種類株と事業承継補助金を活用したスモールM&A


中小企業M&Aにおいて、「会社を譲渡する」にも、オーナー経営者と承継者の間には、細かな条件の食い違いが出てくるかもしれません。

このようなとき、「種類株」を活用し、諸々の条件を設定することで問題解決できますので、今回は、「種類株とM&A」について解説していきます。

M&A専門家プロフィール 執筆者 伊村 睦男 

 

近江大坂屋(天明4年・1784年創業)代表

神戸大学経営学部(証券市場論専攻)卒業

学生時代「東淀川ラグビースクール」を創設、三菱電機の学生ブレインとして活動した。

卒業後、三菱商事(株)水産部でサーモン事業の投融資に従事。業界では「天然アラスカサーモンを知る最後の商社マン」として知られ、ノルウェーやチリ産のサーモン寿司を日本に普及させた。

その後、ベンチャー企業役員、米国・穀物メジャーのセールスマネージャー、世界最大のメディカル&セキュリティーアシスタンス会社のビジネスディベロップメントマネージャー、コミュニティビジネスNPO法人等に勤務後、経営コンサルタントとして独立。

コンサルタントとして20年間活動しており、中小企業対策関連制度を活用したM&A による事業承継や、一般企業のアグリビジネス進出、ベンチャー企業の支援、フードツーリズムによる地域活性化、マスコミ関係の社外ブレイン等を務める。

国内外に幅広いネットワークを持ち、創業当初の楽天市場の出店者向けの講師を務めるなどネットビジネスにも精通しており、クライアントは大手企業から小規模事業者と多岐にわたる。社会貢献度の高いビジネスのサポートを得意としており、モットーは「cool head but warm heart」

経済産業省・認定支援機関、中小企業診断士、6次産業化プランナー、コミュニティビジネス・コーディネーター、関西SDGsプラットフォーム正会員

 

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中小企業の後継者不足が大きな社会問題となっています。

 

中小企業の経営者の高齢化が進み、2025年までに、70歳以上となる中小企業の経営者は245万人になり、うち約半数の127万社(日本企業全体の1/3)が後継者未定。

 

この状況が続けば2025年までに650万人の雇用、約22兆円のGDPの損失の可能性があり、特に地方における雇事業承継問題は深刻です。

 

国としてもこの問題を重視しており、様々な施作を打ち出していますが、経営者の子供や親族以外の「第三者」によるM&Aを使った事業承継のサポートを強化しています。

 

また、コロナウィルスによる景気後退で、事業承継問題はさらに深刻化を増し、これまでの優良企業すら経営の舵取りが難しくなる中で、意欲のある経営者の間では「次の一手」としてM&Aに注目がさらに集まることが予想されます。

 

ここでは、同業他社の吸収・合併によるビジネス拡大や新事業の開始、創業希望者の開業の手段として「種類株式」を使ったスモールM&Aの可能性について考えてみたいと思います。

事業承継とは?

経営資源には「ヒト」「モノ」「カネ」「チエ」という4つの要素があります。

そして、事業承継をする際にポイントなるのは、次の3つです。

 

1「モノ」「カネ」の後継者への承継(物的事業承継)

2「ヒト」の後継者への承継(人的事業承継)

3「チエ」の後継者への承継(知的事業承継)

 

この4つの経営資源を、3つの視点からスムーズに後継者に引き継ぐことが事業承継の大きなテーマです。

 

それぞれの対策を総合的に機能させることで、後継者へ事業をスムーズに承継させることができます。

 

「モノ」「カネ」の「物的事業承継」とは、現経営者が所有している会社の株式や、会社が利用する土地・建物、設備、運転資金といった財産の承継を指します。

 

特に会社の株式、いわゆる自社株式を後継者に引き継ぐことは事業承継の要ともいえます

 

取引相場のない中小企業の株式は、税務上、一定の評価方法が定められており、他者に承継させるときはこの評価額に応じて課税されます。

 

この時に後継者が負担することになる相続税や贈与税が事業承継の制約になるケースが多く見られます。

 

自社株式を抱えたまま相続が発生した場合、相続人(後継者)はその高額な評価に相続税が課税され、評価額に見合った現金がないことで納税できないという問題も起こり得ます。

 

このような事態を避けるためにも「種類株式」をうまく利用して、事業承継を促進させる必要があると考えます。

「株式の承継」とは?

「株式を承継する」ということは、事業を引き継ぐ者が「法的」にも経営権を掌握できることを意味します。

 

例えば、事業承継時に関係者の間で、「後継ぎ以外は会社の経営には関与しない」など、事業承継に関して円満に合意していたとしても、状況の変化や代替わりによって合意が破られ、経営権を行使する可能性は大いにありますが、それは株主としての正当な権利です。

 

後継ぎ以外の株主たちが、ずっと経営権を行使しないでいてくれると期待するよりは、手間やお金がかかっても、あらかじめ法的に経営権を行使できないように整えておくべきだといえます。

 

特に同族企業では、株式の承継をしっかり行うことは「相続」時に「争族」を避ける手段でもあります。

 

そもそも、株式には「議決権」「財産権」という2つの側面があります。

 

事業承継のケースによっては、この2つを切り離して承継させる必要が出てきます。このとき活用できる手段の一つが「種類株式」です。

種類株式とは?

