目次
Ⅰ学習塾業界とは
学習塾とは、主に義務教育課程又は高等教育以上の課程にある児童・生徒に対して、学校における公教育とは別に学習指導や進学指導を行う教育施設を指します。
学習塾の種類
学習塾は、その学習内容と目的によって大きく分けて4つに区分することができます。
進学塾
難関校合格など入学試験に特化した塾を進学塾と呼び、入試から逆算した年間スケジュールに従って学習が進行するのが特徴です。
補習塾
学校の定期テスト対策や学校授業に合わせて補習を行う。一般に学校成績や内申点をあげるための指導が行われます。
総合塾
以上の進学塾と補習塾の2つの役割を備える塾を総合塾といいます。
専門塾
目的や学びたい科目にのみ特化した指導を行う学習塾を指します。
科目特化:英語科目塾、理系専門塾など
学校特化:特定の大学入試専門塾、医学部入試専門塾など
能力開発:そろばん塾、速読塾など
学習塾の指導方法
学習塾の指導方法は、以下のように多岐に渡っています。
・集団指導:例えば、30名程の生徒に対し講義型で授業を行います。
・個別指導:講師1名につき、生徒1~3名で授業を行います。
・自立学習:プリントや参考書を用いて問題を解き不明点を講師に質問します。
・動画視聴:事前に収録された講義動画を視聴し、学習を行います。
Ⅱ学習塾業界の市場規模
2021年度の学習塾業界の市場規模は、少子化傾向が続く中、またコロナ禍の影響はあるものの、9,000億円台後半を回復しています。
出所:矢野経済「2021 学習塾・予備校市場の実態と展望」より作成
Ⅲ業界売上高ランキング
株式上場している学習塾・予備校を運営する企業のうち、売上高ランキング(1位~10位)は、以下の通りです。
※直近決算より(出所:会社四季報より作成)
売上高ランキング1位は、高校生向け受験塾「東進ハイスクール」や中学受験塾「四谷大塚」を運営するナガセ(9733)である。2位は、首都圏で個別指導塾「TOMAS」を運営するリソー教育(4714)である。3位の早稲田アカデミー(4718)は、集団指導塾「早稲田アカデミー」を展開し、難関校への合格実績を上げている。
2022年の学習塾の売上高は前年比0.6%増の5,549憶円、受講者数は前年比0.2%減の1,467万人でした。授業料は単価上昇によりプラス、受講者数は微減で推移しました(経済産業省:「特定サービス産業動態統計調査(2023年)」)。
出所:経済産業省資料、業界動向サーチ
2019年までは学習塾の売上高、生徒数ともに横ばいで推移しましたが、2020年から2021年にかけては増加に転じました。特に、2021年の増加率は過去10年間で最も高い水準でした。一方、2022年は前年から横ばいの推移となりました。
2022年から2023年にかけての教育業界を見ると、生徒募集時期とコロナ禍の時期が重なりましたが、オンライン授業と特別講習の組み合わせにおって顧客単価は上昇しました。
また、AIを利用した個別学習指導や講座の提供も増えました。
2018年以降、指導形態のトレンドが大きく変化し、従来の「集団指導塾」から「個別指導塾」へのシフトが顕著になりました。「個別指導塾」は生徒数を1~3人に絞り、各生徒の学力に応じたフォローをする点がメリットですが、授業料が高い点はデメリットです。一方、「集団指導塾」は個別指導に比べるとフォローの面では劣りますが、授業料が安くなります。
近年、少子化の影響により、子供の教育費用は増加傾向にあります。そのため、授業料は高くても充実した質の高い指導を受けられる「個別指導塾」の人気が高まっています。
東京個別指導学院(4745)は、対面とオンラインの授業を両立させたハイブリッド授業を提供すると共に、オールオンラインの個別指導も行っています。
「TOMAS」を展開するリソー教育(4714)は、完全1対1の進学個別指導システムによって質の高い教育サービスを提供しています。
Ⅳ学習塾業界の課題と今後について
少子化問題と競争の激化
日本では深刻な少子化が進み、子供の数は減少している。そのため、更に学習塾間での生徒の奪い合いが激化することが予想される。学習塾が生き残るためには、サービスの質の向上と他塾との差別化が条件として求められます。
