目次
2024年5月頃より、中小企業M&Aの仲介を巡るトラブルに関する事件が、各マスコミで取り上げられました。
その代表的な事件が、L社に関するものでした。L社は買い手として、2年間に37社を買収しました。この買収ペースは毎月1.5件であり、異常なものでした。これでは、買収対象会社の買収監査など十分に行ったのか疑問が残ります。
その顛末の一例として、「M&A名目で中小企業に入り込みカネを巻き上げ…悪質投資会社の手口とは 全国で相次ぐ被害」という報道がありました(2024年5月)。
また、L社のその他の買収案件としては、電気設計会社、結婚式場の運営会社、 食品製造会社などが公表されました。報道された内容は、債務保証を外さないまま資金を吸い上げ、譲渡対価の未払い、11社営業停止、5社倒産、給与未払い、従業員立替金踏み倒しなどでした。
L社の買収案件を仲介した会社として、上場企業、未上場企業など6社の仲介会社の社名が公表されました。この6社の中には、買収対象の売り手から、仲介した仲介業者に買い手の調査や確認が不十分であったとして損害賠償訴訟を起こされた会社もありました。また、L社の買収後抜け殻になった会社に某M&A仲介会社が、「弊社にてリサーチを進めたところ、貴社の事業領域が正に合致しており」という内容のDMを送ったという報道もありました(某経済誌)。
問題のある買い手の共通項目
買い手は買い手は何社も買収しており、⼀見するとストロングバイヤー
何社も買収実績のある買い手は、ストロングバイヤーと言われますが、その事業規模、資金力、人材などの観点から総合的に判断する必要があります。
例えば、多くの会社を買収しても子会社を管理する人材が不足している場合、買収後の経営が上手く行かずに、売り手と買い手の双方が不幸になります。
売却後の買い手の義務である債務保証の解除が実現されず
一般に、中小企業のオーナー社長は、自社が金融機関から借り入れする際には、債務保証(個人保証)をします。そして会社を売却する(会社の経営権を買い手に渡す)場合は、債務保証の解除・移行をします。この債務保証の解除・移行は、買い手が責任を持って行います。
資金の集中管理と称して、買い手が対象会社の資金を吸い上げ
買い手は、買収後の子会社(売り手)の資金管理を行います。具体的には、運転資金、資金繰りの状況を把握して、子会社の資金が不足する場合は、例えば、子会社貸付によって資金を補充します。
今回のトラブル事例では、L社は子会社の資金繰りを無視して子会社の資金を吸い上げた結果、子会社の資金繰りが悪化し、 従業員給与の未払い、租税公課の未納、各種支払いの遅延などの事態になりました。これは本末転倒です。
買い手に損害賠償求めるも資力なく、仲介した会社に批判
売り手から仲介した仲介業者に買い手の調査や確認が不十分であったとして、損害賠償訴訟を起こされた仲介業者がありました。これを受けて、この仲介業者は買い手に損害賠償訴訟を起こしました。しかし、買い手には十分な資力がなく、仲介業者のレピュテーションも下がりました。
M&Aの買い手の要件
M&A後に子会社を管理できるか? 役員などの派遣
中小企業のM&Aの売却理由のうち、最も多いのは後継者不在です。売り手のオーナー社長はM&A後にリタイアするので、買い手から代わりに新社長を子会社(売り手)に送り込む必要があります。L社は2年間で37社を買収しましたが、子会社に送り込む人材はいませんでした。
M&A後、売手社長の個人保証を解除する
買い手は、M&A後に必ず売り手のオーナー社長の個人保証を解除・移行する手続を行います。
仲介業者は、M&A後に個人保証の解除・移行が行われたかどうかを必ず確認する必要があります。
資金の調達、M&A後の資金管理など
マッチングのプロセスにおいて、仲介業者は買い手候補を選定する際に、シナジーの検討と併せて、買い手の資金力、信用力などを確認します。
また、M&A後の子会社の資金管理を適切に行う買い手であるか否かも重要な確認事項です。
過去に買収した子会社と資金面でトラブルを起こした会社は、買い手として不適格です。
買い手の信用力、会社規模
上記の3点と関連する要件です。会社規模が一定以上であれば、M&A後に子会社へ送り込む人材がいます。買い手に信用力があれば、売り手のオーナー社長の債務保証(個人)保証の解除・移行もスムーズに行うことができます。買い手の資金力に問題がなければ、買収資金の準備、子会社の資金管理も心配することはありません。
(参考) M&Aガイドライン
M&Aガイドラインは、後継者不在の中小企業のM&Aを促進するため、中小企業オーナーにM&Aのプロセスや注意点を示すとともに、M&A支援機関に対して適切な行動指針を示すものとして中小企業庁が発表したものです。
M&Aガイドラインには法的な強制力はありませんが、2021年8月に中小企業庁が創設したM&A支援機関登録制度の登録支援機関は、M&Aガイドラインの遵守が求められています。
また、同登録制度に登録している支援機関を利用することが、M&Aに関する補助金の受給要件であり、M&Aガイドラインの実効性を担保しています。
M&Aガイドラインは、2020年3月に初版、2023年9月に第2版、2024年8月に第3版と改定を重ねています。
M&Aガイドライン第3版では、仲介/FA契約締結前の重要事項説明の追加説明事項として、譲受側(買い手)への調査の対応、実施体制の構築が新たに追加されました。
譲受側(買い手)への調査概要の例
・財務状況に関する調査
・財務諸表(決算書)の確認
・コンプライアンスに関する調査
・買い手(法人)のみならず買い手の経営陣、主要株主、関連会社等
・Web検索、社内や業界共有情報の確認、その他外部DBや調査会社の活用
・事業実態の調査
・商業登記簿の確認、web地図閲覧、事務所の訪問
・最終契約の実行可能性の調査
・財務諸表、預金通帳、融資証明書等の確認
・その他M&Aに取り組む背景、過去のM&Aでのトラブルの有無
買い手の属性に関する考察
現状、中小企業のM&Aにおいて、仲介会社が買い手の情報を収集する方法は、直接営業と間接営業の2つに大別することができます。両方法の情報ルート、情報確度、費用、営業手法の各項目の比較は、下の表のとおりです。
直接営業と間接営業の比較
このうち、重要な項目は情報ルートと情報確度です。直接営業の場合、入手した買い手の情報については、買い手の定量情報、訂正情報などを調査する必要があります。具体的には、HP、信用調査機関のレポートなどによって調べます。ただし、HPがない会社、信用調査機関のレポートなどがない会社の場合、調べようがありません。
一方、間接営業の場合は、提携機関である金融機関の取引先、会計事務所の顧問先が買い手になります。この場合は、買い手の属性が担保されており、提携機関が定量情報、訂正情報を把握しています。特に金融機関から紹介された買い手は、信用力、資金力が担保されています。換言すれば、会社を買えない買い手を紹介されることはありません。
M&Aの情報(売り手、買い手)を入手する場合、その情報の出所が重要です。直接営業の場合、売り手・買い手の素性が不明であり、調べても把握できない場合もあります。その場合は、仲介会社は慎重に対応する必要があります。 一方、間接営業の場合は、売り手・買い手の素性が分かりますので、ある意味、安心して仲介会社は対応することができます。
株式会社経営承継支援は、一社でも多くの企業を廃業危機から救うため、全ての企業様のご相談をお受け致しております。
M&A(株式譲渡、事業譲渡等)に関して着手金無料でご相談可能ですので、お気軽にお問合せくださいませ。