調剤薬局の売却とは?価格相場や高値で売るコツ、成功事例を解説【2024年最新】

薬局売却は、後継者不在や主力事業への集中を図りたいケースなどに適した選択肢です。薬局売却価格は、企業価値や技術料などを基準に、交渉で決定します。薬局の売却価格相場や高値で売るコツ、最新・オリジナルの成功事例を解説します。

目次 [ ]

薬局の売却が適しているケース

はじめに、薬局の売却を行うべき4つのケースを解説します。

親族や社内に後継者が不在である

親族や社内で後継者が不在である場合、薬局を売却すべきであると言えます。なぜならば、後継者が不在の状態を放置すると、黒字であっても廃業せざるを得なくなるためです。M&Aによって会社や薬局事業を売却すると、会社の経営権や事業の運営権・資産等を買い手側に引き継いでもらえるため、後継者が不在でも事業承継を実現できます。

また、後継者となり得る親族や従業員がいたとしても、経営者としての資質を備えていない場合もあります。こうしたケースで無理に事業承継を進めると、業績の低下や従業員からの反発などが生じ、事業を継続できなくなるおそれがあります。後継者候補に資質がない場合において、経営のノウハウや資質を有する第三者への薬局の売却は最適な手法となるでしょう。

収益性や将来性の高い事業に集中したい

複数の事業を展開している企業が、収益性や将来性の高い事業に集中したい場合において、薬局の売却は有用な選択肢となります。

たとえば、薬局事業が不採算であり、会社全体の足を引っ張っているとしましょう。不採算の薬局事業を売却することで、薬局事業で出ていた赤字分が解消され、業績の改善につながります。また、薬局事業に費やしていた資金や人員などの経営資源に空きが生じます。空きができたリソースを収益性や将来性の高い事業に投下することで、より一層それら事業の業績や成長性を高めやすくなります。

また、複数の薬局を運営しており、薬局間で収益性に差が生じているケースにおいてもM&Aは効果的です。不採算の店舗のみを売却し、リソースを収益力が高い店舗に集中させることで、薬局事業全体の業績アップにつながるでしょう。

可能な限り多くの資金を手元に残してリタイアしたい

後継者不在や業績悪化はもちろん、単純に「リタイアしてのんびり暮らしたい」といった理由などから廃業したいと考える方は少なくありません。

どのような理由にせよ、薬局事業を廃業する際には、医薬品・設備の廃棄や店舗の原状回復などに、多額の費用が発生します。また、場合によっては借入金の返済も発生するでしょう。具体的に必要となる金額は状況次第ですが、数百万円またはそれ以上のコストを要する場合が大半です。そのため、廃業すると、経営者の手元にはほとんど資金が残らない可能性があります。

一方でM&Aを行うと、会社や薬局事業の売却利益を得られます。ある程度まとまった金額を利益として受け取れるため、廃業するよりも多くの資金を確保した上でリタイアできる可能性が高いでしょう。

従業員や顧客に迷惑をかけずにリタイアしたい

理由に関係なく、廃業すると従業員は仕事を一時的にでも失ってしまいます。また、地域に根付いている薬局だと、必要としていた顧客にも迷惑を与えてしまいます。

一方で薬局の売却では、前述のとおり買い手側の下で薬局が存続します。そのため、従業員の雇用は維持されますし、顧客も引き続き同じ店舗を利用し続けることができるでしょう。

従業員や顧客を大事にしている経営者の方こそ、廃業ではなくM&A(会社や事業の売却)という選択肢をとることがおすすめです。
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薬局の売却価格

売却価格算出のプロセスや相場を理解していないと、買い手から安く店舗や会社を買い叩かれたり、実態に見合わない価格を希望することで交渉が決裂したりするリスクが高まります。こうしたリスクを回避するためには、本章で解説する売却価格の相場や算定方法、価格に影響する要素の把握が効果的です。

年倍法に基づく相場

薬局の売却では、年倍法の結果を価格相場として考えることが一般的です。年倍法とは、時価純資産と営業利益に基づいて企業価値(≒売却価格の相場)を求める手法です。計算式は以下のとおりです。

売却価格 = 時価純資産 + 営業利益 × 2〜5年分

時価純資産とは、純資産を時価に直したものです。たとえば土地や棚卸資産などの資産の場合、含み損益を加算・減算することで、簿価から時価に換算します。一方で、「営業利益×2〜5年分」はのれん代(ブランド力などの無形資産の価値)を表します。基本的には、売り手企業の将来性や競争優位性が高いほど、かけ合わせる年数を長くします。

