『中小M&A』営業利益の簿価と実質数値がもたらす差とは


M&A専門家プロフィール 執筆者 中沢光昭

㈱リヴァイタライゼーション代表、企業再生をメインとした経営コンサルタント

経営者としても含めて破綻会社や業績低迷企業の再建・変革実績を多数持つ。また、高齢化に伴う第三者への事業承継の受け手として保有・運営

東京大学大学院工学系研究科修了

著書に『経営計画はなぜうまくいかないのか?』『会社員が一生モノの“実のある仕事”を創る方法(β版): 事業承継問題を抱える会社を個人で引き継ぐ』『事業承継による、中小企業を売却するときの基本の「き」: 最初で最後の会社の売却を、後悔なきものにするために』(Kindle)などがある。

わかりやすい中小企業M&Aストーリー『M&Aの流儀』コラム執筆。

投資ファンドの会社員として大~中規模のM&Aに接していた頃にはほとんど見かけなかった考え方ですが、中小企業のM&Aにおいては、「実質(実態)営業利益」という言葉を頻繁に見かけます。

(大~中規模のM&Aで登場する正常収益力という言葉とは異なるものです)

M&Aの流儀~第2話~』のコラムでは売却前に利益を底上げしておくか、あるいは内容を説明できるようにしておくことがポイントと記載していますが、その後者に関係することです。

「実質」の中身は要確認

著者はあまりこの言葉は好きではありません。

なぜならば、違う定義で使われていることが多いため、ともすると収益力という最も重要な点を誤って捉えてしまうことがありますし、「実態」を表しているものともあまり思えないからです。

 

 例えば以前見た例では、

 

実質営業利益は1000万円になります。事業譲渡で負債も引き取りを要求しませんので、その5倍、5000万円を売却希望額としています

 

というM&A仲介会社からの紹介の譲渡事業(会社)がありました。

 

簿価上の営業利益は200万円弱であり、実質営業利益との差は、約800万円。

 

 そこで、その「実質」の決め方について尋ねてみると、

 

①「役員報酬はいま取りすぎているので(全額)抜いています」

②「家賃はいまはオフィスを借りていますが、5人もいないのでどこかに間借りできるでしょう」

 

さらに、

 

③「他の事業と兼務している社員が何名かいますが、その人たちは今後は事業に関わりません」

 

ということでした。

 

どうやら、このM&A仲介会社は、上記の役員報酬(全額)、家賃、一部社員の給与等の費用を差し引いた営業利益1,000万円を「実質営業利益」と呼んでいるようです。

 

 それに対して、さらに著者がM&Aコンサルタントに質問をしてみました。

 

M&Aコンサルタント 「役員報酬はいま取りすぎているので(全額)抜いています」

著者「誰かが管理者をやるわけですから、その人件費はどうカバーされるのでしょうか?」

 

M&Aコンサルタント「家賃はいまはオフィスを借りていますが、5人もいないのでどこかに間借りできるでしょう」

著者「間借りの当てがない場合ほうが普通だと思いますが、そうした場合に家賃は普通にかかりますよね?」

 

M&Aコンサルタント「他の事業と兼務している社員が何名かいますが、その人たちは今後は事業に関わりません」

著者「兼務の方々が現在行っている仕事は誰かがやらなければならないので、既存専任の5人でできるのでしょうか? できなかったら1-2人の追加人件費負担が発生するということですよね?」

 

このように著者が尋ねると、M&Aコンサルタントは、もごもごと口ごもっていました。

 

結局そうした普通にかかる費用を考えると

 

「赤字になろうとも、ブランド価値を認めてもらって5000万円で買って欲しい」

 

という解説はありませんでしたが、私としては捉えました。

 

 それでもその価値を認める会社・人はいるかもしれませんので、希望することが的外れとは言いません。

ただ、最初からブランド価値一本で伝えているほうが、会社及び仲介会社の評判を落とさないのではないかとは思いました。

役員報酬で取るか、売却額で取るか

少し極端な例を出しましたが、同じような話はほぼ毎回ついて回ります。

最も多いのは、役員報酬の設定を実績から割り戻して試算してくださいという話です。

例えば、いま現在オーナー社長は報酬を2500万円取っているが、1000万円の人で十分切り盛りできるので、実際の利益はもう1500万円上振れさせて計算してくださいということなどです。

 

 その主張は間違ってはいないと思いますが、売る側、買う側として見た時にはどっちがいいのだろうか?と考えることはよくあります。

 上記の例で言えば、売却を少し前もって考えていたとするならば、報酬を1000万円に下げておくということを検討すべきでもありました。

会社に利益が1500万円上振れて、法人税を引かれた残りの現金が会社に貯まります。

貯蓄型の節税保険などに入っておけば払う税金を圧縮して現金ではなく別の形で流動資産として残せます。

1500万円分を個人で受け取った場合の所得税などで引かれて手元に残る分よりは多いでしょう。

 

 会社に貯めた現金・流動資産のその分は、売却する際に売却額に上乗せさせてもらうか、あるいは退職慰労金としてまとめてオーナー個人の手元に入れることができます。

もちろんその時には退職慰労金や売却益に対して税金がかかります。

 

 売却しようと考えてから何年経たせるかによってその経済的なインパクトも増えていきますが、金額的にどうした方が得かは本当に検討される場合に税理士に相談した方が良いでしょう。

 

 また損益と資産を改善させることで取引条件を自社にとって有利な内容に変えてもらえることができるかもしれません。

 そうした対応をすればもっと損益を改善させたり、現金を貯めたりもできるかもしれません。

 

 損益を100万円上げれば、売却額はその数倍上がります。

 

もう1つ考慮すべきは、報酬として受け取らずに会社に残しておくと、売却時の取引額がその分大きくなることです。

 

取引額が大きくなるほど、買える候補の相手の数は減っていきます。

 

しかし、その分のお金を払えるだけの良い筋のいい会社が相手になる可能性が高くなります(お金を持っている会社が信用できたり決断を思い切る会社であるとは一概には言えませんが…)。

 

そうした相手の場合、「~したら利益はもっと上振れるはずなので、その前提で試算してください」と言われるよりも、なるべく実際の財務数字を使って試算できる方が社内での検討が進みやすいという側面があります。

 

また、仲介会社にとっては取引額が高くなればそのまま手数料にも反映されていきますので、力も入れてくれるということがあります。

 

 もちろん、毎年の報酬をたくさん取ることの魅力は言うまでもありません。

 

ただ、売却を考え始めた場合には、どうやって最終的に自分の手元に入れるかをオーナー社長はよく考えた方が良いポイントになります。

中沢 光昭

2020年5月現在、業種の譲受けを検討しております。

譲受けを検討している業種はこちら  のページ末尾に記載しております。

著書に『経営計画はなぜうまくいかないのか?』『会社員が一生モノの“実のある仕事”を創る方法(β版): 事業承継問題を抱える会社を個人で引き継ぐ』『事業承継による、中小企業を売却するときの基本の「き」: 最初で最後の会社の売却を、後悔なきものにするために』(Kindle)などがある。

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