創業の想い

創業の想い

笹川 敏幸

M&A業界に入ったきっかけ

大学時代、私の周りにも、実家は商売をしているけれど「継がない」と言っていた友人がいました。また、最初は継ぐつもりでいても、結局帰らなかった人もいました。昔は地元の学校を出て地元で就職する、あるいは家を継ぐというのが当たり前と思われていて主流だったと思いますが、ちょうど私たちの世代くらいからでしょうか。地方から都会の大学に進学して、そのまま都会で就職する人たちが増えていました。

交通網が発達して、短時間で移動できるようになると、人は当然移動するようになります。人が移動すれば、交流が盛んになり、情報がたくさん入ってくるようになる。すると、「なんだ、こっちのほうが面白そうじゃないか」となるわけです。いろんなものが見えてきて、選択肢が広がるのですね。

当時は私も学生でしたから、友人が「継がない」、「帰らない」と言えば、深く考えもせずに同調していました。でも今となり、じゃあ、彼らの実家のご商売は、その後どうなったのだろうかと考えれば、おそらく廃業したことでしょう。ガソリンスタンドを何店舗か経営しているのだと言っていた友人もいましたが、では、その従業員たちはどうなったかといえば、もちろん解雇されたでしょう。そうした立場に現実として置かれた人たちのことを思うと、とても切なくなりました。

でもそれが、M&Aをすれば、後継者がいなくても事業を存続させ、雇用も守れるというのです。“ああ、そんな仕事があるんだ”と、私はいたく衝撃を受け、この仕事に携わることへの、大きな社会的意義を感じたのでした。

M&A仲介会社の限界

私は民間の大手M&A仲介会社で働き始めました。最初はM&Aの知識が乏しかった私も、勉強しながら業務をこなしていくうち、M&Aの一通りの流れを覚え、それを行なうための必要なテクニックも習得していきました。

「顧問先の会社が、後継者が見つからずに困っているので、ご対応いただけないでしょうか――」

後継者不在の中小企業を廃業から救えることに社会的意義を見いだし、この道に入った私です。この手のご相談には、一社でも多く乗ってあげたいと思っていました。そこで私は、半ば祈るように確認します。

「ありがとうございます。その会社の情報をいただけますか?」 そして私は、その説明を聞いた後、“またか”と思いながら肩を落とし、ご丁重にお断りして受話器を置き、ため息をつくのでした。そんなことが、ずっと続いていました。

M&A仲介会社への手数料2,000万円を支払うことができる会社でなければ、ご相談を受けられなかったのです。ひと度、M&Aのお手伝いをするとなれば、売り手側の企業をとことん分析して、その価値を見いだし、業界情報まで徹底的に調べます。そのうえで最良と思われる買い手候補を探しにかかるため、相当な労力を費やします。そのため、小規模で採算の合わない会社からの依頼を断るため、最低手数料2,000万円というバーを設定することがこの業界では一般的だったのです。大きすぎる事業承継需要に対し、対応できるM&A仲介会社の数が少ないことも手数料高騰の一因でしょう。本当に助けが必要な中小企業へM&Aの道が塞がれていることに疑問を感じていました。

笹川 敏幸

公的機関での挑戦

民間企業に限界を感じていたとき、思わぬチャンスに恵まれます。予てから中小企業の後継者難を深刻な社会問題と捉えていた国が、ついに中小企業のM&A支援に特化した「事業引継ぎ支援センター」を設置することになり、その立ち上げへの協力を要請されたのです。

“公的機関なら、儲けを考えずにできるじゃないか!”

行き詰っていたところに開かれた突破口でした。しかし、そんなふうに期待したのも束の間。ここでは、また違う壁にぶつかることになりました。

「打診していた会社から、買いたいと直接言われたのですが、何からすればいいでしょうか?」
「秘密保持契約を交わしてください」
「あの、その契約書は、どうやってつくればいいのでしょうか?」
「実例は、お見せできないことになっておりますので、M&Aに関する本を探して、そこに出ているものを見ながらやってみてください」
「それで、1億円と言われたのですが、どうなんでしょうか?」
と、例えばこんな感じで、支援すると言っても、聞かれたことに対して、あとで問題にならないよう、差し障りのない答え方をするように言われたのです。判断材料を提供するだけで、あとはご自身で決めてくださいというのが方針なのです。

「M&Aをやりたいのですが」、「どこか買い手を紹介してくれませんか」という相談に対しては、「民間の会社でこういうところがあるので紹介できます。そのかわりここは、手数料がこれだけかかります。あとは、当センターに“買いたい”と相談にくる企業さんもいらっしゃるので、その会社は紹介できます」と。

