『M&Aの流儀』~相手探しはいつから始めるか?~第5話


第5話

『M&Aの流儀』

M&A専門家プロフィール 執筆者 中沢光昭

㈱リヴァイタライゼーション代表、企業再生をメインとした経営コンサルタント

経営者としても含めて破綻会社や業績低迷企業の再建・変革実績を多数持つ。また、高齢化に伴う第三者への事業承継の受け手として保有・運営

東京大学大学院工学系研究科修了

著書に『経営計画はなぜうまくいかないのか?』『会社員が一生モノの“実のある仕事”を創る方法(β版): 事業承継問題を抱える会社を個人で引き継ぐ』『事業承継による、中小企業を売却するときの基本の「き」: 最初で最後の会社の売却を、後悔なきものにするために』(Kindle)などがある。

早く動くことに越したことはないが、リスクもある

事業承継に関わらずですが、会社をM&Aで売却しようとした場合には、早めに検討を着手するに越したことはありません。

早く検討することのメリットは、なんと言っても買い手をじっくり選べることです。

幸い仲介会社は成功報酬で取り組む会社が多いので、早め早めに費用が大きくかからない範囲で進めておけば、途中で何かしっくりこないことがあっても、感情的な躊躇はあったとしても勇気をもって止められます。

不動産と同じで、焦るほど良い結果は生まれないものです。

時間かけて検討した結果某かの理由で話が流れてしまったら、その反省を生かしてまた機会を見てチャレンジすればいいだけのことです。

仲介会社の人は反対するとは思いますが…

 

 

前もって動くことには落とし穴も…

早く取り組むことのリスクでもあり気を付けなければならないことは、時間をかけている間に業績を落とさないことです。

前回述べたように、買い手にとって最も嫌な「見えないこと」がなければないほど、買い手は引き受けやすいです。

 

足元の業績がどうなっているか

 

足元の業績で「時間とともに業績が落ちている」という事実があると、「ということは、このまま落ちる前に売ろうということを考えているのではないか?」という捉え方をされてしまいます。

 

たとえそれが偶然のタイミングであってもです。

悪い情報(業績)ほど、きちんとその理由を説明できるようにしておくのは必須のことではありますが、それでも「何かあるかも、ここは慎重に」と思われてしまうことは避けられません。

 

逆に、買い手を探してる間に業績が上がっていればより高くなっていくかと言えば、そうでもありません。

あまりに業績が上がりすぎていると(特に、売上が上がらずに利益だけが上がっていたりすると)、

 

本当は必要な投資を抑えて、見かけ上の利益を出そうとしているだけではないのか??

など勘繰られてもしまうこともあります。

 

「いちゃもん」にも聞こえてしまうかもしれませんが、相手として見れば大きなお金が動く以上は色々なアングルから考えるのは当然のことです。

業績のちょっとした動きについては説明が必要ではありますが、聞かれる前に答えておくほうが望ましいでしょう。

 

外部環境や業界動向がどうなっていくか

 

売り手にとって、外部環境や諸々のことを考えると、この先、業績が下がる可能性が大きくどこかで手放すことを覚悟しているのであれば、早めに手放した方がますます賢明でしょう。

その場合、どんなリスクがあるか、どんなトレンドがあるかを先に説明できるようにしておき、価格ではある程度の妥協をもっておくことで、売却が成立する可能性が高まります。

加えて、事業上のシナジーを生んでくれそうなところに引き受けてもらう方が、従業員にとっても幸せなのでその方が良いでしょう。

 

株式を半分なり1/3や2/3だけ売って、期間限定で自分も一緒に頑張って、残りはその結果を踏まえて同じ相手に引き取ってもらえるようなスキームにすることもアリです。

(一般的には支配権をしっかり取りたがりますので、買い手の合意が必要になる話ではありますが)

 

もし逆に業績が上がりそうであれば、「来年売ろう」と考えて1年前から張り切れば、きちんとした結果もより出やすいでしょう。

 

もしくは、妥当性の高い経営計画を作っておき、それを買い手に提示することで、買い手からの評価=価格を高めることができます。

なお、拙著『経営計画はなぜうまくいかないのか?』(Kindle)に計画作成と運用については解説がありますので、ご参考になれば…。

早期検討をすることで好機を逃しにくくなる

新しい取引のための面談や、転職や就職の時の面接など、最初に臨むときは緊張もして思っていることを論理的に説明できなくて歯がゆかったりしたことは誰にでもあると思います。

