M&Aにおけるシナジー効果とは?

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シナジーの意味

シナジー(synergy)とは、ものや事柄、人などが複数存在することによって、お互いに作用し合い、効果や機能を高めることを意味します。ビジネスの場で用いられることが多く、一般にはシナジー効果を意味しています。本来、「シナジー」は薬学や生理学、生物学分野の専門用語として使用されていましたが、ビジネスにおいて相乗作用を意味する言葉として一般化されています。

M&Aにおけるシナジー効果

M&Aにおけるシナジー効果は、2つの企業が組み合わさることによって、両社が単独の場合よりも大きな利益が生まれることです。換言すると、X社の「1」とY社の「1」を組み合わせることで、結果が「2」よりも大きくなる状態を言います。シナジー効果は相乗効果とも呼ばれ、M&Aで得られるメリットの一つです。 M&Aは、シナジー効果獲得を目的として行われます。

M&Aにおいては、シナジー効果を得られるかが成功の大きなポイントです。シナジー効果は、双方にとって利益が生まれる必要があるため、片方の企業を犠牲にして、もう片方の企業だけが得られる利益は、シナジーとは言いません。

アナジー効果(負のシナジー効果)

シナジー効果の対義語としてアナジー効果(負のシナジー効果)があります。アナジー効果とは、2つの企業が組み合わさることで、それぞれが単独の場合よりもかえって得られる利益が少なくなることです。M&Aにおける相手企業選びや戦略を誤り、シナジー効果を狙ったつもりがアナジー効果になる場合もあります。

アナジー効果の例:

・コスト増加

事業多角化に伴う経営の非効率化

経営統合作業(事業体制の再編成、制度・システムの統一、従業員教育など)の遅延によるコスト増加

・人材の流出

M&A実行や経営統合方針、処遇などへの反発から生じる人材の離散

・顧客・取引先の離反

ブランドの変容への反発から生じる顧客離反

経営支配権の移動から生じる取引先離反

M&Aにおけるシナジー効果の種類

M&Aのシナジー効果はさまざまですが、主なシナジー効果の種類および事例を紹介します。

「売上シナジー」

「売上シナジー」は、2社がM&Aにより組み合わさった結果、売上増加になるシナジー効果です。売上シナジーが生じるM&Aの例として、次の2つがあります。

・同一市場で競合する2社が経営統合したことにより、他の競合会社の売上が減少し、市場シェアを拡大した。

・分野の異なる商品を扱う2社が合併し、クロスセル(注)の販売手法が可能となりました2社が組み合わさることで販売の自由度が高まり、売上増加に繋がりました。

(注)顧客が商品を購入する際に追加の商品を提案する販売手法。

「コストシナジー」

「コストシナジー」とは、2社がM&Aにより組み合わさった結果、コスト削減につながるシナジー効果です。コストシナジーにつながるM&Aの例として、次の2つがあります。

・両社の重複する設備を廃止したことによって、設備の維持管理費を削減することができた。

・物流ネットワークが強化されたことで、両社の物流コストを削減することができた。

この様に2社に共通する経営資源を統合してスリム化することによって、コスト削減が可能です。

「財務シナジー」

「財務シナジー」とは、2社がM&Aにより組み合わさった結果、財務上のメリットが生じるシナジー効果です。財務シナジーにつながるM&Aの例として、以下のものがあります。

2社が経営統合したことで信用力が上がり、金融機関から有利な条件の融資を受けやすくなった

「事業シナジー」

「事業シナジー」とは、2社がM&Aにより組み合わさった結果、事業上のメリットが生じるシナジー効果です。事業シナジーにつながるM&Aの例として、次の2つが挙げられます。

