企業価値の算出方法とは?

こんにちは。経営承継支援のブログ担当チームです。

このブログではM&Aに関する最新の動向や業界情報、専門的なノウハウなどをわかりやすく解説します。皆様の課題解決の一助となれば幸いです。

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企業価値、すなわち株価(株式価値)の算定方法として一般的に用いられる手法は、修正純資産法、類似会社比較法(マルチプル法)、DCF法の3つの方法です。

修正純資産法

評価対象会社(売手企業)の貸借対照表に計上されている全ての資産・負債を時価評価した後の純資産額に営業権を加算(注)して企業価値を算定する方法です。この方法は、企業の静的な価値を判定するのに適しています。未上場会社のM&Aで利用されることが多い方法です。

資産の実在性を確認するため、受領した決算書、顧客(売手企業)からのヒアリングを基に貸借対照表(簿価)の資産項目を時価修正します。

主な資産項目 修正内容
外貨建預金 期末為替レートで評価替え
売掛金 回収可能性の確認
役員貸付金 原則、回収
棚卸資産 滞留又は不良在庫の確認
建物・付属設備 償却不足額の確認
償却性資産 償却不足額の確認
土地 時価に評価替え
電話加入権 時価に評価替え
敷金・礼金 返還の有無を確認
役員保険積立金 解約返戻金の金額を確認
中退金積立金 簿外資産
時価のある有価証券 時価に評価替え

負債の網羅性を確認するため、受領した決算書、顧客(売手企業)からのヒアリングを基に貸借対照表(簿価)の負債項目を時価修正します。

主な負債項目 修正内容
預り金(所得税) 未納付の 有無を確認
預り金(住民税) 未納付の 有無を確認
預り金(社会保険料) 未納付の 有無を確認
退職給付債務(従業員) 退職金規程に基づく
要支給額を計算
賞与引当金 支給対象期間の発生額を計算
役員借入金 原則、返済
役員退職金 退職金規程による要支給額

売り手企業の収益力を把握するため、受領した決算書、顧客(売手企業)からのヒアリングを基に、営業利益(損益計算書)を修正します。

主な費用項目 修正内容
役員報酬(社長) M&A 後の処遇を反映
役員報酬(新経営陣) 新役員の 報酬額
役員報酬(キーマン) M&A 後の処遇を確認
役員報酬(親族) M&A 後の処遇を反映
法定福利費 社会保険料の 未納付を確認
地代家賃 個人資産の 賃借がある場合
旅費交通費 私的支出の 有無を確認
接待交際費 私的支出の 有無を確認
減価償却費 償却不足額の 確認
生命保険料 役員保険の 加入の有無を確認
雑費 私的支出の 有無を確認

黒字の場合は、営業権として、例えば修正後営業利益の1年分から3年分程度の金額を時価純資産額に加算します。

一方、赤字(営業損失)の場合は、営業権はつきません。社歴〇〇年の老舗企業、あるいは自称△△△ブランドの商品などの要素は、経済的価値としての営業権としてはみなされません。その理由は、赤字の場合、それらの要素が利益を生み出していないからです。

(補足)

M&Aの営業権は、将来の収益源となる無形資産を意味します。営業権は、のれんとほぼ同じ概念で用いられ、買収価格で時価純資産に上乗せする部分の価格になります。

一般に収益力が高い会社ほど営業権が高くつく(株価が高くなる)傾向があります。一方、業績が悪く(赤字)、買収価格が時価純資産よりも低い場合は、負の営業権となります。
 

 

類似会社比較法(マルチプル法)

業種、企業規模等の類似する上場会社の一定の財務数値に対する企業価値の倍率を測定し、評価対象会社(売手企業)の財務数値に当該倍率を乗じることで企業価値を算定する方法です。上場会社、未上場会社のM&Aにおいて利用されている方法です。

メリット デメリット
①仕組みがシンプルで計算が容易
②客観性がある
③現在の市場環境が反映される
④将来価値が反映される
①類似会社の選定が難しい場合がある
②客観性が損なわれる場合がある
③反映されない個別要因が存在する場合
④市場環境によっては選択が難しい

なお、未上場の中小企業・小規模企業のM&Aの株価算定においては、会社規模(売上高)
が小さい、ニッチ業種であるなどの理由により、上場会社の中から類似会社を選定することが難しい場合があります。

マルチプル法による株式価値(株価)の算定の流れは、以下の1から4のようになります。

1.評価対象会社(売手企業)と業種等が類似する上場会社をピックアップします。

2.上記1のマルチプル(=倍率)を算出します。

例)株式価値が100億円、純有利子負債が20億円、EBITDAが40億円の場合

EV÷EBITDA

=(100億円+20億円)÷40億円=3倍

EV(企業価値)=株式価値+純有利子負債 (注)

