食品業界の動向およびM&Aについて【2023年版】

目次 [ ]

各種食品製造の業界動向および現状

2021年度の食品製造業の売上高は、前年比1.2%減の41兆6,385億円、営業利益率は前年比26.1%増の2.9%でした(財務省の法人企業統計調査)。


出所:財務省、業界動向サーチ

食品製造の売上高は2018年度から2021年度にかけて減少しています。利益率は2020年度まで減少傾向でしたが、2021年度には増加しています。
2021年から2022年にかけて食品業界は、コロナ禍の巣ごもり需要は落ち着きを見せましたが、経済再開の動きによって業務用食品の需要は増加しました。一方、原材料価格の高騰の影響により、食品価格の値上げが相次いでおこなれました。具体的には、小麦、製油、畜肉、乳製品などで価格の高騰がみられました。

Ⅰ「調味料」

2022年のしょうゆ生産量は前年比0.9%減の69.7万kl、みそは同1.3%増の46.8万t、めんつゆは2.0%増の18.0万klでした(農林水産省:食品産業動態調査(2023年3月))。

出所:農林水産省、業界動向サーチ

2022年はみそとめんつゆが微増し、しょうゆは微減しました。また、調味料全体を見ると、2022年は前年とほぼ同水準でした。
2020年の調味料業界は、コロナ禍による巣ごもり需要の影響を受けて、家庭用の調味料は増加しましたが、外食向けなどの業務用は減少しました。2020年はコロナ禍の影響により、プラスとマイナスの両面が見られました。
2021年の調味料業界は、前年好調であった家庭用の調味料需要は落ち着きましたが、前年に落ち込んだ業務用は回復基調になりました。
なお、2021年後半から2022年にかけては、原材料価格が高騰したため、各社は相次いで値上げを実施しました。これにより値上げによる利益率の向上は見込めますが、物価上昇に伴う消費者の買い控えがあるため、先行きの不透明感がありました。

Ⅱ調味料業界の売上高ランキング(2021‐2022年)


出所:各社開示資料

(注)味の素は調味料事業、キッコーマンは国内と海外食料品製造・販売事業、カゴメは加工食品事業、ハウス食品グループ本社は香辛・調味加工食品事業、キユーピーは市販用調味料と業務用調味料事業、エスビー食品は食料品事業、永谷園HDは国内と海外食料品事業、ケンコーマヨネーズは調味料・加工食品事業の売上高です。

Ⅲ「乳製品」

2022年の乳酸菌飲料の生産量は、前年比10.4%増の43.6万kl、発酵乳の生産量は同1.7%増の23.3万klでした(農林水産省の食品産業動態調査(2023年3月))。

出所:農林水産省、業界動向サーチ

2022年の乳酸菌飲料の生産量は増加、発酵乳(注)の生産量は微増となりました。乳酸菌飲料、発酵乳ともに17年ごろから生産量が増加して高水準で推移し続け、2022年の増加率はさらに伸長しました。
(注)原料の乳に乳酸菌や酵母などを加え、発酵させて糊状または液状にしたもの。発酵乳の代表例はヨーグルトであり、発酵乳を加工したものは乳酸菌飲料です。

2021年の乳製品業界は、外食向けやホテル、観光業やお土産等の業務用乳製品の需要は、コロナ禍前の水準には回復しませんでした。一方、家庭用向け乳製品については、前年の巣ごもり特需の反動から需要は減少しました。また、2021年後半以降、原材料や燃料価格が高騰し、飲料などの一部商品の値上げを実施したため販売数は減少しました。
一方、外食需要が回復したことで、業務用バターの需要が前年に比べて増加しました。また、各社が強化している機能性や高付加価値分野のアイスクリームやヨーグルト、チーズなどは、継続的に増加しています。

Ⅳ乳製品業界の売上高ランキング(2021‐2022年)


(注)森永乳業は食品事業、雪印メグミルクは乳製品と飲料デザート類事業、ヤクルト本社は飲料・食品事業、明治ホールディングスはヨーグルト・チーズと牛乳事業の売上高です。

Ⅴ「製糖業」

2022年の国内産糖生産の見通しは前年比10.6%減の70万8千トン、砂糖の輸入量の見通しは前年比7.5%増の105万8千トンとなりました(農林水産省:「砂糖及び異性化糖の需給見通し(2022年12月)」)。

