『M&Aの流儀』~スローM&A。あせらず自分の想いの価値を確認・表現する~第3話


第3話

『M&Aの流儀』

M&A専門家プロフィール 執筆者 中沢光昭

㈱リヴァイタライゼーション代表、企業再生をメインとした経営コンサルタント

経営者としても含めて破綻会社や業績低迷企業の再建・変革実績を多数持つ。また、高齢化に伴う第三者への事業承継の受け手として保有・運営

東京大学大学院工学系研究科修了

著書に『経営計画はなぜうまくいかないのか?』『会社員が一生モノの“実のある仕事”を創る方法(β版): 事業承継問題を抱える会社を個人で引き継ぐ』『事業承継による、中小企業を売却するときの基本の「き」: 最初で最後の会社の売却を、後悔なきものにするために』(Kindle)などがある。

自分の会社の引き受け手を探し始める前に、まずどれほどの価格やその他の条件ならば、自分・会社として納得できるかをじっくり時間をかけて考え、自覚しておくことが肝要です。(スローM&Aの心得

そうしなければ取引や交渉にブレが生じてしまい、まとまるものもまとまらなくなる恐れがあります。

 

大企業の売却は合理性が重視される

会社の規模が大きい大口取引の世界では、良くも悪くも買収価格に感情は入りません。

買い手がコンペに勝つためにあえて高値で買うケースもありますが、事業上のシナジーやブランド価値の理論値を計算したうえで、それによって得られる利益を越えない範囲に収めます。

組織のなかで意思決定するためには、売り手の事情があろうとも、譲渡価格を上げようとしても合理性の判断に排除されます。

会社の価値をエクセルで計算したシートだけを見て判断し、「欲しいけど割高だなあ」と断念してしまうのは早計ではないかとも思われます。

しかし、ビジネスとしては正しい判断となります。

ただし、同じ売却希望の会社を見ていても、買い手候補が行っている事業によっては価値が変わってくることは多々あります。

同じ焼き鳥屋があったとしても、肉屋から見た価値と魚屋から見た価値は異なります。

ただし、肉屋Aと肉屋Bから見たら同じような価値になっていきます。

稀に非上場会社で経営者が変わったばかりで何か新しいアクションの象徴が欲しいとか、現預金が余っているとか、新規事業の進みが遅いからM&Aでいっきに加速したいなどの個別事情によって価格が少し上がったりもします。

しかし、おおよそ合理性が働くようになっています。

中小企業の売却は納得感を重視すべき

一方で、中小企業の譲渡取引の世界は感情が価格に大きく作用します

買い手によっては「この商品・技術にピンときた」「この立地が買い」などの勢いが、価格に影響したりもします。

売り手も「利益は出てないかもしれないけど、ここまでの努力には自負がある」とか、

「赤字だけど、デザインと内装に今まで2000万円も投資してきたのだから、当然2000万円は欲しい」など、

今までの想いやサンクコスト(ダイレクトには効果として見えない、一度投入したら戻って来ない投資・費用)、当事者や関係者が思うブランド価値を大きめに価格に乗せたりします。

 

企業価値は基本的には生み出されている現金に基づき計算されますので、過去に投資された時間や想いが利益に結びついていなければ本来は意味がありません。

さりとて、論理だけで割り切れないのが人間です。

中小企業において特に売り手(株主・オーナー)イコール経営者や幹部であることがほとんどであり、引継ぎも兼ねて残ることも多いので、買収後のキーマンのモチベーション維持も重要です。

そのため、買い手企業が売り手企業の感情むき出しの値付けに歩み寄ることはままあります。

率直に納得感のすり合わせができる土台を作る;客観的にはいくら?

ですので、買い手とじっくり話し合えるようにする土壌が必要です。

まず売り手として「理屈ではいくらくらい」という計算は客観的にしましょう。

自分たちでできなければ、詳しい人か有資格者に頼むか、単純に営業利益+減価償却費の金額を3~5倍して(この倍率は業界や市況によって異なりますので、あくまでも目安です。

類似の上場企業の利益と株価の倍率などを参考にします)、負債から現預金を引いた正味の負債金額を差し引いて計算するのでも構いません。

そうして出した客観的な価格に加えて、「だけれど」と、付け足したい想いを整理します。

それを買い手にぶつけ、プレミアム要素を納得してもらう話の流れに持っていくと、本来進む話がそのままスムーズに進みやすくなります。

権利や顧客を獲得するのに、過去に大変な思いをしてきた、設備投資をしてきたから~円にしたい」という思いがあった時など、相手(買い手)にそれを汲み取ってもらうためにどのように交渉するのか、その想いにどの程度重きを置くかなどは千差万別であり、答えは一つではありません。

ただ少なくとも、いきなり「5000万円で」というよりは、

きちんと計算すると3000万円くらいかもしれないが、こうした特徴は獲得するのに時間もかかるし、その無形の

資産を2000万円と評価して欲しい

といったように伝えるほうが、相手としても「あ、きちんと話し合いができる相手なんだな」と捉えて土俵に乗ってきやすいです。

伝わり方で買い手候補の反応が変わる

また、「『本当は』これくらいの利益が出るんだ」という前提の利益をベースに、希望金額を提示するケースがよくあります。

例えば「現在の利益は500万円だが、社長が役員報酬で2000万円取っているので、本当は2500万円だ」といったような前提の利益をベースとして株式の売却希望価格が計算されていることが多いです。

それに対して、額面通り受け止める人はほとんどいないのではないかと思います。

社長の報酬がゼロというのを前提に計算されても、誰かが社長をやるわけですので、その報酬を再度費用に入れ込まないと意味を成さないからです。

高く見せたい気持ちや交渉戦略はわかりますが、

買い手とすると「ひょっとして、合理的な計算でそこまでなると本気で思っているのか? こんな相手との交渉は時間の無駄だかもしれない。もうちょっと待つか」と捉えて早期に撤退したり、保留してしまうこともあります。

結果的に高く売りたいということは一緒でも、表現の仕方や話の持って行き方によって得られる機会や結果は変わってきます。

そこで重要となるのが、相手との接点ともなり、相談相手となるアドバイザーという名の仲介会社です。

その選び方などについては続きで述べます。

中沢 光昭

2020年5月現在、業種の譲受けを検討しております。

譲受けを検討している業種はこちら  のページ末尾に記載しております。

著書に『経営計画はなぜうまくいかないのか?』『会社員が一生モノの“実のある仕事”を創る方法(β版): 事業承継問題を抱える会社を個人で引き継ぐ』『事業承継による、中小企業を売却するときの基本の「き」: 最初で最後の会社の売却を、後悔なきものにするために』(Kindle)などがある。

第3話

『M&Aの流儀』

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