法務DDにおける調査事項②「知的財産」


【ポイント】

  •  知的財産法務DDの主な目的は、対象会社の事業の競争優位性に寄与する技術等が知的財産として保護されているか、知的財産を侵害し、あるいは侵害されるリスクが存在するか等を確認する点にあります。
  •  登録原簿、J-Plat Pat等の公開情報や、対象会社から開示を受けた知的財産関連契約書等の資料から、対象会社の知的財産についての権利関係を把握します。
  •  調査には各種の知的財産に関する専門知識や、知的財産に関連する問題が対象会社の事業に与える影響を法的観点から分析することが要求されるため、知的財産法務DDを行う際には専門家に依頼されることを推奨します。

1 総論

本稿は、非上場企業の株式を譲り受ける取引を想定した法務DDに関する連載の第2弾であり、①「会社組織及び株式」に続き、知的財産法務DDにおける調査事項を説明します。

 

近時、オープン・イノベーション(組織内のイノベーションを促進するために、内部と外部の技術・アイデアの流出入を活用し、その結果組織内で創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすこと)の促進の結果として、知的財産の獲得を主目的としたM&Aも増えてきています。

 

その結果、知的財産の企業価値に占める割合が高まり、知的財産が事業に与える影響が大きくなったことにより、対象会社が保有する知的財産の状況を把握する必要性・重要性は増しています。

 

そこで、本稿では、知的財産法務DDにおける一般的な調査事項について述べます。

 

なお、知的財産については、例えば産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権及び商標権)は、一度権利として成立したとしても、登録後に無効審判等により無効と判断されるリスクがあり、当該リスクを払拭するために個別の無効原因の存否を調査対象とすることがあります。

 

しかし当該調査は、公知文献等の詳細な調査を要することから、短期間で行われることが多い法務DDでは調査対象外とされることが多く、本稿でのご説明は控えさせていただきました。

 

ただし、想定する取引の目的次第では、個別の無効原因の存否を調査対象とするなど、調査すべき事項は以下にてご説明する調査事項に限定されるものではない点にご留意ください。

2 権利関係

(1)産業財産権

まず、M&Aの相手方(以下「対象会社」といいます。)の事業の競争優位性に寄与する技術等が知的財産として保護されているか、また、対象会社が第三者の知的財産を侵害しているリスクがないか確認するため、対象会社が保有する産業財産権の登録原簿等を取得し、権利関係を調査します。

 

登録原簿等から、対象会社が権利者として登録されているか、権利の存続期間、登録料が適切に支払われているか、第三者に対する専用実施権(通常実施権は登録されていない場合が多いため、別途ライセンス契約書等により確認する必要があります。)や担保権が設定されていないか、無効審判が提起されていないか等を確認します。

 

なお、公開済みの産業財産権に関する簡易な調査方法として、実務上、独立行政法人工業所有権情報・研修館が提供する特許情報プラットフォームによる調査のみ行う場合もあります。

 

ただし、同プラットフォームには当該産業財産権の出願時又は登録時以降の権利者の変動等の事情が反映されていないこと、登録原簿への登録からプラットフォームへの情報の反映までにタイムラグがあること等に留意が必要です。

 

(2)著作権

著作権については、権利の発生に登録を要しないことから、著作物自体の著作者表示や著作権表示(Copyright又は©の表示、最初に発行された年月日、著作権者)を確認したり、契約書等から、著作者、著作権を誰が有しているか、及び第三者に対するライセンス・担保権設定の有無等を確認したりすることによって調査します。

 

(3)その他の知的財産

知的財産には、産業財産権や著作権以外にも、営業秘密やドメインネーム等が存在します。

 

営業秘密については、後記5記載の知的財産管理体制の検討の一環として、社内規程等をもとに対象会社の情報管理体制を調査し、秘密として十分に管理されているか確認します。

 

また、同様に対象会社の情報管理体制や、営業秘密が特定の従業員により独占されていないかを調査し、従業員の退職等により営業秘密が失われないか等を確認します。

 

ドメインネームについては、対象会社が当該ドメインネームを使用する権利を有しているか確認するため、whois検索等により、当該ドメインネ-ムが対象会社名義となっているか等の確認を行うのが一般的です。

3 知的財産関連契約

知的財産の創作・移転・利用について定める契約(以下「知的財産関連契約」といいます。)としては、知的財産のライセンス契約、譲渡契約、共同開発契約等様々な契約が存在します。 