EBITDA(利払い前・税引前・減価償却費・償却費前の利益)

(注)純有利子負債(Net debt)=有利子負債−現金預金

3.売手企業のEBITDAを算出します。

中小企業のM&Aでは、簡便的に修正後営業利益に減価償却費を加算した金額を、EBITDAとします。

例)営業利益は1億円、減価償却費は500万円とすると、

EBITDA=1億円+500万円=1億500万円

4.株式価値(株価)を算出します。

1)EV(企業価値)= 売手企業のEBITDA(3)×類似会社のマルチプル(2)

EV=1億500万円×3倍=3億1,500万円

2)株式価値(株価)=上記1)EV(企業価値)‐純有利子負債(5,000万円)

株価=3億1,500万円‐5,000万円=2億6,500万円

 

次に、実際の会社売却の相談において、修正純資産法とマルチプル法を用いて株価を算定し、2つの算定結果について考えてみることにします。

(設例1)赤字、借入過多の会社の場合

買収対象会社の財務内容:

B/S:修正純資産(時価)2,000万円

現預金500万円、銀行借入金4,500万円

役員借入金1,500万円(売手企業の社長から借り入れ)

 

P/L:営業損失▲300万円<0、減価償却費 500万円

修正純資産法による株価算定:

修正純資産(時価)+修正営業利益3年分と仮定します。

株価=修正純資産+修正営業利益3年分

=2,000万円+0万円

=2,000万円

 

マルチプル法による株価算定:

EBITDAは、営業損失+減価償却費より200万円となります。

企業価値は、EBITDAの5年分と仮定した場合、企業価値は1,000万円となります。

銀行借入金4500万円から現預金500万円を差し引くと、純有利子負債は4,000万円となります。

よって、企業価値1,000万円から純有利子負債4,000万円を差し引くと▲3,000万円になるので、株式価値は0円となります。

 

B/Sの内容は資産超過(過去の内部留保あり)ですが、赤字(営業損失)で純有利子負債

が大きい会社の場合、2つの株価算定法による結果は、

修正純資産法(2,000万円) > マルチプル法(0万円)

となります。

設例1の会社は、過去の利益の蓄積によって資産超過ですが、業績不振のため営業損失が発生している場合に該当します。

そのため、修正純資産法では株価がプラスになりますが、マルチプル法では株価が付かないことになります。

(設例2) 内部留保が厚い無借金、低収益の会社

買収対象会社の財務内容(概要):

B/S:修正純資産(時価)12,000万円 (含み益がある土地を保有)

現預金1,000万円

借入金なし(無借金)

P/L:営業利益400万円、減価償却費200万円

修正営業利益=400万円

 

修正純資産法による株価算定:

修正純資産(時価)+修正営業利益3年分とします。

株価=修正純資産+修正営業利益3年分

=12,000万円+1,200万円

=13,200万円

 

マルチプル法による株価算定:

EBITDAは、営業利益+減価償却費より600万円となります。

企業価値は、EBITDAの5年分と仮定した場合、企業価値は3,000万円となります。

銀行借入金はなし、現預金1000万円より、株価は4,000万円となります。

 

B/Sの内容は良い(過去の内部留保が厚く、現預金が多く、無借金)が、収益力(営業利益)が低い会社の場合、2つの株価算定法による結果は、

修正純資産法(13,200万円)>マルチプル法(4,000万円)

となります。

設例2の会社は、過大な含み益がある土地を保有するため時価純資産額が大きい反面、

収益力が低い場合に該当します。

例えば、社歴の長い製造業で安価で工場用土地を購入した場合があります。

この場合、修正純資産法による株価が、マルチプル法による株価よりも大きくなります。

設例1、設例2の算定結果を見ると、評価対象会社(売手企業)の財務内容(B/S、P/L)によって、修正純資産法とマルチプル法の算定結果が異なることが分かります。

修正純資産法とマルチプル法の違いとして、株価算定における時間軸を挙げることができます。

修正純資産法は、貸借対照表の内部留保(過去に蓄積した利益)をベースに株価を算定する方法と言うことができます。

一方、マルチプル法は、損益計算書の営業利益(現在の利益)をベースに株価を算定する方法と言うことができます。


 

 

DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法

事業活動から得られると予測される将来キャッシュ・フローの総額を現在価値に割り引いた金額を企業価値として評価する方法です。将来キャッシュ・フローの予測に企業価値が大きく左右される方法です。上場会社のM&Aにおいては、一般的に利用されることが多いです。

