保育園業界の動向およびM&Aについて【2024年版】

目次 [ ]

Ⅰ保育所需要の動向など

既に人口減少が始まっている日本では子供の数が減っていますが、保育所数とその利用児童数は増え続けています。保育所ニーズが増加している理由としては、共働き世帯の増加によって幼稚園から保育園に需要がシフトしているためであると言われています。夫婦ともにフルタイムで働くのが一般的になっており、幼稚園の預かり時間は短すぎ、長期休み中の預け先探しも大きな負担となっています。企業内保育所の導入事例も増えていますが、ある程度の規模の企業でないと設置は難しいのが現状です。今後も女性の社会進出が進むにつれて、共働き世帯と託児ニーズも増加すると考えられます。

 

待機児童数は徐々に減少していますが、ここ数年は新型コロナウイルスの流行による申し込み控えが特に影響しているようです。また、多くの企業がテレワークを推進したことにより、在宅勤務をしながら子供の面倒を見ることができるようになった人も増えました。2023年現在、コロナ過は完全に収束していませんが、オフィス勤務に戻っている企業が多くあります。今後コロナ過が収束するにつれて、再び保育ニーズが増加することが予測されます。東京を中心とする一都三県は特に共働き世帯が多いため、今後も保育ニーズの高まりは続きそうです。

2022年の保育所利用率は、前年比3.0%増の50.9%、待機児童数は前年比47.7%減の2,944人でした(厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ(2022年8月)」)。


出所:厚生労働省、業界動向サーチ

保育所利用率は年々増加傾向ですが、待機児童者数は減少傾向であり、調査開始以来、最少値となっています。待機児童数は全体的に減少傾向ですが、地域間の格差があり、東京、埼玉、千葉、兵庫、福岡、沖縄などで多い傾向にあります。
保育所は自治体や社会福祉法人による運営の場合がほとんどですが、近年は民間企業の運営も増加しています。

少子化の影響により児童全体の数は減っていますが、共働き世帯の増加に伴って保育需要は年々増加傾向であり、加えて保育無償化も追い風となっています。一方、供給サイドである保育所数も増えており、需給バランスはここ10年で改善されました。
2021年の保育業界は、新型コロナウィルスの感染拡大の影響により入園の先送りや利用控えなどがありましたが、需要は高水準を維持しています。

2019年10月より、政府による幼児教育・保育の無償化が開始しました。これによって、女性の就業率の増加が期待され、保育所の利用がさらに増えると予測されます。
入所率の改善や運営施設の増加により、拡大を続ける保育業界ですが、保育所の新設に伴って保育士の人材不足が問題となっています。


出所:厚生労働省、業界動向サーチ

保育士の登録者数は増加していますが、保育所等で従事していない保育士数も増加傾向にあります。保育士が定着しない要因としては、長時間労働や低賃金などが挙げられます。
今後、保育所の新設は一定数必要となるため、働いていない保育士をいかに活用するかがカギとなります。同時に、保育士の労働環境を改善する必要があります。

保育業界の売上高ランキング(2021‐2022年)


出所:各種資料より作成

(注)ポピンズHDはエディケア事業、LITALICOはLITALICOジュニア事業、パソナグループはライフソリューション事業、リソー教育は幼児教育事業の売上高

Ⅱ認可保育所と認可外保育所

保育所利用率は年々増加傾向、待機児童者数は減少傾向にあります。待機児童数は全体的に減少傾向にあるものの地域差があり、東京、埼玉、千葉、兵庫、福岡などでは依然として多い傾向にあります。なお、特定の保育所を希望したり、自治体が補助する保育サービスを受ける「隠れ待機児童」は、待機としてカウントされません。現在、東京都の隠れ待機児童数は、1万人超と言われています。
保育業界は保育所、幼稚園、認定こども園に大別されます。保育所は、「認可保育所」と「認可外保育所」の2つに分類されます。
保育サービス事業は、2000年に民間企業による認可保育所の運営が認められました。
2019年10月に、政府により幼児教育・保育が無償化となりました。対象は、認可保育所、幼稚園です。認可外保育所は、全国の認可保育所の平均額を上限に保育料が支給されます。

都市部では、認可保育所に入るのが難しいため、待機児童数が多い傾向にあります。例えば、東京都の場合、待機児童数は約12,439人(2020年4月)になります。なお、人手不足が深刻な保育士の確保や定着は、保育業界の慢性的な課題です。今後、サービスや待遇面の改善など様々な取り組みが必要です。

(注)「認可保育所」は、施設の広さや保育士等の職員数など、国が定めた認可基準を満たし、各都道府県知事に認可された保育所です。一方、「認可外保育所」は、国が定めた基準は満たしておらず、各都道府県知事に認可されていない保育所です。

