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2021年、どうなる?自動車部品製造業界のM&A

執筆

村上 章

村上 章

事業承継コンサルティング株式会社 中小企業診断士 村上 章 【Web】https://jigyohikitsugi.com/ 事業承継コンサルティング株式会社は、中小企業診断士・公認会計士が事業承継・M&Aを支援する経営コンサルティング会社です。日本を代表する大企業からのご依頼を受け、サプライチェーンにある取引先(販売店・代理店)の事業承継・M&Aを支援しております。 M&Aで事業を売却されたお客様の資産運用(金融商品仲介)や相続税対策(宅地建物取引)まで直接サポートいたするので、引退後に必要となるサービスをワンストップで提供させていただきます。 また、毎月1回、事業承継支援者向けに「事業承継支援コンサルティング研究会」(https://jigyohikitsugi.com/kenkyu/)を開催しています。M&Aアドバイザーの方々に役立つ講義と事例研究を提供しておりますので、ぜひご参加ください。 ...続きを読む

監修

経営承継支援編集部

この記事は、株式会社経営承継支援の編集部が監修しました。M&Aに関してわかりやすく役に立つ記事を目指しています。

目次 [ ]

2021年、どうなる?自動車部品製造業界のM&A

2021年、自動車部品製造業界のM&Aが増えています。ここでは、自動車部品製造業界の市場動向やビジネスモデル、M&Aの買い手側によるデュー・ディリジェンスにおける注意点、企業価値評価(株価算定)で使う数値(マルチプルなど)について説明します。これらから、自動車部品製造業界においてM&Aを成功させるためのポイントについて考えてみましょう。

 

I     自動車部品製造業界のM&Aを考える

【1】自動車部品製造業界の動向・市場環境

自動車部品製造業は、自動車部品や付属品を製造する事業者のことをいいます。

主な製品として、自動車エンジンの部品、ブレーキ、クラッチ、車軸、ラジエータ、トランスミッション、車輪などが挙げられます。

人口減少や少子高齢化という環境から、自動車部品の国内需要は減少すると予測されます。四輪自動車の国内販売台数は、ここ数年900万台レベルで横ばいにあります。

一方で、成長市場である新興国の需要が増加傾向にあり、海外生産が増加していくと予想されます。海外現地生産が求められるため、輸出が増加することはないでしょう。

経済産業省「工業統計表・産業別統計表(平成29年)」によれば、自動車部品製造業の製品出荷額について、2008年は32兆円でしたが、2016年には33兆円に僅かながら増加しています。

 

 

【2】 自動車部品製造業界のビジネスモデル

自動車部品製造業のビジネスモデルは、鉄鋼材料を中心に、合成樹脂、アルミニウムやゴムを仕入れ、工場にてプレス、鋳造、鍛造、熱処理、機械加工、鈑金、塗装、組立などの製造工程に投入して製品を作り、得意先に販売するというものです。主要原材料の鋼材は、完成車メーカーから有償支給されるケースが多く見られます。完成車メーカーが一括購入することで、鋼材の原価を安く抑えることができるのです。

自動車部品製造業界では大量生産が基本となりますが、そのために生産技術を確立し、大規模な生産システムを構築すること必要です。

また、業界全体の構造として、トヨタ、日産自動車など完成車メーカーをピラミッドの頂点として、1次部品メーカー、2次部品メーカー、3次部品メーカーといった階層構造、下請け分業構造が形成されています。1次部品メーカーは少数ですが、3次部品メーカーになると、従業員20人未満の小規模事業者が多数を占めています。

自動車部品メーカーは、完成車メーカーの系列となっている企業と、独立している企業に大別されます。近年、完成車メーカーの海外進出に合わせて、海外現地生産を開始する系列部品メーカーが増えてきています。

 

【3】 電気自動車(EV)の普及と自動車部品

電気自動車(EV)の普及は、従来のエンジンをモーターに置き換えるため、四輪自動車の駆動系の構造が大きく変化します。それにより、使用する自動車部品や技術は、従来のものと大きく変わります。

エンジンが無くなれば、エンジン関連の精密機械加工、熱処理、メッキや板金加工を担う自動車部品メーカーの需要が無くなります。その一方で、モーター、インバーター、駆動用電池の需要が大きく増えます。このため、エンジンの自動車部品メーカーはビジネスモデルの転換を求められる一方で、電気・電子部品メーカーにとって大きなチャンスとなります。

政府目標では、2030年までに国内自動車販売台数に占める電気自動車(EV)の割合を30%まで高めるとのことです。

自動車部品メーカーは、エンジン関連の部品事業をM&Aによって売却するとともに、電気・電子部品の製造事業を新たに立ち上げる、M&Aによって買収しなければいけません。

大きな構造転換、経営革新の時期にあります。

 

【4】 自動車部品製造業界M&Aで買い手候補となる企業

自動車部品製造業の事業承継を目的としたM&Aについて、買い手候補は上場企業や大企業ではなく、同じ下請け階層にある同業他社になると考えられます。規模の経済を追求してコスト削減を行うための経営統合が中心になるでしょう。以下の1次部品メーカーを頂点とする系列内部での業界再編が進むと考えられます。