この状況において、今後、学習塾業界では以下の2つの動向が注目されています。
①コロナ禍におけるeラーニング市場の拡大
出所:矢野経済研究所
矢野経済研究所の調査によると、2020年の国内eラーニング市場規模は、前年度より22%増の2,880億円が見込まれています。今後、eラーニング分野は学習塾業界全体を巻き込む新たな市場となることが予想されます。
2020年の小学生のプログラミング必修化、およびコロナ禍の影響により、スマートフォン(スマホ)やタブレット端末を利用して学習できるeラーニングの導入、オンラインを活用した教育サービスが拡大しています。オンライン授業を実施する小中学校が増え、通信環境やタブレット端末などの機器をそろえる家庭が増加し、この需要に対して業界大手はオンライン授業、タブレット教材を積極的に導入し始めました。一方、中小の学習塾は対応が遅れており、厳しい経営状況が続いています。
また、オンライン化が進む中で人口知能(AI)を活用した教材(アダプティブ・ラーニング)が注目されています。AI教材は、学習者がどの部分で躓いているかなどをAIが分析し、理解度に応じて学習を進めさせるのが特徴です。このようなAI教材は、大手進学塾で導入する例が増えています。
②英語科目の重要性の増大
現在、小学校高学年を対象に、英語の必修化や大学入学共通テストの改定により、英語教育の抜本的見直しが行われています。そのため、英語学習の需要が高まっていくことが予測されます。
Ⅴ学習塾事業をM&Aするメリットとデメリット
【1】主な2つのM&Aの手法
M&Aを検討している経営者の皆様が覚えておくべき主な手法は、株式譲渡と事業譲渡の2つです。
売り手企業の株主が買い手企業に株式を譲渡する手法が株式譲渡です。売り手企業が買い手企業に事業を譲渡する手法が事業譲渡です。
どちらを選択するかは、売り手企業の意向、買い手企業の考えによって、両者の交渉によって決まります。
会社の借入金、従業員、資産、権利義務関係などの全てを買い手企業へ譲る場合、株式譲渡の手法を選択します。
一方、売り手企業の事業が、製造部門と販売部門のように複数事業に分かれており、製造部門のみを譲渡するような場合、事業譲渡を選択します。
以下の設例により、株式譲渡と事業譲渡の2つの方法を比較することにします。
<設例>
X社は、自社ビルの不動産賃貸業とレストラン事業(25店舗:全店舗は賃借)の運営を行っています。株主はオーナー社長のみです。 コロナ禍の影響を受けて、レストラン事業の業績が悪化したため、X社はレストラン事業を第三者へ譲渡することにしました。
レストラン事業を事業譲渡する場合、買い手企業のメリットは、レストラン事業のみを引継ぐ点になります。ただし、従業員の再雇用、権利義務関係の引継ぎなどの手続が煩雑になるデメリットがあります。一方、売り手企業の簿外債務を引き継ぐリスクはありません。売り手企業のメリットは、レストラン事業のみ譲渡できる点、譲渡代金は売り手企業(X社)が受領する点になります。
【2】M&Aの手順・流れ
①プロセス開始当初にご依頼する資料やお伺いする情報がスムーズにご提供戴けると、その後のプロセスが円滑に進行します。
②予備的企業価値評価は、当社専門家(会計士/税理士)監修のもと実施。この段階で、譲渡価格や条件等の内容を概ね決定します。
③買手候補企業との間で大枠の条件が固まったら基本合意書(法的拘束力無し)を締結します。この段階より1対1の交渉(独占交渉)が始まります。
④基本合意と買収監査結果で差異があった項目を中心に調整し、詳細事項を決定。M&A実施後の体制等も、この段階ですり合わせます。
【3】M&Aにより会社を売却するメリット
オーナーのメリット(株式譲渡の場合)
①オーナー・その他株主のキャピタルゲイン(資本利得)の実現
オーナー一族はリタイアに際して現金収入が発生し、ハッピーリタイアすることができますその他株主も、同様に未上場株式を現金に換金できます
②相続税対策
流動性のない未上場株式を現金化することにより、遺産分割が容易になります
③オーナー一族の個人保証からの解放
