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M&Aによる企業の農業参入
今回は「農業生産法人のM&A」と「法人のリース方式」を組み合わせた「法人のアグリビジネス」への進出を解説してみたいと思います。
いま、経営者の間では農業に注目が集まっています。実際、有名ビジネス誌が主催するセミナーで、最も集客力がある分野は「農業」だそうです。
経済の先行きが見えない中、人は食べなければ生きていけません。
新型コロナウィルスの影響で、多くの産業が不安定な状態の中、確実な需要がある人類最古の産業の「農業」は、これまで以上に注目を浴びています。
農業の6次産業ビジネスとは
私が6次産業化プランナーとして関わっている「6次産業」は、農家などの生産者が、自ら作った作物(1次産業)を自分で加工し(2次産業)、販売する(3次産業)というビジネスモデルです。
1次産業 × 2次産業 × 3次産業 = 6次産業
この政策が実施された背景には、日本の食料自給率の低さ(カロリーベースで37%)もありますが、農家の所得水準が低く生産性=付加価値を上げて、農業という産業の底上げをするという意図がありました。
6次産業がスタートしてから約10年が経ちますが、正直なところ残念ながら期待されていた効果が上がっていないのも事実です。
企業がアグリビジネスに注目するワケとは?
企業からアグリビジネスが注目されている1番の理由は農地法の改正により「法人によるリース方式による農業参入」が可能になったことです。
リース方式による企業の農業参入の要件
法人形態 : 自由(すべての株式会社もOK)
事業 : 自由(これまで農業をやっていない法人もOK)
構成員 : 自由(農業者以外が100%出資でもOK)
役員 : 役員等の一人以上が農業(販売等を含む)に常時従事すること
注意点としては、
・農地を適正に利用しない場合には賃貸借の解除をする旨の契約が書面で締結されていること
・地域の農業者との適切な役割分担の下に継続的かつ安定的に農業経営を行うと見込まれること
が挙げられます。
従来は、農地を借りるには農家もしくは農業生産法人などの「農地所有適格法人」である必要がありました。
これが2016年の農地法改正により株式会社やNPO法人などの法人が農地をリースすればアグリビジネスに進出することが許可されたのです。
農家の高齢化が進み、自分で耕せなくなった田んぼや畑を、農業を新規事業としてスタートしたい株式会社に貸すことで農地の有効活用ができ、これまで農家になかったビジネスの視点で農業を行うことで農地を集約し、規模の経済を生かし、コストを下げ生産性を高めることができます。
農家と企業のマッチング
農家と企業のマッチングは、各都道府県に設置された第3セクターの「農地中間管理機構」が行います。
仕組みはこうです。
① 農地を貸したい人
↓
② 「都道府県農地中間管理機構」に貸付(貸し付けた人に協力金が支払われます)
↓
③ 「農地を借りたい人」に「農地中間管理機構」が貸付(転借)
企業が農地中間管理機構から農地をリースするという形でアグリビジネスへの参入となります。
農業生産法人のM&A成長戦略とは
しかしながら、農林水産省の補助金や助成金を受けるには「農業者」になり「認定農家」になることが必要です。
一つの手法として考えられるのが、提携できる農家を「法人なり」させて、農業生産法人にして、その株主になる方法が考えられます。
高齢化や事業の伸び悩みにより、経営に困っている農業生産法人の数は少なくありません。
自らが経営する農業生産法人が別の農業生産法人をM&Aし、リース方式で耕作面積を増やし、さらにビジネスを拡大することも考えられます。
農業生産法人に必要な要件とは
ただし、注意しなければいけないのが、農業生産法人の「議決権要件」と「役員要件」です。内容は下記となります。
① 議決権要件
株式会社の場合、農業関係者が総議決権の過半を占めることが必要です。ここでいう農業関係者とは、次の5つの類型に当てはまる個人や団体を指します。
・ 法人の行う農業に常時従事する個人(原則として年間150日以上従事)
・ 農地の権利を提供した個人
・ 農地中間管理機構または農地利用集積円滑化団体を通じて法人に農地を貸し付けている個人
・ 法人に基幹的な農作業を委託している個人(作業委託農家)
・ 地方公共団体、農地中間管理機構、農業協同組合、農業協同組合連合会
