M&A BUZZ

外食業界の動向およびM&Aについて【2024年版】

監修

経営承継支援編集部

この記事は、株式会社経営承継支援の編集部が監修しました。M&Aに関してわかりやすく役に立つ記事を目指しています。

目次 [ ]

Ⅰ外食業界の市場動向

【1】フード・ビジネス・インデックス(Food Business Index)の推移

フード・ビジネス・インデックス(Food Business Index、以下FBIという。)は、飲食料品に関連する「食料品工業」、「食料品流通業」、「飲食店,飲食サービス業」の活動状況を把握するために試算した経済指標です。

 


出所:経済産業省「飲食関連産業の動向(2021年上期)

2021年上期のFBIは、第1四半期は指数値90.3、前期比マイナス3.0%と大きく低下しました。コロナ禍で大幅に低下した2020年第2四半期の最低値86.7(2015年基準)から順調に回復していましたが、再び低い数値となりました。続く第2四半期は指数値90.7、前期比0.4%と小幅ながら3期ぶりに上昇しましたが、第1四半期の低下分をカバーできず、2021年上期(90.5)は2020年下期(93.2)と比べて大きく低下しました。


出所:経済産業省「飲食関連産業の動向(2021年上期)

FBIを構成する3業種のうち、「飲食店,飲食サービス業」は2期連続低下しており、特に第1四半期の指数値66.7、前期比マイナス14.1%と大幅に低下しました。


出所:経済産業省「飲食関連産業の動向(2021年上期)

FBIの伸び率に対する3業種の影響度合いは、前期比マイナス3.0%となった第1四半期は、食料品工業が0.7%ポイントの上昇となりましたが、「飲食,飲食サービス業」がマイナス3.5%ポイント、食料品流通業がマイナス0.7%ポイントと低下となり、「飲食,飲食サービス業」の影響が大きかったことが分かります。

第2四半期は、FBIの前期比0.4%に対して、食料品流通業が0.1%ポイントの上昇に転じ、食料品工業と「飲食店,飲食サービス業」が低下し、特に、「飲食店,飲食サービス業」は2期連続の低下となりました。

 


出所:経済産業省「飲食関連産業の動向(2021年上期)

 

2023年3月の外食産業市場動向(日本フードサービス協会)

2023年3月の外食全体の売上は前年同月比118.8%、2019年比では101.5%となりました。
好調の要因は、主に歓送迎会や春休みのシーズンで個人や家族客、中小宴会が増加したたえです。一方、大規模宴会や夜遅い時間帯の集客はまだ回復していません。

ファーストフード業態は、全体売上は110.9%でした。「洋風」は堅調に推移して売上 108.6%。「和風」は消費意欲の高まりが売上を増加させて 112.8%。「麺類」も、値上がり基調が消費者に浸透して売上 119.2%。「持ち帰り米飯・回転寿司」は、年度の変わり目の送迎会などのテイクアウト需要が増えて、売上 108.4%となりました。

ファミリーレストラン業態の全体売上は前年比126.2%でした。「洋風」は、年明けからの堅調な流れが続いて売上124.6%。「和風」は売上 125.3%。「中華」は売上120.4%。「焼き肉」は春休み・卒業シーズンで団体客が戻ったため売上 139.7%でした。

パブ・居酒屋業態は、酒類の提供制限が無くなり、個人客やインバウンド需要の堅調が続き、売上 189.4%と大幅に増加しました。しかし、コロナ禍前のような大規模宴会は戻りが鈍く、二次会需要もあまり見られず、店舗数自体もコロナ禍前の 70%弱にとどまっています。

ディナーレストラン業態では、インバウンド客と個人客の増加が売上と客単価を下支えしたため、売上は 136.2%でした。

 

【2】外食業界における「業態」と「業種」

「業態」は「売る方法」

業態は「売る方法」のことであり、小売業や建設業、外食業を区分するために使われます。
飲食店の場合、商品をどのようにして提供するかが業態となり、例として以下の業態があります。
ファストフード
居酒屋
ファミリーレストラン
喫茶
ディナーレストラン
デリバリー
テイクアウト など
同じ商品でも異なる営業手法で提供することを「業態」と言います。