買い手企業が保証(債務保証、不動産等の担保提供)を肩代わりするため、オーナー一族の経済的負担が解消されます※親族内承継または従業員承継の場合、オーナー一族の個人保証を継続せざるを得ない場合があります
会社のメリット
①事業の継続を確保、会社成長の可能性があります
②買い手企業の傘下に入ることにより、事業継続と安定性を確保できます
③買い手企業とのシナジー、将来の会社成長の可能性に期待できます
④従業員雇用の継続、安定を図ることができます
【4】会社を売却するデメリット
・買い手企業が見つからないリスク
会社を売却すると決断してもすぐに買手企業が見つかるとは限りません。
M&Aにはそれなりのコストがかかるので、買い手企業にとっては、それなりのメリットがなければM&Aを実行しません。コロナ禍においては、M&Aを検討する企業数が減っており、かつ投資目線も厳しくなっています。つまり、「コストをかけてもM&Aを行う」と買い手企業が思うような魅力がある会社(売り手企業)でない限り、なかなか買手企業が現れないと考えるのが良いでしょう。M&A市場においては、一般に「将来的に売り手企業がどの程度の収益を上げる力があるか」で売り手企業は評価されます。したがって、収益面では黒字にすること、過度な借入金(例えば、売上高を超える、あるいは同じ金額の借入金)は避けるべきです。
・M&A後における従業員の待遇面の不安
M&A後における従業員の労働条件や解雇の規則については、買い手企業によって変更をされないように最終契約書に記載しておく必要があります。最終契約書での取り決めがない場合、M&A前より悪い労働条件で働かされたり、簡単に解雇されたりする可能性があるためです。M&Aを実行する場合、確認する事項は個別案件ごとに異なり、また多岐にわたります。この確認をおろそかにせず、売り手企業と買い手企業のお互いがM&Aのメリットを享受できるように交渉を進めることが重要です。
Ⅵ会社を売却する際の株価の考え方
株価(株式価値)の算定方法として一般的に用いられる手法は、修正純資産法、類似会社比較法(マルチプル法)、DCF法です。
【1】修正純資産法
評価対象会社(売手)の貸借対照表に計上されている全ての資産・負債を時価評価した後の純資産額に営業権を加算して企業価値を算定する方法です。この方法は、企業の静的な価値を判定するのに適しています。未上場会社のM&Aで利用されることが多い方法です。
(注)黒字の場合、営業権として修正後営業利益の3年分程度の金額を加算します。一方、赤字(営業損失)の場合、営業権はつきません。社歴〇〇年の老舗企業、あるいは△△△ブランドで有名などの要素は、営業権として評価されません。
【2】類似会社比較法(マルチプル法)
業種、企業規模等の類似する上場会社の一定の財務数値に対する企業価値の倍率を測定し、評価対象会社(売手)の財務数値に当該倍率を乗じることで企業価値を算定する方法です。
上場会社、未上場会社のM&Aにおいて利用されている方法です。
なお、未上場の中小企業・小規模企業のM&Aの株価算定においては、会社規模(売上)が小さい、ニッチ業種であるなどの理由により、上場会社の中から類似会社を選定することが難しい場合があります。
【3】DCF法
事業活動から得られると予測される将来キャッシュ・フローの総額を現在価値に割り引いた金額を企業価値として評価する方法です。将来キャッシュ・フローの予測に企業価値が大きく左右される方法です。上場会社のM&Aにおいては、一般的に利用されることが多いです。
なお、DCF法を用いる場合、将来キャッシュ・フロー算出の基礎となる評価対象会社(売手)の事業計画が必要となります。また、当該事業計画の客観性、妥当性、実現性等が重要になります。
【4】考慮すべき事項
評価対象会社(売手)が、企業のライフサイクル(イメージ図)において、創業期、成長期、成熟期、衰退期のいずれの段階に該当するかを判断します。
併せて、評価対象会社の継続性の疑義の有無、知的財産等に基づく超過収益力に依存する収益構造であるか、類似上場会社のない新規ビジネス、或いはニッチ業種に該当するかなどを判断する必要があります。
企業のライフサイクル(イメージ図)
