『M&Aの流儀』~理想的の相手を幅広く探す~第8話


第8話

『M&Aの流儀』

M&A専門家プロフィール 執筆者 中沢光昭

㈱リヴァイタライゼーション代表、企業再生をメインとした経営コンサルタント

経営者としても含めて破綻会社や業績低迷企業の再建・変革実績を多数持つ。また、高齢化に伴う第三者への事業承継の受け手として保有・運営

東京大学大学院工学系研究科修了

著書に『経営計画はなぜうまくいかないのか?』『会社員が一生モノの“実のある仕事”を創る方法(β版): 事業承継問題を抱える会社を個人で引き継ぐ』『事業承継による、中小企業を売却するときの基本の「き」: 最初で最後の会社の売却を、後悔なきものにするために』(Kindle)などがある。

売った後のことを考えれば価値も上がる

創業された方であれば、我が子のように会社は可愛いでしょう。

では、どんな相手だったら嫁ぎ先として良いかと思いを馳せた時に、自分の感情は言われなくても考える人は多いですが、従業員の感情も考えて決めることも忘れないほうが宜しいでしょう

買い手は口には出しませんが、株を手放す人の感情よりも、残る従業員が今と同等、それ以上に頑張ってくれそうかどうかの方がはるかに重要だからです。

そのため、従業員にとってモチベーションが上がりやすい形になれば、買い手側も安心できますので、最終的に価格に反映されるとも捉えられます。

 

取引成立に重きを置くM&A仲介会社では、同業他社を中心に引き受け手を探しがちです。

ところが実際は、同業者が高く評価するとも限らないものです。

むしろ、該当する事業・産業に参入したいと思っている周辺業界の方が、高く評価することが多いというのが著者の感覚です。

特に、顧客をしっかりと持っていたり、自社ブランドの製品やサービスをもっていたり、良い立地や従業員の店舗を持っていたりといった条件があるとなおさらです。

 

通常規模の大きい会社の場合の相手探しは、とりあえず関心を示してくれそうな相手のロングリスト(とりあえず少しでも可能性がありそうな思いつく買い手を全て羅列する)をM&A仲介会社が用意します。

そこから諸々の条件を勘案したり少し打診してみたりしたその感触をもとにスクリーニングをかけていき、絞ったショートリストに載っている相手に個別にコンタクトしていってもらいます。

ところが中小規模の会社の場合ではそこまでは丁寧に行わず、仲介会社同士のネットワークで概要情報を共有して、関心を示しそうなところを募るケースが多いです。

最近では不動産業界で言うところのレインズを目指すべく、M&Aを希望する中小企業や事業のデータベースがいくつか立ち上がってきて急速に盛り上がっています。

しかし、仲介会社同士のウェットなネットワークでのやり取りの方が依然として多いのが現状です。(少し先の未来においてはわかりません)

そうしますと、たまたまその情報を受け取った仲介会社の担当者の頭に、(さらに)たまたま買い手候補が浮かんでくれたかどうかという、偶然や人の資質にも振り回されてしまうことになります。

M&A仲介会社をリードする

そこでお薦めなのは、仲介会社から情報を回してもらう前に、売り手が自分からリードすることです。

「●●の業種・業態の会社なら関心持ってもらうに違いない」などを当たりをつけておけば、受け取る仲介会社の方でも担当者の質にあまり作用されずに、

「そっか、そういう会社だと、自分たちのネットワークのところに**があったなあ」と、考えやすくなります。

その際に、相手にとって魅力的でわかりやすい自社の特徴を示せるといいでしょう。

自分たちは健康食品の販売を通じて高齢者への販売力や顧客基盤があるから、高齢者相手のサービスに参入したいとか、既に扱っている会社がいい」などです。

 

ここでなかなかそのキャッチフレーズが浮かばないようであると、本質的にそもそも価値を見出してもらいにくく、苦戦することが予想されることでもあります…。

高値売却の先にあるもの

オーナーにとってみれば、売却しようと決めたからには、高く買い取ってくれるところが良い相手でしょう。

自社の持つ事業基盤に独自性や競争力があったりすると、事前に予想つかなかったレベルで高値がつくこともあります。

また、それだけではなく、例えばたまたま売却交渉の相手になっている大きい会社のM&A担当の幹部が、まだ採用されたばかりで自分の社内でのわかりやすいアピールのために「どうしても実績が欲しい」と思っていた場合に一段高い金額でまとめにかかったりするような偶然もあります。

「そんなことあるのか? 大事な会社のカネなのに」と思うかもしれませんが、実際にそれっぽい事例はよく聞きます。

 

 ただ、買い取られて残された会社・社員は結構その後は大変です。

新しいオーナーである親会社からは、「いいカネ出して買ったんだから」という理由で毎年ぎちぎちと追い立てられがちになります。

実績が計画に(高値に見合うほど早く)追いついていないと判断されると親会社からローテーションで落下傘幹部が降ってきて、わけのわからないことを怒鳴り散らしたりするといった話もよく聞きます。

 どうして怒鳴り散らすかわかるでしょうか?

 落下傘された親会社からの幹部にとってみれば、親会社に帰る手土産が出世のためには必要になります。

だからといって事業をじっくり理解して頑張る人もいれば、怒鳴ることでスタッフがよく動き、一時的に良い結果が出たりすることがあるために、その方が簡単だと捉えてしまう人もいるからです。

 

 一方で、自社と同レベルであったりする中小企業の場合は、売却金額は高いものは出ませんが、その後のオペレーションにおいては独自性が尊重されたりもします。

社員の精神状態は健全なものになりがちではあります。

 

 「もう関係なくなってしまうから、次のことに使うお金が少しでもたくさん欲しい」と割り切れるのであれば前者の方がハッピーでしょうし、

「やはり愛着があるし、社員は今後も大事にしたいから」というのであれば、後者の方でしょう。

ただしいずれにせよ、業績をしっかりとしておいて、売却しやすいように自社の中身の透明性を確保しておいた方が、仲介会社をきちんと選んでおいた方が、じっくり相手を選べますし、優位に交渉できます。

中沢 光昭

2020年5月現在、業種の譲受けを検討しております。

譲受けを検討している業種はこちら  のページ末尾に記載しております。

著書に『経営計画はなぜうまくいかないのか?』『会社員が一生モノの“実のある仕事”を創る方法(β版): 事業承継問題を抱える会社を個人で引き継ぐ』『事業承継による、中小企業を売却するときの基本の「き」: 最初で最後の会社の売却を、後悔なきものにするために』(Kindle)などがある。

第8話

『M&Aの流儀』

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