少数株主の反対を防ぐために有効なのはスクイーズアウト
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事業承継において最も大切なのは、後継者にできる限り株式を集中させる体制を整えておくことです。特に、会社の株主を大株主のみにすることを見据えて事業承継やM&Aを行うつもりなら、早い段階から対策を練っておくのが大事でしょう。しかし、少数株主のなかには、後継者に株式を集中させたくないと考える人もいるはずです。そこで、このような少数株主を合法的に追い出す方法として、スクイーズアウトがあります。スクイーズアウトがなぜ事業承継において有効なのか、どのようなメリットとデメリットがあるのか、そして具体的なプロセスについて解説しましょう。
スクイーズアウトとは?
もともと、スクイーズアウトとは「締め出す」という意味の言葉です。会社を経営するにあたって、さまざまな人から出資してもらうことは、資金を集めるためにとても重要です。しかし、さまざまな人が出資して株主になった場合、時間が経つにつれて会社の方針に違和感を覚える人が出てくるでしょう。このような人が、株主総会で批判的な言動をすれば、円滑な会社経営が妨げられるおそれもあるのです。
特に、事業承継を前提としたM&Aでは、株主全体が方針を一致させて、力を合わせてプロセスを進めていくのが成否のカギを握るので、方針と食い違う株主を排除し、後継者に株式を集中させるのが大きな課題となります。そこで用いられるのがスクイーズアウトです。つまり、会社の方針に違和感を覚える人(少数株主)に金銭などの財産を交付する代わりに株式を回収し、後継者に株式を集中させることで、経営を円滑化する手続きを取ることになります。
スクイーズアウトの具体的なプロセス
M&Aにおける具体的なスクイーズアウトの方法としては、全部取得条項付株式を用いる方法が広く用いられています。全部取得条項付株式の発行を前提として、どうやってスクイーズアウトを進めていくのか、具体的なプロセスについてみてみましょう。
1.まずは株式を集中させる
全部取得条項付き株式を用いたスクイーズアウトを行うには、公開買付や個別交渉により、後継者が少しでも多くの株式を取得しておきましょう。スクイーズアウトの手続きを完了させるためには、株主総会で議決権を行使できる株主の3分の2に当たる多数の賛成が得られないといけないためです。
2.定款を変更する
2つ以上の内容が異なる株式を発行できるように、定款の変更を行います。これには株主総会の特別決議が必要です。さらに、発行済み株式のすべてに全部取得条項を付する旨を加えた定款変更も行います。
3.株式の全部を取得する決議に移る
株主総会の特別決議により、株式の全部を取得する決議を行います。この際のポイントとして「対価は株式にする」「少数株主に交付する株式の数を計算上1株未満になるようにする」ことが挙げられます。なお、実務上は定款の変更と株式の全部を取得するプロセスが一括して行われるのが一般的な流れです。
4.株主名簿の書き換えを済ませる
株主名簿の書き換えをしてスクイーズアウトを行ったことを反映させます。これは、スクイーズアウトによって追い出された少数株主が「自分はこの会社の株主である」と主張してきた場合に備えるためです。
スクイーズアウトのメリットとデメリット・注意点
スクイーズアウトのメリットは、経営方針に反対する少数株主を合法的に追い出すことができるので、会社としての意思決定がスムーズになり、より円滑な経営が行えるようになることが挙げられます。事業承継を行う場合は、意思決定がスピーディーに行えるかどうかで事業承継後の会社の業績が左右される部分もあるので、これは重視したい効果でしょう。一方、デメリットですが、少数株主に交付する対価を用意しておかなくてはいけない点があります。特に、会社自体の資産価値が高い場合は、株式の価値も高くなるため、相応の金銭を交付する必要があります。交付しなくてはいけない人数によっては、会社に大きな負担が生じる可能性があります。価値を見誤った場合は、対価が安すぎると少数株主とのトラブルが勃発する可能性もあるので、取扱いは慎重に行いましょう。
また、たとえ効率的に事業承継やM&Aを行うためにスクイーズアウトを行う場合であっても、少数株主にだって反対する手段は与えられています。ここで取り上げた全部取得条項付き株主の発行を前提とした方法の場合は、少数株主は差し止め請求、無効の訴えなどの手段が取れる決まりです。そのため、スクイーズアウトを進める際は、専門家と連携し、法律にのっとった手続きを的確に行うのが最も大事になります。これをおろそかにしては、M&Aの実行にまでこぎつけず、事業承継自体が頓挫してしまう可能性も出てくるのです。
さらに、スクイーズアウトを含む事業承継計画を実行する場合は、タイムスケジュールに配慮する必要もあるでしょう。仮に、少数株主がスクイーズアウトの結果に納得しなかった場合、裁判を起こされるリスクが生じます。これを回避するためには、事前に少数株主と話し合いをして、双方が納得できる妥協点を見出しておくのもとても大事です。
いきなり「会社の方針と違うから」と無理に排除するのではなく「納得してもらったうえで進める」という姿勢を忘れないことが、結果として事業承継やM&Aを成功に導くでしょう。
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