税理士が抱くべき社会性と公共性〜事業承継支援の意義と重要性〜

岡田 隆様

愛知税理士法人 株式会社ストレートライフ 代表社員・税理士・代表取締役

経営の苦しい自動車整備工場に差した「光明」

<事業承継支援に携わるようになったきっかけ>

株式会社経営承継支援様と連携して、事業承継支援事業に携わるようになったのは2017年頃です。

それ以前から、後継者不足による中小企業の廃業に、問題意識を抱いていました。

きっかけとなったのは、とある自動車整備工場を営む法人様の案件です。

会社は健全な経営が続き、内部留保も潤沢にありましたが、創業社長が急に亡くなってしまいました。

経営は奥様が引き継ぎましたが、慣れない経営で売れ行きは振るわず、引継ぎ後の数年前から赤字が続いている状況でした。

 

RRiceさんによる写真ACからの写真

突如降りかかった企業経営へのプレッシャーは、相当なものだったと思います。

このまま赤字を垂れ流し続けるのは良くない。

余力のある内に廃業し、不動産を売却することも検討されていました。

しかし、工場には多くの設備があり、それらの処分でも大きな金銭的負担がのしかかります。

加えて、社員の多くは年齢層も高く、転職先への不安がある。

多くの難題に直面するなかで、事業承継の検討に踏み切ることとなったのです。

有形・無形の「財産」がM&Aにつながる

<売主さまにも買主さまにも魅力的な事業承継へ>

結果的に、事業承継は大成功という形になりました。

買主さまは資金力が高い企業だったものの、一から整備工場を設立するには、立地や騒音・振動問題、機械の購入費用など多くの課題がありました。

すでに設備が整っている売主さまの工場は、非常に魅力的だったわけです。

設備の多くは減価償却も終わっており、まさに至れり尽くせりな状態でもありました。

さらに、売主さまの手配の人材は経験が豊富で板金等の技術力が高かったため、買主さまの行う教育事業の講師として働くこととなりました。

社員の多くは引退も考えていたところだったので、非常に喜んでらっしゃいましたね。

この結果に、社長の奥様も非常に驚いていました。

当初は廃業によって資産の現金化ができる一方、設備廃棄の費用負担なども覚悟していたのです。

しかし、蓋を開けてみれば買主さまによって企業を丸ごと引き継いでくれることとなりました。

ご本人もM&Aを終えて、肩の荷が下りたとおっしゃっていたのが印象に残っています。

自分の企業の価値に気づいていない経営者は多い

先入観に囚われず、自分の会社の価値に気づいてほしい。

今回のM&Aでは、社員の技術力はもとより売主さまの信用や各種の許認可など、決算書には表示されていない無形財産も大きな価値になるのだと再認識できました。

しかし、多くの中小企業の経営者は、自分の会社を買ってくれる企業などないだろう」と思ってしまうのです。

会計事務所の担当者もまた、決算を見て「売れない」と判断してしまいます。

その先入観によって、彼らは買主さまが魅力に感じるかもしれない、隠れた「価値」を見落としてしまいます。

設備や資産、人材など中小企業の価値を次世代に引き継ぐ。

事業承継には、そうした環境面や社会的な意義が含まれています。

私もまた、実際に事業承継支援を経験したことで、「売れる可能性は0ではない」と痛感した1人です。

その可能性を、1人多くの経営者に伝え、M&Aに消極的なマインドを変えていきたいと思っています。

何より、1件でも実例を体験したことで、M&Aはこれだけ多くの人に喜んでいただける事業なのかと驚かされました。

税理士はお客様の状況が、もっとも身近に感じられる士業です。

経営者の心情や家族背景。

それらを知る身として、国家資格を持っている以上、その使命としての社会性や公共性の発想・感覚は忘れてはいけないと思うのです。