出所:農林水産省、業界動向サーチ

2022年は国内生産量が前年から8万4千トンが減少し、輸入量は7万4千トンの増加でした。なお、中長期的には国内生産量は横ばいで推移し、砂糖の輸入量は減少傾向であることが分かります。

2020年の新型コロナウィルスの感染拡大の影響により、外食の落ち込みや土産菓子などインバウン需要が無くなった結果、業務用ニーズは減少しました。一方、非常事態宣言の影響により、消費者が家にいる機会が増えたため、家庭用消費は増加しました。

2021年の製糖業界は、経済再開に伴う業務用の回復が一部で見られたため、前年と比べて回復基調となりました。しかし、2021年後半から粗糖価格をはじめ、海上運賃や原油価格などが高騰したため、生産コストが上昇しました。これを受けて、製糖メーカー各社はコスト上昇分を転嫁した値上げを実施しました。

2022年から2023年にかけての製糖業界は、家庭用需要は減少しましたが業務用の需要が増加しました。また、インバウンド需要の回復、外食や土産物の消費回復、清涼飲料向けや菓子向けなどの業務用も回復、販売価格も上昇したことで収益は改善しました。一方、円安の進行や輸入国の天候不順の影響で粗糖相場は高値圏で推移しており、砂糖の出荷価格が引き上げられています。

Ⅵ製糖業界の売上高ランキング(2022‐2023年)

(注)DM三井製糖HDは砂糖事業、ウェルネオシュガーは砂糖その他食品事業、日本甜菜製糖は砂糖+食品事業、塩水港精糖、東洋精糖は砂糖事業の売上高です。

Ⅶ「清涼飲料水」

清涼飲料水とはアルコールを含まない飲料であり、乳製品を除く(食品衛生法)ものである。具体には、天然水や果汁飲料、茶系飲料、コーヒー・ココア、炭酸飲料など種類は多く、製造、販売業者も多岐にわたっている。

「2020年は7.3%の減少 コロナによるオフィスや自販機需要が減少」

2020年の飲料の販売金額は、前年比7.3%減の3兆7,978億円でした。
2019年の過去最高から約3,000億円のマイナスとなり、生産販売量も前年比4.8%減少しました。
2020年の飲料の品目別生産割合は、「茶系飲料」がもっとも多く、全飲料の約25%に相当しています。続いて、「ミネラルウォーター類」、「炭酸飲料」、「コーヒー飲料等」、「果実飲料」、「スポーツ飲料」、「紅茶」が占めています。近年の飲料業界の動向を見ますと、2019年は夏場の記録的な天候不順で冷夏に見舞われて大型ペットボトルの値上が行われましたが、販売金額、生産量ともに微減となりました。
一方、紅茶飲料の生産量は過去最高を記録し、エネジードリンク市場も好調でした。
2020年は、新型コロナウィルスの感染拡大によりオフィス内の自動販売機やコンビニでの販売量が減少しました。
さらに、外出自粛の影響からレジャーにおける飲料需要が減少し、自宅で過ごす消費者が増えたため、小型ペットボトルの販売は振るいませんでしたが、大型ペットボトルの需要は増加しました。
近年の飲料業界のトレンドは、無糖タイプの強炭酸飲料が人気商品になっています。無糖・強炭酸タイプの飲料商品は健康志向を求める大人を中心にヒットしています。

Ⅷ清涼飲料水業界の売上高ランキング(2021‐2022年)


出所:各社開示資料
(注)サントリーホールディングスは飲料・食品事業、大塚ホールディングスはニュートラシューティカルズ関連事業および消費者関連事業、アサヒグループホールディングスは飲料事業、キリンホールディングスはキリンビバレッジ事業、サッポロホールディングスは食品飲料事業、カゴメは飲料事業の売上高です。

Ⅸ「製茶業」

国内の緑茶市場はペットボトル入りの緑茶飲料が増加基調にある一方、急須でいれるリーフ茶は減少傾向にあります。一世帯当たりの茶飲料とリーフ茶との支出金額は逆転しており、市場構造に大きな変化が生じています。
製茶業会社の所在地を都道府県別に見ますと、静岡県の占める比率の高さが顕著です。全体の50%弱が静岡県あり、2位の京都府(約7%)、3位の鹿児島県(約6%)、4位の岐阜県、福岡県(約4%)などを大きく引き離しています。
農林水産省の「作物統計」によりますと、静岡県は荒茶生産の4割を占める日本一の産地であり、大消費地である首都圏の近くに位置しています。このことが、製茶業が盛んとなる要因となっています。

