『M&Aの流儀』~仲介会社なくしては成り立たないM&A~第6話


第6話

『M&Aの流儀』

M&A専門家プロフィール 執筆者 中沢光昭

㈱リヴァイタライゼーション代表、企業再生をメインとした経営コンサルタント

経営者としても含めて破綻会社や業績低迷企業の再建・変革実績を多数持つ。また、高齢化に伴う第三者への事業承継の受け手として保有・運営

東京大学大学院工学系研究科修了

著書に『経営計画はなぜうまくいかないのか?』『会社員が一生モノの“実のある仕事”を創る方法(β版): 事業承継問題を抱える会社を個人で引き継ぐ』『事業承継による、中小企業を売却するときの基本の「き」: 最初で最後の会社の売却を、後悔なきものにするために』(Kindle)などがある。

M&A仲介会社は増加中

統計があるわけではありませんが、昨今の事業承継ニーズを受けて、M&Aの仲介会社、特に中小規模の会社は年々増えています。

M&Aについて日本ではそんなに歴史が長いわけではありませんが、ニーズの増加に伴って毎年経験者が増えていきますので、需要も供給も盛り上がっている状況です。

買い手が複数のM&Aの経験を持つことはよくありますが、売り手が経験を持つことは極めてまれなので、売り手が数多の仲介会社の比較をすることは困難です。

「言われてみれば特に他と比較したことはないけれど、恐らく良い仲介会社だろう」と思いながらM&Aが成立するような状況は、ままあることが推測されます。

途中まで話が進んだ後に何らかの理由で疑問に思い、仲介者に相談してもどこか腑に落ちなかったとしても、

「やっぱり、仲介会社を変えてやり直そう」という判断にはなりにくいでしょう。

それまで共有した情報を、また別の相手とゼロから始めるのは相当なモチベーションと時間が必要になります。

仲介会社はたくさんの人に会って説明の論理性や心象なども含めて決めるのがいいのでしょうが、忙しい中小企業の経営者にそんな時間を確保する余裕はないでしょう。

会社によっては某かの事情で「待ったなし」の状況に陥っており、時間に余裕がないこともあります。

本来のM&A仲介会社の役割と実態

仲介会社の役割としては、売却する相手先である買い手を探すことよりも前に、売却を希望する会社の情報を一式とりまとめること、さらに前にはその会社をよく理解することにあります。

 そのため、工場があればじっくり見て、店舗であればどんな客層かを見て、製品やサービスにどんな特徴があるかを把握して、財務内容を理解して……と、かなり手間をかけて調べて分析し、買い手候補に対してどうやったら魅力的に見えるのか、一緒に知恵を絞って考えるというのが本来の姿です。

 ところが、著者自身が売上2兆円企業にいたこともあれば売上4000万円の会社を買ったこともありますのでわかりますが、会社を理解するために要する時間は、企業規模に比例するわけでもありません。

企業規模が100倍違ったところで、理解するのに要する時間は100対1ではなく、5-10対1くらいです。

つまり手続きに対して対価を得る業態上、規模が大きい会社を扱うほど時間の投資対効果は大きくなります

同じようなことをやっていても一方は報酬5000万円、もう一方が500万円であれば、前者の取引に注力するのはごく当然のことでしょう。

あまり企業規模が小さい会社に対して時間を使っていると効率が悪いから避けようという思考回路になってしまいます。

 かといって、中小企業でのニーズは高まっていく一方でもありますし、適当なことをやって悪評が立ったらその後の仕事に差し支えがあります。

そのため、なるべく業務を定型化していくことになります。

落としどころを探れるかどうかが仲介会社の付加価値

定型化というのは、極端に言えば、決まった情報を切り取って見せて、決まったように相手を探して、決まったように交渉のテーブルに乗ってもらって、決まったように株式を譲渡してもらうことを目指すということです。

それが悪いとは思いません。

生きていくために苦労して作られて行った形であるのだと思います。

ですが本来は極端に言えば、M&Aの数だけ成立する形の数があってもおかしくありません。

もうひとひねりすれば譲渡取引が成立するという場面で、双方納得ができるような形式をカスタマイズして提案できるスキーム(取引形態)を提案できるのが良い仲介会社であり担当者なのだと思います