一番のネックは、買い手を紹介してほしいと言われて、探してあげられないことでした。机に座って情報提供に徹することに、業務が限られていたからです。たまたま、登録した企業同士でマッチングできれば、仲介料はいただかないので、費用的には大変安く済みますが、なにゆえ、まだ立ち上げたばかりの機関とあって、当時の登録数は限られていたのです。
それでもたまに、そうした企業同士でニーズが合うことがあって紹介したことはありました。ですが、私もM&A業界に入り、当時で早10年以上。いろいろな企業が頭の中にストックされているわけです。そのため、紹介はしたものの、“この会社だったら、あの企業のほうが高く買ってくれそうだな。シナジー効果(相乗効果)もありそうだし……”などと思いながら、そのストックを持ち出すことは許されないので、もどかしさを感じていました。

そして、何とかマッチングできたとして、その先のプロセスにおいても実務のお手伝いはできないことになっていました。よって、「何もわからないので教えてほしい」と不安そうな方には、「お知り合いの弁護士さんに入っていただいてはいかがですか?」と、まずは言って、「弁護士の知り合いはいません」と返されたら、「会計士さんだったら紹介できますよ」と、情報提供する。

特に教えてほしいと言われなければ、こちらから率先して教えることはしません。それで、端から専門家を付けずにやっている方々については、何か心配なことが起きたりして相談に見えられた際に、事後報告を聞くことになります。
「何の連絡もなく、オフィスの移転や従業員同士の交流が始まってしまいました」
「先方から一方的に、半額なら買うと言われてしまいました」
“自分が間に入っていたなら、こんなことにはならなかったものを”と、唇を噛みました。でも、そんな状況を聞かされたとしても、許されるであろう、ぎりぎりのアドバイスを行なうのが、立場的には精一杯のところだったのです。

公的機関は、どこへ相談しに行けばいいのかわからない方々や、どこにも相談できない方々にとっては、頼れる相談窓口です。その意味では、このような支援センターをつくることは、意義のあることだと思います。しかし、できることが非常に限られているといいますか、やってはいけないことが多すぎます。公的機関ゆえでしょうが、これではとても、M&Aを実質的にサポートすることはできないだろうというのが、実際に携わる中での私の正直な感想でした。

笹川 敏幸

中小企業はどこへ相談しに行けるのか

中小企業は、後継者が見つからないとき、どこを頼ればいいのでしょう。どこに行けば、本当に実のある支援を、経営規模に合った形で受けられるのでしょうか。このままでは、どこにもありません。
同じ悩みが私の中にもありました。この先、どうしたら、自分が本当に助けたいと思っている中小企業を納得のいく形で支援することができるのか。
“民間の仲介会社では、規模の小さい企業は顧客にできない”
“公的機関では、話を聞くことはできても、必要な支援をしてあげられない”
などと、両者のデメリットを並べて、よくよく考えていたとき、私はふと思い至ったのです。官民連携ならできるのではないかと。

実のあるサービスを提供できるのは民間の仲介会社で、問題は手数料が高いことです。そこで、もし公的機関が民間の仲介会社に情報を提供して、その後のフォローをしてもらうようにすれば、民間の仲介会社では、その分コストが抑えられ、手数料を安くすることができるのではないか。そうすれば、中小企業も、今より具体的な支援が受けられるようになるのではないかと考えたのです。

私は、この業界で働くようになってからこれまでの14年間を振り返り、これが自分の使命だと感じてきたことが、実はまったくできていないという現実を改めて思いました。

“誰もやらないなら、自分がやればいいじゃないか”

心の奥底から響いてきた声でした。

こんな当たり前のことに、どうしてもっと早く気付かなかったのかと、私は急に足取りを軽くして、センター長のもとへと向かいました。もう、一点の迷いもありませんでした。このおよそ1年後、私は、事業引継ぎ支援センターとの連携を謳い、弊社を立ち上げることになります。

「一社でも多く」を理念に

会社を設立したのは、2015年4月のことでした。いよいよ自分の使命を果たすべきときが来たという思いで、自身の手綱を引き締め、掲げた経営理念は、次のようなものでした。

三方良しの経営承継を通じて 一社でも多くの中小企業の「価値」を次世代に繋ぎ、 日本経済の維持・発展に貢献します 「三方良し」というのは、売り手と買い手、そして私たちがお手伝いするM&Aに関わる方々全てが、それぞれにメリットを感じられるようなM&Aでなければならないという意味です。特に、承継型のM&Aでは、この三方に、売り手、買い手、譲渡された企業の従業員の皆様、の意味を含んでいます。

そして、「一社でも多くの――」。このフレーズに込めた思いはたくさんありますが、なにより大きいのは、これまで、どこへ相談しに行っても、きちんとした支援を受けられなかった中小企業を、一社一社、確実に、丁寧に、かつ親身な気持ちでつないでいきたいということです。