M&A後のストーリー

譲渡後も引き続き「社長」継続

土田聖一
【譲渡企業】NTK株式会社 代表取締役社長 土田 聖一 氏
(役職は譲渡時のもの)
譲渡企業 買手企業
業種 ビルメンテナンス・不動産管理 ビルメンテナンス
地域 東京都 東海地方

2021年3月 M&A成約

「長年培った事業・組織文化を急に変えず、M&A後は徐々に融合を進めてもらえる相手がいい」
お相手探しにあたってはM&A後の運営方針を重要視されていた土田社長。会社を譲渡してから3年経った今、どのように会社が運営されているのか伺いました。

3年経っても雇用は継続している

 従業員の雇用だけでなく、取引先も変わっていません。変わったのは、経理システムが親会社のシステムに変わったぐらいで、社名・経営理念・運営方針をはじめ、従業員の働き方も従来と同じです。M&A前からやっていた昇給、昇格も継続して実施しています。
 私自身は、役職名が「取締役社長」に変わりましたが、毎日出社して経営の仕事を続けていて、おおよその決裁権も任せていただいています。買手企業からは信頼を得ており、共に発展するべく日々邁進しております。

相手探しが何よりも重要

 経営承継支援さんに買手企業を探してもらう際、金額の条件よりも、M&A後の運営方針(すぐに大きく変えない)を重視していることを伝えました。それから3か月後、買手企業の社長と初めて面談しましたが、すごく物腰がやわらかく穏やかで、とても気づかい上手な方でした。この人なら、ウチの従業員たちも受け入れてくれるだろうなと感じ、交渉を進めることにしました。

 約束は守ってくれると信頼していましたが、 “これを大事にしてくださいね”という意味も込めてM&Aの最終契約書にこの3つを条文に入れました。

  • 経営理念は変えない
  • 今の取引先とはM&A後も取引を継続する
  • 希望する従業員は全員継続雇用する

M&Aを発表する際、雇用継続と合わせて「私も当面は社長として残ります」と伝えたことが従業員にとって安心につながり、辞める人は誰もいませんでした。

実際の最終契約書の一部

契約書の内容

会社譲渡 = 引退 ではない

 私の仕事内容は変わりませんが、心境は大きな変化がありました。
長年ずっとあった「資金の不安」「経営者としてのさまざまなプレッシャー」はだいぶ減りました。
「もし私が体調を崩したら会社はどうなるのか…」という心配も無くなり、ポジティブな気持ちで仕事をしています。
 70歳を前に譲渡を決めましたが、元気なうちは続けていきたいと思っていますし、買手企業からも続投の意向をいただいています。年々、仕事依頼が増えて今が一番忙しいです。

変えない方が会社は伸びる

 当社の強みは、従業員のチームワークが良いことです。それぞれの強みを活かし、弱みは補いあって幅広いお客様に対応しています。私の持論ですが、従業員は大切に接すれば自ら成長していきます。親会社や私の役割はトップダウンで指図することでなく、その成長を支援していくことではないでしょうか。会社全体で業績を伸ばしていけるような雰囲気作りを常に心がけています。
 また、一人一人に今担当している仕事の重要性を認識させ、担当している業務の知識を高める事と業務に関係ある資格は取得するよう勧めています。その結果、業績はM&A前より拡大し、従業員も増え、広い事務所に移転しました。

変えなくてもいい状態の時に事業承継を始める

 もし当社が赤字続き・社長が体調不良ですぐ辞めるような状態だったら、私たちは買手企業をじっくりと選ぶ余裕はなかったでしょう。そして買手企業は業績を改善させるためにすぐに多くのことを変えなければなりません。それは私が考える「従業員が幸せになるM&A」ではありません。

 私と同じように「大きく変えずに会社を引き継いでほしい」と考えている方は、会社と社長が元気な時に事業承継の検討を始めるべきです。そうすれば、

  • じっくりと良い相手を選べる
  • 対等な立場で交渉できる
  • こちらの希望条件を受け入れてもらいやすい
  • 相手からの信頼度も違うはず

 自分の希望に合わない相手と焦って進める必要は全くありません。一方で、自分が譲渡したい時にすぐに理想の相手が出てくるとも限りません。
 余裕のあるいい状態の時に譲渡を考えるのはなかなか勇気がいる決断だと思いますが、M&Aしても引き続き社長を続けることもできますし、何より従業員がずっと安心して働ける環境を作れたのがよかったです。
 以上、私の経験談となりますが少しでも参考になれば幸いです。

笹川 敏幸
インタビューの聞き手
 経営承継支援 代表 笹川 敏幸(写真右)