目次
最初に、一般的な利益相反の定義を説明して、利益相反の設例を紹介します。併せて、各法律(民法、会社法、宅地建物業法)における利益相反について考察します。
利益相反(Conflict of Interest)の定義
「ある取引について、片方の利益になるが、他方には損失となること」
利益相反の設例としては、次の2つを挙げることができます。
利益相反の設例
【設例1】
システム開発会社が、ある業界のA社および競合関係にあるB社とも契約して、両社に同じシステムの開発業務を受託する場合
(この場合、A社との契約書において、B社から同じシステムの開発業務を受託することを禁止するなどの条項を入れる必要があります)
【設例2】
従業員が、自社と競合する企業で副業を行ったり、顧客情報を利用して競合企業の営業活動を行い、自社に不利益を与える行為を行う場合
併せて、民法、会社法、宅地建物取引業法における、利益相反について考察します。
民法、会社法、宅地建物業法における利益相反
民法
民法における双方代理の原則禁止(民法第108条)
民法第108条において、同一の法律行為について、当事者双方の代理人となる「双方代理」を原則禁止しています。但し、本人があらかじめ許諾した行為については例外として認められています。
(自己契約及び双方代理等)
第百八条 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
会社法
会社法第356条(競業及び利益相反取引の制限)に、利益相反取引について規定されています。会社法では、取締役による会社との利益相反取引は、株主総会または取締役会において承認を必要とすると規定されています。
<会社法における利益相反取引の例>
会社から取締役への贈与
取締役と会社の間で行われる売買契約
取締役(個人)が第三者に負っている債務を会社が保証するまたは引き受ける契約
宅地建物取引業法
宅地建物取引業法には、利益相反取引についての規定はありません。不動産取引において、不動産の売主と買主の間に立って仲介を行うこと(双方仲介・両手仲介)は、代理行為ではないため、民法第108条に規定されている双方代理には当たらないとされています。不動産取引における意思決定は、不動産会社が仲介を行っても当事者が行うことができるため、利益相反が生じないと考えられています。
最後に、中小M&A仲介における利益相反について、説明します。
中小M&Aにおける構造的課題
中小M&Aの登場人物は、通常、売り手、買い手、仲介者の3者です。M&A仲介においては、3者の意向がそれぞれ異なるため、利益相反が起こりやすい構造になっています。
売り手 なるべく高く会社を評価して欲しい
買い手 投資額(買収額)を低くしたい
仲介者 売り手との関係は1回のみ
買い手は別の売り手をM&Aする可能性がある
買い手の利益を優先したい
中小M&Aではなぜ仲介が主流であるか?
主に以下の2つの理由が考えられます。
理由1)多数対多数のマッチングが必要
中小企業のM&Aは、日本企業の中で最も数が多い中小企業同士のM&Aです。多数対多数のマッチングの場合、仲介の方がマッチングし易くなります。
理由2)お金だけではない理由で譲渡先を選びたい売り手(譲渡企業)の社長
企業のM&Aは、金額の妥当性が最も重要です。売り手と買い手の双方の株主に対して論理的な説明をする必要があります。上場企業のM&Aは、売り手と買い手に別々のアドバイザーがつき、入札形式でM&Aを進める場合が多いです。
一方、中小企業同士のM&Aは、金額だけではなく売り手の社長の人柄や経営方針が金額以上に重視されます。そのため、売り手と買い手に別のアドバイザーを付けるよりも、仲介者が両者の間に入る方が複数の買い手候補に売り手の定性情報が伝わり易く、結果的に売り手の社長は納得してM&Aすることができます。
中小M&Aにおける利益相反
M&A仲介者が、「情報を遮断する」、「顧客に仲介であることを伝えない」、「想定以上の手数料を取る」場合、利益相反行為になります。
情報を遮断する
M&A仲介者は、売り手、買い手に対して情報優位性があります。すなわち、M&A仲介者は、売り手、買い手の非公開情報を入手できる立場にあります。M&A提携仲介のプロセスにおいては、原則、売り手と買い手は直接交渉は禁止されています。仲介者がその立場を利用して案件成約を第一優先として、売り手若しくは買い手の一方にネガティブな情報を伝えずに案件成約した場合、利益相反になります。
【設例】
M&A仲介者は、M&A後に売り手のキーマン(営業部長)が退職するという情報を入手しました。しかし、M&A仲介者はこの事実を買い手に伝えると案件がブレイクするので、案件成約を優先して買い手に伝えませんでした。M&A後、売り手の売上は下がり、業績が悪化しました。
顧客に仲介であることを伝えない
中小M&Aガイドラインより、M&A仲介者は売り手と買い手に対して、仲介の立場で案件に携わることを告知する必要があります。M&A仲介者は、顧客(売り手、買い手)に対して、仲介という形態で携わることを認識させて、必ずしも売り手又は買い手、いずれか一方の利益のためだけに動くわけでないことを暗示します。そして、これを許容できる顧客(売り手、買い手)であれば、仲介という形態をとることができます。
想定以上の手数料を取る
フェアマーケットバリュー(FMV)より低い金額を売り手に提示し、FMV前後で買い手から価格提示をさせ、その差額の一部を仲介手数料として受け取る行為は、利益相反行為に該当します。
【設例】
フェアマーケットバリュー(FMV)10億円の売り手に対して、7億円なら譲渡できると説明し、買い手に8億円で価格提示をさせ、FMVとの差額の2億円(=10億円-8億円)の一部(例えば、差額の50%の1億円)を手数料として受け取る場合
買い手はFMVより低い価格で買収するので得しますが、売り手はFMVより低い価格で譲渡するので、利益相反になります。
(注)株式価値=適正市場価値、フェアマーケットバリュー(FMV:Fair Market Value)
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