後継者がいない!廃業と株式譲渡では、どちらがお得?


M&A専門家プロフィール 執筆者 吉永 徳好

 

吉永公認会計士・税理士事務所 公認会計士・税理士

昭和61年に公認会計士2次試験に合格し、大手監査法人に勤務、平成元年に公認会計士3次試験合格し、公認会計士となる。

その後、中小企業支援を積極的におこなうため、大手ベンチャーキャピタルのコンサルティング部門にて勤務し、税務・会計のみならず、経営全体の支援をおこなう。

平成11年に吉永公認会計士・税理士事務所を開業し、平成14年4月に税理士登録をも行う。

後継者がいない、事業の業績見通しもよいとはいえないような状況ですと、廃業を視野にいれる経営者が多々おられます。

それでいいのでしょうか?

M&A による株式譲渡(下図)によるリタイアも検討してもいいでしょう。

 

経営者にとって今後の先行きが見通せないことから、株式譲渡できないと思い込んでいたとしても、 M&A を行いたい買い手は、自社の事業と組み合わせることによる相乗効果等を視野に入れて、株式を購入したいという場合があることは少なくありません。

廃業に比べて、株式譲渡のほうが手取りが多くなる!?

一般的には、廃業と株式譲渡を比較した場合、 株式譲渡の方が廃業に比べて手取りが多くなります。

廃業の場合は、資産処分し現金にしますが、実際の処分価額は、当初想定した時価より低くなるケースが多いです。

廃業のための現金化ということにより、資産の買い手に足元をみられたりすることもあるからでしょう。

 

逆に、負債の支払いは、決算書や帳簿に記載されている金額より増加することが多いです。

例えば、従業員の退職金については、税法が退職債務の損金計上を認めていないことから、決算書に計上されていないことが少なくありません。

また、従業員は会社都合の退職となりますので、自己都合退職と比して、退職金の負担が増加します。

 

一方、株式譲渡の場合は、資産は時価で評価しますが、廃業のように足元を見られることもないことから、廃業処分価額より高い評価となることが多いです。

先ほどの従業員退職金は、会社都合で支払う必要なくなること等から、負債も廃業の場合の評価より低くなるのが一般的です。

 

税金については、廃業の場合、一般的に帳簿等に記載された資産負債通りあるいは、下回る場合税金負担は発生しません。

株式譲渡の場合は、売却益(株式売却額―取得価額 ×約20%)のみですので、税金負担は多くありません。

 

税金面だけをとらえると、廃業の場合の方が負担は少ないですが、これは、収支がトントンあるいは損失が発生するからです。

買い手が事業価値を認めれば、営業権が株式譲渡価額に加算される場合があり、さらに手取り額が加算 されます。

株式譲渡をした場合の手取額は、廃業をした場合の手取額の2倍以上というケースも少なくありません。

廃業とM&Aの手取り額を比較してみる

例えば、総資産10億(内訳 現預金3億、 売掛債権3億、 在庫2億、 有形固定資産1億、特許権1億)、負債8億(買掛金4億 、未払金4億)、純資産2億(内出資額である資本金は1億)といった場合の会社の例です。

 

廃業検討した段階では、総資産10億のうち、収入は現金3億、売掛債権回収3億、在庫処分2億、固定資産売却収入1億の合計9億、支払は買掛金4億、未払金4億、退職金1億の合計9億で差引の手取り額はゼロの見込みでした。

 

株式譲渡の場合、所有している特許権等が買い手の今後の事業展開にとって魅力的であることから、3億円で譲渡が成立しました。

手取り額は
①譲渡価額 3億円
②税額負担(株式譲渡価額3億円―株式取得価額1億円)×20%=4千万円

①-②=2億6千万円 となりました。

まずは、赤字企業であっても、廃業ではなく、M&A による株式譲渡を選択していくほうがいいでしょう。

M&Aを成功するための7つの準備

株式譲渡するには、買い手を見つけなければいけません。

そのためには、買い手にとって魅力ある企業でなければなりません。

買い手には、現時点で黒字でなくても、今後、自社の事業展開にとって必要であると認識させるようにする必要があります。

また、M&A を行いやすい環境にしておくことも必要であります。

そのためには、下記のことに留意して準備する必要があります。

 

① 株主数を減らし、M&A に賛成する株主だけにしておくこと

反対株主からの株式買取しておくことが望まれます。困難な場合は株式併合により、少数株主を1株未満にしてしまい、これを強制的に買い取るという方法等もあります。

少数株主権利をないがしろに進めると、訴訟になることもありますので、ご留意ください。

 

② 社長がいなくても安定的に経営ができるできる体制にしておくこと

買い手にとって、社長の影響が強すぎますと、株式譲渡受け、社長が引退等で去った場合は、運営できるのかという不安を与えてしまいます。

 

③ 従業員の平均年齢を下げて、バランスの良い人口ピラミッドにしておくこと

買い手によっては、永続的に発展していくことを前提にしています。それゆえ、長期的観点からの人員構成にしておく必要があります。

 

④ 不良資産は処理し、遊休資産は処分し、シンプルな財務内容にしておくこと

不良資産や遊休資産は、財務内容を悪化させる要因であり、売却価額に影響を与えます。

また、これらが存在していると、他にも財務悪化要因があるのではないかと疑義をもたれて、交渉に時間を要することもあります。

 

⑤ 将来の役員候補を育てておくこと

 ③(従業員の平均年齢を下げて、バランスの良い人口ピラミッドにしておくこと)と同様ですが、社長の引退後、経営陣が育っており、長期的に発展できる状況であるという体制にしておく必要があります。

 

⑥ 従業員や取引先との紛争は解決しておくこと

訴訟があると、買い手は、訴訟の結果が、会社運営にどのような影響を与えるか見定めたいということになるでしょう。

それゆえ、株式譲渡交渉が進まなくなることもありえます。

 

⑦ 特許権等の無形固定資産取得できるのであれば取得しておくこと

特許取得できる状況であるが、取得しても活用できない見込みであるから、申請しないというケースもありますが、買い手にとっては、魅力的に映る場合がありますので、取得しておくことが適切です。

 

会社の後継者いない場合、廃業を意識するよりは、株式譲渡が、経営者にとっては有利です。

そのためには、株式譲渡が容易に行いやすい体制を確立しておく必要がありますので、一度、専門家に相談することをおすすめします。

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