売却の際の、買い手候補との面談も然りです。

向こうにも選ぶ権利があります。

そのため、何回か経験しておいた方が良いでしょう。

また、本格的に検討される段になると、買い手がまともな会社であるほどきちんとデューデリジェンス(DD)をしてきます。

著者はDDをする側もされる側も経験していますが、重箱の隅をつつくようで申し訳ないなと思うようなことも、「念のために確認」したりされたりしなければなりません。

確認を受ける側としては「そんなのなんか関係あんのか?」とか「聞いてどうするんだ?」などイライラすることもあるでしょう。

それでも面倒だと思っても、出せと言われた情報や記録は、極力全部答えなければなりません。

これも、最初に1回やっておけば2回目3回目は楽になりますし、相手が確認したいことも明確になっていきます。

また、当事者にとっては当たり前のことでも、異業種の人から見たら非常識であることはままあります。

何も知らない人に説明することは、根本的なことから考え直すことにもつながります。

ともすれば、それをヒントに業界慣行をすり抜けてうまくやれる何かのアクションが考えつくかもしれません。

何事にも練習が必要で、それは早めにやっておくに越したことがありません。

早期検討の副産物① 後継者の名乗り

また、稀にではありますが、親が本気で外部に会社の引き取り手を探していると知った自分の子供が、「だったら俺が継ぐ」と言って外から戻ってくるようなことがあります。

親としては泣いて喜んでいましたが、具体的に交渉もしていた買い手にとっては「勘弁してよ…」というところです。

ただ、事情が事情だけに納得がいくものです……実は著者は買い手として経験したことがあります。

そうした不測の事態が起こっても、早めに動いていたからこそ、じっくりと引継ぎプランも実行できたことでしょう。

これは親族の例ですが、身売りの動きを察知したら急に中堅社員が一致団結し始め、「だったら俺たちで出し合うので買い取らせてください!」と、モチベーション高く言い出すかもしれません。

早期検討の副産物② いつもと違う、見えなかった課題が見えてくることも

売却しようと思うと、改めて会社の中身を見てみるようになります。

その時に見落としていた無駄な経費や契約などを発見することも多々あります。

そのメリットは本コラムの2回目で述べた通りです。(本コラム2回目はこちら

もし友人知人に企業経営に詳しい人間がいたら、どうせ今後は色々な人に財務情報を開示することになると割り切って、事前に「この(自分の)会社、どう思うか?」と見てもらうのも良いかもしれません。

「そもそもこれって、何だ?」と聞かれたりして、自分でも見落としていた課題が1つでも見つかれば儲けものでしょう。

早期検討の副産物③ 事業売却の検討を経て見えることも

「創業者の体の具合が悪くなった」

「業績の見通しが立ちにくくなった」

「後継者候補がいたが、見切りをつけた(出て行った)」

 

など、負の事情を抱えた売却希望の会社を見かけることがあります。

残念ながらそうした事情から売却検討を始めても、理想的な形にはなりにくいです。

目先の選択肢にすがるしかないという状況にもなりかねません。

保険のCMではありませんが、何か起こる前に準備しておくことが重要です。

筆者は、仮に子息などに後継者が決まっていたとしても、オーナー社長が高齢や引継ぎ時を少しでも考え始めたら、売却による事業承継を1回は考えて損はないと考えます。

会社が審査されるというプロセスにより予想もつかないことを聞かれて改めて気づかされることもあれば、販路のシナジーがある会社に出会い、株の3分の2を子息に持たせつつ、3分の1は協業できる他社に売却するなど、色々な選択肢が浮かぶ可能性もなくはないです。

あるいは、「やっぱり子息に継がせるのが一番」と、親子で再確認できることもメリットでしょう。

仲介会社は嫌がると思いますが、そのリスクを承知で高い成功報酬を取っています。

幅広い選択肢を早めに、継続的に探すことが賢明でしょう。

何にせよ、善は急げです。

中沢 光昭

2020年7月現在、業種の譲受けを検討しております。

譲受けを検討している業種はこちら  のページ末尾に記載しております。

著書に『経営計画はなぜうまくいかないのか?』『会社員が一生モノの“実のある仕事”を創る方法(β版): 事業承継問題を抱える会社を個人で引き継ぐ』『事業承継による、中小企業を売却するときの基本の「き」: 最初で最後の会社の売却を、後悔なきものにするために』(Kindle)などがある。

第5話

『M&Aの流儀』

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