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事業承継M&Aの秘訣『資金繰り改善』と『魅力ある事業』
事業承継のひとつにM&Aを利用した形態があります。
従来からの子供や親族(以下“親族等”という)、或いは従業員への承継に次いで、最近件数を伸ばしています。
しかし、親族等への承継を望む経営者が多いのが実状であり、M&Aという考え方は第三者への承継に限らず、親族等への承継の場合でも有用です。
つまり後継者の子供から見ても対価を払ってでも承継したい事業とするのが現経営者の事業継続に向けての責務ということです。
中小企業経営者の高齢化と後継者
60代、70代になったから、そろそろ後進に道を譲り第2の人生を送りたいので事業承継を支援してほしいという要請が筆者にも最近多く届きます。
なるほど日本の中小企業経営者の実態を見ると前述のような相談が増えるのも自然であり、下図表は中小企業・小規模事業者の経営者の平均年齢の推移を示しています。
出典:中小企業庁 研究会資料3-1中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題(2019.11.07)
平均年齢は66歳(2015年)から2025年には70歳超となり、問題はこの時点で中小企業・小規模事業者の経営者(約245万人)の内約半数の127万人が後継者が未定としていることです。
これは第三者への承継のニーズが今後一気に増大する可能性を示唆しています。
60代になったら事業承継に取組む?
最近筆者は、都内のJR駅(23区)に近い商店街の活性化や、同じく都内(23区)のモノづくり企業が集積する地域で後継者問題に向き合う機会がありました。
大半の中小企業経営者は、まさに60代~70代で一様に日々の経営に全力を注ぎ、事業承継に正面から取り組む間もないという背景を抱えていました。
高齢の中小企業経営者にとって喫緊の課題は後継者を誰に、そして経営権の委譲をいつするかを決定することです。
一般的に、後継者の社長教育、従業員・取引先等関係者の理解と協力だけを考えても3年程度はかかります。
そこから新社長が自ら経営理念や方針を示し、具体的な行動に移ります。
3割近い経営者が承継までに5~10年は必要と考えています。
事業承継は相続ではない
体力的にきつい、或いは子供が大きくなったからそろそろ経営を譲ろうというのは現経営者のある意味勝手な思いに過ぎず、ご自身で勝手に決めた引退時期です。
事業承継は人生の終わりに伴う相続ではありません。
終活としての私財の整理ではなく、後継者、そして従業員や取引先など多くの関係者の人生が関わっているのです。
他方で親族等が事業を相続として捉えることも適切ではありません。
相続を親に向かって口にすることは容易ではなく、結果として時期を待つことになります。
「いずれ親から事業を引き継ぐのでそれまでは勉強します」といった受け身の姿勢になりがちで、経営への心構えが遅れます。
このように受け身の姿勢での経営は従業員ほか関係者の不安にも繋がります。
経営者の高齢化が進む環境下、引退適齢期を迎えたから相続として事業承継に取組もうという考え方が適切なのでしょうか。
事業承継は個人財産の相続と同じではありません。
事業承継にむけての現経営者の不安
事業承継に向けて現経営者の取組む課題は多いです。
① 後継者を誰に:親族、従業員、外部(M&Aなど)
② どのタイミングで
③ 現在の財務状況でも相手先はみつかるのか
④ 現経営者の考えは継承されるのか
⑤ 雇用は維持されるか
⑥ 株式譲渡額はいくらなのか
⑦ 従業員、金融機関、取引先の理解は得られるのか
⑧ 事業承継計画をどうつくる、 など
多くの課題が待ち構える中で、後継候補者の経営者としての適性が特に気になります。
とりわけ親族等の中でも子供が後継者の場合、まだまだ未熟、ノウハウや能力が不十分などという評価をしがちです。
現経営者が創業者の場合、創業時の情熱を後継者が共有し得ず、自分と異なることに後継者への不満が募り、不安となることでしょう。
他方で承継する子供にも不安はあります。
現経営者と後継者の性格、考え方、行動様式は異なり、ましてや後継者は経営経験をもっていません。
事業承継を前に後継者の不安
後継者は現経営者に倣って経営に取り組めばよいのでしょうか。
現実には、経営ノウハウが不十分、古参の従業員を納得させる能力を示せるか、現経営者への依存からいつ脱却できるか、取引先などからの協力が得られるか、など不安が多く生まれます。
しかし、これらの不安は経営学を学び、実務を通じて解消していけます。
余談ながら、後継者が学ぶべきは、座学の経営学ではなく、経営を担う覚悟に基づく経営学です。
現経営者に依拠せず自身で取組み、判断をすることを学ぶことにより、受け身ではなく能動的に事業承継を捉えることが不安解消につながります。
後継者が事業を買いたいと思うか
後継者が持つ不安の本質は、経営ノウハウや能力よりも寧ろ目の前の事業の実態にあるのではないでしょうか。
そもそも承継をしてよい事業なのかという不安ではないでしょうか。
これでは後継者も能動的になれません。
売上が伸びない、営業利益が生じない。
ましてや赤字ではとても魅力ある事業とは言えません。
承継の対象事業に収益性や成長性があれば、心理的なハードルは下がるでしょう。