Ⅲ保育園事業をM&Aするメリットとデメリット

【1】M&Aの手順・流れ

①プロセス開始当初にご依頼する資料やお伺いする情報がスムーズにご提供戴けると、その後のプロセスが円滑に進行します。
②予備的企業価値評価は、当社専門家(会計士/税理士)監修のもと実施。この段階で、譲渡価格や条件等の内容を概ね決定します。
③買手候補企業との間で大枠の条件が固まったら基本合意書(法的拘束力無し)を締結します。この段階より1対1の交渉(独占交渉)が始まります。
④基本合意と買収監査結果で差異があった項目を中心に調整し、詳細事項を決定。M&A実施後の体制等も、この段階ですり合わせます。

【2】M&Aにより会社を売却するメリット

オーナーのメリット(株式譲渡の場合)

①オーナー・その他株主のキャピタルゲイン(資本利得)の実現
オーナー一族はリタイアに際して現金収入が発生し、ハッピーリタイアすることができますその他株主も、同様に未上場株式を現金に換金できます

②相続税対策
流動性のない未上場株式を現金化することにより、遺産分割が容易になります

③オーナー一族の個人保証からの解放
買い手企業が保証(債務保証、不動産等の担保提供)を肩代わりするため、オーナー一族の経済的負担が解消されます※親族内承継または従業員承継の場合、オーナー一族の個人保証を継続せざるを得ない場合があります

会社のメリット

①事業の継続を確保、会社成長の可能性があります
②買い手企業の傘下に入ることにより、事業継続と安定性を確保できます
③買い手企業とのシナジー、将来の会社成長の可能性に期待できます
④従業員雇用の継続、安定を図ることができます

【3】会社を売却するデメリット

買い手企業が見つからないリスク

会社を売却すると決断してもすぐに買手企業が見つかるとは限りません。M&Aにはそれなりのコストがかかるので、買い手企業にとっては、それなりのメリットがなければM&Aを実行しません。コロナ禍においては、M&Aを検討する企業数が減っており、かつ投資目線も厳しくなっています。つまり、「コストをかけてもM&Aを行う」と買い手企業が思うような魅力がある会社(売り手企業)でない限り、なかなか買手企業が現れないと考えるのが良いでしょう。M&A市場においては、一般に「将来的に売り手企業がどの程度の収益を上げる力があるか」で売り手企業は評価されます。したがって、収益面では黒字にすること、過度な借入金(例えば、売上高を超える、あるいは同じ金額の借入金)は避けるべきです。

M&A後における従業員の待遇面の不安

M&A後における従業員の労働条件や解雇の規則については、買い手企業によって変更をされないように最終契約書に記載しておく必要があります。最終契約書での取り決めがない場合、M&A前より悪い労働条件で働かされたり、簡単に解雇されたりする可能性があるためです。M&Aを実行する場合、確認する事項は個別案件ごとに異なり、また多岐にわたります。この確認をおろそかにせず、売り手企業と買い手企業のお互いがM&Aのメリットを享受できるように交渉を進めることが重要です。

Ⅳ会社を売却する際の株価の考え方

株価(株式価値)の算定方法として一般的に用いられる手法は、修正純資産法、類似会社比較法(マルチプル法)、DCF法です。

【1】修正純資産法

評価対象会社(売手)の貸借対照表に計上されている全ての資産・負債を時価評価した後の純資産額に営業権を加算(注)して企業価値を算定する方法です。この方法は、企業の静的な価値を判定するのに適しています。未上場会社のM&Aで利用されることが多い方法です。

(注)黒字の場合、営業権として修正後営業利益の3年分程度の金額を加算します。一方、赤字(営業損失)の場合、営業権はつきません。社歴〇〇年の老舗企業、あるいは△△△ブランドで有名などの要素は、営業権として評価されません。

【2】類似会社比較法(マルチプル法)

業種、企業規模等の類似する上場会社の一定の財務数値に対する企業価値の倍率を測定し、評価対象会社(売手)の財務数値に当該倍率を乗じることで企業価値を算定する方法です。上場会社、未上場会社のM&Aにおいて利用されている方法です。

なお、未上場の中小企業・小規模企業のM&Aの株価算定においては、会社規模(売上)が小さい、ニッチ業種であるなどの理由により、上場会社の中から類似会社を選定することが難しい場合があります。

【3】DCF法

事業活動から得られると予測される将来キャッシュ・フローの総額を現在価値に割り引いた金額を企業価値として評価する方法です。将来キャッシュ・フローの予測に企業価値が大きく左右される方法です。上場会社のM&Aにおいては、一般的に利用されることが多いです。なお、DCF法を用いる場合、将来キャッシュ・フロー算出の基礎となる評価対象会社(売手)の事業計画が必要となります。また、当該事業計画の客観性、妥当性、実現性等が重要になります。