以下の簡単な例を使って、薬局を含む会社売却の相場を算出してみましょう。

  • 時価純資産:3,000万円
  • 営業利益:2,000万円

売却価格の相場は以下のとおりです。

  • 売却価格(相場) = 3,000万円 + 2,000万円 × 2〜5 = 7,000万円〜1億3,000万円

上記のとおり、容易に相場を見積もれる点が特徴です。ただし、年倍法はファイナンスの理論に準拠した手法ではありません。また、買い手・売り手の意向や市場環境などを反映していません。そのため、年倍法で算出する相場は、売却価格を見積もる際の目安として考えることがおすすめです。

売却価格の算定方法

実際の薬局売却では、売り手と買い手の交渉で合意に至った金額が、最終的な売却金額となります。ただし、可能な限り高値で売りたい売り手と、安く買いたい買い手では利害が対立するため、交渉が平行線となって進まなくなるおそれがあります。そのため、多くのケースでは企業価値評価(バリュエーション)を行い、その評価額を前提に交渉を進められます。

バリュエーションを簡単に説明すると、ファイナンスの理論に基づいて会社や事業の価値を評価するプロセスです。ある程度は合理的な金額を求めることができるため、売り手と買い手の間で納得のいく交渉を行いやすくなります。

バリュエーションのアプローチは、インカム、コスト、マーケットという3種類に大別され、それぞれ着眼点やメリット・デメリットが異なります。また、各アプローチの中にも複数の手法があり、企業価値の評価プロセスは異なります。

したがって、売り手企業の状況や特徴、双方企業の意向などに基づいて、最適なアプローチ・手法を選択することが求められます。最大限正確な金額を求めるために、複数のアプローチや手法を併用するケースも少なくありません。

各アプローチの着眼点、メリット・デメリット、主な手法を下記にまとめましたので参考にしていただけますと幸いです。

アプローチの種類 インカムアプローチ コストアプローチ マーケットアプローチ
着眼点 将来的な収益力 過去の蓄積(純資産) 市場、類似する取引や企業等
メリット ●         将来の収益力を加味できる

●         評価対象企業に特有の価値(強み)を反映できる

●         客観性に優れている ●         客観性に優れている
デメリット ●         恣意や主観が入り込みやすい ●         将来性や特有の価値、市況を反映できない

●         財務諸表のミスに結果が左右される

●         特有の価値を反映しにくい

●         類似会社や過去の株価といった情報がないと活用不可

主な手法 DCF法 時価純資産法 類似会社比較法

 

売却価格を左右する要素

薬局の売却では、バリュエーションの結果に加えて、主に以下の項目も売却価格を左右することが多いです。

  • 技術料
  • 処方せん応需枚数
  • 薬剤師などのスタッフの人数
  • 店舗の立地
  • 独自の集客ルート
  • 事業の成長性

なぜならば、買い手側が買収可否の判断や買収額の検討にあたって、上記項目をチェックする傾向があるためです。上記の項目が買い手にとって好ましい(たとえば薬剤師が多いなど)ほど、売却価格は相場よりも高くなる可能性が高まります。

上記の項目も踏まえて、具体的に高値売却の可能性を高めるコツについて、次章でくわしく解説します。
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薬局を高値で売却できる可能性を高めるコツ

薬局を高値で売却しやすくする5つのコツを解説します。

薬剤師資格を有する人材を多く確保する

厚生労働省が民間企業に委託した調査によると、約半数の都道府県では、薬局において薬剤師の不足が生じていると認識されています。[1]こうした調査もあり、薬局業界では慢性的な薬剤師不足が課題になっていると考えられます。

薬剤師不足の解消を目的に、薬局の買収を図る買い手企業のニーズは大きいです。そのため、薬剤師資格を有する人材を多く確保しておくことで、相場以上の価格で薬局を売却できる可能性が高まります。

高値で売却できるタイミングを見極める

最適なタイミングを選ぶことで、薬局を高値で売却しやすくなります。具体的なタイミングは以下の2つです。

  • 業績が成長中である
  • 市場規模が拡大している

特に重要なのは1つ目のタイミングです。買い手企業は、現時点の売上や利益と同じかそれ以上に、事業の将来性も重視する傾向があり、その判断材料として業績の成長率が挙げられます。現時点で売上や利益が小規模でも、過去数年で急速に業績が成長している場合には、高値で売却できるかもしれません。

自社を高く評価してくれる買い手を探す

交渉する買い手候補が変わってくると、売り手の薬局に対する評価内容も変わってきます。なぜならば、評価する会社によってニーズや重視する要素、売り手企業との間で期待できるシナジー効果などは異なるためです。

たとえば、薬剤師の数を強みとする売り手企業を例に考えてみましょう。薬剤師不足の解消を目的とするA社と、事業エリアの拡大を重視しているB社がいる場合、前者の方が売り手企業を高く評価する可能性は高いと考えられます。