「業種」は「売る商品」

「業種」は「売る商品」のことであり、取扱商品やサービスの区分で分けられます。飲食業や小売業、製造業などの産業として分けられるケースが一般的です。
飲食店の業種では、何の商品を主に扱っているかが業種として分類され、宿泊業、飲食サービス業が一般的です。
以下が飲食店で該当する業種です。
うどん:うどん・そば屋
日本料理:和食
フランス料理:フレンチ
イタリア料理:イタリアン
中華料理:中華 など
ラーメンを主に商品に扱っている専門店は「ラーメン屋」になりますが、麻婆豆腐やエビチリといった中華料理屋などもラーメンを商品で扱っているお店は多いです。一方、主に扱っている商品は中華料理で商品の中にラーメンがあるので「中華料理」が業種になります。
また、業態と業種を区別しない場合もあります。
全てのお店が業態×業種でできているため、業種と業態を区別しないケースもあります。
日本料理を店内飲食で提供:和食ダイニング
中華料理をバイキングで提供:中華バイキング
ハンバーガーをすぐ食べられるように提供:ハンバーガーファストフード
これらは、業種で分類された「売る商品」を業態で分類された「売る方法」で提供しています。
なお、「業態」の中に「業種」が含まれる回転寿司店や洋食ファミリーレストラン、ピザデリバリーなども「業態」と言うことが多いです。

【3】外食業界の売上高ランキング(2021‐2022年)

外食業界の売上高ランキング(1位~10位)は、以下の通りです。

(注) 2020-2021年の数値

出所:各種資料より作成

Ⅱ外食業界のM&A

【1】過去の外食業界のM&A(一部)

出所:各種開示資料より作成

(買い手企業)ダスキン(4665)×(売り手企業)いちごホールディングス(2337)

ダスキンは、ドーナツ店「ミスタードーナツ」を展開している。
いちごホールディングスからピザ生地の製造販売事業、同社傘下のストロベリーコーンズ(仙台市)から「ナポリの窯」と「ストロベリーコーンズ」の宅配ピザ事業を譲り受ける。本M&Aの目的は、新型コロナウィルスの感染拡大でデリバリー需要が伸びていることに対するためである。

(買い手企業)壱番屋(7630)×(売り手企業)エージーピー(9377)

壱番屋は、カレーハウス「 CoCo 壱番屋」をはじめとする外食事業を、国内外で 1,455 店舗(2023年2月末時点)展開しています。エージーピーは、動力事業、整備・施設事業、セキュリティ事業、フードシステム事業、工場野菜生産販売事業、ビジネスジェット支援事業を行っている。壱番屋は、エージーピーから工場野菜生産・販売事業を譲り受けた。
本M&Aの目的は、壱番屋チェーン店へ生鮮野菜を安定供給するためである。

(買い手企業)木曽路(8160)×(売り手企業)PEファンド 刈田・アンド・カンパニー

木曾路は、しゃぶしゃぶ・日本料理の飲食店「木曽路」などの和食系飲食店を全国展開しています。
株式会社大将軍(千葉県)は、高級焼肉店「大将軍」と中価格帯の焼肉店「くいどん」の業態を運営しています。
木曾路は、焼肉店チェーンを運営する大将軍の全株式を取得して完全子会社化しました。
本M&Aの目的は、コロナ禍の中、両社の強みを生かして、付加価値の高い店舗運営を実現し業績向上を図ることです。

(買い手企業)壱番屋(7630)×(売り手企業)有限会社大黒商事 

壱番屋は、カレーハウス「 CoCo 壱番屋」をはじめとする外食事業を、国内外で 1,455 店舗(2023年2月末時点)展開しています。
有限会社大黒商事(北海道旭川市)は、ジンギスカン料理店「成吉思汗(ジンギスカン)大黒屋」(1店舗)を運営しています。壱番屋は、有限会社大黒商事の全出資持分を取得して子会社化しました。
本M&Aの目的は、新たな業態の開発と育成によるグループ力の強化と企業価値の向上のためです。

(買い手企業)小僧寿し(9973)×(売り手企業)株式会社Tlanseair(トランセア)

小僧寿しは、持ち帰り寿し店「小僧寿し」「茶月」や、フードデリバリー店「デリズ」を全国展開しています。
株式会社Tlanseairは、焼き鳥と鳥料理の居酒屋「とり鉄」、釜飯と串焼きの「とりでん」など、外食・居酒屋業態を中心に全国的にチェーン展開しています。小僧寿しは、株式会社Tlanseair(とらんせあ)を特定子会社化しました。
本M&Aの目的は、中期経営計画の骨子である「多様な食を、多様な形で、多様な顧客へ」を推進するためです。