【4】考慮すべき事項

評価対象会社(売手)が、企業のライフサイクル(イメージ図)において、創業期、成長期、成熟期、衰退期のいずれの段階に該当するかを判断します。併せて、評価対象会社の継続性の疑義の有無、知的財産等に基づく超過収益力に依存する収益構造であるか、類似上場会社のない新規ビジネス、或いはニッチ業種に該当するかなどを判断する必要があります。

企業のライフサイクル(イメージ図)     

以上の考慮すべき事項を確認した後、評価対象会社(売手)に適切な株価(株式価値)の算定方法を選択します。複数の算定方法を選択できる場合は、それぞれの算定方法の結果を比較検討するのがよいでしょう。

【5】株価(株式価値)の算定方法の選択

 

〇:採用が適していると考えられる   △:場合によっては採用することが想定される

以上、中小企業のM&Aにおける株価(株式価値)の算定方法、考慮すべき事項を簡単に紹介しました。
現在、または将来、後継者問題などを理由に会社譲渡を考えている中小企業の社長様、是非、弊社にご相談ください。会社の株価(譲渡金額)を決めるのは、社長様ご自身です。弊社試算の株価と比較して、納得できる譲渡金額を決める際の参考にして頂ければと思います。

【6】会社を売却する場合に係る税金

中小M&Aの方法のうち、最も多く用いられる株式譲渡の場合において、会社売却に係る税金をどのように考えるかを一緒に見てみることにします。会社の株主が個人である場合、所得税・住民税あわせて20.315% の固定税率で分離課税が適用されます。以下の設例を用いて、会社を売却した場合、株主の税金をどのように計算するかを説明します。

<設例>

会社株主は、社長のみの一人株主とします。
株式の出資額10,000千円、株式譲渡代金100,000千円、売り手(個人株主)のM&A手数料5,500千円 (消費税込み)とします。株式の売却益(注)は、株式譲渡代金から株式の出資額を差し引いた、90,000千円(=100,000千円−10,000千円)となります。

(注)キャピタル・ゲイン(資本利得)

個人株主の場合、株式の売却益は分離課税の対象となり、税率は20.315%(注)が適用されます。また、M&A手数料(消費税込み)は、売却益から費用として差し引くことができます。よって、個人株主が負担する税金は、以下のように計算することができます。

(90,000千円−5,500千円)×20.315%(注)=17,166千円

(注)所得税及び復興特別所得税(15.315%)+住民税(5%)

【7】会社を売却するタイミングを考える場合のポイント

会社を売却するためのポイントは3つあります。
ポイント① 引退の時期を決める。
「この事業が上手くいったあとで」といった条件付きの不明確な時期の決め方ではなく、できれば年月を確定することをおすすめします。時期を決めることで、実現するための強い決意が生まれます。経営状態がよいタイミングで売却すると高い株価で売却でき有利ですが「企業価値が上がったら売却してリタイアしよう」という決め方だとなかなか踏ん切りがつかず、ハッピーリタイアの実現は難しくなるでしょう。

ポイント② 売却前に次の経営者がやりやすいように経営環境を整えておくことです。
後顧の憂いなくリタイアするためには、経営者の頭の中にある重要な項目を整理しておくことが重要です。
特に、従業員の対するケアがポイントであり、各従業員の性格等を、事業引継ぎの際に伝えておかなければ、その後の組織運営に支障が出ます。

③ 良いフィナンシャル・アドバイザーを見つける。
会社を売却する際には、専門的知識が必要となり、M&Aの専門家のサポートが必要となります。
中小M&Aの実績が十分にあり、業界での評判の良いM&A仲介会社を選ぶとよいでしょう。
どのM&A仲介会社も初期相談は、無料で対応しています。複数社と面談して、相性の良さそうな会社を選択するのも一つの方法です。
(注)フィナンシャル・アドバイザーの役割は、クライアント(売り手、買い手)が目指す戦略実現のために、最適なM&A手法を企画 立案し、その執行を全面的にサポートすることです。アドバイザリー会社のタイプとしては、金融機関系、会計会社系、ブティッ系の3つに大別することができます。

Ⅴ保育園業界のM&A

コロナ禍下においてもM&Aが活発に行われている。買手の業種は、同業以外に住宅メーカー、学習塾、物流、産廃処理など多岐に渡っている。売手は株式会社が対象となる場合が多く、大半のスキームは株式譲渡である。

【1】保育園業界のM&A(一部)

出所:各種開示資料より作成

 

