手)の貸借対照表に計上されている全ての資産・負債を時価評価した後の純資産額に営業権を加算して企業価値を算定する方法です。この方法は、企業の静的な価値を判定するのに適しています。未上場会社のM&Aで利用されることが多い方法です。
(注)黒字の場合、営業権として修正後営業利益の3年分程度の金額を加算します。一方、赤字(営業損失)の場合、営業権はつきません。社歴〇〇年の老舗企業、あるいは△△△ブランドで有名などの要素は、営業権として評価されません。

【2】類似会社比較法(マルチプル法)

業種、企業規模等の類似する上場会社の一定の財務数値に対する企業価値の倍率を測定し、評価対象会社(売手)の財務数値に当該倍率を乗じることで企業価値を算定する方法です。
上場会社、未上場会社のM&Aにおいて利用されている方法です。


なお、未上場の中小企業・小規模企業のM&Aの株価算定においては、会社規模(売上)が小さい、ニッチ業種であるなどの理由により、上場会社の中から類似会社を選定することが難しい場合があります。

【3】DCF法

事業活動から得られると予測される将来キャッシュ・フローの総額を現在価値に割り引いた金額を企業価値として評価する方法です。将来キャッシュ・フローの予測に企業価値が大きく左右される方法です。上場会社のM&Aにおいては、一般的に利用されることが多いです。
なお、DCF法を用いる場合、将来キャッシュ・フロー算出の基礎となる評価対象会社(売手)の事業計画が必要となります。また、当該事業計画の客観性、妥当性、実現性等が重要になります。

【4】考慮すべき事項

評価対象会社(売手)が、企業のライフサイクル(イメージ図)において、創業期、成長期、成熟期、衰退期のいずれの段階に該当するかを判断します。
併せて、評価対象会社の継続性の疑義の有無、知的財産等に基づく超過収益力に依存する収益構造であるか、類似上場会社のない新規ビジネス、或いはニッチ業種に該当するかなどを判断する必要があります。

企業のライフサイクル(イメージ図)

以上の考慮すべき事項を確認した後、評価対象会社(売手)に適切な株価(株式価値)の算定方法を選択します。複数の算定方法を選択できる場合は、それぞれの算定方法の結果を比較検討するのがよいでしょう。

【5】株価(株式価値)の算定方法の選択

〇:採用が適していると考えられる   △:場合によっては採用することが想定される

【6】会社を売却する場合に係る税金

中小M&Aの方法のうち、最も多く用いられる株式譲渡の場合において、会社売却に係る税金をどのように考えるかを一緒に見てみることにします。会社の株主が個人である場合、所得税・住民税あわせて20.315% の固定税率で分離課税が適用されます。以下の設例を用いて、会社を売却した場合、株主の税金をどのように計算するかを説明します。

<設例>
会社株主は、社長のみの一人株主とします。
株式の出資額10,000千円、株式譲渡代金100,000千円、売り手(個人株主)のM&A手数料5,500千円 (消費税込み)とします。

株式の売却益(注)は、株式譲渡代金から株式の出資額を差し引いた、90,000千円(=100,000千円−10,000千円)となります。
(注)キャピタル・ゲイン(資本利得)

個人株主の場合、株式の売却益は分離課税の対象となり、税率は20.315%(注)が適用されます。
また、M&A手数料(消費税込み)は、売却益から費用として差し引くことができます。
よって、個人株主が負担する税金は、以下のように計算することができます。
(90,000千円−5,500千円)×20.315%(注)=17,166千円
(注)所得税及び復興特別所得税(15.315%)+住民税(5%)

【7】会社を売却するタイミングを考える場合のポイント

会社を売却するためのポイントは3つあります。
ポイント① 引退の時期を決める。
「この事業が上手くいったあとで」といった条件付きの不明確な時期の決め方ではなく、できれば年月を確定することをおすすめします。時期を決めることで、実現するための強い決意が生まれます。
経営状態がよいタイミングで売却すると高い株価で売却でき有利ですが「企業価値が上がったら売却してリタイアしよう」という決め方だとなかなか踏ん切りがつかず、ハッピーリタイアの実現は難しくなるでしょう。

ポイント② 売却前に次の経営者がやりやすいように経営環境を整えておくことです。
後顧の憂いなくリタイアするためには、経営者の頭の中にある重要な項目を整理しておくことが重要です。
特に、従業員の対するケアがポイントであり、各従業員の性格等を、事業引継ぎの際に伝えておかなければ、その後の組織運営に支障が出ます。

ポイント③良いフィナンシャル・アドバイザーを見つける。
会社を売却する際には、専門的知識が必要となり、M&Aの専門家のサポートが必要となります。
中小M&Aの実績が十分にあり、業界での評判の良いM&A仲介会社を選ぶとよいでしょう。
どのM&A仲介会社も初期相談は、無料で対応しています。複数社と面談して、相性の良さそうな会社を選択するのも一つの方法です。
(注)フィナンシャル・アドバイザーの役割は、クライアント(売り手、買い手)が目指す戦略実現のために、最適なM&A手法を企画 立案し、その執行を全面的にサポートすることです。アドバイザリー会社のタイプとしては、金融機関系、会計会社系、ブティッ系の3つに大別することができます。

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