(買い手企業)物語コーポレーション(3097)×(売り手企業) DAIZ株式会社

物語コーポレーションは、郊外ロードサイドを中心に「焼肉きんぐ」「丸源ラーメン」などの飲食店チェーンを展開しています。
DAIZ株式会社(本社:熊本県熊本市)は、発芽大豆由来の植物肉「ミラクルミート」の開発・製造会社です。
物語コーポレーションは、DAIZ株式会社(植物肉原料の開発・生産)へ出資を行い、資本業務提携を締結しました。
本提携の目的は、「焼肉きんぐ」ではミラクルミートをベースに新たな焼肉商材を共同開発、、ミラクルミートを使用してレシピ開発した餃子・春巻き等の商品を「丸源ラーメン」に展開することです。

(買い手企業)SANKOMARKETING FOODS(2762)×(売り手企業) 綜合食品株式会社

SANKO MARKETING FOODSは、飲食店運営および水産業を行っています。
綜合食品株式会社は、水産物の売買並びにその受託輸出入を行っており、豊洲市場にある7社の水産物卸売会社のうちの1社です。
SANKO MARKETING FOODS(2762)は、綜合食品株式会社(東京都:東京都中央卸売市場の卸売業者)の全株式を取得して、子会社化しました。
本M&Aの目的は、豊洲市場の集荷および分配の機能を持つことにより、沼津で水揚げされた鮮魚等を市場に提供するためのラインを獲得することです。

(買い手企業)ブロンコビリー(3091)×(売り手企業)株式会社松屋栄食品本舗

ブロンコビリーは、名古屋を地盤に炭火焼ステーキを提供する郊外型高価格帯のレストランを展開しています。
株式会社松屋栄食品本舗(愛知県)は、主にたれやドレッシング等の調味料や惣菜の製造会社です。
ブロンコビリーは、株式会社松屋栄食品本舗の全株式を取得して、子会社化しました。
本M&Aの目的は、既存業態のみならず今後開発していく新業態で提供するソー スや総菜類の差別化および強化、またソース及びドレッシング類の外部販売を可能にすることで自社ブランドの認知度の強化を図ることなどです。

(買い手企業)海帆(3133)×(売り手企業)株式会社SSS

海帆は、名古屋を中心に居酒屋を中心とした飲食店舗の企画開発および運営を行っています。株式会社SSSは、居酒屋を19店舗運営しています。海帆(3133)は、株式会社SSS(東京都)の株式を取得して、子会社化しました。
本M&Aの目的は、両社のオペレーションや原材料等の共通点があり、海帆は従業員の独立を支援する店舗展開なども行っているため、多くのシナジーが期待できるためです。、

(買い手企業)クリエイト・レストランツHD(3387)×(売り手企業)株式会社サンジェルマン

クリエイト・レストランツHDは、レストラン事業、居酒屋事業、ラーメン・フードコート事業、受託運営(コントラクトサービス)事業を展開しています。
株式会社サンジェルマンは、ベーカリー事業などを行っています。サンジェルマンの完全子会社である株式会社北海道サンジェルマン(北海道札幌市)もベーカリー事業を運営しています。
株式会社サンジェルマン(神奈川県:ベーカリー事業)の全株式をJT(2914)から全て取得して、連結子会社化しました。
本M&Aの目的は、サンジェルマンの伝統ブランドと顧客基盤に、クリエイツ・レストランHDの持つ外食専業企業としての店舗運営ノウハウを加えることです。

(買い手企業)壱番屋(7630)×(売り手企業) 株式会社竹井

壱番屋は、カレーハウス「 CoCo 壱番屋」をはじめとする外食事業を、国内外で 1,455 店舗(2023年2月末時点)展開しています。
株式会社竹井は、濃厚豚骨魚介つけ麺を関西に広めた「麺屋たけ井」を京都・大阪で8店舗運営しています。

壱番屋は、株式会社竹井(京都府城陽市)の全株式を取得して、連結子会社化しました。
本M&Aの目的は、新たな業態を開発・育成していくことによりグ ループ力の強化と企業価値の向上を図ることです。

