2021年、どうなる?運送業界のM&A

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2021年、どうなる?運送業界のM&A

近年、トラック運送業界のM&Aが増えています。ここでは、トラック運送業界の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価(株価算定)で使う数値(マルチプルなど)について説明します。これらから、トラック運送業界においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみましょう。

 

I     M&Aの多いトラック運送業界の現状

トラック運送業界の全体像を理解するために、市場動向や経営環境、ビジネスモデル、M&Aの買い手候補となる同業他社について説明します。

 

【1】トラック運送業界の市場動向・経営環境

トラック運送業は、他者の貨物を有償で自動車を使用して目的地まで輸送する事業者のことをいいます。これは、一般貨物自動車運送事業、特定貨物自動車運送事業、貨物軽自動車運送事業の3つに大別されます。

近年、トラック運送市場の需要は低迷していましたが、インターネット通販に拡大によって、増加することが予想されます。

国土交通省「交通関連統計資料集」によれば、国内貨物輸送量は、2005年の54億トンから2016年の47億トンへ減少しています。

 

【2】 トラック運送業界のビジネスモデル

トラック運送業のビジネスモデルは、運転手を雇い、貨物の運送サービスを一般利用者に対して販売するというものです。近年は、運転手の高齢化とその人材不足が深刻化しています。

労働集約型の事業であり、運賃も低価格が定着していることから、収益性は極めて低くなっています。

中小零細企業が多く、荷主や下請けする得意先への依存度が高いことから、トラック運送業は構造的に弱い立場にあります。

 

【3】 トラック運送業界M&Aで買い手候補となる企業

トラック運送業の事業承継を目的としたM&Aであっても、買い手候補は上場企業や大企業が中心になると考えられます。この業界では、以下のような上場企業が中心となって業界再編を進めていくことが想定されます。

日本通運、福山通運、岡山県貨物運送、丸善昭和運輸、丸和運輸機関、遠州トラック、日本ロジテム、南総通運、センコン物流、京極運輸商事です。

 

II  トラック運送業界M&Aで売却する売り手のメリット

安定している大手企業にM&Aでトラック運送業を承継することで、運転手など従業員の雇用を維持し、事業のさらなる成長を実現することができます。また、得意先である荷主は、物流サービスを継続して利用することもできることができます。

また、小規模事業者が単独では難しかったIT投資によるデジタル化の推進よって、トラック運送業の経営効率化を実現することができます。結果として生産性が向上すれば、従業員の給与水準をアップさせることができるでしょう。

さらに、買い手企業が大企業であれば、運営規模の拡大による生産性向上、人材採用コスト、広告宣伝費、本社経費を削減し、M&Aによるシナジー効果を得ることができます。

以上のようなシナジー効果が期待され、買い手候補にとって魅力的な事業であれば、売り手側の経営者は、高い売却価格を実現することができ、引退した後のライフプランを充実したものとすることができます。

 

III    トラック運送業界M&Aで買収する買い手の注意点

トラック運送業界で買収を行う際、デュー・ディリジェンスにて調査すべき経営資源や注意点を説明します。

 

【1】 トラック運送業の買収デュー・ディリジェンスにおける注意点

トラック運送業では、トラックという車両運搬具が陳腐化していないか、修繕や更新投資、買換えが必要ないかどうか確かめる必要があります。また、労務管理に問題があるケースも多いため、未払い残業代などの簿外債務の有無を確かめなければいけません。

 

【2】 トラック運送業の買収で承継すべき経営資源

トラック運送業では、継続利用してもらうことができる安定した荷主との関係性が基本となる経営資源です。

また、大型トラックという車両運搬具も重要な経営資源となります。

さらに、人材不足に悩まされている状況から、運転手は承継すべき貴重な経営資源です。働き方改革を行い、労働条件を改善する必要があるでしょう。

無形資源は、事業承継によって喪失されることが多いため、トラック運送業のM&Aを行う場合は、顧客関係の引継ぎに時間と労力をかけるなど、無形資産の承継を丁寧に行うことが重要でしょう。

 

IV トラック運送業を買収するときの企業価値評価(株価算定)

トラック運送業のM&Aにおける企業価値評価(株価算定)を行う際に活用することができる財務数値は、以下の通りとなっています。

 

【1】 トラック運送業の評価で使う資本コストとマルチプル

まず、TKC経営指標(2018年度)によれば、トラック運送業の収益性について、売上高成長率は約4.4%です。また、粗利率は22.5%、営業利益率は1.7%となっています。生産性について、1人当たり売上高は1,279万円、1人当たり人件費は453万円となっています。

次に、2020年8月現在の開示情報および市場株価によれば、トラック運送業のマルチプル(倍率)について、PBR倍率は0.7~1.4倍、PER倍率は15~20倍、EBITDA/企業価値倍率は7~9倍となっています。

さらに、筆者が推計するトラック運送業の株主資本コストは、安定した老舗企業であれば7%、急成長の新興企業であれば12%が妥当であると考えます。これは、この類似上場企業のROICが4~5%であることを考慮しつつ、類似上場企業のベータ値が0.5~0.6であること、ヒストリカル・マーケット・リスク・プレミアム(1950年代~2020年)が7%~9%であることを前提にして、小規模リスク・プレミアムを加算して推計しています。

 

【2】 トラック運送業の類似上場企業比較法で採用すべき企業の例

トラック運送業を評価する類似上場企業比較法で採用すべき上場企業として、福山通運(9075)、センコーグループホールディングス(9069)、トナミホールディングス(9070)、セイノーホールディングス(9076)、岡山県貨物運送(9063)、丸全昭和運輸(9068)、丸和運輸機関(9090)、遠州トラック(9057)、日本ロジテム(9060)、南総通運(9034)、センコン物流(9051)、京極運輸商事(9073)が挙げられます。

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村上 章

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