M&Aにおけるソーシングとは?

こんにちは。経営承継支援のブログ担当チームです。

M&Aのソーシングとは、候補企業の探索・絞り込みから基本合意に至るまでの前半プロセスを指す重要な概念です。
仲介会社の競争激化やネットマッチングの普及により、ソーシングの手法は大きく多様化・高度化しています。
ソーシングの質がM&A全体の成否を左右するため、戦略的なアプローチと情報収集力が不可欠です。

目次 [ ]

 

 

ソーシングとは

M&Aにおけるソーシングとは、M&Aのプロセスにおいて、希望条件の明確化から候補企業の情報収集と絞り込み、そして選定と交渉までのプロセスを指します。
つまり、M&Aの全プロセスのうち、前半部分がソーシングに該当することになります。具体的には、M&のプロセスでは売手や買手の対象企業をスクリーニングし、条件に見合う相手を探すために絞り込むことを言います。
このようにソーシングとはプロセス全体の前半部分を指す用語ですが、広義では対象企業の絞り込みから基本合意書の締結までを意味する場合もあります。

ソーシングとエグゼキューションの違いを理解しておくと、M&Aのプロセス全体を把握しやすくなります。M&Aのプロセスは大きく「ソーシング」と「エグゼキューション」の2段階に分けられます。ソーシングが対象企業の探索・絞り込みから基本合意書の締結前後までを指すのに対し、エグゼキューションはデューデリジェンス(DD)の実施・最終契約の締結・クロージングといった後半の実行局面を指します。

ソーシングを担う主体はケースによって異なります。売手・買手がM&A仲介会社に依頼する場合、仲介会社がソーシングの中心的な役割を担います。一方、フィナンシャル・アドバイザー(FA)を活用する場合は、FAがクライアントの利益を代理してソーシングを推進します。また大企業のM&Aでは、自社のコーポレート開発部門(事業開発部)が主体となってソーシングを行うケースも珍しくありません。

ソーシングの質がM&Aの成否を大きく左右します。適切な候補企業を早期に見つけ出せるかどうかは、その後の交渉・統合(PMI)にも直結するためです。特に中小M&A市場では、業界・地域・業績・オーナーの年齢・後継者の有無といった多角的な視点でスクリーニングを行い、優先度の高い候補企業に絞り込むことがソーシングの要諦となります。

昨今はAIやデータベースを活用したソーシングツールも登場しており、従来の属人的なネットワーク頼みから、データドリブンなアプローチへと手法が進化しています。ソーシング力の高低が仲介会社・FA各社の競争優位を決定づける時代に入っているといえるでしょう。

以下の表では、ソーシングとその後工程にあたるエグゼキューションを、対象フェーズや主な作業など5つの観点から比較しています。

比較項目 ソーシング エグゼキューション
対象フェーズ 候補企業の探索・絞り込み〜基本合意前後 DD・最終契約・クロージング
主な作業 情報収集、スクリーニング、アプローチ、初期交渉 デューデリジェンス、契約交渉、クロージング手続き
担い手 仲介会社、FA、社内コーポレート開発部門 仲介会社、FA、弁護士、公認会計士
成否の鍵 候補企業の発掘力・ネットワーク・情報の質 専門知識・交渉力・リスク管理
近年の変化 ネットマッチング・AIツールの活用が拡大 デジタルデータルームの普及が進む

このようにソーシングとエグゼキューションは求められるスキルや担い手が異なるため、それぞれの工程に適したリソースを確保することがM&A成功の鍵となります。

 

 

M&A情報(売り、買い)の情報収集

M&A情報(売り、買い)の入手方法は、直接営業と間接営業の2つに大別することができます(下表)。多くのM&A仲介会社は、直接営業と間接営業の両方の方法によって、M&A情報(売り、買い)を入手しています。

直接営業 間接営業
情報ルート 会社 HP、DM、架電 金融機関、会計事務所等
情報確度 要確認 一定レベルは担保
費用 Web 作成・広告費用
DM 費用
紹介料
(外部連携機関へ支払)
架電費用など
営業手法 アンケート 情報交換
行内勉強会等
M&A セミナー

