企業買収・M&Aの手法について【手法の比較】


M&A専門家プロフィール 執筆者 中井 一

情報通信機器メーカーに長年勤続し、ソフトウェア開発職・人事スタッフ職・コンサルティング職などに従事してまいりました。

2010 年に中小企業診断士の資格を獲得してからは企業内診断士として、プロボノ活動として無償で勤務先企業の販売パートナー企業の経営診断などに取り組んでおりましたが、勤務先企業で副業解禁となったことを受け、2019 年に中小企業診断士で個人事業を開業いたしました。

開業後は財務分析や情報分析の知見を活かし、事業計画策定支援、補助金申請支援、M&A支援などの中小企業支援活動に取り組んでいます。

はじめに

このコラムでは、企業買収やM&Aの手法について解説していきます。第五回目の今回が最終回となります。

今回は今までご紹介した株式交換・株式移転・会社分割・会社合併に一般的なM&Aの手法である事業譲渡と株式譲渡を加えた6手法のメリット・デメリット、具体的な手続きの比較について説明します。

手法の比較

① スピード感

M&Aに掛かる期間について比較した場合、会社法上の組織再編行為である式交換・株式移転・会社分割・会社合併については買収する会社、買収される会社の双方で株主総会の特別決議や債権者保護手続きが必要となるなど手間が掛かり、当然にそれなりの期間が必要になります。

また、事業譲渡を選択した場合、事業規模が小さい場合にはスピーディーなM&Aが可能ですが、従業員や取引先が多い事業の場合、契約解除と再契約が必要となり、会社分割よりも時間がかかります。

その点、株式譲渡は手法がシンプルなため、スピーディーな売却が可能です。独占禁止法の審査がない限り(中小企業ではまずない)、特に法的な規制はなく、最終契約日当日にM&Aをクロージングすることも可能です。

 

② リスクカット

リスクカットの面の比較では、会社全体の売買になるのか事業の売買になるのかの比較になります。

株式譲渡・株式交換・株式移転・会社合併は会社全体の売買になりますので、不要な資産や簿外負債などの引き受けリスクを回避することができないうえ、M&A対象外資産の買戻しの際含み益があると課税対象になります。

リスクカットでは無いですが、売り手企業の資産として、役員向けの貯蓄型の生命保険や養老保険、船舶リースなどの税金対策用オペレーティングリースを契約していた場合、即時での解約や買取となる点も注意が必要です。

逆に、事業譲渡・会社分割は事業単位の売買となりますので、不要な資産や簿外負債などの引き受けありません。

 

③ 許認可・契約関係

事業の継続性という意味での許認可の取り直しや契約関係の切り替えという面では、事業譲渡が最も煩雑なオペレーションになります。

事業譲渡の手続きは、数店舗など小さい事業の売買には適していますが、中規模以上のビジネスでは従業員や取引先との契約の移転手続きが非常に煩雑です。したがって、ある程度規模がある場合は、会社分割を使うようにしましょう。

また、事業の許認可は再取得になるので、違法営業期間が発生しないよう、譲受企業側で事前に許認可を取っておく必要があります。

なお、会社分割や会社合併では、事業が継承されますので、契約関係の切り替えは不要ですが、許認可は自動的に承継されるもの・再取得ではなく管轄省庁の承認で済むものもありますが、再取得が必要なものもありますので、譲受企業側で事前確認が必要です。

株式譲渡・株式交換・株式移転については、会社自体を売買する形になりますので、許認可・契約関係の手間はかかりません。

 

④ 完全子会社化

公開会社などで株主が複数存在する企業を買収する場合で、完全子会社化が必要ならば、事業のみを売買する事業譲渡で完全子会社を設立するか、または完全子会社化を実現するスキームである株式交換・株式移転を選択する必要があります。

株式譲渡で完全子会社化を目指すならばTOBを実施する必要がありますし、既存の完全子会社が会社分割・会社合併した場合、売り手企業の株主と金銭等対価で株を買い取る契約にする必要があり、実質的にTOBと同様な手続きになります。

 

⑤ 節税

リスクカットと同様、株式譲渡・株式交換・株式移転・会社合併は会社全体の売買になりますので、基本的に節税の余地はありません。むしろ、M&A対象外資産の買戻しの際含み益があると課税対象になり、余計な税金が必要になります。

事業譲渡・会社分割であれば、売り手企業の売却益に法人税がかかりますが、売却益の計算では売却した資産・負債の簿価が売却原価になるので、資本金が売却原価となる株式譲渡と比べ、売り手企業に大きな節税効果が発現することがあります。

一方、買い手企業では、買収対価と移転した資産・負債の時価との差額を税務上のれんにできるため、節税効果が発生します。この節税効果をどれだけ事業の価格に反映させるかが、価格交渉のポイントといえるでしょう。

 

⑥ 代金の入金先

事業譲渡の場合は会社資産の売買と同様、売買代金の入金先は会社になります。会社分割の分社型の場合も同様です。

株式譲渡・株式交換・株式移転・会社分割(分割型)・会社合併の場合、売買の対象が株式になりますので、売買代金の入金先は株主になります。なお、株式交換・株式移転・会社分割(分割型)・会社合併は株式対価とすることができます。

ケース別の手法選択

① 売買する事業規模が小さい場合

事業譲渡、株式譲渡

 

② 売買する事業規模が比較的大きい場合

株式交換、株式移転、会社分割、会社合併

 

③ すぐにキャッシュが必要な場合

株式譲渡、株式交換、株式移転、会社分割、会社合併

 

④ M&Aの準備資金の確保が難しい場合

株式交換、株式移転、会社分割、会社合併

 

⑤ 少数株主の同意を得ることが難しい場合

株式交換、株式移転

 

⑥ 持株会社を設立する場合

株式移転

関連記事