目次
Ⅰドラッグストア業界の市場動向
ドラッグストアとは、医薬品、化粧品を中心に日用雑貨・家庭用品・生鮮食品を除く食品などを取り扱う小売店のことをいいます。2009年の薬事法(現在の法律名は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(通称・薬機法」)改正により医薬品販売規制が緩和されました。この規制緩和によって一般用医薬品の販売が拡大し、過去20年足らずで業界全体の市場規模が倍以上に拡大しました。
ドラッグストアは、健康相談や調剤薬局併設などで地域医療の一部を担っており、各社は顧客のニーズに合う取り組みを行っています。また、ドラッグストア業界全体として一般食品などの売上が大きく伸びており、コンビニエンスストアやスーパーマーケットと同様に利用顧客が増加しています。このビジネスモデルの変化に伴って、医薬品・化粧品ではなく食品の売上比率が高くなる場合もあり、現在のドラッグストアは単純な薬局ではなく、生活全般をサポートする小売店という位置づけになっています。
ドラックストア業界の特徴は、以下の①~④になります。
①政策により大影響を受ける規制産業
従来、ドラッグストアの収益の柱であった医薬品の取り扱いは、薬時法にて規定されています。薬時法は国の医療・福祉政策により改正が行われる法律であり、改正の内容がドラッグストアの収益構造に大きな影響を及ぼす要素です。
②立地・商圏から受ける影響が大きい
ドラックストアの業績は立地や商圏に依存するため、出店戦略が重要です。そのため、ドミナント(特定地域の大量出店)戦略が取られる場合があります。この戦略によって、店舗商圏の空白地域を埋めて、商圏内のシェアを向上することができます。
③特定地域における大量出店が効果的な場合がある
また、ドミナント戦略は、顧客認知度の向上、競合店の参入抑止、広告宣伝の効率化、配送センターの運用効率化を図ることができます。
④規模のメリットが大きい
店舗数が多く取り扱い金額が大きい企業は、仕入れ先との交渉力を有し、単価など仕入れ条件について有利な条件を享受しやすい点が強みです。大規模企業はプライベートブランド(PB)の開発・提供しており、粗利率の向上を図ることができるため、主要10社で市場シェアの70%近くを占める業界構造となっています。
2022年のドラッグストアの商品販売額は前年比5.5%増の7兆7,094億円、店舗数は前年比4.6%増の18,429店でした(経済産業省:商業動態統計(2023年2月23日))。
出所:経済産業省、業界動向サーチ
過去の推移を見ると、店舗数の増加に伴って、ドラッグストアの販売額が増加しているのが分かります。一方、店舗数の増加に伴い競争は激化したことにより、業界再編の動きが活発化しました。
近年、ドラッグストア業界の市場動向を見ると、2020年はコロナ禍で業績が悪化する他の業界が多いのに対して、ドラッグストア業界は好調に推移しました。2021年は、巣ごもりや買いだめ特需の反動から売上の伸びが鈍化しました。2022年には、売上と店舗数が再び増加しました。なお、2019年以降の一店舗当たりの売上は、2020年の特需を除くと横ばいで推移しています。
以下のグラフは、ドラッグストア大手6社の2021年から2023年8月までの既存店売上高の推移をあらわしています。
出所:業界動向サーチ
大手ドラッグストアの月次売上高の推移を見ると、2021年から2023年にかけて前年比100%前後で推移しています。その理由としては、コロナ禍による医薬品や食品分野の特需が一服したことが挙げられます。なお、、2023年4月以降は6社の月次売上高は上昇傾向になっています。
ドラッグストア販売額の商品別内訳(下記のグラフ)を見ると、2020年は食品が同12.4%増の2兆1,834億円と全体の約3割を占めており、同業界の売上増加に大きく寄与していることが分かります。
出所:経済産業省「2020年 小売り売業販売を振り返る」