従来、売手と提携仲介契約を締結した後、タイプ①による買手探索(マッチング)が中心でした。
近年、仲介会社間の競争激化によって、売手と提携仲介契約を締結する前に買手探索するタイプ②の割合が増えています。

タイプ 提携仲介契約 アクション 使用リスト
締結後 タッピング ロングリスト(注1)
想定リスト(注2)
締結前 プレタッピング ロングリスト(注1)
想定リスト(注2)

(注1)過去にM&A実績がある買手候補、または買いニーズを把握している買手候補のリスト
(注2)買いニーズが不明の想定候補のリスト
 

 

DM送付、架電による売り情報の収集

現在、多くのM&A業者が乱立し、現状と同じ営業方法を継続するのは限界があると思われます。
特に数年前と比較すると、最近のM&A仲介会社のDM反響率の低下が顕著になっています。
その理由としては、過去5年間に新規参入するM&A業者が急増したことが挙げられます。中小M&A市場において、直接営業のマーケットは既にレッドオーシャンの状態です。

M&A仲介会社は、売手対象として想定する会社に対してDM送付した後、M&Aコンサルタント若しくはインサイド・セールス部隊(架電専門)が、フォローコールを行います。
この場合、フォローコールは、その前工程であるDM送付と関連付けて、具体的かつ明確な戦略を立てる必要があります。
具体的には、高齢社長の後継者不在と思われる会社、一定の評点以上(信用調査会社)等の会社へDM送付する、ストロングバイヤーがターゲットとする会社へDM送付する、M&Aが多い業種・エリアに絞ってDM送付するなどの施策があります。
また、中小M&A市場の変化に対応しつつ、トライ&エラーを繰り返しながら、これらの施策を改善および推進して行く必要があります。
 

 

買手探索、プレタッピング

一般に想定リスト(注2)に架電して買いニーズを収集する場合、買手候補のキーマン(社長、役員など)からヒアリングできないと情報の精度が低くなる場合があります。また、そもそもM&A実績がない会社、M&Aを経営戦略として考えていない会社もあります。
 

売手との提携仲介契約、専任依頼と非専任依頼

従来、売手との提携仲介契約は専任依頼が原則でしたが、現在、非専任依頼の割合が増加しています。売手との提携仲介契約の専任依頼は、特に法律で規定されているものではありません。
そのため、ある売手に複数の仲介会社がアプローチし、各社が買手候補を探索して最初に買手候補を見つけた仲介会社が、交渉を進めることになります。これによって、M&A業者間の競争が激しくなっています。
 

 

ネットマッチングの普及

新しいビジネス手法であり、M&Aマッチングサイトが次々に誕生しています。これらのサイトは、小規模案件の誘導先として活用することができます。
また、買手候補とNDAを締結するプロセスを経ずに、売手を実名で紹介(売手自身が希望する場合)するマッチングサイトも出現しています。
ネットマッチングの手法が本格的に普及したのは、最近であると思われます。
 

手数料のディスカウント

M&A業者間の競争が激しくなるにつれて、着手金なし、中間金なし、最低手数料の引き下げ競争となっています。
一方、一部のM&A仲介会社は従来の手数料体系(着手金あり)を維持したり、地域金融機関の中には建前上は最低手数料を引き下げないところもあります。
直近、複数のM&A仲介会社では、最低手数料を値上げする動きも見られます。
 

 

提携機関への紹介料率のアップ

M&A仲介会社の最低手数料のディスカウントと並行して、M&A業者が外部提携機関(地域金融機関、会計事務所、事業会社など)に支払う、案件紹介料の料率がアップしています。
その背景としては、各M&A業者が外部機関と提携するために、紹介料の料率の引き上げを行ったことが挙げられます。

また、外部提携機関のうち、地方銀行と信用金庫は、業界再編の動きの中で、過去30年間にその数が大幅に減少しています(下表)。このこともM&A仲介会社にとっては、地域金融機関との提携推進において競争が激化する要因の一つになっています。

業態の事業者数の推移

業態 平成元年
(1989 年)
平成 30 年
(2018 年)
令和 5 年
(2023 年)
地方銀行 132 行 104 行
(▲21%)
104 行
信用金庫 455 金庫 260 金庫
(▲43%)
254 金庫
税理士登録者 57,073 名(注) 78,028 名
(+36%)
80,467 名