【2】保育園業界の主たるプレーヤー

保育園・保育サービス業界では、2010年代以降に民間企業の参入が本格化しました。
特に2019年以降、保育サービスを展開する企業の上場が続き、global bridge HOLDINGS(現AIAIグループ)、2020年にKids Smile Holdings、ミアヘルサ、さくらさくプラス、ポピンズが上場しました。ミアヘルサは2021年に上場廃止した後、ミアヘルサホールディングスとして再上場しています。
2018年以前に上場した企業には、JPホールディングス、グローバルキッズCOMPANY、テノ.ホールディングスがあります。また、こどもの森など売上高が数百億円規模の未上場企業もあり、上場予備軍と思われる保育サービス関連企業も存在します。
異業種ではベネッセホールディングスやライク、ニチイ学館、パソナグループ、アートコーポレーションなどが、保育サービスに参入しています。2022年7月には、グローバルキッズCOMPANYとさくらさくプラスが経営統合に関し基本合意し、2023年4月に経営統合する予定です。

【3】保育園業界の今後について

保育園・保育サービス業界は、出生数が減少する反面、共働き世帯が増加することにより、その需要は増えると予想されます。また、国が民間事業者による参入を促進し、待機児童数の解消に乗り出していることも、需要増を後押していています。
保育所利用児童数のピークとなる2025年までは、保育園・保育サービス市場は拡大すると予測されており、業界大手企業、異業種企業による保育園のM&A件数は増加すると予想されます。

【4】2030年までの保育園需要予測

保育所を管轄する厚生労働省の発表資料による、2030年までの保育園需要を予測したデータを見ると、「女性の就業率の上昇によって、少子高齢化が進んでも保育所のニーズは増える」と予測されています。

出所:厚生労働省の資料

保育園の利用対象となる0~5歳人口は減少が続きますが、女性の就業率は今後も上昇
すると予測されています。なお、利用児童数のピークは、2025年がピークと予測されています。

出所:厚生労働省 保育士の有効求人倍率の推移

厚生労働省の調査によると、2021年10月時点での保育士の有効求人倍率は全国で2.66倍です。全職種の有効求人倍率は1.16倍ですから、保育士の数がかなり不足していることが分かります。この保育士不足の背景としては、保育所数の増加と働き手の減少が影響していると言われています。特に問題とされるのは、保育所を退職した後、職場復帰しない「潜在保育士」の存在です。


出所:保育士の現状と主な取組 厚生労働省

保育所の退職理由としては、人間関係・給与水準・仕事量の多さなどが上位に並びます。このような原因で退職した保育士が、再び保育園に就職する可能性は低いです。
もう一つの理由は、需要と供給のバランスが崩れていることです。現在、急速に保育園の数が増えており、厚生労働省の発表による直近の数字では過去最高の約3万6,000施設となっています。これは2012年と比較すると約1.5倍です。
以前、保育事業は保守的な業界と思われていたため、新規参入を促進する動きはそれほどありませんでした。ところが、待機児童問題および女性の雇用推進などによって、国の施策として保育事業の環境を整備する動きが出てきました。
その一つが、2016年に始まった「企業主導型保育事業(注)」です。
この施策により、事業所内に保育施設を持つ異業種の参入が急激に増えました。施設数が増えれば、当然ながら保育士の確保も必要になります。この動きが、保育業界における人手不足の大きな要因であると考えられています。
(注)企業が従業員のために設置する保育施設、地域の企業が共同で設置・利用する保育施設に対し、国から整備費や運営費を助成する制度。
保育士はAI技術がどれほど発展しても仕事を奪われない職業であるため、待遇の整備・共働き世帯の増加・勤務場所の増加などの観点から、将来性が十分にある職業と言われています。

Ⅵ弊社M&Aコンサルティングサービスのご案内

弊社のM&Aコンサルティングのご案内です。特徴は3点あります。
①プロフェッショナルによるM&Aサポート
M&Aの専門性を持つ、経験豊かなコンサルタントが、皆様にきめ細かなサービスを提供させていただきます。実際に成約したお客様、皆様からご満足いただいております。

②完全成功報酬の手数料体系
当社は、1社でも多くの中小企業のM&A支援を行うために、リーズナブルな手数料体系を採用しています。着手金、月額費用などはいただかず、成功報酬のみの完全成功報酬制を採用しています。

③多くの成約実績
業種、規模、エリアを問わず、多くの成約実績がございます。
高い専門性を持ったM&Aコンサルタントが、ご満足いただけるサービスを提供させていただきます。

株式会社経営承継支援は、一社でも多くの企業を廃業危機から救うため、全ての企業様のご相談をお受け致しております。
M&A(株式譲渡、事業譲渡等)に関して着手金無料でご相談可能ですので、お気軽にお問合せくださいませ。

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