豊田自動織機、豊田合成、デンソー、アイシン精機、日本精工、小糸製作所、NOK、KYB、日立オートモティブシステムズ、IJTテクノロジーホールディングス、ジェイテクト、ミツバ、フタバ産業、プレス工業、市光工業、日本発条、ブリヂストンです。

 

Ⅱ    自動車部品製造業界M&Aで売却する売り手のメリット

安定している大手企業にM&Aで自動車部品製造業を承継することで、従業員の雇用を維持し、事業のさらなる成長を実現することができます。また、得意先である完成車メーカーや上位の系列部品メーカーは、製品を継続して購入することもできることに加え、下請け部品メーカーとの関係を継続することができます。

また、小規模事業者が単独では難しかった大量生産技術、生産システム、ロボット、FAシステムの投資による高速化・自動化の推進よって、工場の生産性向上を実現することができます。結果として生産性が向上すれば、従業員の給与水準をアップさせることができるでしょう。

さらに、買い手企業が大企業であれば、生産規模の拡大による生産性向上、大量仕入れによる原材料費の引下げや、人材採用コスト、広告宣伝費、本社経費を削減し、M&Aによるシナジー効果を得ることができます。

以上のようなシナジー効果が期待され、買い手候補にとって魅力的な事業であれば、売り手側の経営者は、高い売却価格を実現することができ、引退した後のライフプランを充実したものとすることができます。

 

 

Ⅲ     自動車部品製造業界M&Aで買収する買い手の注意点

【1】 自動車部品製造業の買収デュー・ディリジェンスにおける注意点

自動車部品製造業は、品質・コスト・納期において合格点が必要であるという特徴があります。

自動車部品製造業の事業性を評価する場合の注意点として、価格競争力はもちろん、技術力・製品開発力を調査しなければいけません。技術力を伝承するための人材育成は行われているか、コスト削減を進めるための研究開発は行われているか、確かめることが必要です。

また、製造ノウハウに係る知的財産権が保全されているか、機械設備が陳腐化していないか、大規模修繕や更新投資が必要ないか、確認する必要があります。

さらに、特定の得意先に依存する系列部品メーカーの場合、その得意先との取引基本契約がM&A実行後に継続するかどうか、法務デュー・ディリジェンスで確認しなければいけません。

 

【2】 自動車部品製造業の買収で承継すべき経営資源

技術力・製品開発力が基本となる経営資源です。採用難に直面する企業が多いため、技術力を持つ若い人材が最も重要な経営資源となります。特定の販売先に依存する系列メーカーであれば、販売先との取引基本契約も重要な経営資源です。

また、コスト競争力に直結する大量生産システム、すなわち、機械設備、ソフトウェアも重要な経営資源となるでしょう。

顧客関係、技術力などの無形資産は、事業承継によって喪失されることが多いため、自動車部品製造業のM&Aを行う場合は、技術力、生産システムの承継に時間と労力をかけるなど、無形資産の承継を丁寧に行うことが重要でしょう。

 

【3】 自動車部品製造業のM&Aで買収するときの企業価値評価(株価算定)

自動車部品製造業のM&Aにおける企業価値評価(株価算定)を行う際に活用することができる数値は、以下の通りとなっています。

まず、TKC経営指標(2018年度)によれば、自動車部品製造業の収益性について、売上高成長率は約3.6%です。また、粗利率は13.0%、営業利益率は3.0%となっています。生産性について、1人当たり売上高は1,999万円、1人当たり人件費は453万円となっています。

次に、2020年8月現在の開示情報および市場株価によれば、自動車部品製造業のマルチプル(倍率)について、PBR倍率は0.9~1.5倍、PER倍率は30~50倍、EBITDA/企業価値倍率は5~9倍となっています。

さらに、筆者が推計する株主資本コストは、安定した老舗企業であれば3%、急成長の新興企業であれば10%が妥当であると考えます。これは、この類似上場企業のROICが3%~8%という極めて低い水準であるものの、類似上場企業のベータ値が1.1~1.9であること、ヒストリカル・マーケット・リスク・プレミアム(1950年代~2020年)が7%~9%であることを前提にして、小規模リスク・プレミアムを加算して推計しています。

なお、類似上場企業比較法で採用すべき上場企業として、豊田合成(7282)、デンソー(4935)、アイシン精機、日本精工(6471)、小糸製作所(7276)、NOK(7240)、KYB(7242)、IJTテクノロジーホールディングス(7315)、ミツバ(7280)、フタバ産業(7241)、プレス工業(7246)、市光工業(7244)、ニッパツ(5991)が挙げられます。デンソー、豊田自動織機とブリヂストンは規模が大きすぎるため、比較対象から外すべきケースのほうが多いでしょう。

株式会社経営承継支援は、一社でも多くの企業を廃業危機から救うため、全ての企業様のご相談をお受け致しております。
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