【医療M&Aコラム】クリニックの医業承継


【医療M&Aコラム】クリニックの医業承継

国内の中小企業市場において後継者不足の問題が増えていますが、診療所や病院でも同様に、医業承継(M&A)の相談は増えており、今回は、ドクターが知っておくべき医業承継の方法について解説します。

M&A専門家プロフィール 執筆者 高田 祐一郎

税理士法人ゆびすい 大阪支店チーフ 税理士

財務デューデリジェンスを手掛ける会計事務所で実務経験を積んだ後、2010年税理士法人ゆびすい入社、2011年税理士登録。2017年医業経営コンサルタント登録。

現在は、相続専門部において、医療法人や個人開業医、中小企業の事業承継、相続対策を専門分野として活動している。

関西大学商学部卒/兵庫県出身。

著書に「制度・手続・活用の3ステップから見る法人版事業承継税制の特例」等がある。

 

中小企業において、後継者不足と創業者の高齢化により、M&Aが増加していることが話題となっています。

 

診療所や病院でも同様に、後継者不足の問題は多くあります。

「息子は医師ではないから、後継者はいない」

「息子は勤務医をしていて、うちのクリニックを継いでくれない」

といった相談が多くなってきています。

さらに、クリニックの院長の平均年齢も60歳を超えてきています。

そのため、近い将来クリニックを、第三者へ売却したいという相談を受けることが増えてきました。

 

譲受側のドクターにとっても、一から開業場所を探して、スタッフや医療機器を準備し、1、2年集患に苦労するよりは、既存のクリニックを承継して、開業当初からある程度の患者を確保できることは大きなメリットです。

 

そして、地域の医療を守るという観点からも、廃業より、承継を選択した方が、長年通ってくれている患者様のためにもなります。

 

今回は、医療法人と個人開業医の2つの医業承継について説明します。

医療法人の承継のポイント

医療法人は、大きく分けて、出資持分のある医療法人出資持分のない医療法人があります。

平成19年4月以降に設立された法人は、すべて出資持分のない医療法人です。

出資持分とは、「社員が退社したときの持分払戻請求権」と「医療法人が解散したときの残余財産分配請求権」という2つの財産権です。

この財産権により、例えば、理事長が医療法人に100%出資していれば、退社や解散時に医療法人の純資産の全額の払戻しを受けることができます。

 

1.出資持分のある医療法人の承継

出資持分を譲渡することになります。

ただし、この出資持分には、株式会社の株式のように、議決権は付いていません。

医療法人では、各社員が1個ずつ議決権を保有しています。

したがって、承継の際には、出資持分の譲渡に合わせて、社員の交代も行う必要があります。

理事・監事についても交代します。

 

出資持分の譲渡価額については、交渉による合意次第ですが、一般的なM&Aにおける算定方法として、「法人の時価純資産」に「営業権(正常営業利益の3年~5年分)」を加算した金額とする方法があります。

 

2.出資持分のない医療法人の承継

 

出資持分のない医療法人については、社員および理事・監事の交代のみで、承継が完了します。

それではどのようにして、承継対価を受け取るのでしょうか。

一般的には、譲受側のドクターから、医療法人に資金を入れてもらい、それを原資に役員退職金で受け取るという方法が考えられます。

 

3.法人全体を承継するか、事業のみを承継するか

 

承継の手法として、まず医療法人全体を譲渡する方法があります。

この場合、譲受側のドクターは、医療法人の権利義務のすべて承継することになりますので、過去の医療過誤、租税回避、未払残業代等、様々な簿外債務の存在についてのリスクも受け入れることになってしまいます。

したがって、デューデリジェンスにより、財務や法務等について精査し、譲渡契約書に開示した情報が正確であることを保証する表明保証条項を入れて、リスクヘッジする対策が挙げられます。

 

しかしながら、そういったリスクがあることから、医療法人全体を承継するのではなく、クリニック事業のみを、別の医療法人で承継する「事業譲渡」という方法が採用されることもあります。

事業譲渡については、引き継ぐ資産・負債を選べるため、基本的には簿外債務のリスクをシャットアウトできるメリットがあります。

 

4.税金の留意点

 

承継対価として、出資持分の譲渡代金を受け取る場合には、株式と同様に、譲渡所得(所得税・住民税率:一律20%)になります。

役員退職金で受け取る場合は、退職所得(所得税・住民税率:15%~55%)となるものの、退職所得控除や退職所得の1/2課税といった有利な面もあります。

どのように承継対価を受け取るかは、様々な方法がありますので、承継に伴う税負担を軽減させるためにも、税理士等の専門家を交えて、シミュレーションを行う必要があります。

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個人クリニックの承継のポイント

医療法人の承継であれば、社員および理事・監事の交代で済みます.

しかし個人クリニックの場合で、譲受側のドクターがまだ勤務医というケースでは、譲渡側のクリニックをいったん閉院して、譲受側のドクターが新たにクリニックを開院するという流れになります。

 

1.保険診療の継続

 

例えば、譲渡側のクリニックを5月31日に閉院し、譲受側のドクターがクリニックを6月1日に開院しても、保険医療機関の指定を受けるためには、1か月程度かかるため、6月1日から1か月程度は、保険診療ができず、自費診療のみとなってしまいます。

そのため、開院日である6月1日に遡及して、保険診療報酬の請求ができるよう、事前に管轄の厚生局に相談しておく必要があります。

この場合、譲渡側のクリニックにおいて、譲受側のドクターが一定期間勤務していることが必要とされています。

 

2.カルテの引継ぎ

 

カルテ等の個人情報の引継ぎについても、慎重に対応する必要があります。

引き継ぐ方法としては、譲渡側のクリニックへ、譲受側のドクターに勤務医として入ってもらい、患者への挨拶、院長が変わることについての説明を行って、同意を得たうえで、引き継いでいくことになります。

 

3.税金の留意点

 

診療所の不動産や医療機器を譲渡した場合は、譲渡所得となります。

不動産や医療機器の時価よりも承継対価の方が高い場合、差額は、M&Aでは営業権(超過収益力)の譲渡として、譲渡所得となります。

しかし、医師のように患者との強い信頼関係に基づく事業については、患者はドクター個人に付いているため、税務上は営業権の譲渡と認められず、患者の斡旋の対価として、譲渡所得よりも税負担が大きくなる雑所得として課税されると考えられます。

円満な承継を目指して

医療経営を行う上で、ドクターを支える看護師や医療事務員等のスタッフの役割は、大変重要です。

しかし、労使間トラブルが多い業界であることも事実です。

看護師は人手不足の状況で、離職率も高くなっています。

承継する際に、現在のスタッフを継続採用される場合には、気持ちよく勤務を続けてほしいものです。

 

そのためには、双方の院長から直接、今後のクリニックの運営について丁寧に説明を行い、個人面談によって十分なコミュニケーションをはかることが必要です。

内部管理的なマネジメントは、事務長(院長の奥様等)に任せてしまってきたケースも多いと思いますが、経営方針が大きく変わる状況では、院長自ら面談を行うことは重要と考えられます。

 

皆様のクリニックの地域社会への貢献度はとても高いです。

地域医療に対する考えも、譲受側の新院長に承継してもらい、クリニックへ長年通ってくれた患者様が、安心して引き続き来院できるように、円満な承継を目指しましょう。

クリニックの承継を検討されている場合は、お気軽にご相談ください。

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