ペットボトル茶と規模拡大
社員数で見た場合、ベスト10に静岡県のメーカーは3社入り、そのうち2社は大手メーカーからOEM(相手先ブランドによる生産)を請け負っています。OEMで手がけるのは主にペットボトル茶であり、消費構造の変化に対応しながら事業を伸ばしていることが分かります。

海外輸出の増加
製茶業で最近注目を集めているのは、輸出です。世界的な日本食への関心の高まりと同時に、人口減少で国内市場の縮小が予想され、海外に市場を求める動きが強まっています。それを裏付けるように、輸出する製茶会社は2012年に18社でしたが、2017年には26社に増えています。

(参考)

一般的な煎茶は、荒茶までの工程を茶農家が行い、各茶農家から買い集めた荒茶を茶商(製茶メーカー)が仕上げ茶に加工します。煎茶の仕上げ茶を製造する工程は以下のようになります。
「火入れ」荒茶を乾燥させて風味を向上させる。選別した後に火入れを行う場合もある。
「ふるい分け、切断」不揃いな茶葉を整形する。
「選別、木茎分離」茎や木を取り除き、粉茶茎茶などの出物と呼ばれる茶葉を選別する。
「合組」茶葉を商品の特性に合わせてブレンドし、梱包、出荷する。

Ⅹ「コーヒー」

全日本コーヒー協会によると、日本は世界でも有数のコーヒー消費国となっています。
2012年の統計ではアメリカ、ブラジル、ドイツに次ぐ世界第4位のコーヒー消費大国であり、週間の1人あたり消費量は11.53杯です。また、コーヒーの輸入量は2013年には50万3137トンとなり、史上最高を記録しました。

<コーヒー業界の歴史>
第一次ブーム 1970年代後半 フルサービスの純喫茶ブーム
1981年のピーク時 全国で15万4630店の喫茶店が営業
第二次ブーム 1980年代後半 ドトールコーヒーなどのスタンドコーヒーの増加
第三次ブーム 1990年代後半 1996年スターバックスが東京銀座に1号店オープン
1997年タリーズが銀座進出

<現在のトレンド>
「コーヒーのトレンドを牽引するコンビニコーヒー」
「コンビニコーヒーに苦戦するマクドナルドと缶コーヒー」
「縮小するインスタントコーヒー市場」
「本格販売が指示されるカフェと喫茶店」
第3次コーヒーブームを牽引したスペシャリティーコーヒーを提供するカフェの代表格スターバックス、2014年9月から限定で1杯およそ2,000円の希少性のあるコーヒーを提供したり、品質を改善した上で値上げを実施しました。

また、第一次ブームの牽引役となったフルサービスの喫茶店も一部人気の兆しがあります。
事業者数は7万454店(2012年時点)とピーク時の半分以下まで減少しましたが、名古屋発祥のモーニングサービスが人気であるコメダ珈琲店、ドトールと経営統合した日本レストランシステムが運営する星乃珈琲店などはコーヒーを飲む環境を含めて多くのコーヒーファンに支持されています。

日本のコーヒー消費量は2011年の42万トンから、2020年には43万トンに増加し。長期的に拡大傾向にあります。コーヒーは常用性の高い飲み物であり、スイーツブームなどとは異なるため、ファンが離れにくい傾向にあります。今後もカフェ人気は続くと思われますが、コンビニエンスストアやマクドナルドなど他業種との競争がさらに激しくなると予想されます。

Ⅺカフェ業界の売上高ランキング(2022‐2023年)


出所:各社開示資料
(注)ドトール・日レスHDはドトールコーヒーグループ事業、伊藤園は飲食関連事業、
サンマルクHDは喫茶事業、キーコーヒーは飲食関連事業の売上高です。
なお、株式会社ポッカクリエイトは2020年の売上高です。

