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法務DDにおける調査事項①「会社組織・株主」

執筆

弁護士 横山 浩

弁護士 横山 浩

馬場・澤田法律事務所(http://www.babasawada.com/)。企業内弁護士として日本国内大手スポーツメーカー法務部勤務経験あり。 企業内弁護士としての多様な経験を基に、企業のビジネスニーズを的確に把握し、適切な法的アドバイスの提供を心掛けている。担当するM&A案件における法務デューデリジェンスでは、常にクライアント目線での実施を意識している。モットーは「ビジネス(クライアント)に寄り添う」。...続きを読む

監修

経営承継支援編集部

この記事は、株式会社経営承継支援の編集部が監修しました。M&Aに関してわかりやすく役に立つ記事を目指しています。

目次 [ ]
【ポイント】
  • 法務DDは、想定される取引先の素性調査です。
  • 会社組織及び株式に関する調査は、想定される取引対象の存否に影響を与えるものであり、必須の調査事項です。
  • 法務DDは、想定される取引先の素性調査です。

1 M&Aと法務DD

M&Aとは、mergers and acquisitions(合併と買収)の略ですが、一般にM&Aという場合には、合併や買収に限定されず、資本業務提携、会社分割、株式交換、株式移転及び事業譲渡等の手法の場合も含みます。

 

そして、そのM&Aにおいて一般的に行われるのが、M&Aの相手方(以下「対象会社」といいます。)の問題点について調査、分析及び検討を行うDD(Due Diligence)であり、法的な観点からなされるのが法務DDです。

 

法務DDは、法的な観点からM&Aの支障の有無(支障がある場合にはその改善策の有無)並びにその対価及び出資額の妥当性等を確認することを目的に、対象会社の会社組織、事業内容、法律関係等を調査・検討する手続です。また、法務DDには、対象会社に関連する一般的な情報を収集し、ビジネスパートナーの素性を調査するという副次的な効果があります。

 

同効果を期待して、M&Aを実行する会社によっては、財務DD、ビジネスDDは実施しない場合であっても法務DDは必ず実施する方針の会社もあります。同効果により、その後の契約書の作成や交渉を容易かつ効率的にすることができる上に、対象会社との今後のビジネスモデルを考えるにあたって非常に参考になるためです。

 

以下では、本稿を含め3回に分けて、非上場企業の株式を譲り受ける取引を想定した法務DDにおける①会社組織及び株式、②知的財産、③労働法務に関する具体的な調査事項をご紹介致します。

 

法務DDの最も重要な事項は、想定する取引の目的との関係に応じたスピーディな調査及び検討です。よって、ご紹介する調査事項が常に必要な調査事項とは限らず、これらの調査事項以外にも、事業や資産、許認可等のコンプライアンスに関する事項を調査することもあります。

 

本稿はあくまで、今回のご紹介を通じて、今後、M&Aを検討されている方にとって、法務DDの要否を判断する参考となればと記載する次第です。

2 会社組織及び株式に関する事項について

前述のとおり、法務DDの主たる目的として、M&Aの支障の有無等の確認という点があります。

 

そして、以下のとおり、会社組織及び株式に関する事項に法律上問題がある場合には、そもそも取引の対象である会社や株式が存在しないという事態が生じ得るため、当該事項は、基本的ですが外せない調査事項です。

 

(1)設立関係

対象会社の設立が、①法令上の手続に従ったものであるか、②定款で変態設立事項(現物出資、財産引受等)が定められた場合には、これについて必要とされる検査役の調査の実施の有無(又は当該調査が不要とされるための要件の充足性)を調査します。対象会社の設立の有効性を確認するものであり、重要な調査になります。

 

ただし、株式会社の設立の無効を主張するには、設立無効の訴えの手続によらなければならないため(会社法828条1項1号)、対象会社成立の日から2年が経過しており、かつ、成立の日から2年以内に対象会社に対して設立無効の訴えが提起されていない場合には、対象会社の設立手続に瑕疵があっても、原則として、対象会社の設立が無効とされることはありません。

 

(2)定款及び社内規則

定款は、会社の機関及び運営等の基本的な事項を定めたものです。定款については、①定款の記載内容の会社法その他の法令との適合性、②想定されている取引の実行を妨げる重大な問題又は取引実行にあたって手続上留意すべき規定の有無、③取引の実行前又は取引実行と同時に変更されるべき規定の有無、を調査します。

 

特に想定する取引の形態が株式譲渡の場合には、上記②③に関し対象となる株式に関する定款上の譲渡制限の有無や対象会社の目的及び発行可能株式総数がポイントとなります。また、一般的に取引実行後に対象会社の役員の変更を実施することが多いことから、必要に応じて役員の人数の変更や責任制限規定の導入等も検討対象となります。

