合併による事業の買収、承継を行う際の税務・会計面における留意点


事業の買収、承継に際しての合併の利用

事業の買収、承継にあたっては、対象事業の事業譲渡や対象法人の株式取得などの方法が考えられます。

 

また、既存事業との統合や、買収コストの対象事業への付け替えなどを企図して、対象法人と自社又は自社グループ法人との合併を検討するケースもあります。

 

● 合併とは

合併にあたっては、被合併法人から合併法人へ、その資産負債及び権利義務の包括的な承継が行われることとなります。

税務上は原則として資産が時価で譲渡されたものとして、その譲渡資産に含み益がある場合には、その含み益に法人税が課されることとなります。

 

一方で、税務上の一定の要件を満たすことにより、適格合併として、含み益のある資産も帳簿価格で合併法人に引き継がれることとなり、含み益に対する課税を回避することが可能です。

 

● 適格合併とは

100%の親子関係などの完全支配関係のある法人間での合併では、

(1)完全支配関係があること

(2)合併に際して株式以外の金銭等の交付がないこと

といった要件(法人税法2、一二の八、イ)を満たせば適格合併となります。

このように100%の株式を取得した後の適格合併の要件は比較的容易なことから、適格合併の要件の充足をさほど気にすることはないでしょう。

 

繰越欠損金の利用、引継

100%の親子間での合併では、含み益に対する課税は上記の通り、あまり問題にはならないものの、税務上の繰越欠損金がある場合には、その利用、引継に留意が必要だということをご存じの方も多いと思います。

 

合併法人、又は被合併法人に税務上の繰越欠損金がある場合に、合併後にその繰越欠損金を合併法人において引き続き利用、又は、被合併法人の繰越欠損金を合併法人に引き継ぐためには、税務上一定の要件を満たす必要があります。

 

100%の株式を取得した後に合併をする際の繰越欠損金の利用、引継の要件は以下の通りです(法人税法57、③)。

☑ 株式の取得から5年経過後の合併であれば繰越欠損金の利用、引継が可能。

 

☑ 株式の取得から5年経過以前の合併:以下の①から③の全て、又は、①と④。 

 

① 事業関連性   :合併法人と被合併法人の事業が相互に関連していること。

② 事業規模    :合併法人と被合併法人の売上、従業者数、資本金等の規模が5倍を超えないこと。

③ 事業規模継続  :株式の取得時から合併の時までそれぞれの事業が継続しており、②のそれぞれの指標の規模の変動が2倍を超えないこと。

④ 特定役員引継  :合併法人と被合併法人の株式取得前のそれぞれの一定の役員が合併後も一定の役員となること。

 

この繰越欠損金の利用、引継制限は、繰越欠損金の利用のみを目的とした合併について制限をかけることを目的としているため、同業他社の買収などの事業会社同士の合併では、さほど難しい要件ではないと思われます。

 

一方、対象法人の取得に際して、様々なビジネスリーズンにより持株会社や買収のためのSPC(特定目的会社)を設立し、その後合併するケースも散見されます。

 

当該持株会社、買収SPCは、対象法人と買収後に比較的短期間で合併し、買収サイドが直接対象法人の株式を取得するのと結果として変わらないため、繰越欠損金の利用、引継の可否をあまり検討していないケースも見受けられるところです。

 

繰越欠損金の利用、引継に際しては、まず要件の①の事業関連性を満たす必要があります。

 

当該持株会社、買収SPCが買収のためだけのヴィークルである場合には、そもそも、事業の実体性に疑義が生じる可能性があります。

 

事務所、従業者、販売等があることが事業関連性の判断にあたっての前提条件(法人税法施行規則3)となることから、買収のために設立された法人などはこの事業関連性を満たすことができない可能性があります。

 

持株会社や買収SPCを利用する場合には、従業者、オフィスを備えたうえで、被買収法人の事業との関連性のあるビジネスを行っていることが①の要件の前提になるかと思います。

 

そのうえで、②事業規模及び③事業規模継続、又は④特定役員引継といった要件を検討することになります。

 

なお、繰越欠損金の制限に加えて、含み損の利用を制限する規定(法人税法62の7)もあり、実際の買収の検討にあたっては留意が必要です。

逆さ合併

買収後の合併に関しては、被買収法人の事業が許認可事業である場合などには、合併後の事業の円滑な運営などの目的から、被買収法人(子会社)を存続法人とする逆さ合併もオプションの一つになるのかと思います。

 

税務上の適格合併の判定や繰越欠損金の利用、引継に関しては、親会社が存続法人となる純合併でも、子会社が存続法人となる逆さ合併でも、違いは生じません。

 

一方、会計面では、逆さ合併に関しては留意が必要です

 

逆さ合併では、子会社は親会社の資産負債を合併直前の帳簿価額により受け入れます(仕訳1)。

 

 

一方、受け入れた子会社株式は自己株式に振り替えることとなります(仕訳2)(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針210)。

通常、持株会社、買収SPCが取得する子会社株式は買収時点での時価や、将来収益を反映した価格であるため、子会社の帳簿上の純資産を大きく超えた金額となることも珍しくありません。

 

仮にそうであると、逆さ合併により受け入れた自己株式は被買収法人の純資産から控除されることとなるため、被買収法人の資本の部はマイナスとなる結果となります。

 

例として、被買収法人の買収時の時価が簿価の10倍であったケースを下記に示します(被買収法人合併後BS)

合併後の純資産がマイナスとなる場合には、取引関係先や金融機関から問題視される可能性があります。

また、許認可等の観点からも問題となるケースもあるかもしれません。

マイナスの純資産を回避するためには、買収前の持株会社、買収SPCの資本の増強、合併後の増資、または買収の手段を変更するなどの対応が考えられます。

いずれにしても、合併後の財務諸表がどのような結果となるのかを事前に検討しておく必要があるかと思います。

組織再編の包括否認規定

合併をM&A、事業承継の手段として利用する場合には、なぜ直接対象会社を取得しないのか、なぜ資産譲渡ではないのか等、そもそも合併を使う合理的な理由が十分に説明可能であることが税務上求められます。

仮に合併が、税のメリットを得るためだけの目的で利用されたと税務当局からみなされた場合、組織再編の包括否認規定(法人税法132の2)により、その合併により得た税務メリットが否認される恐れがあることに留意が必要です。

まとめ

冒頭にも記載した通り、合併によるM&A、事業の買収はメリットも多い反面、今回お伝えした内容以外にも税務会計面で想定外の問題が生じるケースもあります。

M&Aに際しては、事前に税理士等の専門家とともに、その手段、税務上の影響などについても検討されることをお勧めします。

M&A専門家プロフィール 執筆者 海老原 英征

 

海老原国際税務会計事務所 代表税理士|認定経営革新等支援機関|E's Consulting株式会社代表取締役

BIG4系税理士法人にて国際税務及び組織再編税務業務に従事。2010年から2012年までジャパンタックスデスクとしてErnst & Young LLP ニューヨークオフィスに赴任し、現地外国法人に対する日本への投資、進出に関する税務アドバイザリー業務を担当。

外資系保険会社での税務マネジャー、外資系不動産投資ファンドでの税務会計アドバイザー及び外資系製薬会社における税務部長など、インダストリーにおける実務も経験。

​事業会社においては日々のオペレーション、M&A、税務調査、移転価格に関する事前確認 (APA)、相互協議 (MAP) 及び不服審判所での税務当局との協議などに従事。

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