【2】外食業界の課題および今後について

外食業界の現状の課題は、「人手不足による人件費の上昇」、「新型コロナウィルス感染拡大の影響」、「低価格化と食材など原価上昇によるコスト増加」です。

人手不足による人件費の上昇
働き手不足の主な原因は、国内の少子高齢化による生産人口の減少である。そのためアルバイトやパート従業員を確保するために時給を高くする傾向にあります。

新型コロナウィルス感染拡大の影響
2020年の新型コロナウィルス感染拡大により自粛や感染予防対策などが求められ、大手チェーンの店舗撤退や個人事業者の閉店などが相次ぎました。コロナ禍における業態ごとの対策は、以下のとおりです。
ファーストフード(洋風、和風)は、持ち帰りや宅配で消費者の巣ごもり需要を取り込み、成長を続けています。
レストラン・ファミレスも店内飲食に加え、持ち帰りや宅配需要の取り込みを強化していますが、売上回復の道のりは厳しい状況です。
居酒屋はコロナ禍以前の売上水準を回復するのは難しく、生き残りをかけて居酒屋からの業態転換を進めています。
回転ずしは持ち帰り需要が堅調であり、大手チェーンの中には注文商品をロッカーから持ち帰れる非接触型対応を導入し、消費者のニーズを掴んでいます。

低価格化と食材など原価上昇によるコスト増加
近年、消費者目線での比較は商品価格になる場合が多く、競合店との差別化を図るため低価格化の傾向が顕著でした。
しかし、食材など原価上昇によるコスト増加は、人件費の上昇と併せて、利益を圧迫しています。

これからの飲食業に必要な4つの要件

  • 顧客ニーズへの対応
  • 低コスト管理
  • 利益率の高いメニュー
  • DX化対応

 

  • 顧客ニーズへの対応
    顧客ニーズに対応している飲食店であることが必要です。コロナ禍では、消費者の外食に対して求めるニーズが変化し、依然と比べてニーズが多様化しています。昨今、外食に求める消費者のニーズは以下のものがあります。

・ひとり席・ひとりでも入りやすい

・デリバリー&テイクアウト

・待ち時間少ない

・SNSで映える

・食品ロスゼロ など

1人焼肉や1人ラーメンなどひとり専門店やフードデリバリーサービス、SDGsなどの飲食店が注目されています。さらに、InstagramやTikTokなどのSNSで人気のお店が若年層から支持を得ています。時代の流行に合わせた顧客ニーズをとらえた飲食店はこれから伸びる特徴の1つです。

  • 低コスト管理
    低コスト管理の飲食店は、今後、成長が期待できる店舗の特徴です。低コスト管理の飲食店は、固定の費用を抑えることにより、余計な出費をなくして店舗運営できます。飲食店を運営する費用には以下があります。
    家賃、内装費、人件費、水光熱費、材料費 など
    キッチンカーを活用した移動販売や店舗を持たないゴーストレストラン、自宅でテイクアウト専門店を開業するなど店舗費用を削減して低コストで運営する飲食店が増加しています。家賃・人件費、商品原価などを抑えている飲食店は、利益率が高くなります。
  • 利益率の高いメニュー
    利益率の高いメニューを提供する飲食店も成長が期待できます。
    以下は、原価率が低いため利益率を高くできるメニューです。
    フライドポテト、枝豆、ポテトサラダ・マカロニサラダ、餃子、たこ焼き、ジェラート、パスタ
    酎ハイ、黒ウーロン茶
  • DX化対応
    飲食店がDX化することにより、非接触型の決済・オーダーを行い、感染症対策に繋がります。また、POSレジアプリなどを導入し、レジの締め作業の負担やスムーズな決済が行えるため、業務の効率化になります。
    これによって生産性が上昇して、人件費が削減され、小人数の飲食店運営が可能になります。併せて、飲食業界が抱える人手不足の問題解決にもなります。DX化に対応している飲食店は、顧客の安全を保ちながら、生産性の高い営業を行い、経営が安定することになります。

