M&A後のストーリー 雑貨の企画卸業編

従業員たちの成長と未来を広げるシナジー効果

【譲渡企業】オーナー社長様
【譲渡企業】オーナー社長様
譲渡企業
業 種 雑貨の企画卸
従業員数 約20名
譲渡理由 後継者不在、会社の発展のため
代表の年齢 60代
M&Aで
実現できたこと
・後継者問題の解決
・一緒にやってきた従業員の雇用安定
・取引先との関係継続
買手企業
業種 雑貨の企画・製造
従業員数 約200名
上 場 非上場
M&Aの目的 ・優良な取引先との業容拡大

 長年一緒にやってきた従業員の働き方を維持しながら、将来性を広げられる事業承継を実現したかったオーナー社長様。M&Aの苦労や譲渡後のシナジー効果についてお話しを伺いました。

体力の問題よりも

 事業承継を考え始めたのは60歳を過ぎた頃からでした。体力的なことよりも業種柄自分の感度とマーケットニーズとの差を感じる前に身を引きたいと考えていたからです。当社は20代・30代をターゲットとしたグッズを企画していますが、若い世代の生き方の変化や、SNSの多様化によって、グッズの演出や付加価値の付け方は大きく変化してきました。その世代の感覚や流行のキャラクターを理解できないと売れるグッズは作れません。
「自分自身が会社成長のボトルネック、老害になってはいけない。」と常々自身に言い聞かせてきたので。
 従業員は30代が多く、もっと活躍したり、収入が上がるようになるためには会社に新しいパワーが必要だなと感じました。

外部人材を新しい社長にする難しさ

 私の子供は事業を継ぐ意思がなかったので、62歳の時に、次期社長になってもらえそうな人を役員として採用しました。しかし、既存従業員との相性が合わず、その方には短期間で退職してもらいました。若い人を従業員として育てるのとは違い、会社のトップになれる人材は経営能力はもちろんですが、特に中小企業ではその会社の文化や従業員のことを理解して一緒にやっていける人間性が求められると思います。
 これらの経緯を踏まえて、商工会議所の「事業承継・引継ぎ支援センター」に相談に行きました。
(毎日ひっきりなしにM&A会社からDMが来ていましたが、それらは全部捨てて商工会議所のチラシだけはとっていました。)

うちのような小さな会社でもM&Aできますか?

 相談員の方からは「お相手が見つかる可能性は十分ありますよ」と背中を押していただき、3社のM&A仲介会社と面談しました。感じたことは、仲介会社選びは人それぞれということです。熱意をもって「一生懸命がんばります!」とプレゼンしてくれた会社も良いなと思いましたが、私は論理的に説明してくれた経営承継支援の高橋さんを選びました。
 会社譲渡という大きな決断をする上で、助言をもらう仲介役との意思疎通や考え方の相性はとても大切です。
どのM&A会社・コンサルタントが合うかは人それぞれだと思いますので、これから譲渡を検討する方は複数のM&A会社と面談して、比較検討することをおすすめします。

こだわりは最小限にする

  • 従業員を大切にしてくれて、会社を伸ばしてくれること

 私はこの2点に絞って相手選びを行いました。社名存続、譲渡金額、社長の処遇…など相手に求めたいことは数あれど、全てを満たしてもらおうとすると自分のストレスになって返ってきます。それに、自分ができなかったことを相手に求めるのもちょっと違うかなと思います。
 「伸ばす」という観点でシナジー(相乗効果)が見込めそうな3社とトップ面談し、それぞれの経営者から従業員の働き方などに重点をおいてヒアリングしました。3社ともハードワークで残業が多めでしたが、最終的に買手になった社長さんの人間性や話しぶりから従業員を大切にされており、うちの従業員も大切にしてくれて、会社も伸ばしてもらえそうだなと感じ、具体的な交渉に入りました。