一方、調剤医薬品とOTC医薬品は全体の約20%を占め、ヘルスケア用品や健康食品、化粧品・小物、トイレタリー、家庭用品・日用品・ペット用品が約50%を占めています。家庭用消耗品は安売りの目玉商品として集客の役割を果たし、粗利が高い医薬品や化粧品を併せて販売することで利益を確保するビジネスモデルであると言えます。
また、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大により、マスクや消毒液などの感染症対策商品の売上が増加しました。
今後は販売商品のバランスをとりつつ、一定の利益率を確保していくこと同業界共通課題です。
Ⅱドラッグストア業界の売上高ランキング(2021‐2022年)
出所:各種資料より作成
(注)マツキヨ&ココカラカンパニーは、マツモトキヨシグループ事業とココカラファイングループ事業の売上高、サンドラッグ、クリエイトSDホールディングスはドラッグストア事業の売上高である。
Ⅲドラッグストア業界のM&A
2019年 (買い手企業) ウエルシアホールディングス(3141)
(売り手企業) 金光薬品株式会社
ウエルシアホールディングスは、調剤併設型ドラッグストアチェーンを運営する子会社とグループ会社の経営管理などを行っています。
金光薬品株式帰社(岡山県:売上高40億円)は、岡山県内でドラッグストアと調剤薬局を運営しています。
ウエルシアホールディングスは、金光薬品を子会社化しました。本M&Aの目的は、岡山県と中国地方での店舗網の強化が狙いです。
2019年 (買い手企業) ツルハホールディングス(3391)
(売り手企業) 株式会社おおがたむら調剤薬局
ツルハホールディングスは、ドラッグストア大手であり、地盤の北海道から九州まで店舗を展開しています。
株式会社むら調剤薬局(秋田県:売上高1億7,200万円)は、秋田県南秋田郡大潟村において、地域のかかりつけ薬局として調剤薬局1店舗を運営しています。
ツルハホールディングスは、おおがたむら調剤薬局の全株式を取得して完全子会社化しました。
本M&Aの目的は、ツルハグループの一員として、より質の高いサービスの提供と地域医療への貢献を行うのが狙いです。
2020年 (買い手企業) ココカラファイン(現マツキ&ココカラ&カンパニー(3088))
(売り手企業)薬宝商事有限会社
ココカラファインは、中核事業であるドラッグストア事業と調剤薬局事業を拡充しています。
有限会社薬宝商事(神奈川県)は、神奈川県で調剤薬局2店舗を運営しています。
ココカラファインは、薬宝商事の全出資持分を取得して完全子会社化しました。
本M&Aの目的は、神奈川県におけるヘルスケアネットワークの構築を推進することです。
2021年 (買い手企業) 株式会社ナルックスクスリのアオキホールディングス(3549)の子会社
(売り手企業) 株式会社スーパーマルトモ
株式会社ナルックス(石川県金沢市)は、石川県で食品スーパーマーケット、 ドラッグストアを運営しています。
株式会社スーパーマルトモ(茨城県)は、土浦市を中心に食品スーパー7店舗を運営しています
クスリのアオキホールディングスは、スーパーマルトモのスーパーマーケット事業(茨城県)を吸収分割により承継しました。
本M&Aの目的は、クスリのアオキHDグループにける茨城県のドミナント強化です。
2021年 (買い手企業) ココカラファイン(現マツキ&ココカラ&カンパニー(3088))
(売り手企業) 有限会社イー・ウェル有限会社ウェル・サポート 有限会社メディカル・サポート
ココカラファインは、中核事業であるドラッグストア事業と調剤薬局事業を拡充しています。
イー・ウェル(三重県津市)、ウェル・サポート(同)、 メディカル・サポート(三重県松阪市)は、
各社1店舗、計3店舗の調剤薬局を運営しています。
ココカラファインは、イー・ウェル、ウェル・サポート、 メディカル・サポートの3社(三重県)を完全子会社化しました。
本M&Aの目的は、三重県におけるドミナント(地域集中出店)戦略の一環です。
2021年 (買い手企業) ウエルシアホールディングス(3141)