Ⅻ「パン製造」

2022年のパン生産量(小麦粉ベース)は、前年比4.3%減少の118万8,683トンであり、その内訳は食パンが5.7%、学給パンは5.4%、菓子パンが4.9%の減少でした(農林水産省の「食品産業動態調査」)。一方、フランスパンや調理パンを含むその他は0.5%の増加でした。

出所:農林水産省、業界動向サーチ

1983年に57.2%を占めていた米類が、2003年には42.4%に下落し、パンの比率は21.2%から31.4%へと大幅に上昇しました(農林水産省の主食に占める割合の調査)。
パンの需要が伸びている背景としては、食生活の欧米化や若年層を中心とした米離れ、一般家庭の朝食のパンの浸透、孤食・個食などの影響に加えて、増加する共働き世帯による時短・簡便ニーズなどがあります。
また、近年、パンを好むシニア層が増えたり、夕食用に購入する家庭が増えており、これらの状況も市場を拡大させている要因の一つと考えられます。

2020年は新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受けて、外食を控える消費者が増加しました。家庭内で食事を取る機会が増えたことにより、食パンやロールパン等の食事系パンの需要が伸びました。一方、給食用や業務用のパンは需要が落ち込みました。

2021年はコロナ禍による巣ごもり需要の反動減が見られたため、家庭用の食パンやロールパンの消費量は前年から減少しました。
2022年になると、小麦粉を含む原材料費、エネルギー価格や梱包材、物流費などのコストが高騰し、生産コストが上昇しました。各社が商品価格の値上げを行ったため、、消費者の節約志向が高まりました。

ⅩⅢパン製造業界の売上高ランキング(2021‐2022年)


出所:各社開示資料

(注)山崎製パンは食品事業の売上高です。

ⅩⅢ食品製造事業をM&Aするメリットとデメリット

【1】主な2つのM&Aの手法

M&Aを検討している経営者の皆様が覚えておくべき主な手法は、株式譲渡と事業譲渡の2つです。
売り手企業の株主が買い手企業に株式を譲渡する手法が株式譲渡です。売り手企業が買い手企業に事業を譲渡する手法が事業譲渡です。
どちらを選択するかは、売り手企業の意向、買い手企業の考えによって、両者の交渉によって決まります。
会社の借入金、従業員、資産、権利義務関係などの全てを買い手企業へ譲る場合、株式譲渡の手法を選択します。
一方、売り手企業の事業が、製造部門と販売部門のように複数事業に分かれており、製造部門のみを譲渡するような場合、事業譲渡を選択します。
以下の設例により、株式譲渡と事業譲渡の2つの方法を比較することにします。
<設例>

X社は、自社ビルの不動産賃貸業とレストラン事業(25店舗:全店舗は賃借)の運営を行っています。株主はオーナー社長のみです。 コロナ禍の影響を受けて、レストラン事業の業績が悪化したため、X社はレストラン事業を第三者へ譲渡することにしました。
レストラン事業を事業譲渡する場合、買い手企業のメリットは、レストラン事業のみを引継ぐ点になります。ただし、従業員の再雇用、権利義務関係の引継ぎなどの手続が煩雑になるデメリットがあります。一方、売り手企業の簿外債務を引き継ぐリスクはありません。売り手企業のメリットは、レストラン事業のみ譲渡できる点、譲渡代金は売り手企業(X社)が受領する点になります。

【2】M&Aの手順・流れ


①プロセス開始当初にご依頼する資料やお伺いする情報がスムーズにご提供戴けると、その後のプロセスが円滑に進行します。
②予備的企業価値評価は、当社専門家(会計士/税理士)監修のもと実施。この段階で、譲渡価格や条件等の内容を概ね決定します。
③買手候補企業との間で大枠の条件が固まったら基本合意書(法的拘束力無し)を締結します。この段階より1対1の交渉(独占交渉)が始まります。
④基本合意と買収監査結果で差異があった項目を中心に調整し、詳細事項を決定。M&A実施後の体制等も、この段階ですり合わせます。

【3】M&Aにより会社を売却するメリット

オーナーのメリット(株式譲渡の場合)
①オーナー・その他株主のキャピタルゲイン(資本利得)の実現
オーナー一族はリタイアに際して現金収入が発生し、ハッピーリタイアすることができますその他株主も、同様に未上場株式を現金に換金できます