 

その中でも、ライセンス契約は、対象会社がライセンシー(実施者・使用者)かライセンサー(知的財産権者)のどちらの立場かにより検討の視点が異なるため注意が必要です。

 

対象会社がライセンシーである場合は、対象会社が締結しているライセンス契約を、M&A後も継続できるかの確認が重要であるため、ライセンス契約書中のChange of Control条項(M&Aで契約当事者の経営権が移動することについて制限を加えている条項)の有無を確認します。

 

また、登録が必要なライセンス(専用実施権等)の登録の有無や、ライセンスの内容(ライセンサーが対象会社以外にもライセンスをすることが可能か、どの地域でのどのような行為が許諾されているか、ライセンス期間等)の確認も重要です。

 

対象会社がライセンサーである場合は、上記と同様にライセンスの内容や、ライセンス対象となる知的財産が後に無効審判等により無効とされた場合に、受領済みのライセンス料をライセンシーに返還する必要があるか等の確認を行います。

 

その他、知的財産の譲渡契約(対象会社が譲受人である場合を想定)では、著作権法第27条(翻訳権、翻案権等)及び第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)に定める権利が譲渡対象として明記されているか(明記されていない場合、これらの権利は譲渡人に留保されていると推定されます。)、著作者人格権の不行使条項(著作者人格権は譲渡ができないことから、譲渡人が著作者である場合に、譲受人に対して著作者人格権を行使しない旨定めた条項)の有無等を確認します。

 

共同開発契約では、成果物である知的財産が誰にどのように(単独又は共有)帰属するか、共有となった場合の知的財産の利用方法や出願時の取扱いに関する規定の有無等を確認します。

4 紛争・権利侵害

紛争・権利侵害リスクとしては、対象会社が第三者の知的財産を侵害するリスク(第三者による対象会社製品の製造・販売の差止請求、損害賠償請求のリスク)と、第三者が対象会社の知的財産を侵害するリスク(侵害品の流通による対象会社製品のシェアの低下、商品やサービスの出所・品質の混同等)が想定されます。

 

調査方法としては、世の中に存在するあらゆる知的財産の侵害可能性を検討することは事実上不可能であることから、開示資料及びヒアリング内容から、対象会社が現在提起し又はされている訴訟や、現在主張している又は主張されているクレームの有無を確認し明らかになった紛争・権利侵害に調査を限定するのが一般的です。

 

これらの調査を通して明らかとなった紛争・権利侵害リスクが、対象会社の事業にどのような影響を与えるかを確認します。

 

また、上記リスクを回避すべく、対象会社に開示資料及びヒアリング内容が真実であることの表明保証を求めることも重要です。

5 知的財産の管理体制

知的財産の管理体制は、対象会社の知的財産戦略の有無・内容を確認する、前記2(3)記載の営業秘密の管理状況を確認する等の目的で調査を行います。

 

具体的には、知的財産管理の人員構成、業務フロー、利用しているコンピューター・システム、知的財産関連規程の整備状況を調査し、これらの知的財産管理体制から明らかになった対象会社の知的財産戦略の有無・内容が対象会社の事業内容に照らして不合理ではないか、営業秘密が秘密として十分に管理されているか等を確認します。

6 まとめ

知的財産法務DDは、冒頭で述べたとおり、知的財産が事業へ与える影響の高まりを受け、近時ますます重要性を増しています。

 

特にベンチャー企業等では、知的財産が事業の価値そのものともいえるような場合もあり、想定する取引の目的次第では知的財産法務DDが最も重要な調査となる場合もあり得ます。

 

想定する取引の目的を正確に把握し、専門家に助言を得ながら、知的財産法務DDの要否を検討することが重要です。

M&A専門家プロフィール 執筆者 弁護士 髙垣 耕平

馬場・澤田法律事務所

 

企業からの知的財産、契約関係に関する法律相談から、債権回収、交通事故、離婚、相続等の一般民事事件や刑事事件まで幅広い分野の業務を取り扱っている。

M&A案件における法務デューデリジェンスでは主に知的財産分野を担当し、リスク解消の作業にあたるクライアントの立場に立って、リスク内容とその対応方法が明確に伝わるような調査・報告を心がけている。

「この人に依頼して良かった。」と思われる弁護士、他とは違う価値を提供できる弁護士を目指している。

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