こうした理由から、根気強く自社を高く評価してくれる買い手候補を探すことが重要です。そのためには、余裕を持ったスケジュールでM&Aに臨む必要があるでしょう。

自社の強みと弱みを整理する

強みと弱みの整理も、薬局の高値売却につながります。

強みを明確にすることで、買い手側に対して自社の魅力を明確に訴求しやすくなります。強みの明確化に際しては、買い手の側の視点で「どのような経営資源にニーズがあるのか」という視点を持つことが重要です。

一方で弱みの明確化は、自社の課題を補完できる買い手探しを行う上で重要です。たとえば集客に弱みを持っている場合、集客ノウハウに強みを有する買い手候補を選ぶことで、マイナス評価を得にくくなります。なぜならば、買い手視点で見ると、自社の強みを用いることで弱みを打ち消し、売上や利益を大きく伸ばす余地があるためです。

薬局のM&Aに強い専門家に依頼する

高値での売却には、「自社の強みを評価してくれる買い手探し」と「自社の強みを正しく企業価値評価に反映すること」の2点が求められます。そのためには、薬局のM&Aに関するノウハウや経験が豊富な専門家(仲介会社など)への依頼が不可欠です。

なぜならば、薬局のM&Aや業界知識がないと、買い手との相性や保有する経営資源の価値を正しく分析できず、マッチングミスが生じたり、バリュエーションの結果が過小評価となったりするおそれがあるためです。

こうした事態を防ぐためにも、薬局の買収・売却の実績やノウハウが豊富な仲介会社やM&Aアドバイザーに業務を依頼しましょう。

[1] 薬剤師確保のための調査・検討事業報告書(厚生労働省)
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薬局売却の手法

薬局の売却では、主に「株式譲渡」、「事業譲渡」、「会社分割」という3つの手法が活用されます。本章では、各手法の仕組みや手続き、メリット・デメリット(注意点)を解説します。

株式譲渡

株式譲渡とは、売り手企業が自社株式を買い手企業に売却し、会社の支配権(経営圏)を譲渡する手法です。一部の店舗や薬局事業単体ではなく、会社丸ごと売却したいケースに適しています。

株主(≒経営陣)が買い手になるだけで、会社内の資産や権利義務等に変動は生じません。そのため、事業譲渡や会社分割といった他スキームと異なり、面倒な手続き(個別の引き継ぎや債権者保護など)を必要としない点がメリットです。

ただし、買い手側は不要な事業や負債、簿外債務を引き継いでしまいます。負債や簿外債務などが多い企業だと、買い手が見つかりにくくなるリスクがあるため注意が必要です。

事業譲渡

事業譲渡とは、会社内にある事業の一部または全部を買い手企業に売却する手法です。株式譲渡と異なり、法人格(株式)の移転は伴わない点が特徴です。

たとえば、複数の店舗を運営している調剤薬局が、不採算の1店舗の身を売却したいケースに適しています。また、薬局事業から撤退し、主力事業への集中を図る際にも活用されます。

最大のメリットは、譲渡する資産や事業、権利などを自由に選択できる点です。不要な資産や簿外債務を引き継ぐリスクが低いため、過大な負債やリスク等を抱えている企業でも比較的買い手が見つかりやすいと言えます。

デメリットは、譲渡する資産や権利ごとに、個別に引き継ぎの手続きを行う必要がある点です。たとえば、薬剤師の雇用契約を譲渡する場合、買い手側で個別に雇用契約を結び直す必要が生じます。また、競業避止義務によって売却後の事業運営が制限されるおそれがある点にも注意です。

会社分割

会社分割とは、株式会社や合同会社が事業に関して保有する権利義務の一部または全部を、分割によって他社へと包括的に承継させるM&A手法です。新設される会社が買い手となる場合は新設分割、既存企業が買い手となる場合は吸収分割と呼ばれます。

事業譲渡と異なり、資産や契約等を包括的に承継できる点が特徴です。個別の引き継ぎや従業員からの同意獲得が不要である点がメリットとなります。ただし、原則として株主総会の特別決議や債権者保護手続きが必要となる点に注意です。
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薬局売却の流れ

薬局の売却(M&A)は、以下の流れで実施されるのが一般的です。

薬局のデューデリジェンスでは、店舗の実地調査が実施されるケースも多いです。また、クロージングが完了した後は、買い手企業との間で経営統合(PMI)が実施されます。PMIによってシステムや制度、人事面などを問題なく統合できるかがM&Aの成功を左右するため、慎重に計画策定や実行を行う必要があります。

薬局の売却・M&A事例

薬局の売却・M&A事例を5例解説します。1〜4例目は2024年の最新事例(予定含む)、5例目は弊社が支援して成立した事例です。事例により、売り手側に対する買い手のニーズ(目的)や用いられるM&A手法などに対する理解が深まりますので、ぜひ参考にしてください。

