『M&Aの流儀』~引継ぎの不安を解消、必要な機能を明確にする~第4話


第4話

『M&Aの流儀』

M&A専門家プロフィール 執筆者 中沢光昭

㈱リヴァイタライゼーション代表、企業再生をメインとした経営コンサルタント

経営者としても含めて破綻会社や業績低迷企業の再建・変革実績を多数持つ。また、高齢化に伴う第三者への事業承継の受け手として保有・運営

東京大学大学院工学系研究科修了

著書に『経営計画はなぜうまくいかないのか?』『会社員が一生モノの“実のある仕事”を創る方法(β版): 事業承継問題を抱える会社を個人で引き継ぐ』『事業承継による、中小企業を売却するときの基本の「き」: 最初で最後の会社の売却を、後悔なきものにするために』(Kindle)などがある。

創業者の2世や3世であれば別ですが、自分が創業者として立ち上げて切り盛りしてきた会社である場合、その株式を譲り受ける相手に対して「どうぞどうぞ! 私なんていなくなっても会社は回りますから」という状態にはなかなかなっていないのが実情です。

中小企業のM&Aにおいては「売りたいと思っている人が会社にいないと会社が回らなくなる(価値が毀損する)」という矛盾を抱えていることが多いです。

例えば主だった営業取引先やサプライヤーは過去に現オーナー社長が開拓してきた相手であり、今も対応窓口を続けている場合です。

当人は「会社同士の付き合いだから、自分がいなくなってもそのまま取引は続くよ」と心から思っていて、そう主張していても、受け止める買い手候補としては「本当かなあ?」と思ってしまいます。

そして実際に、即日取引内容が変わるということは少ないにしても、何かの折(例えばコロナショックのような世の中の事象や、年度代わり、先方の代替わり)に取引条件をこちらにとって不利益に変更させるよう交渉されることはよくあることです。

その矛盾を解消させている会社ほど早く売買の取引が成立します。

「後継者がいない」の一言では終わらせない

M&Aで買い手にとってよく起こる問題は、金銭的な問題が解決できたとしても、買収後に自社のなかで引き取った会社を管理できる人材がいないという問題です。

個人で買い取った場合などは尚更です。

買い手が売り手の同業他社であれば、買い手の自社内で鍛えたい若手であったり、あるいは経営者自身が両方見たりなど、違和感なく入っていけますのでハードルは低くなります。

かといって同業他社に買い取ってもらえばいいやと高を括ってしまうと、他の買い手候補は排除されてしまうことになります。

そうなると需要と供給のバランスの関係で売却額が高くできなくなってしまう可能性をはらんでしまいます。

また、今後の事業展開や残される従業員の感情を考えたりすると、売り手にとっては買い手候補については同業他社以外の選択肢も用意しておきたいところです。

売り手としては、そもそも後継者がいないので事業承継問題が発生しているわけではありますが、せっかく高く評価してくれそうな周辺の事業者が出てきた際に、「買い手からすればキーマンである現オーナー社長がいなくなることになり、即日業績・価値が下がっていくリスクがある」という矛盾が抱える問題を最小限にしておくようにしなければなりません。

例えば食品の工場を保有していて、外食企業や小売企業が譲受に名乗り出てきた場合です。

製造しているものが相手にとって当面継続的に利用できる品質のものであれば、自分たちの調達をグループ内でまかなえて、かつ、グループ外からも売上を取ってくるわけですので、認識される価値は一段高くなります。

ところが外食企業や小売企業は調理やPR、商品企画については見識があったとしても生産管理や品質管理、素材についての調達についてはそこまで詳しくないことも多く、食品工場の人たちに頑張ってもらわないといけません。

そうした時に、「あ、その辺のノウハウは前オーナーが知っていました。電話して聞いてみましょうか?」となっている状態では困ってしまいます。

そうしたことを社内で想像に基づいて議論が始まると、なかなか手を出しにくいという判断をされてしまうことになりがちです。

 

その解決策については、後継者がいなくとも、

「いったいどの機能を補強する必要があるのか」

「そのためにはどんな経験や人柄の人材が、どれくらいのコミットで必要なのか」

を明確にしておくことで、この問題はだいぶハードルが下がります。

買い手にとって、(社内人材では理解できない)業界特性を踏まえて色々な課題を見抜いたり解決策を推進するような、全てを理解できる社長を用意しなければならないとなるとハードルが高いです。

反面、管理系が弱いとわかっていれば「じゃあ経理の●●を送ればいいんだな」と考えられ、営業力が弱いとなれば「じゃあ新規開拓だけ自分がやればいいんだな」など、はっきりわかるので検討がしやすいです。

 

いったい今のオーナーがいなくなると、事業のオペレーション上にどんなインパクトやリスクがあるのかは、買い手からはいくら聞いてもなかなかわからないのが普通です。

それはもちろんそうです。

良い会社であればあるほど、オーナー社長・買い手の心の底には「ここまでやってきたんだ」という自負や自信があるので、「あ、私は**が苦手だったので、会社を引き取ってもらった後に何とかしないといけませんよ」とはなかなか話しません。

自分は凄かったという話についつい流れていき、補強が抜けていた機能に気付いていたとしても「どうでもいいから放っておいたんだ」と自己弁護の返事が先に来てしまい、そこを「いや、できてないですよ?」なんてコメントしてしまうと突然険悪になってしまったりもします。

「相手にとって、見えないこと」を極力減らす

M&Aの買い手にとって最も嫌なことは、「見えないこと」です。

見えないことが多いと、価格など諸々の判断は保守的に捉えるようになるため、条件での合意もしにくくなってきます。

同じ観点で言えば、事業承継した後の、売り手のオーナー社長の振る舞いについても、ボタンの掛け違いが生じかねない点だと著者は捉えています。

売却後も一定期間残ってもらって協力してもらうことを買い手が望むことはよくあります。

それに対し売り手から「もちろん! 愛着もあるので」という返事もよく出ます。

もちろん本気で言っていますが、買い手からすると「それは恐らくそうなんだろうけど、どこまで本当に働いてくれるんだろうか?」というモヤっとしたものが残ります。

特に「個人保証を外して欲しい、会社から自分や親族も含めて解放させたい」という売却の動機の場合は、逃げるために買うと公言しているようなものです。

ですのではっきりと、気持ちや意思の点とはまた別にして、残って協力することに対する対価を買い手から提示してもらうか売り手から打診するようにしましょう。

出てこなければ、売り手から提示する方が、交渉が進みやすいと著者は考えます。

 

なかなか売り手によっては言い出しにくいという感情もあるかもしれませんが、買い手としてみれば協力的に対応してくれる言葉を受け止めるだけでなく、スキームも用意できるほうが、継続性を確信しやすいと捉えるでしょう。

 

また、自社の特徴や目的についての丁寧な説明を、仲介会社の担当者がきちんと聞いて伝えようとしてくれているか否かは、仲介者選びにおいての大きなポイントだと捉えています。

会話をしながら価格、売り方、売った後などの点がクリアになっていけるような、対話のできる仲介会社に依頼するのが望ましいでしょう。

その探し方については後述します。

中沢 光昭

2020年5月現在、業種の譲受けを検討しております。

譲受けを検討している業種はこちら  のページ末尾に記載しております。

著書に『経営計画はなぜうまくいかないのか?』『会社員が一生モノの“実のある仕事”を創る方法(β版): 事業承継問題を抱える会社を個人で引き継ぐ』『事業承継による、中小企業を売却するときの基本の「き」: 最初で最後の会社の売却を、後悔なきものにするために』(Kindle)などがある。

第4話

『M&Aの流儀』

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