(売り手企業) 株式会社ププレひまわり
ウエルシアホールディングスは、調剤併設型ドラッグストアチェーンを運営する子会社とグループ会社の経営管理などを行っています。
株式会社ププレひまわり(広島県:売上高517億円)は、広島県を中心に中国・四国地方で123店舗のドラッグストアを運営しています。
ウエルシアホールディングスは、ププレひまわりと資本業務提携を締結しました。
本M&Aの目的は、ウエルシアHDは中国・四国地方のドミナント強化、ププレひまわりはウエルシアHDの仕入れや物流網を利用し運営の効率化を図る狙いがあります。
2022年 (買い手企業) ウエルシアホールディングス(3141)
(売り手企業) 株式会社コクミン、株式会社フレンチ
ウエルシアホールディングスは、調剤併設型ドラッグストアチェーンを運営する子会社とグループ会社の経営管理などを行っています。
株式会社コクミン(大阪府:売上高398億円)は、薬局、薬店の運営、株式会社フレンチ(大阪府)は薬局の運営を行っています。
ウエルシアホールディングスは、コクミンの株式76.26%を取得して子会社化、フレンチ(大阪府:3億6,700万円)の全株式を取得して完全子会社化しあした。
本M&Aの目的は、関西の出店網の拡大、ノウハウや人材などの経営資源の共有による経営規模の拡大です。
出所:各種開示資料より作成 |
Ⅳドラッグストア業界の課題と今後について
①同業他社、他の小売企業との競争激化
ドラッグストア業界においては、同業他社に加えて食品スーパー、コンビニエンスストア、ネット通販など、他の小売企業との競争が激化しています。大手ドラッグストアは、新規出店により業績を伸ばしてきましたが、積極的な出店を行ったためにオーバーストア化が進行しています。
ドラッグストア各社は、粗利益が高い薬のついで買いを促すために、他社よりも食品価格を安く設定して集客を図っています。この食品の取り扱いを強化したことが、食品スーパーやコンビニエンスストアと競合する結果になりました。薬事法の改正により、一部の市販薬はコンビニエンスストアや食品スーパー、ネット通販で販売可能となり、異業種から医薬品販売への参入が始まり、さらに競争が激化しています。
②深刻な薬剤師不足
ドラッグストア業界では、調剤併設型店舗が増加していますが、薬剤師の不足が問題になっています。
薬剤師を必要とする業界は、ドラッグストアのみならず、製薬会社、病院、調剤薬局などがあります。また、薬事法の改正で医薬品を販売する企業が増加、薬学部が4年制から6年制に変更などが原因となり、慢性的な薬剤師不足の状態となっています。薬剤師が確保できない場合、営業や新規出店の妨げになるため、ドラッグストア業界は薬剤師の確保が課題となっています。
③高齢化社会、人口減少による市場の縮小
小売業では、少子高齢化や労働人口の減少、消費の減退による市場の縮小が課題です。
ただし、ドラッグストアは、健康寿命の延伸やセルフメディケーションの推奨において、必要な存在です。高齢化の進展に伴って増大する医療費を抑制するため、政府が推奨しているのがセルフメディケーションであり、ドラッグストアはその拠点として期待されています。
Ⅴドラッグストア事業をM&Aするメリットとデメリット
【1】主な2つのM&Aの手法
M&Aを検討している経営者の皆様が覚えておくべき主な手法は、株式譲渡と事業譲渡の2つです。
売り手企業の株主が買い手企業に株式を譲渡する手法が株式譲渡です。売り手企業が買い手企業に事業を譲渡する手法が事業譲渡です。どちらを選択するかは、売り手企業の意向、買い手企業の考えによって、両者の交渉によって決まります。会社の借入金、従業員、資産、権利義務関係などの全てを買い手企業へ譲る場合、株式譲渡の手法を選択します。一方、売り手企業の事業が、製造部門と販売部門のように複数事業に分かれており、製造部門のみを譲渡するような場合、事業譲渡を選択します。
以下の設例により、株式譲渡と事業譲渡の2つの方法を比較することにします。
<設例>
