第2話『M&Aの流儀』~半年前から売手が準備しておくべきこと~

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『M&Aの流儀』~半年前から売手が準備しておくべきこと~第2話

活動前にやるべき準備とは

初対面の人と会う時には、外見の印象を良くしたり、体調を良くしておくことなどはオーナー経営者であれば誰しも意識して行動をしていると思います。

会社を売却する場合も同様です。

当たり前のことですが、会社をなるべく良い状態にして、仮に欠点があったとしてもきちんと説明をしておくようにすることが肝要です。

買う側にとって不安の少ないものである必要があります。

まずは売却に向けた活動をする前に、「会社自体を良くしておくこと。

 

それは言われなくてもわかるとは思いますが、その他に抜け落ちがちなのが、

買い手候補にとってわかりやすいものにしておくこと

譲渡に際して不安の少ないものであるようにしておくこと

が必要です。

改めて、利益を上げられないかを見直す

まず、改めて無駄遣いをしていないかどうか客観的に見直すことです。

使ってもいない定額サービスがあったら解約したり、電話や電機の契約なども見直して固定費を下げておくことです。

理想的には実際に活動する半年くらい前に着手しておけば、利益を安定的に改善させておくことができるので、株価に反映されるからです。

と言っても、なかなか自己を顧みることが難しいのは、個人も法人も同じです。

著者は依頼を受けた全ての会社においてデータを見てから1時間以内には必ず何かしらの無駄遣いを発見してきましたが、また同時にほとんどのケースにおいて

「うちはコスト削減を十分にやってきています」という話を先に受けてきました。

何も効果を出していないサービスを惰性で続けていることです。

WEBのアクセス向上サービスや、電話や保険の契約(前任者がわけもわからずに過剰な規模であったり過剰にオプションに入っているケース)、借りすぎているWi-Fi端末やコピー機のリース代など、細かいものは多々あります。

単純に物の買い方を工夫するとか契約を見直すということだけでなく、少しだけ行動を変えれば浮かせられるコストということはたくさんあります。

最近よく見る例としては、会議室を含めて借りているオフィスの賃料があります。

会議室が自社にとって本当に必要かどうか。打合せスペースが執務室内に確保できれば社内の打合せが事足ります。

社外の人との打合せで会議室が必要な時には、最近増えてきた時間貸しの会議室サービスの利用でカバーできないかを改めて考えても良いのかと思います。

固定費のインパクトは大きく、月30万円の家賃が一部解約できたり、狭いところに移ったりすることで25万円にできれば、年間で60万円浮くことになります。

先ほど触れた時間貸しの会議室を60万円分借りようとしたら相当長い時間借りられるはずであり、それでもカバーできないのかと考えてもいいのかと思います。

別の機会に述べますが、資産が豊富な会社でもない限りは、株価は利益で決まります

その株価はおおよそ、現金の創出力(営業利益+減価償却費など)に対して3倍、5倍という評価をされますので、100万円の利益向上は、株価の評価に300-500万円のインパクトがあります。

そう考えると月額10万円でも1万円でも馬鹿にできないでしょう。

利益を少しでも上げておく数字を見せておくことは、後になって大きく有効になります。

プライベートな経費の説明責任は果たせるようにしておく

オーナー系の中小企業においては、特に儲かっている会社ほど旅費交通費から飲食費、何もしていない親族役員への報酬など、個人のものなのか会社のものなのかというものが曖昧なものがたくさんあるのが実態でしょう。

そうしたかなり個人的な用途の経費の全てを、売却が決まる前に控えて綺麗にしておく必要まではありません。

ただ、すべて説明できるようにしておかなければなりません。

過去に節税目的で加入していた生命保険など、「これを解約することでPLがいくら回復する。積立金はいくらになっている」という情報はクリアにしておいた方が良いです。

現金の創出力が本当はいったいどれくらいあるのかが、相手は最も知りたい情報です。

株主はすっきりさせておく

また、できる限りやっておいた方が望ましいのは、株主の整理です。

買い手から見て、親族だけしか持っていないなどシンプルな株主構成であればあるほど安心して交渉できます。

途中で株主の移動があった(例えば、友人に持ってもらっていたのを買い取ったなど)場合には、その過程や売買の証明があった方がいいでしょう。

買い手候補がきちんとした会社であるほど気にするポイントです。

「いちいち面倒だなあ」と思うかもしれません。

しかし、買い手候補から見た時に、株式を全部買い取ったつもりだったのにもかかわらず、実は他にも所有者がいた、あるいは過去に買い取ったはずの株主から「いや、買い取られた覚えはない。そんなの無効だ」といって出てくるリスクなどはゼロでなければなりません。

そうした恐れがあった場合でも、最終的には表明保証(出した情報が嘘ではありません、嘘や間違いがあって買い手に損失が発生した場合、その金額はかぶりますという契約書)で対応できるので問題は押さえこめます。

ただし、買い手にとってはモメないのが最良であり、見えない要素は不安要素でしかありません。

「そもそも株券なんてないよ」という会社がほとんどだと思いますが、定款上は「株券が発行できる会社」となっていることも大半です。

よって、譲渡の対象になる株式がすべて見えていることを証明できるようにしておくことは取引のスタートラインに立つことに等しいです。

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中沢光昭

㈱リヴァイタライゼーション代表、企業再生をメインとした経営コンサルタント 経営者としても含めて破綻会社や業績低迷企業の再建・変革実績を多数持つ。また、高齢化に伴う第三者への事業承継の受け手として保有・運営 東京大学大学院工学系研究科修了 著書に『経営計画はなぜうまくいかないのか?』『会社員が一生モノの“実のある仕事”を創る方法(β版): 事業承継問題を抱える会社を個人で引き継ぐ』『事業承継による、中小企業を売却するときの基本の「き」: 最初で最後の会社の売却を、後悔なきものにするために』(Kindle)などがある。

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