悪い会社ですと「ご縁がなかったんですね。次探しましょう」となってしまいます。

ただ、定型化されたモデルがあるM&A仲介会社に転職したM&A仲介会社の担当者の場合、カスタマイズしないのではなくて、「できない」という問題があります。

そのため、仲介会社を選ぶのは重要なポイントとなります。

特定のM&A仲介会社に依存するリスク

中小企業のM&Aの成否は実態として、相当に仲介会社それぞれの担当者の力量や良心に大きく委ねられてしまう側面があります。

ともすれば、案件を早く成立させたいがために、クライアントの利益を第一に考えない行動を取りかねない仲介会社もあります。

買い手や売り手のネガティブ情報を隠したりすることもできてしまいます。

一方的に売り手や買い手に有利な状況であったり、大きなリスク抱えながらも売買が成立しているような状況も生まれかねません。

著者が聞いた例では、法律や会計財務に疎いオーナーに、新しい資金の入れ方や議決権のあり方についてメリットやデメリットを説明しないまま、とにかく話が早くまとまる形を勧めるような例もありました。

供給に対して需要が増えつつあるために、仲介会社は皆忙しくしています。

いくら実態としては売り手と買い手の交渉に大きな影響を及ぼさない話題であっても、交渉の場には参加しなければならないため、時間的拘束も長くなってしまいます。

仲介会社が忙殺されることで面談の日程が当事者の都合はつくのにも関わらず、先延ばしされ、個別の交渉の進捗が遅れるリスクも出てきかねません。

そうした情報の非対称性が大きく存在する状況は、現在のように十分なインフラが整う以前の不動産市場、中古車市場や転職人材市場などに、似ているのかもしれません。

しかし不動産取引などと比べて、企業のM&Aはやり直しが困難なため、タイミングや買収の相手や条件がより重要になってきます。

「組織は人なり」と言われるように会社は生き物であるため、旬を過ぎたり変な条件がついたりすると、買収後の企業の成長を大きく阻害してしまいます。

ネット上のM&AプラットフォームよりやっぱりM&A仲介会社

最近盛り上がってきたのは、売り手と買い手をweb上でマッチングさせるためのM&Aプラットフォームです。

そこを経て成約すると成功謝礼をM&Aプラットフォームの運営会社に払うのですが、その手数料は人間が活動する旧来の形の仲介会社に比べたらかなりリーズナブルです。

実は著者も手数料の安さを魅力に感じて、クライアントのために売却用途で一度使ったことがあります。

そうしますと、驚くほどにたくさんコンタクトは来ます。

しかし結局はどこにも決まらずに時間だけ過ぎていくような印象がありました。

問い合わせがたくさん来ますが、個人でM&Aが可能だというテーマの本が売れた影響もあってか、事業を買うということについては初心者の個人からの問い合わせがとても多かったです。たまたま著者が扱った事業がそうした方々に向いていたからかもしれないのですが…。

質問を受けて答える側としても

「それを聞いてどうするんでしょうか?」

「どうして、まだ面識どころか正体もわからない人に、いきなりそこまで解説をしてくれると思うんでしょうか?」

というような話も多々ありました。

それでも丁寧に答えていって、いざ具体的な交渉になろうとすると、途端に連絡が途絶えたりすることも。

たくさんやり取りをした後に「やっぱり貯金を一気に使うようなことはできません」という一言とともに終了してしまったことも…。

やはり人間を仲介会社として介していないと、「本気で買いたがっている人に対象を絞る」という一次スクリーニングを自動的にやってくれているので、時間は効率的になるのは間違いないです。

さりとて手数料の安さは段違いですので、成功報酬とはいえ数百万円以上の手数料を払えない場合は、粘り強くM&Aプラットフォームで相手探しをするしかありません。

ただ、1つ抜け穴はあります。それはまた続きで話題にします。

中沢 光昭

2020年5月現在、業種の譲受けを検討しております。

譲受けを検討している業種はこちら  のページ末尾に記載しております。

著書に『経営計画はなぜうまくいかないのか?』『会社員が一生モノの“実のある仕事”を創る方法(β版): 事業承継問題を抱える会社を個人で引き継ぐ』『事業承継による、中小企業を売却するときの基本の「き」: 最初で最後の会社の売却を、後悔なきものにするために』(Kindle)などがある。

第6話

『M&Aの流儀』

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