種類株式は、もともとアメリカで誕生した資金調達の方法で、FacebookやGoogleの親会社のアルファベットが種類株式発行会社として知られています。

 

通常発行される「普通株」とは「他の(違う)種類」の株式(classified stock)のことです。

 

「普通株」(common stock)は、株主に対して与えられる権利内容について何ら制約のない株で、株主は自らが保有する株数に応じて、原則的には同一の権利を所有します。

日本では2004年4月に施行された商法改正によって、例外として企業は一定の条件により権利内容の異なる株式(=種類株式)を発行することが認められました。

 

この背景には、1990年代後半の銀行の不良債権による金融危機問題があり、政府による「公的資金導入」の手段として「種類株式」が使われたことがあります(形式は「株式」、実質は「債権」として政府が資金を投入した)。

 

現在、発行が認められている種類株式は9タイプあります。

 

株式には「株主平等の原則」があり、各株主は保有する株式数に応じた平等な権利行使が認められており、「普通株式」は1株につき1つの議決権を持ち、配当や残余財産は「1株当たり〇〇円」という形で支払われるのが原則です。

 

ただし会社法第108条において、この「株主平等の原則」の例外として、次の9つの種類株式を発行することが認められるようになりました。

 

① 配当優先(劣後)株式

普通株式より優先(劣後)して配当を受け取ることができる株式

 

② 残余財産分配優先(劣後)株式

会社清算時の残余財産の分配について普通株式よりも優先的(劣後的)に受けることができる株式

 

③ 議決権制限株式

株主総会で一部または全部の内容について議決権を行使することができない株式

 

④ 譲渡制限株式

株式会社が株主の発行株式の一部または全部の株式の譲渡を制限できる株式

 

⑤ 取得請求権付株式

株主に株式を会社に取得させることができる権利を持った株式

 

⑥ 取得条項付株式

株式会社が株主から株式を取得できる権利を持った株式

 

⑦ 全部取得条項付株式

株主総会の特別決議により会社が、ある種類株式の全てを取得できる権利を持つ株式

 

⑧ 拒否権付株式(黄金株)

あらかじめ定めた事項について株主総会の決議の他に、この株式の株主による種類株主総会の決議を必要とする株式

 

⑨ 役員選解任権付株式

取締役または監査役を選任・解任する権利をもった株式

事業承継における種類株式の活用とは?

自社株式を後継者に承継させる際、その株式が持つ権利を調整する手段として、議決権や配当等を普通株式とは異なる株式である「種類株式」を活用し、ある株式は配当を多く(少なく)もらえる、ある株式は議決権を行使できる(制限される)など、株式間で差をつけることができるようになります。

 

そして、この9種類を複合的に組み合わせることにより、

 

後継者のみに議決権を集中させる

 

先代経営者によるモニタリング期間を置く

 

少数株主を排除する」等

 

より実用的な種類株式を設計することもできます。

 

種類株式発行の手続き

 

新たに種類株式を発行するためには、まず普通株式とは異なる定めを置く事項について定款変更の「特別決議」を行い、「種類株式発行会社」となる必要があります。

また、種類株式の内容に応じて、会社法で定められた事項についても定款で定めます。

 

例えば、配当優先株を発行する場合であれば、この種類株式の株主へ配当する際の条件などを決める必要があります。

 

ただし、はじめから定款に詳細な事項を定めておく必要はなく、概要だけを定款で定めておき、詳細についてはその種類株式を初めて発行する時までに、株主総会の決議で定めることも可能です。

 

種類株式の活用にあたっての留意点

 

種類株式はむやみに発行すると、かえって会社の経営を混乱させてしまうこともあります。

 

発行の要否については利害関係者を交え慎重に検討すべきでしょう。

 

また、一部の種類株式以外は実際の運用に当たり、法整備がなされていなかったり、税務上の取り扱いが明確に定められていないので、種類株式に精通した弁護士や会計士、税理士、M&Aコンサルタントに相談すべきだと考えます。

事業承継補助金の活用

経済産業省・中小企業庁は2019年12月に「第三者承継支援パッケージ」という政策を打ち出し、第三者による中小企業のM&Aを本格的に支援する方針を明確にしました。

特に「事業承継補助金」を活用したスモールM&Aは、最大で補助金が1200万円でる制度です。

 

中小企業や個人商店のM&Aに活用できるだけではなく、条件はありますが、創業希望者が事業承継によるビジネスの立上げや、法人が農業生産法人や農家の事業承継を行い、「農地のリース方式」を組合せることで、アグリビジネスへの足掛かりにも利用できます。

 

スモールM&Aは、事業の売手と買手の双方のニーズはありますが、両者のマッチングをする仕組や機関がないのが課題とされており、マッチングの円滑化を図り、マッチング後の支援の拡充が望まれています。

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