2社の営業エリアを補完することで、商圏が拡大した。

2社の人材や技術が統合されたことで、研究開発の促進につながった。

事業シナジーは、単独の企業ではできなかったことが可能となる点が強いものです。また、結果として売上シナジーにつながるケースもあります。

M&Aのシナジー効果のメリット

M&Aのシナジー効果がもたらすメリットについて、買手と売手の両方の立場から考えてみます。

買手のメリット

M&Aのシナジー効果による買手のメリットは、低リスクによって、迅速な事業拡大・収益化が期待できることです。M&Aで会社を買収する場合、すでに事業を展開している(または買手の支援で事業を立て直すことができると判断した)会社を買収します。

また、自社で新事業を開始するのに比べて、時間・費用・リスクなどのマイナス要素を抑えられるのもメリットです。
さらに、売手の人材や技術、ノウハウを獲得できる点もメリットの一つです。これらの経営資源を効果的に活用してシナジー効果を生み出すことにより、事業拡大や収益化につなげることができます。

売手のメリット

M&Aのシナジー効果による売手のメリットは、事業・技術の発展です。自社(売手)の経営資源だけでは実現できなかった、事業・技術の発展を期待することができます。

具体的には、買手と技術やノウハウを共有したり、信用力や金銭的な支援を受けることによって、事業拡大や技術発展を実現することができます。

また、中小オーナー会社で後継者不在問題を抱えている場合、事業存続自体がメリットとなり、従業員の雇用を守ることができます。また、未上場株式の現金化によって、一族の相続税対策にもなります。

シナジーの分析に活用されるフレームワーク

M&Aの戦略を検討したり、相手企業の分析や企業価値算定、経営統合のプランニングなどを行う際には、重要なシナジーを漏れなく把握し、相互に関連付けながら総合的に効果を分析する必要があります。
そのためには、フレームワークに基づいて検討を進めるのが得策です。

ここでは、代表的なフレームワークであるアンゾフの成長マトリックスと、バリューチェーンに沿った分析を行うためのフレームワークを紹介します。
これらは基本的に買手の視点に即したフレームワークですが、売手にとっても有用なものです。

フレームワークに基づいて買手の視点から自社の価値を把握することにより、より高いシナジーが得られる相手(=好条件での譲渡が可能な相手)を探したり、価格交渉のための合理的な論拠を見いだしたりすることができます。

アンゾフの成長マトリックス(製品・市場マトリックス)

既存市場 新市場
 

既存商品

 

市場浸透戦略

 

 

新市場開拓戦略

 

新商品

 

新製品開発戦略

 

 

多角化戦略

 

これは、イゴール・アンゾフ(注)が、事業成長の戦略を考えるフレームワークとして提唱したものです(上図)。

(注)ロシア系アメリカ人の応用数学および経営学者、事業経営者。「戦略的経営の父」と呼ばれている。

横軸は「既存市場を狙うか、新市場を狙うか」、縦軸は「既存製品で攻めるか、新製品で攻めるか」を表しています。組み合わせにより、4つの成長戦略パターンが生じます。
M&A
においては、「新製品開発」戦略には他社製品(自社にとっては新規な製品)を活用する戦略が含まれます。

アンゾフの成長マトリックスは、特にM&Aの目的・戦略を検討する段階でのシナジー分析に適しています。

市場浸透戦略

M&Aにおける市場浸透戦略としては、競争力・シェアを高めるために同一市場内の同業他社を買収するという戦略が代表的です。
ただし、この方法で直接的に競争力とシェアを高めようとすると、その市場での自由な競争を阻害するような独占的な企業結合が生じてしまいがちです。
そうなれば独占禁止法違反に問われることになります。
この戦略でM&Aを行う場合、共同購買や経営資源の統廃合、組織の合理化・リストラ、技術・ノウハウの共有などによるコストシナジーをいかに実現するかが成功の鍵を握ると言えます。

新市場開拓戦略

他の市場の同業者(他エリアや他国の同業者、同一エリア内でも異なる顧客層を得意とする同業者)を買収する戦略が代表的です。
この戦略では、自社の既存製品を相手企業の販路(自社にとっての新市場)に乗せることで売上シナジーを実現したり、共通点のある経営資源(人員・拠点・技術・ノウハウなど)を共有化して業務効率化(コストシナジー)を実現したりすることなどが、重点的な目標となります。新旧の市場につながりがある場合(例えばいずれも国内の市場である場合)、市場浸透戦略と同様に独占禁止法の問題が発生する恐れがあります。