Ⅲ外食事業をM&Aするメリットとデメリット

【1】主な2つのM&Aの手法

M&Aを検討している経営者の皆様が覚えておくべき主な手法は、株式譲渡と事業譲渡の2つです。
売り手企業の株主が買い手企業に株式を譲渡する手法が株式譲渡です。売り手企業が買い手企業に事業を譲渡する手法が事業譲渡です。どちらを選択するかは、売り手企業の意向、買い手企業の考えによって、両者の交渉によって決まります。会社の借入金、従業員、資産、権利義務関係などの全てを買い手企業へ譲る場合、株式譲渡の手法を選択します。一方、売り手企業の事業が、製造部門と販売部門のように複数事業に分かれており、製造部門のみを譲渡するような場合、事業譲渡を選択します。
以下の設例により、株式譲渡と事業譲渡の2つの方法を比較することにします。
<設例>
X社は、自社ビルの不動産賃貸業とレストラン事業(25店舗:全店舗は賃借)の運営を行っています。株主はオーナー社長のみです。コロナ禍の影響を受けて、レストラン事業の業績が悪化したため、X社はレストラン事業を第三者へ譲渡することにしました。
レストラン事業を事業譲渡する場合、買い手企業のメリットは、レストラン事業のみを引継ぐ点になります。ただし、従業員の再雇用、権利義務関係の引継ぎなどの手続が煩雑になるデメリットがあります。一方、売り手企業の簿外債務を引き継ぐリスクはありません。売り手企業のメリットは、レストラン事業のみ譲渡できる点、譲渡代金は売り手企業(X社)が受領する点になります。

取引形態 株式譲渡 事業譲渡
譲渡対象 全ての資産と負債 中華レストラン事業に係る資産と負債
従業員 そのまま引き継ぐ 一旦、X社を退職、買手企業に再雇用される
契約関係 そのまま引き継ぐ 一旦、店舗賃借契約、水道光熱費等の契約を解約、再度契約を締結
買手からの

譲渡代金

株主(社長)が受領 X社が受領
簿外債務

のリスク

あり なし

【2】M&Aの手順・流れ

①プロセス開始当初にご依頼する資料やお伺いする情報がスムーズにご提供戴けると、その後のプロセスが円滑に進行します。
②予備的企業価値評価は、当社専門家(会計士/税理士)監修のもと実施。この段階で、譲渡価格や条件等の内容を概ね決定します。
③買手候補企業との間で大枠の条件が固まったら基本合意書(法的拘束力無し)を締結します。この段階より1対1の交渉(独占交渉)が始まります。
④基本合意と買収監査結果で差異があった項目を中心に調整し、詳細事項を決定。M&A実施後の体制等も、この段階ですり合わせます。

【3】M&Aにより会社を売却するメリット

売り手企業の動向とメリット

コロナ禍の影響により、業績が悪化した飲食店や休業を余儀なくされた飲食店が、資本力があり、強固な経営基盤を有する企業に自社を売却し、その傘下で事業の継続・発展を図る例が見られます。
また、不採算の店舗や飲食ブランドを売却し、コア事業に経営資源を集中する例もあります。
後継者問題を抱える中小企業・小規模事業者の場合、M&Aによる第三者への事業承継を選択することで、事業の継続が可能になります。
飲食業界においてもM&Aを利用した事業承継の例は多く見られます。自力での事業継続が難しい(廃業を検討したり、倒産の恐れがある)場合でも、M&Aを利用することによって事業継続が可能となり、従業員の雇用や得意先との取引を維持し、将来的に事業拡大を図ることができます。飲食業界のM&Aにおいて買い手企業となるのは、同業大手、総合商社、多角経営の大企業グループ、ファンドなどです。
例えば、商社は商品や原材料を調達し企業に供給することをコア事業としています。
一方、飲食業は商社から見てサプライチェーンの川下側(商品・原材料の供給を受ける側)の末端に位置し、消費者に直結するところで事業を展開しています。
飲食業のM&Aにより、商社は川下側に事業分野を拡大するとともに、消費者のニーズを収集し商社としての機能を強化することが可能になります。

買い手企業の動向とメリット

コロナ禍において飲食業界は厳しい経営環境に置かれていますが、M&Aを通して業容の拡大や転換を図る動きも見られます。具体的には、飲食店によって以下のようなM&A(他社の子会社化や事業の譲受)が行われています。
・中食(テイクアウトやデリバリー、調理済み食品製造・小売)に関わる企業・事業を譲り受けして、同分野へ進出(あるいはすでに展開している同分野事業を拡大し中核的な事業へと強化)

・ブランド戦略や出店網などに違いがあり、互いに相補う関係にある同業者・飲食ブランドをM&Aし、業容拡大・ブランド戦略深化を図る

・飲食事業と関連性のある異業種企業を買収し新分野に進出(例:和食店が旅館を買収し宿泊業に進出)