②相続税対策
流動性のない未上場株式を現金化することにより、遺産分割が容易になります

③オーナー一族の個人保証からの解放
買い手企業が保証(債務保証、不動産等の担保提供)を肩代わりするため、オーナー一族の経済的負担が解消されます※親族内承継または従業員承継の場合、オーナー一族の個人保証を継続せざるを得ない場合があります

会社のメリット
①事業の継続を確保、会社成長の可能性があります
②買い手企業の傘下に入ることにより、事業継続と安定性を確保できます
③買い手企業とのシナジー、将来の会社成長の可能性に期待できます
④従業員雇用の継続、安定を図ることができます

【4】会社を売却するデメリット

・買い手企業が見つからないリスク

会社を売却すると決断してもすぐに買手企業が見つかるとは限りません。
M&Aにはそれなりのコストがかかるので、買い手企業にとっては、それなりのメリットがなければM&Aを実行しません。コロナ禍においては、M&Aを検討する企業数が減っており、かつ投資目線も厳しくなっています。つまり、「コストをかけてもM&Aを行う」と買い手企業が思うような魅力がある会社(売り手企業)でない限り、なかなか買手企業が現れないと考えるのが良いでしょう。M&A市場においては、一般に「将来的に売り手企業がどの程度の収益を上げる力があるか」で売り手企業は評価されます。したがって、収益面では黒字にすること、過度な借入金(例えば、売上高を超える、あるいは同じ金額の借入金)は避けるべきです。

・M&A後における従業員の待遇面の不安
M&A後における従業員の労働条件や解雇の規則については、買い手企業によって変更をされないように最終契約書に記載しておく必要があります。最終契約書での取り決めがない場合、M&A前より悪い労働条件で働かされたり、簡単に解雇されたりする可能性があるためです。M&Aを実行する場合、確認する事項は個別案件ごとに異なり、また多岐にわたります。この確認をおろそかにせず、売り手企業と買い手企業のお互いがM&Aのメリットを享受できるように交渉を進めることが重要です。

ⅩⅣ会社を売却する際の株価の考え方

株価(株式価値)の算定方法として一般的に用いられる手法は、修正純資産法、類似会社比較法(マルチプル法)、DCF法です。

【1】修正純資産法

評価対象会社(売手)の貸借対照表に計上されている全ての資産・負債を時価評価した後の純資産額に営業権を加算して企業価値を算定する方法です。この方法は、企業の静的な価値を判定するのに適しています。未上場会社のM&Aで利用されることが多い方法です。
(注)黒字の場合、営業権として修正後営業利益の3年分程度の金額を加算します。一方、赤字(営業損失)の場合、営業権はつきません。社歴〇〇年の老舗企業、あるいは△△△ブランドで有名などの要素は、営業権として評価されません。

【2】類似会社比較法(マルチプル法)

業種、企業規模等の類似する上場会社の一定の財務数値に対する企業価値の倍率を測定し、評価対象会社(売手)の財務数値に当該倍率を乗じることで企業価値を算定する方法です。
上場会社、未上場会社のM&Aにおいて利用されている方法です。

なお、未上場の中小企業・小規模企業のM&Aの株価算定においては、会社規模(売上)が小さい、ニッチ業種であるなどの理由により、上場会社の中から類似会社を選定することが難しい場合があります。

【3】DCF法

事業活動から得られると予測される将来キャッシュ・フローの総額を現在価値に割り引いた金額を企業価値として評価する方法です。将来キャッシュ・フローの予測に企業価値が大きく左右される方法です。上場会社のM&Aにおいては、一般的に利用されることが多いです。
なお、DCF法を用いる場合、将来キャッシュ・フロー算出の基礎となる評価対象会社(売手)の事業計画が必要となります。また、当該事業計画の客観性、妥当性、実現性等が重要になります。

【4】考慮すべき事項

評価対象会社(売手)が、企業のライフサイクル(イメージ図)において、創業期、成長期、成熟期、衰退期のいずれの段階に該当するかを判断します。
併せて、評価対象会社の継続性の疑義の有無、知的財産等に基づく超過収益力に依存する収益構造であるか、類似上場会社のない新規ビジネス、或いはニッチ業種に該当するかなどを判断する必要があります。

企業のライフサイクル(イメージ図)