(注)平成2年(1990年)

中小M&A市場の間接営業のマーケットも、直接営業と同様に既にレッドオーシャンの状態です。

なお、手数料のディスカウント、紹介料率のアップをすれば、一時的に売上は増加するかもしれません。しかし、中小M&A市場には参入障壁がないので新たな新規参入者との間で競争過多となり、各社の収益率の悪化が予想されます。

(参考)
アドバイザリー会社のタイプとフィナンシャル・アドバイザー(FA:Financial Advisor)の役割

アドバイザリー会社のタイプとしては、金融機関系、会計会社系、ブティッ系の3つに大別することができます(下表)。フィナンシャル・アドバイザーの役割は、クライアント(売手、買手)が目指す戦略実現のために、最適なM&A手法を企画 立案し、その執行を全面的にサポートすることです。

アドバイザリー会社のタイプ

タイプ 金融機関系 会計会社系 ブティック系
主な会社 メガバンク、地方銀行、
信用金庫、証券会社
など
監査法人、税理士法人、
コンサルティング会社
個人事業主から上場
企業まで多数
役割 売り手 FA 又は買い手 FA 売り手 FA 又は買い手 FA 売り手 FA 又は買い手
FA、或いは仲介

 

 

売り手企業の提携仲介契約~専任契約と非専任契約~

一般に、M&Aのプロセスにおいて会社売却を考えているオーナー社長は、M&A仲介会社と提携仲介契約を締結します。

その契約形態は、専任契約と非専任契約の2つのタイプに大別することができます。
専任務契約の場合、売り手企業が1社のM&A仲介会社と提携仲介契約(専任契約)を締結し、1社のM&A仲介会社が買い手探しを行います。
一方、非専任務契約の場合、売り手企業は複数社のM&A仲介会社と提携仲介契約(非専任契約)を締結し、複数社のM&A仲介会社が買い手探しを行います。

両者の契約の違いを、①秘密保持、②成約迄の期間、③案件コントロール、④対買い手候補企業、⑤難しい案件の5つの点から考えてみることにします。

① 秘密保持
M&Aは、「秘密保持に始まり、秘密保持に終わる。」と言われます。M&A仲介会社は、売り手企業のオーナー社長に提案の承諾を頂いた買い手候補企業と秘密保持契約を締結した後、具体的な売り手企業の情報を提供します。

非専契約の場合、複数社のM&A仲介会社が上記の活動を行うため、買い手候補企業と秘密保持契約を締結するとは言え、専任契約の場合と比べると売り手企業の情報が拡散することになります。

② 成約迄の期間
専任契約の場合と比較して、非専任契の場合の方が複数社のルートで買い手候補企業を探すため成約迄の期間は短くなると思われます。
ただし、各M&A提携仲介会社が持っている買い手候補企業の情報量、得意業種、不得意業種などによっても成約迄の期間は左右されます。

③ 案件コントロール
専任契約の場合、1社のM&A仲介会社が案件コントロール、すなわち、何社の買い手候補企業に提案して、各社の検討状況はどの程度進んでいるかを一括して把握することが可能です。
一方、非専任契約の場合、全体の案件コントロールをする者が不在であり、その役割を売り手企業が担うには無理があります。

④ 対買い手候補企業
専任契約の場合は、1社のM&A仲介会社が全体の案件コントロールをするので、買い手候補企業が複数であっても、各社の検討状況を把握するので案件コントロールが可能です。

一方、非専任契約の場合、複数社のM&A仲介会社が我先に買い手候補企業へ提案します。
この場合、突然、ある買い手候補企業と話が進む(例えば、基本合意契約を締結)ことがあり、
検討中の他の買い手候補企業に迷惑をかけることになりかねません。

⑤ 難しい案件
売り手企業が、赤字、借入過多、債務超過、あるいはニッチ業種など買い手候補企業を見つけるのが難しい場合は、買い手候補企業を探す間口を広げるために、非専任契約を選択することがあります。

項目 専任契約 非専任契約
①秘密保持
②成約迄の期間
③案件コントロール ×
④対買い手企業
⑤難しい案件 ×

○(適切) △(場合による) ×(適切とは言えない)

 

 

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