コロナ禍や中長期的な消費トレンドに対応していく上で、中食の取り込みは重要な戦略的課題のひとつですが、スーパーやコンビニなどの競合企業がひしめく中食市場に単独で切り込んでいくことは容易ではありません。
中食業態においてすでに事業を確立している他社をM&Aすれば、中食業態への参入をスムーズに進めることができ、競争力を短期間で高めることが可能になります。
多店舗展開を経営の柱としている企業グループ(例えばホテル・飲食・小売事業を展開する鉄道会社)にとって、飲食業のM&Aは店舗戦略の基本手段のひとつです。
また、ファンドにとっても、現在の状況は飲食業への投資の好機であると言えます。

【4】会社を売却するデメリット

・買い手企業が見つからないリスク

会社を売却すると決断してもすぐに買手企業が見つかるとは限りません。
M&Aにはそれなりのコストがかかるので、買い手企業にとっては、それなりのメリットがなければM&Aを実行しません。コロナ禍においては、M&Aを検討する企業数が減っており、かつ投資目線も厳しくなっています。つまり、「コストをかけてもM&Aを行う」と買い手企業が思うような魅力がある会社(売り手企業)でない限り、なかなか買手企業が現れないと考えるのが良いでしょう。M&A市場においては、一般に「将来的に売り手企業がどの程度の収益を上げる力があるか」で売り手企業は評価されます。したがって、収益面では黒字にすること、過度な借入金(例えば、売上高を超える、あるいは同じ金額の借入金)は避けるべきです。

・M&A後における従業員の待遇面の不安
M&A後における従業員の労働条件や解雇の規則については、買い手企業によって変更をされないように最終契約書に記載しておく必要があります。最終契約書での取り決めがない場合、M&A前より悪い労働条件で働かされたり、簡単に解雇されたりする可能性があるためです。M&Aを実行する場合、確認する事項は個別案件ごとに異なり、また多岐にわたります。この確認をおろそかにせず、売り手企業と買い手企業のお互いがM&Aのメリットを享受できるように交渉を進めることが重要です。

Ⅳ会社を売却する際の株価の考え方

株価(株式価値)の算定方法として一般的に用いられる手法は、修正純資産法、類似会社比較法(マルチプル法)、DCF法です。

【1】修正純資産法

評価対象会社(売手)の貸借対照表に計上されている全ての資産・負債を時価評価した後の純資産額に営業権を加算して企業価値を算定する方法です。この方法は、企業の静的な価値を判定するのに適しています。未上場会社のM&Aで利用されることが多い方法です。
(注)黒字の場合、営業権として修正後営業利益の3年分程度の金額を加算します。一方、赤字(営業損失)の場合、営業権はつきません。社歴〇〇年の老舗企業、あるいは△△△ブランドで有名などの要素は、営業権として評価されません。

【2】類似会社比較法(マルチプル法)

業種、企業規模等の類似する上場会社の一定の財務数値に対する企業価値の倍率を測定し、評価対象会社(売手)の財務数値に当該倍率を乗じることで企業価値を算定する方法です。
上場会社、未上場会社のM&Aにおいて利用されている方法です。

なお、未上場の中小企業・小規模企業のM&Aの株価算定においては、会社規模(売上)が小さい、ニッチ業種であるなどの理由により、上場会社の中から類似会社を選定することが難しい場合があります。

【3】DCF法

事業活動から得られると予測される将来キャッシュ・フローの総額を現在価値に割り引いた金額を企業価値として評価する方法です。将来キャッシュ・フローの予測に企業価値が大きく左右される方法です。上場会社のM&Aにおいては、一般的に利用されることが多いです。
なお、DCF法を用いる場合、将来キャッシュ・フロー算出の基礎となる評価対象会社(売手)の事業計画が必要となります。また、当該事業計画の客観性、妥当性、実現性等が重要になります。

【4】考慮すべき事項

評価対象会社(売手)が、企業のライフサイクル(イメージ図)において、創業期、成長期、成熟期、衰退期のいずれの段階に該当するかを判断します。
併せて、評価対象会社の継続性の疑義の有無、知的財産等に基づく超過収益力に依存する収益構造であるか、類似上場会社のない新規ビジネス、或いはニッチ業種に該当するかなどを判断する必要があります。