 

なお、対象会社によっては、定款の下位規則にあたる取締役会規則等の各種社内規則が制定されていることがあるため、適宜、同下位規則も調査する必要もあります。

 

(3)商業登記簿謄本

各会社の商業登記簿謄本を通じ、対象会社が発行する株式の種類及び数、株式に関する譲渡制限の有無、株式発行会社か否か、新株予約権等の発行の有無及び権利の内容、対象会社の役員、取締役会設置会社等の対象会社の組織形態等の基本的な情報を把握します。

 

ここでの重要なポイントは、登記申請義務の懈怠等を原因に、登記簿謄本の記載が最新の対象会社の情報を反映していない場合があり、例えば譲渡制限株式会社に変更していたのにその旨を反映していなかった等の事情があり得るということです。

 

このため、商業登記簿謄本を検討するにあたっては、対象会社の株主総会議事録等の調査を通じ、その整合性を確認することが重要です。また、対象会社株式の譲渡履歴等を検討する前提として、株式の発行履歴を確認することもあります。そのような場合には、現在の時点における商業登記簿謄本又は履歴事項全部証明書にとどまらず、過去の登記事項を確認するために閉鎖登記簿謄本を取得することもあるでしょう。

 

但し、登記簿謄本には保存期間(閉鎖日から20年間)があることに留意が必要です。

 

(4)法令上の会議体の議事録

株式会社には株主総会議事録、取締役会議事録等の会議体の議事録を保存する義務があります。

 

これらの検討のポイントは、①対象会社の行為について、法令、定款又は社内規則に従った決議の有無、②各会議の開催手続及び決議内容の法令、定款又は社内規則違反の有無、③事業上重要な財産の処分、事業上重要な取引契約の締結の有無及び係属中の紛争の存在その他対象会社の事業又は買主の想定する事業計画の実行に影響を及ぼす重大な決議の有無です。

 

当該調査を通じ、法令等の違反が判明した場合には、対象会社の会社組織、決議の経緯、内容等の個別具体的事情に照らして当該行為の有効性を判断することになるため、その判断には専門的な協力が必要となります。

 

(5)株式及び株主に関する書類

前述の資料に加え、株主名簿及び新株予約権原簿等を通じて、発行されている株式の権利内容(種類株式の有無、内容)、譲渡制限の有無、株式を発行する定めの有無及び発行済み株式数等を調査されていること、及び、発行済株式が、法令上必要な手続に履践して有効に発行されていることを調査します。

 

当該調査を通じ、株主構成、質権や譲渡担保権等の担保権設定、新株予約権等の潜在株式の有無等を確認します。株主構成は対象会社の意思決定に影響を与えるという点で、M&Aにとっては、非常に重要な調査事項であり、表明保証で済まさず、根拠資料に照らし正確に確認することが必要です。

 

なお、実務上、法務DD期間中にも、新株予約権の発行等、株主構成に影響を及ぼす事情が生じることもあるため、株主構成には細心の注意が必要です。

 

(6)株主間契約その他の株主との契約

対象会社が、他の株主との間で株主間協定書を締結しており、かつ、同契約に、他の契約当事者の同意なく対象会社の株式を譲渡することができないと規定されている場合があります。

 

このような規定がある場合には、想定される取引が阻害されるおそれがあるため、これらの規定による想定する取引の阻害可能性の有無、及び当該規定に従って当該取引を実行するために必要な手続の履践の有無、確認する必要があります。

 

(7)小活

以上のとおり、法務DDでは、商業登記簿謄本等の公開情報に加え、対象会社から開示を受ける情報を確認することを通じ、対象会社の実態を明らかにします。

 

対象会社の存在及び組織構成、株主構成は、想定される取引を断念させかねないものであるため、基本的な内容であるものの、違反した場合の有効性判断等、法的な知識が必須となる調査事項となります。法務DDを実施される際には弁護士等の外部の専門家に依頼されることを強くおすすめします。

株式会社経営承継支援は、一社でも多くの企業を廃業危機から救うため、全ての企業様のご相談をお受け致しております。
M&A(株式譲渡、事業譲渡等)に関して着手金無料でご相談可能ですので、お気軽にお問合せくださいませ。

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馬場・澤田法律事務所(http://www.babasawada.com/)。企業内弁護士として日本国内大手スポーツメーカー法務部勤務経験あり。 企業内弁護士としての多様な経験を基に、企業のビジネスニーズを的確に把握し、適切な法的アドバイスの提供を心掛けている。担当するM&A案件における法務デューデリジェンスでは、常にクライアント目線での実施を意識している。モットーは「ビジネス(クライアント)に寄り添う」。

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