X社は、自社ビルの不動産賃貸業とレストラン事業(25店舗:全店舗は賃借)の運営を行っています。株主はオーナー社長のみです。コロナ禍の影響を受けて、レストラン事業の業績が悪化したため、X社はレストラン事業を第三者へ譲渡することにしました。
レストラン事業を事業譲渡する場合、買い手企業のメリットは、レストラン事業のみを引継ぐ点になります。ただし、従業員の再雇用、権利義務関係の引継ぎなどの手続が煩雑になるデメリットがあります。一方、売り手企業の簿外債務を引き継ぐリスクはありません。売り手企業のメリットは、レストラン事業のみ譲渡できる点、譲渡代金は売り手企業(X社)が受領する点になります。
【2】M&Aの手順・流れ
①プロセス開始当初にご依頼する資料やお伺いする情報がスムーズにご提供戴けると、その後のプロセスが円滑に進行します。
②予備的企業価値評価は、当社専門家(会計士/税理士)監修のもと実施。この段階で、譲渡価格や条件等の内容を概ね決定します。
③買手候補企業との間で大枠の条件が固まったら基本合意書(法的拘束力無し)を締結します。この段階より1対1の交渉(独占交渉)が始まります。
④基本合意と買収監査結果で差異があった項目を中心に調整し、詳細事項を決定。M&A実施後の体制等も、この段階ですり合わせます。
【3】M&Aにより会社を売却するメリット
売り手企業の動向とメリット
コロナ禍の影響により、業績が悪化した飲食店や休業を余儀なくされた飲食店が、資本力があり、強固な経営基盤を有する企業に自社を売却し、その傘下で事業の継続・発展を図る例が見られます。
また、不採算の店舗や飲食ブランドを売却し、コア事業に経営資源を集中する例もあります。
後継者問題を抱える中小企業・小規模事業者の場合、M&Aによる第三者への事業承継を選択することで、事業の継続が可能になります。
飲食業界においてもM&Aを利用した事業承継の例は多く見られます。自力での事業継続が難しい(廃業を検討したり、倒産の恐れがある)場合でも、M&Aを利用することによって事業継続が可能となり、従業員の雇用や得意先との取引を維持し、将来的に事業拡大を図ることができます。飲食業界のM&Aにおいて買い手企業となるのは、同業大手、総合商社、多角経営の大企業グループ、ファンドなどです。
例えば、商社は商品や原材料を調達し企業に供給することをコア事業としています。
一方、飲食業は商社から見てサプライチェーンの川下側(商品・原材料の供給を受ける側)の末端に位置し、消費者に直結するところで事業を展開しています。
飲食業のM&Aにより、商社は川下側に事業分野を拡大するとともに、消費者のニーズを収集し商社としての機能を強化することが可能になります。
買い手企業の動向とメリット
コロナ禍において飲食業界は厳しい経営環境に置かれていますが、M&Aを通して業容の拡大や転換を図る動きも見られます。具体的には、飲食店によって以下のようなM&A(他社の子会社化や事業の譲受)が行われています。
・中食(テイクアウトやデリバリー、調理済み食品製造・小売)に関わる企業・事業を譲り受けして、同分野へ進出(あるいはすでに展開している同分野事業を拡大し中核的な事業へと強化)
①ブランド戦略や出店網などに違いがあり、互いに相補う関係にある同業者・飲食ブランドをM&Aし、
業容拡大・ブランド戦略深化を図る
②飲食事業と関連性のある異業種企業を買収し新分野に進出
(例:和食店が旅館を買収し宿泊業に進出)
コロナ禍や中長期的な消費トレンドに対応していく上で、中食の取り込みは重要な戦略的課題のひとつですが、スーパーやコンビニなどの競合企業がひしめく中食市場に単独で切り込んでいくことは容易ではありません。
中食業態においてすでに事業を確立している他社をM&Aすれば、中食業態への参入をスムーズに進めることができ、競争力を短期間で高めることが可能になります。
多店舗展開を経営の柱としている企業グループ(例えばホテル・飲食・小売事業を展開する鉄道会社)にとって、飲食業のM&Aは店舗戦略の基本手段のひとつです。
また、ファンドにとっても、現在の状況は飲食業への投資の好機であると言えます。
