企業買収・M&Aの手法について【株式移転】


M&A専門家プロフィール 執筆者 中井 一

情報通信機器メーカーに長年勤続し、ソフトウェア開発職・人事スタッフ職・コンサルティング職などに従事してまいりました。

2010 年に中小企業診断士の資格を獲得してからは企業内診断士として、プロボノ活動として無償で勤務先企業の販売パートナー企業の経営診断などに取り組んでおりましたが、勤務先企業で副業解禁となったことを受け、2019 年に中小企業診断士で個人事業を開業いたしました。

開業後は財務分析や情報分析の知見を活かし、事業計画策定支援、補助金申請支援、M&A支援などの中小企業支援活動に取り組んでいます。

はじめに

このコラムでは、企業買収やM&Aの手法について解説していきます。

第二回目の今回は株式移転についてです。株式移転は、前回紹介した株式交換とよく似た手法です。(前回の記事「株式交換」はこちら

あまり企業買収・M&Aのスキームとして利用されることはありませんが、株式交換との比較で紹介したいと思います。

それでは、株式移転による企業買収・M&Aのやり方、メリット・デメリット、具体的な手続きについて説明します。

株式移転とは何か

株式交換も株式移転も会社法上の組織再編行為ですが、株式交換が「株式会社が発行済株式の全部を他の株式会社または合同会社に取得させる」(会社法2条31号)組織再編行為であるのに対して、株式移転は「一または二以上の株式会社が発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させる」(会社法2条32号)組織再編行為です。

株式交換も株式移転もともに強制的に完全親会社に株式の全てを取得させるスキームですが、株式交換の完全親会社が既存の会社であるのに対し、株式移転は完全親会社が新たに設立される会社となる点が違いになります。

この違いから、株式交換は経営統合・企業買収・M&Aや既に子会社である会社を完全子会社化するなどグループ再編目的で用いられることが多いのに対して、株式移転は複数の会社が持株会社を設立して経営統合を行う場合やホールディングカンパニー体制に移行するために用いられることが多いです。

株式移転のやり方

株式移転を企業買収・M&Aに利用する方法としては、企業買収・M&Aの前の準備として、買収される側の企業の資産や事業の整理のために、あらかじめ株式移転して完全親会社を設立するとともに企業売却の対象外としたい資産や事業を親会社に移転して整理する方法があります。

ただし、このような資産や事業の整理には以降の回でご紹介する予定の株式分割を使用する方法が一般的なため、ここでは説明しません。

一般的な方法としては、完全な企業買収ではなく、当初は買収先の企業の株主との資本関係も維持しつつ新たに資本関係を構築するために、双方の会社が共同で持株会社を設立する場合に用いられます。

なお、株式移転によって債権者が不利益を被る可能性がある場合など、債権者保護手続が必要になる場合もあり、手順が複雑になる可能性が高いです。

株式移転のメリット

メリットその1

第一は企業買収・M&Aの準備資金が不要である点です。

例えばポピュラーな手法である株式譲渡では、現金を対価に譲渡するため、企業買収・M&Aの準備資金が必要となりますが、株式移転では、自社株式が対価となるので、準備資金が必要ありません。

 

メリットその2

第二は企業買収・M&A先を別法人にできる点です。

同じ会社法上の組織再編スキームでポピュラーな合併や会社分割では企業買収・M&A先の会社を存続会社や継承する会社が吸収するので、別法人とすることができませんが、株式移転の場合には共同で持株会社を設立するなど、企業買収・M&A先を別法人とすることができます。

 

メリットその3

第三は企業買収・M&Aされた会社の株主を企業買収・M&Aした会社の経営に参画させることができる点です。

例えば、株式譲渡では現金を対価に株式を譲渡するため、そのままでは子会社の株主は親会社の経営に参画できませんが、株式移転では共同で持株会社を設立する形になるので、企業買収・M&Aした会社の経営に参画可能となります。

株式移転のデメリット

デメリットその1

第一は手続きが他のM&A手法と比べ複雑である点です。

株式譲渡では対価が現金であり、組織再編スキームではないため、会社法上の法定手続きは原則不要ですが、株式移転では、株式移転計画書の作成、株主総会特別決議などの一連の法定手続きが必要となり、手続きが複雑となります。

 

デメリットその2

第二は不要な資産・債務などが引き継がれる点です。

事業譲渡では、個々の資産の移し替えや契約の再契約をすることで必要な事業だけを譲り受けるので譲渡される資産・負債が明確ですが、株式移転で持株会社を設立する場合には不要な資産や簿外負債などの引き受けリスクを回避することができません。

 

デメリット3

第三はメリットの裏返しですが、共同で持株会社を設立するので、企業買収・M&Aされた会社の株主が企業買収・M&Aした会社の株主となる点です。

企業買収・M&Aされた会社の株主が企業買収・M&Aした会社の経営に参画できるようになることに注意が必要になります。

株式移転の手続き

株式移転を行う場合の手続きは、持株会社を設立する双方の会社で行う必要があり、詳しく説明はしませんが、以下のようなもので、非常に煩雑であるため、専門知識が必要となる事項もあります。

このため、専門家のサポートを受けながら、進めていくことをおすすめします。

① 株式移転計画の作成

② 事前開示書類の備置

③ 株主総会による株式移転計画の承認決議

④ 債権者保護の手続き・株券などの提供公告

⑤ 反対株主からの株式買取請求

⑥ 公正取引委員会・金融商品取引法上の届け出

⑦ 株券・新株予約権の証券提出手続き

⑧ 株式移転の効力発生

⑨ 新株発行・設立・変更の登記申請

⑩ 事後開示書類の備置・開示

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