以上の考慮すべき事項を確認した後、評価対象会社(売手)に適切な株価(株式価値)の算定方法を選択します。複数の算定方法を選択できる場合は、それぞれの算定方法の結果を比較検討するのがよいでしょう。

【5】株価(株式価値)の算定方法の選択

〇:採用が適していると考えられる   △:場合によっては採用することが想定される

【6】会社を売却する場合に係る税金

中小M&Aの方法のうち、最も多く用いられる株式譲渡の場合において、会社売却に係る税金をどのように考えるかを一緒に見てみることにします。会社の株主が個人である場合、所得税・住民税あわせて20.315% の固定税率で分離課税が適用されます。以下の設例を用いて、会社を売却した場合、株主の税金をどのように計算するかを説明します。

<設例>
会社株主は、社長のみの一人株主とします。
株式の出資額10,000千円、株式譲渡代金100,000千円、売り手(個人株主)のM&A手数料5,500千円 (消費税込み)とします。

株式の売却益(注)は、株式譲渡代金から株式の出資額を差し引いた、90,000千円(=100,000千円−10,000千円)となります。
(注)キャピタル・ゲイン(資本利得)

個人株主の場合、株式の売却益は分離課税の対象となり、税率は20.315%(注)が適用されます。
また、M&A手数料(消費税込み)は、売却益から費用として差し引くことができます。
よって、個人株主が負担する税金は、以下のように計算することができます。
(90,000千円−5,500千円)×20.315%(注)=17,166千円
(注)所得税及び復興特別所得税(15.315%)+住民税(5%)

【7】会社を売却するタイミングを考える場合のポイント

会社を売却するためのポイントは3つあります。
ポイント① 引退の時期を決める。
「この事業が上手くいったあとで」といった条件付きの不明確な時期の決め方ではなく、できれば年月を確定することをおすすめします。時期を決めることで、実現するための強い決意が生まれます。
経営状態がよいタイミングで売却すると高い株価で売却でき有利ですが「企業価値が上がったら売却してリタイアしよう」という決め方だとなかなか踏ん切りがつかず、ハッピーリタイアの実現は難しくなるでしょう。

ポイント② 売却前に次の経営者がやりやすいように経営環境を整えておくことです。
後顧の憂いなくリタイアするためには、経営者の頭の中にある重要な項目を整理しておくことが重要です。
特に、従業員の対するケアがポイントであり、各従業員の性格等を、事業引継ぎの際に伝えておかなければ、その後の組織運営に支障が出ます。

ポイント③良いフィナンシャル・アドバイザーを見つける。
会社を売却する際には、専門的知識が必要となり、M&Aの専門家のサポートが必要となります。
中小M&Aの実績が十分にあり、業界での評判の良いM&A仲介会社を選ぶとよいでしょう。
どのM&A仲介会社も初期相談は、無料で対応しています。複数社と面談して、相性の良さそうな会社を選択するのも一つの方法です。
(注)フィナンシャル・アドバイザーの役割は、クライアント(売り手、買い手)が目指す戦略実現のために、最適なM&A手法を企画 立案し、その執行を全面的にサポートすることです。アドバイザリー会社のタイプとしては、金融機関系、会計会社系、ブティッ系の3つに大別することができます。

ⅩⅤ弊社M&Aコンサルティングサービスのご案内

弊社のM&Aコンサルティングのご案内です。特徴は3点あります。
①プロフェッショナルによるM&Aサポート
M&Aの専門性を持つ、経験豊かなコンサルタントが、皆様にきめ細かなサービスを提供させていただきます。実際に成約したお客様、皆様からご満足いただいております。

②完全成功報酬の手数料体系
当社は、1社でも多くの中小企業のM&A支援を行うために、リーズナブルな手数料体系を採用しています。着手金、月額費用などはいただかず、成功報酬のみの完全成功報酬制を採用しています。

③多くの成約実績
業種、規模、エリアを問わず、多くの成約実績がございます。
高い専門性を持ったM&Aコンサルタントが、ご満足いただけるサービスを提供させていただきます。

株式会社経営承継支援は、一社でも多くの企業を廃業危機から救うため、全ての企業様のご相談をお受け致しております。
M&A(株式譲渡、事業譲渡等)に関して着手金無料でご相談可能ですので、お気軽にお問合せくださいませ。

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