企業のライフサイクル(イメージ図)

以上の考慮すべき事項を確認した後、評価対象会社(売手)に適切な株価(株式価値)の算定方法を選択します。複数の算定方法を選択できる場合は、それぞれの算定方法の結果を比較検討するのがよいでしょう。

【5】株価(株式価値)の算定方法の選択

〇:採用が適していると考えられる   △:場合によっては採用することが想定される

【6】会社を売却する場合に係る税金

中小M&Aの方法のうち、最も多く用いられる株式譲渡の場合において、会社売却に係る税金をどのように考えるかを一緒に見てみることにします。会社の株主が個人である場合、所得税・住民税あわせて20.315% の固定税率で分離課税が適用されます。以下の設例を用いて、会社を売却した場合、株主の税金をどのように計算するかを説明します。

<設例>
会社株主は、社長のみの一人株主とします。
株式の出資額10,000千円、株式譲渡代金100,000千円、売り手(個人株主)のM&A手数料5,500千円 (消費税込み)とします。

株式の売却益(注)は、株式譲渡代金から株式の出資額を差し引いた、90,000千円(=100,000千円−10,000千円)となります。
(注)キャピタル・ゲイン(資本利得)

個人株主の場合、株式の売却益は分離課税の対象となり、税率は20.315%(注)が適用されます。
また、M&A手数料(消費税込み)は、売却益から費用として差し引くことができます。
よって、個人株主が負担する税金は、以下のように計算することができます。

(90,000千円−5,500千円)×20.315%(注)=17,166千円

(注)所得税及び復興特別所得税(15.315%)+住民税(5%)

【7】会社を売却するタイミングを考える場合のポイント

会社を売却するためのポイントは3つあります。

ポイント① 引退の時期を決める。
「この事業が上手くいったあとで」といった条件付きの不明確な時期の決め方ではなく、できれば年月を確定することをおすすめします。時期を決めることで、実現するための強い決意が生まれます。
経営状態がよいタイミングで売却すると高い株価で売却でき有利ですが「企業価値が上がったら売却してリタイアしよう」という決め方だとなかなか踏ん切りがつかず、ハッピーリタイアの実現は難しくなるでしょう。

ポイント② 売却前に次の経営者がやりやすいように経営環境を整えておくことです。
後顧の憂いなくリタイアするためには、経営者の頭の中にある重要な項目を整理しておくことが重要です。
特に、従業員の対するケアがポイントであり、各従業員の性格等を、事業引継ぎの際に伝えておかなければ、その後の組織運営に支障が出ます。

ポイント③良いフィナンシャル・アドバイザーを見つける。
会社を売却する際には、専門的知識が必要となり、M&Aの専門家のサポートが必要となります。
中小M&Aの実績が十分にあり、業界での評判の良いM&A仲介会社を選ぶとよいでしょう。
どのM&A仲介会社も初期相談は、無料で対応しています。複数社と面談して、相性の良さそうな会社を選択するのも一つの方法です。
(注)フィナンシャル・アドバイザーの役割は、クライアント(売り手、買い手)が目指す戦略実現のために、最適なM&A手法を企画 立案し、その執行を全面的にサポートすることです。アドバイザリー会社のタイプとしては、金融機関系、会計会社系、ブティッ系の3つに大別することができます。

Ⅴ弊社M&Aコンサルティングサービスのご案内

弊社のM&Aコンサルティングのご案内です。特徴は3点あります。

①プロフェッショナルによるM&Aサポート
M&Aの専門性を持つ、経験豊かなコンサルタントが、皆様にきめ細かなサービスを提供させていただきます。実際に成約したお客様、皆様からご満足いただいております。

②完全成功報酬の手数料体系
当社は、1社でも多くの中小企業のM&A支援を行うために、リーズナブルな手数料体系を採用しています。着手金、月額費用などはいただかず、成功報酬のみの完全成功報酬制を採用しています。

③多くの成約実績
業種、規模、エリアを問わず、多くの成約実績がございます。
高い専門性を持ったM&Aコンサルタントが、ご満足いただけるサービスを提供させていただきます。

株式会社経営承継支援は、一社でも多くの企業を廃業危機から救うため、全ての企業様のご相談をお受け致しております。
M&A(株式譲渡、事業譲渡等)に関して着手金無料でご相談可能ですので、お気軽にお問合せくださいませ。

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