新製品開発戦略

既存製品とは違う製品を既存の市場に向けて販売していく戦略で、以下の3タイプが代表的です。

  • 異なる製品群を扱う同業者・関連業者の買収
  • ブランド獲得を目的とした買収
  • 技術や特許などの取得を目的とした買収

①では、相手企業の製品(自社にとって新しい製品)をラインナップに取り込み、クロスセリング・アップセリングなどの方法で売上シナジーの実現を目指します。
ラインナップの拡充によりブランド戦略の拡大も可能になります。
また、共通する経営資源を統廃合することで業務効率化によるコストシナジーを実現することもできます。

②は、製品群に加え信用力・イメージなどを含むブランド全体を取り込むことを目的として行われます。
①に比べて迅速な売上シナジーの実現が期待できる反面、自社ブランドとの統合が難航したり、ブランドの変容を嫌った顧客が離反したりするなどのアナジーが生じる恐れも高いと言えます。

③は新しい製品・サービスの開発のために他社の技術資源を取り込む戦略です。
取得した技術を活用してこれまで外注していた作業を内製化するなど、コスト面のシナジーも期待できます。

多角化戦略

これは「水平型」「垂直型」「集中型」「集約型」の4つの型に分かれます。

水平型多角化戦略

既存事業と同様の分野で新製品開発と新市場開拓を同時に行い多角化を図る戦略です。
例えば、これまでワイン製造を手がけていなかった酒類メーカーがワイン事業に乗り出すためにワイン事業を主力とするメーカーを買収したりするケースがこれに該当します。水平型多角化で2社が統合する場合、製品と市場に関して経営資源が重複する部分と重複しない部分が生じます。

垂直型多角化

サプライチェーンの川上や川下に向かって事業を拡大する戦略です。
例えば、自動車メーカーが川上の部品メーカーや要素技術の開発会社、川下の物流会社や販売会社などを取り込み、全サプライチェーンにわたる企業グループを形成するようなケースが該当します。

自動車メーカーはこれにより購買の安定化、製品開発力の向上、内製化によるコスト削減、販売利益の増大などのシナジーが実現でき、グループ傘下に入った売り手企業としても安定的な成長が期待できます。

集中型多角化・集約型多角化

集中型と集約型は、新規の分野で、サプライチェーン上の垂直的なつながりはなく、既存事業との関わりも限定される(またはまったくない)分野に進出する多角化戦略です。

集中型の多角化では、これまでの事業で培った技術や顧客関係が何らかの形で活かせるような分野を選んで進出します。
一方、集約型では既存事業とはまったく関連のない異分野への進出を図ります。
多数の異分野を吸収してコングロマリットを形成することを目指すケースが典型的です。

いずれの型も、新しい価値の創造や販路拡大、ブランド戦略拡大などのシナジーを、大きなスケールで、中長期的に実現していく戦略と言えます。

これまでの資産を直接活かすことができる部分があるだけに、集中型のほうが比較的低リスクで、短期間でのシナジー実現が期待できます。ただし多角化の振り幅は限られます。

集約型は高リスクで、シナジー実現に時間がかかりますが、成功すれば大規模なブランドを形成して広範な信用力を獲得することができ、リスクの分散化にもつながります。

バリューチェーンに沿ったシナジー分析のフレームワーク

買収対象企業の候補が決まり、より具体的にシナジーを分析する段階では、以下のようにバリューチェーンに沿って売上シナジーとコストシナジーを整理するのが役立ちます。

最終条件交渉に向けたデューディリジェンスや企業価値算定のプロセスでは、さらにシナジー効果の予測金額、シナジー実現までの時期(短期・中期・中長期)」などの軸も加えてフレームワークを拡張し、シナジーの掘り下げや定量化を行うことになります。

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