【4】会社を売却するデメリット
・買い手企業が見つからないリスク
会社を売却すると決断してもすぐに買手企業が見つかるとは限りません。
M&Aにはそれなりのコストがかかるので、買い手企業にとっては、それなりのメリットがなければM&Aを実行しません。コロナ禍においては、M&Aを検討する企業数が減っており、かつ投資目線も厳しくなっています。つまり、「コストをかけてもM&Aを行う」と買い手企業が思うような魅力がある会社(売り手企業)でない限り、なかなか買手企業が現れないと考えるのが良いでしょう。M&A市場においては、一般に「将来的に売り手企業がどの程度の収益を上げる力があるか」で売り手企業は評価されます。したがって、収益面では黒字にすること、過度な借入金(例えば、売上高を超える、あるいは同じ金額の借入金)は避けるべきです。
・M&A後における従業員の待遇面の不安
M&A後における従業員の労働条件や解雇の規則については、買い手企業によって変更をされないように最終契約書に記載しておく必要があります。最終契約書での取り決めがない場合、M&A前より悪い労働条件で働かされたり、簡単に解雇されたりする可能性があるためです。M&Aを実行する場合、確認する事項は個別案件ごとに異なり、また多岐にわたります。この確認をおろそかにせず、売り手企業と買い手企業のお互いがM&Aのメリットを享受できるように交渉を進めることが重要です。
Ⅵ会社を売却する際の株価の考え方
株価(株式価値)の算定方法として一般的に用いられる手法は、修正純資産法、類似会社比較法(マルチプル法)、DCF法です。
【1】修正純資産法
評価対象会社(売手)の貸借対照表に計上されている全ての資産・負債を時価評価した後の純資産額に営業権を加算して企業価値を算定する方法です。この方法は、企業の静的な価値を判定するのに適しています。未上場会社のM&Aで利用されることが多い方法です。
(注)黒字の場合、営業権として修正後営業利益の3年分程度の金額を加算します。一方、赤字(営業損失)の場合、営業権はつきません。社歴〇〇年の老舗企業、あるいは△△△ブランドで有名などの要素は、営業権として評価されません。
【2】類似会社比較法(マルチプル法)
業種、企業規模等の類似する上場会社の一定の財務数値に対する企業価値の倍率を測定し、評価対象会社(売手)の財務数値に当該倍率を乗じることで企業価値を算定する方法です。
上場会社、未上場会社のM&Aにおいて利用されている方法です。
なお、未上場の中小企業・小規模企業のM&Aの株価算定においては、会社規模(売上)が小さい、ニッチ業種であるなどの理由により、上場会社の中から類似会社を選定することが難しい場合があります。
【3】DCF法
事業活動から得られると予測される将来キャッシュ・フローの総額を現在価値に割り引いた金額を企業価値として評価する方法です。将来キャッシュ・フローの予測に企業価値が大きく左右される方法です。上場会社のM&Aにおいては、一般的に利用されることが多いです。
なお、DCF法を用いる場合、将来キャッシュ・フロー算出の基礎となる評価対象会社(売手)の事業計画が必要となります。また、当該事業計画の客観性、妥当性、実現性等が重要になります。
【4】考慮すべき事項
評価対象会社(売手)が、企業のライフサイクル(イメージ図)において、創業期、成長期、成熟期、衰退期のいずれの段階に該当するかを判断します。
併せて、評価対象会社の継続性の疑義の有無、知的財産等に基づく超過収益力に依存する収益構造であるか、類似上場会社のない新規ビジネス、或いはニッチ業種に該当するかなどを判断する必要があります。
企業のライフサイクル(イメージ図)
以上の考慮すべき事項を確認した後、評価対象会社(売手)に適切な株価(株式価値)の算定方法を選択します。複数の算定方法を選択できる場合は、それぞれの算定方法の結果を比較検討するのがよいでしょう。
【5】株価(株式価値)の算定方法の選択
〇:採用が適していると考えられる △:場合によっては採用することが想定される