以上の考慮すべき事項を確認した後、評価対象会社(売手)に適切な株価(株式価値)の算定方法を選択します。複数の算定方法を選択できる場合は、それぞれの算定方法の結果を比較検討するのがよいでしょう。
【5】株価(株式価値)の算定方法の選択
〇:採用が適していると考えられる △:場合によっては採用することが想定される
【6】会社を売却する場合に係る税金
中小M&Aの方法のうち、最も多く用いられる株式譲渡の場合において、会社売却に係る税金をどのように考えるかを一緒に見てみることにします。会社の株主が個人である場合、所得税・住民税あわせて20.315% の固定税率で分離課税が適用されます。以下の設例を用いて、会社を売却した場合、株主の税金をどのように計算するかを説明します。
<設例>
会社株主は、社長のみの一人株主とします。
株式の出資額10,000千円、株式譲渡代金100,000千円、売り手(個人株主)のM&A手数料5,500千円 (消費税込み)とします。
株式の売却益(注)は、株式譲渡代金から株式の出資額を差し引いた、90,000千円(=100,000千円−10,000千円)となります。
(注)キャピタル・ゲイン(資本利得)
個人株主の場合、株式の売却益は分離課税の対象となり、税率は20.315%(注)が適用されます。
また、M&A手数料(消費税込み)は、売却益から費用として差し引くことができます。
よって、個人株主が負担する税金は、以下のように計算することができます。
(90,000千円−5,500千円)×20.315%(注)=17,166千円
(注)所得税及び復興特別所得税(15.315%)+住民税(5%)
【7】会社を売却するタイミングを考える場合のポイント
会社を売却するためのポイントは3つあります。
ポイント① 引退の時期を決める。
「この事業が上手くいったあとで」といった条件付きの不明確な時期の決め方ではなく、できれば年月を確定することをおすすめします。時期を決めることで、実現するための強い決意が生まれます。
経営状態がよいタイミングで売却すると高い株価で売却でき有利ですが「企業価値が上がったら売却してリタイアしよう」という決め方だとなかなか踏ん切りがつかず、ハッピーリタイアの実現は難しくなるでしょう。
ポイント② 売却前に次の経営者がやりやすいように経営環境を整えておくことです。
後顧の憂いなくリタイアするためには、経営者の頭の中にある重要な項目を整理しておくことが重要です。
特に、従業員の対するケアがポイントであり、各従業員の性格等を、事業引継ぎの際に伝えておかなければ、その後の組織運営に支障が出ます。
ポイント③良いフィナンシャル・アドバイザーを見つける。
会社を売却する際には、専門的知識が必要となり、M&Aの専門家のサポートが必要となります。
中小M&Aの実績が十分にあり、業界での評判の良いM&A仲介会社を選ぶとよいでしょう。
どのM&A仲介会社も初期相談は、無料で対応しています。複数社と面談して、相性の良さそうな会社を選択するのも一つの方法です。
(注)フィナンシャル・アドバイザーの役割は、クライアント(売り手、買い手)が目指す戦略実現のために、最適なM&A手法を企画 立案し、その執行を全面的にサポートすることです。アドバイザリー会社のタイプとしては、金融機関系、会計会社系、ブティッ系の3つに大別することができます。
Ⅶ弊社M&Aコンサルティングサービスのご案内
弊社のM&Aコンサルティングのご案内です。特徴は3点あります。
①プロフェッショナルによるM&Aサポート
M&Aの専門性を持つ、経験豊かなコンサルタントが、皆様にきめ細かなサービスを提供させていただきます。実際に成約したお客様、皆様からご満足いただいております。
②完全成功報酬の手数料体系
当社は、1社でも多くの中小企業のM&A支援を行うために、リーズナブルな手数料体系を採用しています。着手金、月額費用などはいただかず、成功報酬のみの完全成功報酬制を採用しています。
③多くの成約実績
業種、規模、エリアを問わず、多くの成約実績がございます。
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