対価を払ってでも承継し継続したい事業であれば、経営への取組みも緊張感をもって行えるでしょう。
様々な不安を抱えていても、或いは逆境に遭遇しても積極的に取り組んでいけるでしょう。
事業承継は事業価値を意識する
事業の継続性が事業承継の成否を左右します。
後継者が安心して経営に取組める事業にすることが現経営者の最優先課題です。
まずは後継者の事業への不安を取り除き、承継後の経営への取組みに邁進させることが必要です。
親から買ってでも子供が承継したいと思う事業とすることは極めて重要なことです。
従って、承継へ向けて事業価値を高めることが重要となります。
その為には事業の収益性を高め、儲ける力を強化することです(キャッシュフローを生み出す力)。
M&A手法によるアプローチとして事業価値算定の考え方が活用できます。
事業価値算定の重要な指標は、事業の収益性である
事業を評価するうえで、重要なポイントの1つとしてキャッシュ(お金)を安定的に生み出す力が必要です。
後継者がみつからずM&Aを検討する会社の中には、資金繰りが厳しいため、買い手候補先に断られてしまうケースがあります。
そのためM&Aを検討する前に、資金繰りに懸念がある先は、資金繰り表を作成し、資金繰りの実態を把握することが重要です。
資金繰りのポイントは、会計上の利益と収支管理上の資金のズレを理解する
資金繰りは資金の出入り(収入と支出)を管理し、事業継続に必要な資金の確保が目的です。
中小企業の経営者の多くは売上や利益に着目します。売上が順調、或いは儲かっているといっても、あくまでも会計上の数字です。
留意することは、利益は必ずしも資金が相応にあることを意味しないことです。つまり、「売上増≠利益増」、ましてや資金増を意味しないということです。
なぜこんなことが起こるのでしょう。
例えば、売上の結果である入金はいつでしょうか。
ここに目を向けないと資金繰りができません、黒字倒産の背景です。
会計上の利益と収支管理上の資金のズレが生じる3つの理由
ズレが生じる主因は下記のような状況に陥ってる場合です。
その1 売上金の回収サイクル
売上は100%現金ですか、また売掛債権はいつ回収できますか?
売上高の増加に伴い売掛金が増加することは注意が必要です。
売掛金の増加(=売上代金の未回収残高の増加)は資金繰りを苦しくし、多忙は必ずしも儲かっていることになりません。
その2 在庫(棚卸資産)コントロール
売上の伸びと共に仕掛品や在庫も増えることがあります。
しかし、製品化され売り上げが立たない限り資金収入はありません。
仕入材料の積み上がりも同様で、投下資金が寝ています。
急な顧客の注文に応えることと過剰在庫は異なります。
その3 買掛掛債務の管理
仕入れでは、現金払い以外に買掛債務という形で時間をおいて決済が発生するものがあります。
支払までの期間の短期化は資金繰りを悪く一因になります。
売掛債権との関係でいえば、入金と出金との間にある時間的ズレを管理していけば資金繰りの安定化に目途が立ちます。
経営指標を使って資金繰り管理
資金繰りの安定化のために、仕入れから販売、そして代金回収といった自社資金の循環サイクルを見つけることが大事です。
代表的な経営指標を使ってみましょう。
短期の資金循環に影響する先述の売掛債権、棚卸資産、買掛債務を用います。
資金循環の指標の一例として運転資本回転期間を使い、この期間が何日なのかを見ましょう。
下式のようにマイナス (支出が入金のあと)となるように調整し資金繰りを安定化します。
運転資本回転期間 = (売掛債権回転期間+棚卸資産回転期間)- 買掛債務回転期間
資金繰り管理には資金繰り表が有効です。
資金繰り表を作成することにより、自社の事業特性を知り、資金の循環特徴を捉えることが資金繰りの安定化には必要です。
自社の事業がどのように資金を産み出し、循環させているのかを把握できるようになり、資金繰りが安定化すれば、M&Aの買い手候補先もみつかりやすくなるでしょう。
まとめ
先述したとおり、近時、事業承継の形態の選択肢が増えてきており、後継者不足という社会環境が一因です。
直近10年で親族内承継の割合が急減し、従業員や社外の第三者による承継が6割超に達したという調査もあります。(中小企業庁「事業承継に関する現状と課題について」平成28年)。
事業の継続を望むのであれば、親族外の承継も選択肢として捉える必要があり、中小企業庁の調査が予測するように、M&Aの活用に取組み事例が増える可能性があります。
しかし、M&Aによる第三者への事業承継という活用を提案することに留まらず、円滑な事業承継のためにM&Aのアプローチが有用であることを強調しておきます。
対価を払って事業を買うという視点での事業承継では、事業価値の向上そして算定の仕組みへの理解の重要性は必然と高まっていくことでしょう。
事業承継の多くの議論は現経営者の目線で行われています。
しかし、事業承継の本質的な課題は、後継者が現経営者から経営権を譲り受けたいと思える企業となっているかです。
キャッシュフローを改善し事業価値を高めることは事業承継の選択肢を増やすことになります。
事業の継続が事業承継の本旨であれば、後継者如何に関わらず事業価値に取組むことが望ましいでしょう。
まずは、M&Aにおける事業価値向上策や価値算定方法の活用を薦めたい。
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