【6】会社を売却する場合に係る税金
中小M&Aの方法のうち、最も多く用いられる株式譲渡の場合において、会社売却に係る税金をどのように考えるかを一緒に見てみることにします。会社の株主が個人である場合、所得税・住民税あわせて20.315% の固定税率で分離課税が適用されます。以下の設例を用いて、会社を売却した場合、株主の税金をどのように計算するかを説明します。
<設例>
会社株主は、社長のみの一人株主とします。
株式の出資額10,000千円、株式譲渡代金100,000千円、売り手(個人株主)のM&A手数料5,500千円 (消費税込み)とします。
株式の売却益(注)は、株式譲渡代金から株式の出資額を差し引いた、90,000千円(=100,000千円−10,000千円)となります。
(注)キャピタル・ゲイン(資本利得)
個人株主の場合、株式の売却益は分離課税の対象となり、税率は20.315%(注)が適用されます。
また、M&A手数料(消費税込み)は、売却益から費用として差し引くことができます。
よって、個人株主が負担する税金は、以下のように計算することができます。
(90,000千円−5,500千円)×20.315%(注)=17,166千円
(注)所得税及び復興特別所得税(15.315%)+住民税(5%)
【7】会社を売却するタイミングを考える場合のポイント
会社を売却するためのポイントは3つあります。
ポイント① 引退の時期を決める。
「この事業が上手くいったあとで」といった条件付きの不明確な時期の決め方ではなく、できれば年月を確定することをおすすめします。時期を決めることで、実現するための強い決意が生まれます。
経営状態がよいタイミングで売却すると高い株価で売却でき有利ですが「企業価値が上がったら売却してリタイアしよう」という決め方だとなかなか踏ん切りがつかず、ハッピーリタイアの実現は難しくなるでしょう。
ポイント② 売却前に次の経営者がやりやすいように経営環境を整えておくことです。
後顧の憂いなくリタイアするためには、経営者の頭の中にある重要な項目を整理しておくことが重要です。
特に、従業員の対するケアがポイントであり、各従業員の性格等を、事業引継ぎの際に伝えておかなければ、その後の組織運営に支障が出ます。
ポイント③良いフィナンシャル・アドバイザーを見つける。
会社を売却する際には、専門的知識が必要となり、M&Aの専門家のサポートが必要となります。
中小M&Aの実績が十分にあり、業界での評判の良いM&A仲介会社を選ぶとよいでしょう。
どのM&A仲介会社も初期相談は、無料で対応しています。複数社と面談して、相性の良さそうな会社を選択するのも一つの方法です。
(注)フィナンシャル・アドバイザーの役割は、クライアント(売り手、買い手)が目指す戦略実現のために、最適なM&A手法を企画 立案し、その執行を全面的にサポートすることです。アドバイザリー会社のタイプとしては、金融機関系、会計会社系、ブティッ系の3つに大別することができます。
Ⅶ弊社M&Aコンサルティングサービスのご案内
弊社のM&Aコンサルティングのご案内です。特徴は3点あります。
①プロフェッショナルによるM&Aサポート
M&Aの専門性を持つ、経験豊かなコンサルタントが、皆様にきめ細かなサービスを提供させていただきます。実際に成約したお客様、皆様からご満足いただいております。
②完全成功報酬の手数料体系
当社は、1社でも多くの中小企業のM&A支援を行うために、リーズナブルな手数料体系を採用しています。着手金、月額費用などはいただかず、成功報酬のみの完全成功報酬制を採用しています。
③多くの成約実績
業種、規模、エリアを問わず、多くの成約実績がございます。
高い専門性を持ったM&Aコンサルタントが、ご満足いただけるサービスを提供させていただきます。
株式会社経営承継支援は、一社でも多くの企業を廃業危機から救うため、全ての企業様のご相談をお受け致しております。
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