スギホールディングスに対するI&Hの売却

売り手企業の概要

I&H:調剤薬局の運営、医薬品卸、介護施設運営など

買い手企業の概要

スギホールディングス:関東や中部などのエリアで、調剤併設型ドラッグストアを1,700店舗以上展開

M&Aの実行目的

買い手・売り手企業: 両者の事業ノウハウやリソースの融合による事業成長の加速

M&Aの成約に関する詳細

実行時期 2024年8月(予定)[2]
M&A手法 株式譲渡
結果 I&H株主がスギホールディングスに61.89%の株式を売却
売却金額 非公表

ウエルシアホールディングスに対するウェルパークの売却

売り手企業の概要

ウェルパーク:首都圏でドラッグストアおよび調剤薬局を展開

買い手企業の概要

ウエルシアホールディングス:調剤併設型ドラッグストアチェーンの運営

M&Aの実行目的

買い手企業: ドミナント戦略の強化、物流や販促の最適化

売り手企業:買い手企業が有するPB商品の導入、調達・販促等の共同化による収益力や集客力の向上

M&Aの成約に関する詳細

実行時期 2024年9月(予定)[3]
M&A手法 株式譲渡
結果 ウェルパーク株主がウエルシアホールディングスに全株式を売却
売却金額 83億円

 

ファーマライズホールディングスに対するGOOD AIDの売却

売り手企業の概要

GOOD AID:調剤薬局や零売薬局などの事業を展開

買い手企業の概要

ファーマライズホールディングス:全国的に保険調剤薬局やドラッグストアなどを運営

M&Aの実行目的

買い手・売り手企業: 経営資源の相互活用による事業の強化や拡充等のシナジー創出

M&Aの成約に関する詳細

実行時期 2024年1月[4]
M&A手法 株式譲渡
結果 GOOD AID株主がファーマライズホールディングスに全株式を売却
売却金額 非公表

 

たんぽぽ薬局に対するミック・ジャパン新会社の売却

売り手企業の概要

ミック・ジャパン:関西エリアを中心に調剤薬局やドラッグストア、デイサービスなどの事業を展開

※譲渡対象は、対象事業を承継するために新しく設立した株式会社mik japan

買い手企業の概要

たんぽぽ薬局:調剤薬局の運営

M&Aの実行目的

買い手企業: 店舗における物販機能の強化、ECサイト等を通じたPB商品のさらなる拡販

M&Aの成約に関する詳細

実行時期 2024年4月(基本合意締結)[5]
M&A手法 株式譲渡
結果 ミック・ジャパンがたんぽぽ薬局に新会社の株式を売却
売却金額 非公表

 

大手チェーン薬局に対する調剤薬局2店舗の売却

売り手企業の概要

売り手企業:当時、調剤薬局2店舗+別事業を展開

買い手企業の概要

買い手企業:全国で300店舗を展開する大手チェーン薬局

M&Aの実行目的

売り手企業: 大手グループへの傘下入りによる採用難の解消、薬剤仕入れの強化

M&Aの成約に関する詳細

M&A手法 事業譲渡
結果 ●         売り手企業が買い手企業に、調剤薬局2店舗を売却

●         売却後、売り手企業のオーナーは顧問という立場で店舗運営をサポート

 

[2] I&H 株式会社の株式の取得に関するお知らせ(スギホールディングス)

[3] ウエルシアホールディングス株式会社による株式会社ウェルパークの完全子会社化(イオン)

[4] GOOD AID株式会社の株式取得(ファーマライズホールディングス)

[5] 株式会社ミック・ジャパンの事業を承継する新会社の株式取得(たんぽぽ薬局)

薬局の売却・M&A動向

薬局の売却・買収は、主に以下の課題を解決する手段として活発に活用されています。

  • 深刻な薬剤師不足
  • 診療報酬の改定による先行き不安
  • 後継者不足

また、大手ドラッグストアによる調剤薬局業への進出も活発的に行われています。

今後もこの傾向は続くと見られるため、薬局の売却・買収は経営課題の解決手段として活用されると考えられます。

 

薬局の売却に関するまとめ

後継者不足の解消や資金の確保を図る上で、薬局の売却は有用な手段です。基本的に売却価格は、バリュエーションの結果に基づき、買い手との交渉に基づいて決定されます。薬剤師の確保や自社とのシナジー効果が見込める買い手選定などにより、相場よりも高値で売却できる可能性が高まるでしょう。

 

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M&A(株式譲渡、事業譲渡等)に関して着手金無料でご相談可能ですので、お気軽にお問合せくださいませ。

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