② 役員要件
農地所有適格法人の役員等は以下の2つの要件を満たす必要があります。
・役員の過半が、法人の行う農業に常時従事する株主等(原則年間150日以上)であること
・役員又は重要な使用人の1人以上が、法人の行う農業に必要な農作業に従事(原則年間60日以上)すること
農業生産法人の資金調達が容易に
厳密に言うと、2016年の農地法改正は農業者以外が農業をビジネスとして営むことを用意にしたものではありません。
しかし、農業サイドから見ると、農業法人が6次化事業を推し進めやすくなったと言えます。
企業からの出資、投資ファンドなどからの投資を呼び込みやすくなったり、他業種との共同開発や提携がしやすくなりました。
一方、農業ビジネスに参入したい企業としても、リース方式による農業参入や農業法人に出資しやすくなり、農業者と協働しやすくなったと言えるでしょう。
日本の農業ビジネスにおける課題
日本の農業は単位が小規模であるのが特徴の一つで、多くの農家は限られた農地を家族単位で耕し、できた作物を相場に左右される卸売市場に販売しています。
また、天候にも左右されますので、変動要因が多いビジネスといえます。
農家の方には厳しい言い方ですが、これまでの農業に「経営の視点」が欠けていたのは、残念ながら事実です。
先祖代々受け継がれてきた土地を耕し、米農家はお米、大根農家は大根、ニンジン農家はニンジンを脈々と作り、お天気や相場に一喜一憂することが続いてきました。
また、農林水産省による補助金に支えらている側面もあります。
ある学者の説によると、仮に農家の収入が1000万円だとすると、そのうち490万円は国からの様々な補助金になるそうです。
もちろん、この490万円は国民の税金であり、税収が先細りになる中で、この支出を減らすことは急務ともいえます。
日本の農業のおける成長のカギとは
M&Aは日本の農業を発展させるための有効な手段の一つと考えられます。
従来の「生産したものを売る」と言う「プロダクトアウト」の発想から、「売れるものを作り、売れる形にして、適正利益を得る」という「マーケットイン」の考え方に切り替えれば、6次産業化も進むのではないかと考えます。
今後、国内マーケットが縮小していく中で、国としても「日本の農産物」を海外マーケットに販売しようしており、農産物の輸出に様々な補助が出されています。
しかしながら、「山形のさくらんぼ」や「青森のりんご」など一部のプレミアムがつく高級果実は健闘していますが、それ以外の果物・野菜は苦戦しています。
最大の理由は「価格競争力」がないからです。
一言でいうと日本の農産物は「高い」のです。
確かに中国人富裕層は「日本ブランド」の食べ物は、安心でイメージもいいことから、進んで購買するでしょう。
ただ、「日常の食べ物」として海外から購入してもらわないことには、輸出は伸びません。
農産物を「メイド・イン・ジャパン」ブランドにするには、品質もさることながら値段を下げて海外の一般消費者の手に届く価格に抑えて「日本の農産物は品質が良い割には安い」「コストパフォーマンスがいい」と市場に認知してもらう必要があります。
さらに輸出には生産コストだけでなく輸送コストも余計にかかることから「全体のコストを下げる」という視点も重要で、バランス感覚とコスト意識を持った企業家による「ビジネスとしての農業」が求められているのではないでしょうか。
農業生産法人のM&Aに向けた取り組み
今後、企業の新規分野参入の候補としてアグリビジネスはますます注目を浴びるでしょうし、リース方式による農業参入や農業法人のM&Aの件数は増加していくことが予想されます。
地域経済を活性化し、雇用の受け皿としても、ビジネスとしての農業の発展は期待されるでしょう。
しかしながら、農業法人のM&Aの場合、アグリビジネスに参入しやすくなったといはいえ、農地法の規制は残っています。
農地法の元々の考え方として、農業・農作業に直接かかわる個人・団体に農地を所有させることで農地の安定的確保(=食料の安定的確保)を図るといいうことがあるからです。
M&Aの手法によっては農地の売買として農地法上の許可が必要になったり、農地の売買ではないものの農地法に基づく届出が必要になったりすることもあるので、実際に行うには専門家と綿密な打合せをおこない進めていくとよいでしょう。
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