売手の苦労と精神面の大変さ

 これは経験者として伝えたいことの1つです。M&Aは契約が決まるまで『秘密』です。仲介会社から求められる「事業関係の資料」「業績や財務の資料」を従業員に悟られないように1人で集めなければなりません。相手候補が出てくれば、多岐にわたる多くの質問が寄せられ、それも1人で回答を作成しなければなりません。「そんなこと聞かれてもわからないよ…」と思うこともありましたし、秘密を続ける(周囲に相談できない)孤立感もありました。
 最終契約書においては、会社を譲渡して去る立場の私に多くの保証を課されることを知り「そこまで保証しなきゃいけないの?」と感じる時も多々ありましたが、担当の高橋さんが丁寧に説明してくださり、フォローの言葉もかけてもらいながら、売手側に寄り添ってくれたことは心強かったです。
 買手はお金を出して投資するわけですから、その中身を売手が保証することは理解できますし、それゆえM&Aの一般的な条項であることも理解できますが、そういう気持ちになることをM&Aを検討する買手・売手双方だけでなく仲介の方にも知っておいていただきたいです。

<よくある最終契約書の売手側の表明保証・誓約事項>
<表明保証>
・株主は他にいない
・決算資料、資産や財務内容は真実である
・給与や社保料、納税に未払・未納はない
・簿外債務、係争ごとはない
<誓約事項>
・競業となる事業は当面やらない
・従業員の引き抜きはしない
・従業員の継続就労に努める
・取引先の継続に努める   など

M&A後のシナジー発揮

 当社と買手さんとは、同じグッズ制作でも取引先の重複がなく、企画物のジャンルが異なっていたため、早い段階からシナジー(相乗効果)が現れました。1つのキャラクター・作品でも様々なグッズが展開されるため、両社のそれぞれの取引先に対して幅広い商品展開ができるようになりました。当社が買手さんの取引先のグッズ企画を行うこともありますし、その逆(当社の取引先のグッズを買手さんが企画すること)もあります。

人材のシナジー

 案件は増えても、残業はそれほど増えていません。以前は、自前でデザインや生産管理を行っていましたが、今は買手企業のデザイナーや生産管理担当者が付いてくれて、当社は「企画」に集中できるようになりました。
 また、当社側の従業員が続けて育休に入ることになり人手不足になった時は、すぐに買手企業からヘルプ人材を送ってくれました。ちゃんとうちの従業員を大切にしてくれているんだなと感じました。先方の常務さんから「みなさん優秀な方々ばかりですね」と言っていただいたことも、今後の安心につながりました。

従業員に感謝されるM&A

 譲渡契約後、私は「顧問」の肩書きに変わりましたが約半年間は今までどおり社長の仕事を続け、その後3か月かけて引継ぎを行って退任しました。退任後、会社の忘年会に呼ばれて出席した時に、従業員から「この企業を選んでいただき、一同感謝しています。仕事は楽しくできているし、年収も増えました」と言ってもらったのが本当に嬉しかったです。
 私の家族にとっても、子供たちは自分の人生を進んでいますし、長年事業を支えてくれた妻は会社の引継ぎ先が決まったことに一番喜んでくれました。私自身は経営のプレッシャーが無くなり、近所の仲間と好きなことをやったり、高校・大学の同期・同窓生と会って話したりしています。先々月、同期の「古希の会」の後、クラスのグループLINEができました。悠々自適に暮らしながら、今まで妻に任せっきりだった家事を自分でいくつかやるようになりました。

チャンスが広がる未来へ

 コロナ禍の時は売上減少に苦しみましたが、このM&Aにより、従業員にとって仕事の幅や年収を増やすことができたのは本当に良かったと思います。日本全体で「賃上げ」が求められていますが、競合他社が多い中で、我々のような小規模な会社が単独で新規の取引先を増やすのは簡単なことではありません
 正直、M&Aが決まるまではいろいろと大変な局面もありました。ですが、結果としてM&Aによって会社の経営基盤が安定し、従業員と今までやってきた事業の未来が大きく広がったことは、「事業承継」という経営者の最後の大仕事をやり遂げた成果だと感じています。

担当者から一言

高橋 陽一

マネージングディレクター高橋 陽一 (コンサルタント紹介ページ

 「従業員を大切にし、会社を伸ばしてくれるお相手」というオーナー様の第一のご希望を叶えるため、得意先や商材が重複せず相乗効果のある同業者を選びました。後日談として、従業員様にも喜んでいただけたとお聞きして嬉しい限りですが、これはオーナー様が長年に渡って従業員様を大切にされ、会社の成長を願う真摯な想いがあったからこそです。
 このようなオーナー様の想いに寄り添い、叶えていくことが私共の使命であることを心に刻み、これからも精一杯ご支援して参りたいと存じます。

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