企業買収・M&Aの手法について【会社分割】

執筆

中井 一

中井 一

情報通信機器メーカーに長年勤続し、ソフトウェア開発職・人事スタッフ職・コンサルティング職などに従事してまいりました。 2010 年に中小企業診断士の資格を獲得してからは企業内診断士として、プロボノ活動として無償で勤務先企業の販売パートナー企業の経営診断などに取り組んでおりましたが、勤務先企業で副業解禁となったことを受け、2019 年に中小企業診断士で個人事業を開業いたしました。 開業後は財務分析や情報分析の知見を活かし、事業計画策定支援、補助金申請支援、M&A支援などの中小企業支援活動に取り組んでいます。...続きを読む

監修

経営承継支援編集部

この記事は、株式会社経営承継支援の編集部が監修しました。M&Aに関してわかりやすく役に立つ記事を目指しています。

目次 [ ]

企業買収・M&Aの手法について【会社分割】

はじめに

このコラムでは、企業買収やM&Aの手法について解説していきます。第三回目の今回は会社分割についてです。

会社分割には吸収分割と新設分割があります。会社分割は企業買収・M&Aのスキームとして使い勝手が良く、よく利用される手法です。

それでは、会社分割による企業買収・M&Aのやり方、メリット・デメリット、具体的な手続きについて説明します。

会社分割とは何か

会社分割も今までご紹介した株式交換や株式移転と同様、会社法上の組織再編行為であり、売り手の企業がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を買い手の企業に包括的に承継させるスキームです。

 

吸収分割と新設分割の違いは、権利義務を既存の企業に引継がせる(吸収分割)か、新しく設立する企業に引継がせるか(新設分割)の違いになります。

また、会社分割は引き継ぐ権利義務の対価として承継会社が交付する財産を、分割会社が受け取る(分社型分割)か、分割会社の株主が受け取る(分割型分割)かによっても2つに分類できます。

これらの組み合わせにより、会社分割には、4つのタイプがあります。会社分割の手続は、会社法の規定に従うこととなりますが、この4つのタイプのどれを取るかによって、手続の内容は異なってきますので、その選択には注意が必要です。

会社分割のやり方

会社分割も会社法上の組織再編行為になりますので、買収する会社、買収される会社の双方で株主総会の特別決議が必要になるとともに、債権者保護手続きが必要になります。

会社分割の場合、事業譲渡と異なり、事業承継会社に自動的に契約が引き継がれますので、従業員や取引先との個別の契約の移転手続きが不要であり、売買する事業規模が比較的大きい場合に有効なスキームです。

また、会社分割では、自社株式を買収の対価にすることができますので、買収・M&Aの準備資金の確保が難しい場合に有効なスキームといえます。

さらに分割型で現金を対価にした場合は売却代金が株主に支払われるため、すぐにキャッシュが必要な場合に有効なスキームとも言えます。

会社分割のメリット

その1 事業譲渡と同様に必要な資産だけ買い取ることができること

株式譲渡や株式交換とは異なり、貯蓄型の生命保険・養老保険契約やオペレーティングリースなど、タイミングを見て解約すべき投資は引き続き売り手企業に残るので、急いで解約する必要がありません。

 

その2 節税効果

株式譲渡と異なりM&A対象外資産の無意味な売買が発生しないので、株価が無意味に高くなることもなく、無用な税金が発生せず資産の買戻しがありませんので、このための税金も発生しません。

分社型分割の場合、株式の売却益に法人税がかかりますが、この売却益の計算では事業譲渡と同様に売却した資産・負債の簿価が売却原価になるので、資本金が売却原価となる株式譲渡と比べ売り手企業に大きな節税効果が発現することがあります。

同様に、買い手企業では買収対価と移転した資産・負債の時価との差額を、税務上のれんにできるため節税効果が発生します。

 

その3 自動的に事業が承継されること

会社分割では事業譲渡と同様に必要な資産だけ譲渡ができますが、事業譲渡と比較して、従業員や取引先との契約関係を一括して移転できる、許認可についても再取得が不要で自動的に承継されるもの・再取得ではなく管轄省庁の承認で済むものがあるなどのメリットがあります。

 

その4 時間をかけて統合作業を実行できること(新設分割のみ)

新設分割にした場合のみですが、事業譲渡や吸収分割の場合、買収と同時に買い手企業の社内ルールが適用されますが、会社分割[新設分割]の場合、一旦、子会社化され独立した会社として買収されるので、一気に社内ルールを押し付ける必要がなく、統合に関して時間的余裕が生まれます。

 

会社分割のデメリット

その1 手続きが煩雑なこと

会社分割は会社法上の組織再編スキームであり、株主総会特別決議などの一連の法定手続きが必要となり、この手続きに1か月程度の時間がかかります。

ただし、M&Aは株式譲渡でも数カ月間は引継作業などが続くので、あまり大きなデメリットではないかもしれません。

 

その2 手続きが煩雑なこと(吸収分割のみ)

吸収分割のみのデメリットですが、会社の譲渡ではなく事業の譲渡となるため、従業員が譲受企業の社内ルールに合わせなければならなくなり、M&A直後の混乱が発生しやすく、会社の譲渡となる株式譲渡や株式交換、会社分割[新設分割]と比べリスクが高いといえます。

 

会社分割の手続き

会社分割を行う場合の手続きは、詳しく説明はしませんが、以下のようなもので、非常に煩雑であるため、専門知識が必要となる事項もあります。このため、専門家のサポートを受けながら、進めていくことをおすすめします。

 

【吸収分割の場合】

・各社の取締役会の承認

・吸収分割契約の締結

・吸収分割契約書などの事前開示および・備置

・株主総会の特別決議・承認

・反対株主の株式買取請求通知

・債権者保護手続き

・新株予約権証券提出手続き

・分割対価の割当

・登録質権者などに対する手続き

・吸収分割の効力発生

・吸収分割書面などの事後開示および、備置

・各社の変更登記

・会社分割無効の訴え

 

【新設分割の場合】

・取締役会の決議

・新設分割計画書の作成

・新設分割計画書などの事前開示・備置

・労働者への事前通知

・新設分割会社の株主総会の特別決議・承認

・反対株主の株式買取請求通知

・債権者保護手続き

・新株予約権証券提出手続き

・分割対価の割当

・登録質権者などに対する手続き

・新設分割の効力発生

・新設分割書面などの事後開示・備置

・新設会社の設立登記・分割会社の変更登記

株式会社経営承継支援は、一社でも多くの企業を廃業危機から救うため、全ての企業様のご相談をお受け致しております。
M&A(株式譲渡、事業譲渡等)に関して着手金無料でご相談可能ですので、お気軽にお問合せくださいませ。

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情報通信機器メーカーに長年勤続し、ソフトウェア開発職・人事スタッフ職・コンサルティング職などに従事してまいりました。 2010 年に中小企業診断士の資格を獲得してからは企業内診断士として、プロボノ活動として無償で勤務先企業の販売パートナー企業の経営診断などに取り組んでおりましたが、勤務先企業で副業解禁となったことを受け、2019 年に中小企業診断士で個人事業を開業いたしました。 開業後は財務分析や情報分析の知見を活かし、事業計画策定支援、補助金申請支援、M&A支援などの中小企業支援活動に取り組んでいます。

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