なお、DCF法を用いる場合、将来キャッシュ・フロー算出の基礎となる評価対象会社(売手企業)の事業計画が必要となります。また、当該事業計画の客観性、妥当性、実現性等が重要になります。

フリー・キャッシュ・フロー(FCF)は、事業資産の運用(事業活動)により生み出される税引後利払前利益から、事業活動の継続、成長に必要とされる事業資産や運転資本等への再投資額を控除したものと定義されます。

FCFは、事業資産の運用に対する果実、 あるいは事業資産の調達である資本(有利子負債、少数株主持分、優先株主、株主資本等)に対するリターンと解釈されます。

企業価値の算出方法を理解することは、M&Aを検討する上で重要なステップですが、それと同時に「いかに企業価値を向上させるか」という視点も欠かせません。算定結果を踏まえて自社の弱点を把握し、売却前に企業価値向上のための取り組みを行うことで、より有利な条件でのM&Aが実現できます。

企業価値向上のための主なアプローチは以下の通りです。

まず、収益力の改善です。マルチプル法やDCF法においては、営業利益やEBITDAが株式価値に直結します。売上高の拡大はもちろん、不採算事業の整理やコスト削減によって営業利益率を高めることが、企業価値の向上に直結します。

次に、財務体質の健全化です。純有利子負債が大きいほど株式価値は圧縮されます。銀行借入金の返済や現預金の積み増しにより、財務レバレッジを改善することが効果的です。設例1のように赤字かつ借入過多の企業では、財務改善なくして企業価値向上は困難です。

さらに、無形資産・知的財産の整備も重要です。特許・ブランド・顧客基盤・属人化していない業務プロセスなどの無形資産は、営業権(のれん)として評価されます。これらを可視化・文書化しておくことで、買い手に対する説得力が増し、より高い営業権評価につながります。

最後に、事業計画の策定です。DCF法では将来キャッシュフローの予測が企業価値を大きく左右します。実現可能性の高い中期事業計画を整備しておくことは、評価の客観性・妥当性を高め、買い手の信頼獲得にもつながります。

M&Aの準備段階から企業価値向上を意識した経営改善に取り組むことが、売り手にとって最大のメリットをもたらします。

 

 

考慮すべき事項

評価対象会社(売手企業)が、企業のライフサイクル(イメージ図)において、創業期、成長期、成熟期、衰退期のいずれの段階に該当するかを判断します。

併せて、評価対象会社の継続性の疑義の有無、知的財産等に基づく超過収益力に依存する収益構造であるか、類似上場会社のない新規ビジネス、或いはニッチ業種に該当するかなどを判断する必要があります。

企業のライフサイクル(イメージ図)

以上の考慮すべき事項を確認した後、評価対象会社(売手企業)に適切な株価(株式価値)の算定方法を選択します。複数の算定方法を選択できる場合は、それぞれの算定方法の結果を比較検討するのがよいでしょう。

以下の表では、企業価値向上に向けた主要な施策ごとに、効果が出やすい算定手法と具体的なアクション例をまとめています。

企業価値向上施策 効果が出やすい算定手法 具体的なアクション例 期待される効果
収益力改善(営業利益拡大) マルチプル法・DCF法 不採算事業の撤退、コスト削減、価格見直し EBITDAの増加→株式価値の直接的な向上
財務体質の健全化 マルチプル法・修正純資産法 借入金返済、現預金積み増し 純有利子負債の圧縮→株式価値の増加
無形資産・知的財産の整備 修正純資産法(営業権評価) 特許取得、顧客リスト整備、業務マニュアル化 営業権(のれん)の評価額向上
事業計画の策定・精度向上 DCF法 中期事業計画の作成・根拠の明確化 将来キャッシュフロー評価の客観性向上
資産の含み損解消 修正純資産法 不良在庫・不稼働資産の売却・除却 時価純資産額の適正化

自社の状況や目的に応じて優先すべき施策は異なりますが、複数の算定手法で評価される取り組みから着手することで、より効果的に企業価値の向上を図ることができます。

 

 

株価(株式価値)の算定方法の選択

考慮すべき事項 想定ケース 企業評価手法
修正
純資産法
マルチ
プル法
DCF 法
評価対象会社の
ライフステージ
創業期
成長期
成熟期
衰退期
会社の継続性 疑義なし
疑義あり
知的財産等に基づく
超過収益力
知的財産等の無形資産
が価値の主たる源泉
類似上場会社のない新
規ビジネス
他に例のない新規ビジ
ネス
ニッチ業種

〇:採用が適していると考えられる   △:場合によっては採用することが想定される

 

 

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